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第64話 川路を抜けて
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川沿いの村に、夜の帳が下りていた。
篝火がゆらめき、荷車から荷を下ろす人々の声が響く。
「お嬢様、準備は整いました!」
ノラが朗らかに報告する。
川辺に積み上げられたのは、干し果実の樽と希少鉱石を詰めた木箱。
保存性の高い品ばかりが選ばれている。
マリエールは帳面を手に取り、数字を確かめる。
――「優先:干し果実・鉱石」
――「輸送量:水路=通常の半分」
――「必要:安全確保」
「……これで王都の市場に最低限の信用を繋ぎ止められるはずです」
◇ ◇ ◇
王子が船縁に立ち、蒼の瞳で水面を見渡した。
「川は夜なら敵の目を避けられる。だが浅瀬や待ち伏せには警戒を」
ジークフリートが頷き、剣を確かめる。
「安心しろ。敵が潜んでいやがっても、叩き潰すだけだ」
大剣の男は無言で荷を持ち上げ、船に積み込む。
その圧倒的な腕力に、村の男たちが息を呑んだ。
◇ ◇ ◇
やがて小舟がいくつも川面に浮かび、篝火の明かりを背に滑り出す。
川のせせらぎと、櫂の水を切る音だけが夜を満たしていた。
「……静かすぎるな」
ジークフリートが低く呟いた直後。
川下から突然、松明の光が揺らめいた。
「止まれ! その荷を検めさせてもらう!」
武装した男たちが川岸から声を張り上げる。
臨時の検問と称した妨害者たちだった。
◇ ◇ ◇
王子が短く命じる。
「矢を防げ!」
次の瞬間、矢が雨のように飛んできた。
即座に護衛隊が反応して盾で防ぎ、
カティアの矢が闇を裂き、敵の松明を射抜いて次々と消していく。
ジークフリートが船から飛び降り、剣を閃かせた。
「どけやコソ泥ども!」
大剣の男も無言で敵陣に飛び込み、重い刃で道を拓く。
水飛沫と火花が交錯する中、護衛隊が一丸となって敵を押し返した。
◇ ◇ ◇
マリエールは必死に帳面を押さえながら、冷静に状況を見極める。
――「敵=検問」
――「目的=輸送阻止」
――「対策=護衛突破」
「この荷を、絶対に王都へ届けるのです!」
その声に応じるように、船団は再び櫂を動かし始めた。
◇ ◇ ◇
やがて戦いを退け、川面を抜けると、遠くに王都の灯りがちらつき始める。
王子が小さく息を吐いた。
「……突破成功だ。
黒幕の網も、鈴の花には縛れなかったようだな」
マリエールは胸に帳面を抱き、静かに応えた。
「ええ。これで信頼は繋がりました。
次は――彼らの嘘を暴き出す番です」
◇ ◇ ◇
その頃、王都の奥。
黒幕の壮年の貴族は、失敗の報を聞き怒号を上げていた。
「小娘が……! 必ず葬ってやる!」
だがその声は、確実に焦燥を孕んでいた。
篝火がゆらめき、荷車から荷を下ろす人々の声が響く。
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保存性の高い品ばかりが選ばれている。
マリエールは帳面を手に取り、数字を確かめる。
――「優先:干し果実・鉱石」
――「輸送量:水路=通常の半分」
――「必要:安全確保」
「……これで王都の市場に最低限の信用を繋ぎ止められるはずです」
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王子が船縁に立ち、蒼の瞳で水面を見渡した。
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「安心しろ。敵が潜んでいやがっても、叩き潰すだけだ」
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その圧倒的な腕力に、村の男たちが息を呑んだ。
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やがて小舟がいくつも川面に浮かび、篝火の明かりを背に滑り出す。
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「……静かすぎるな」
ジークフリートが低く呟いた直後。
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「止まれ! その荷を検めさせてもらう!」
武装した男たちが川岸から声を張り上げる。
臨時の検問と称した妨害者たちだった。
◇ ◇ ◇
王子が短く命じる。
「矢を防げ!」
次の瞬間、矢が雨のように飛んできた。
即座に護衛隊が反応して盾で防ぎ、
カティアの矢が闇を裂き、敵の松明を射抜いて次々と消していく。
ジークフリートが船から飛び降り、剣を閃かせた。
「どけやコソ泥ども!」
大剣の男も無言で敵陣に飛び込み、重い刃で道を拓く。
水飛沫と火花が交錯する中、護衛隊が一丸となって敵を押し返した。
◇ ◇ ◇
マリエールは必死に帳面を押さえながら、冷静に状況を見極める。
――「敵=検問」
――「目的=輸送阻止」
――「対策=護衛突破」
「この荷を、絶対に王都へ届けるのです!」
その声に応じるように、船団は再び櫂を動かし始めた。
◇ ◇ ◇
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「……突破成功だ。
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マリエールは胸に帳面を抱き、静かに応えた。
「ええ。これで信頼は繋がりました。
次は――彼らの嘘を暴き出す番です」
◇ ◇ ◇
その頃、王都の奥。
黒幕の壮年の貴族は、失敗の報を聞き怒号を上げていた。
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だがその声は、確実に焦燥を孕んでいた。
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