38 / 152
第37話 国境の町にて
しおりを挟む
隣国との国境に近い町、グラディエル。
石畳の広場には兵士たちが立ち並び、関所の門は固く閉ざされていた。
「辺境商会の荷は通すな、とのお達しだ」
兵士長が冷ややかに言い放つ。
「王都の商人ギルドから正式な通達が来ている。信用ならぬと」
ジークフリートが低く唸る。
「やはりギルドの影か……」
ノラが必死に訴えた。
「でも! 毒なんて入っていないって、もう王都で証明されました!」
兵士長は鼻で笑った。
「それはこちらの国の問題だ。余計な口出しは無用だ」
◇ ◇ ◇
マリエールは一歩前に出た。
灰色の瞳が揺るぎなく兵士を見据える。
「では、こうさせていただきましょう」
彼女は荷馬車から瓶を取り出し、その場で封を解いた。
「ご覧ください。これは辺境の大地と人々の誠実さが詰まった品です」
赤い果実の香りが辺りに広がり、周囲にいた町の人々が思わず足を止めた。
「……いい匂いだ」
「これが噂の瓶か……」
マリエールは兵士たちに差し出した。
「毒かどうか、あなた方自身で確かめてください。
もし危険なものだと感じられたなら、どうぞその場で処分を」
兵士たちは顔を見合わせ、ひとりが恐る恐る匙で口にした。
……甘酸っぱさが舌を駆け抜ける。
「……これは……」
兵士は思わず呟いた。
「ただ、美味いだけだ」
群衆がざわめく。
「やっぱり嘘だったんだ!」
「辺境商会は正直だ!」
◇ ◇ ◇
その場にいた隣国の商人の一人が、低く囁いた。
「……確かに品質は本物だ。ならば、こちらとしても利益になる」
兵士長は渋々と腕を組む。
「ふん……だが正式な許可は上の判断だ。
町の議会に持ち込む必要があるだろう」
マリエールは微笑んだ。
「ええ。正規の場であれば、いくらでも議論しましょう」
◇ ◇ ◇
遠く、バルコニーからその光景を見下ろす紳士の姿があった。
風に揺れる外套を押さえ、静かに目を細める。
「やはり……彼女は退かぬ」
従者が問う。
「殿下、動かれますか?」
「まだだ。だが……すぐにその時は来る」
灰色の瞳を思い浮かべ、紳士は小さく微笑んだ。
◇ ◇ ◇
夕暮れ。
マリエールは宿に戻り、帳面を開いた。
――「国境町=交渉開始」
――「民衆=好感触」
――「課題:議会での承認」
「道は開き始めた。
――国境の壁は、もう砕ける」
窓辺の鈴の花が夕陽に照らされ、白く輝いていた。
石畳の広場には兵士たちが立ち並び、関所の門は固く閉ざされていた。
「辺境商会の荷は通すな、とのお達しだ」
兵士長が冷ややかに言い放つ。
「王都の商人ギルドから正式な通達が来ている。信用ならぬと」
ジークフリートが低く唸る。
「やはりギルドの影か……」
ノラが必死に訴えた。
「でも! 毒なんて入っていないって、もう王都で証明されました!」
兵士長は鼻で笑った。
「それはこちらの国の問題だ。余計な口出しは無用だ」
◇ ◇ ◇
マリエールは一歩前に出た。
灰色の瞳が揺るぎなく兵士を見据える。
「では、こうさせていただきましょう」
彼女は荷馬車から瓶を取り出し、その場で封を解いた。
「ご覧ください。これは辺境の大地と人々の誠実さが詰まった品です」
赤い果実の香りが辺りに広がり、周囲にいた町の人々が思わず足を止めた。
「……いい匂いだ」
「これが噂の瓶か……」
マリエールは兵士たちに差し出した。
「毒かどうか、あなた方自身で確かめてください。
もし危険なものだと感じられたなら、どうぞその場で処分を」
兵士たちは顔を見合わせ、ひとりが恐る恐る匙で口にした。
……甘酸っぱさが舌を駆け抜ける。
「……これは……」
兵士は思わず呟いた。
「ただ、美味いだけだ」
群衆がざわめく。
「やっぱり嘘だったんだ!」
「辺境商会は正直だ!」
◇ ◇ ◇
その場にいた隣国の商人の一人が、低く囁いた。
「……確かに品質は本物だ。ならば、こちらとしても利益になる」
兵士長は渋々と腕を組む。
「ふん……だが正式な許可は上の判断だ。
町の議会に持ち込む必要があるだろう」
マリエールは微笑んだ。
「ええ。正規の場であれば、いくらでも議論しましょう」
◇ ◇ ◇
遠く、バルコニーからその光景を見下ろす紳士の姿があった。
風に揺れる外套を押さえ、静かに目を細める。
「やはり……彼女は退かぬ」
従者が問う。
「殿下、動かれますか?」
「まだだ。だが……すぐにその時は来る」
灰色の瞳を思い浮かべ、紳士は小さく微笑んだ。
◇ ◇ ◇
夕暮れ。
マリエールは宿に戻り、帳面を開いた。
――「国境町=交渉開始」
――「民衆=好感触」
――「課題:議会での承認」
「道は開き始めた。
――国境の壁は、もう砕ける」
窓辺の鈴の花が夕陽に照らされ、白く輝いていた。
652
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―
鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。
泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。
まだ八歳。
それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。
並ぶのは、かわいい雑貨。
そして、かわいい魔法の雑貨。
お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、
冷めないティーカップ、
時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。
静かに広がる評判の裏で、
かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。
ざまぁは控えめ、日常はやさしく。
かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。
---
この文面は
✔ アルファポリス向け文字数
✔ 女子読者に刺さるワード配置
✔ ネタバレしすぎない
✔ ほのぼの感キープ
を全部満たしています。
次は
👉 タグ案
👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字)
どちらにしますか?
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
王太子に愛されないので、隣国王子に拾われました
鍛高譚
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」
オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。
「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」
そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。
「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」
このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。
オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。
愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん!
王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。
冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
婚約破棄されたので、戻らない選択をしました
ふわふわ
恋愛
王太子アルトゥールの婚約者として生きてきた
貴族令嬢ミディア・バイエルン。
だが、偽りの聖女シエナに心を奪われた王太子から、
彼女は一方的に婚約を破棄される。
「戻る場所は、もうありませんわ」
そう告げて向かった先は、
王都から遠く離れたアルツハイム辺境伯領。
権力も、評価も、比較もない土地で、
ミディアは“誰かに選ばれる人生”を静かに手放していく。
指示しない。
介入しない。
評価しない。
それでも、人は動き、街は回り、
日常は確かに続いていく。
一方、王都では――
彼女を失った王太子と王政が、
少しずつ立ち行かなくなっていき……?
派手な復讐も、涙の和解もない。
あるのは、「戻らない」という選択と、
終わらせない日常だけ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる