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第77話 偽りの印章
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王都の市場は、今日も早朝から賑わっていた。
露店には新鮮な果実、香草、布織りが並び、商人たちの声が飛び交う。
その中に――ひとつ、見慣れた刻印の木箱があった。
「おや、これって辺境商会の品じゃないのか?」
「そうだ。だが少し妙でな。値が安すぎる」
通りがかりの商人たちがひそひそと話す。
箱の側面に刻まれていたのは、“辺境商会”の印章。
だが、細部の彫りが微かに違っていた。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
宿舎の作戦室に、ジークフリートが怒気を帯びた声で飛び込んできた。
「お嬢! 王都の市場で、商会の偽造品が出回ってる!」
「……偽造?」
マリエールは帳面を閉じ、立ち上がる。
ノラが慌てて続けた。
「しかも、どれも辺境産の名を語って粗悪な品ばかり……!
お嬢様の名で売られているんです!」
◇ ◇ ◇
マリエールは深く息を吸い、すぐに指示を飛ばした。
「護衛隊は王都各所の市場を確認して。
ジークフリート、取引記録の照合を。
ノラ、流通経路の聞き込みをお願い」
彼女の声には焦りよりも、冷静な鋭さがあった。
机の上の帳面にはすぐに新たな項目が記される。
――「偽造印章=発見」
――「流通経路=不明」
――「被害=信用失墜」
◇ ◇ ◇
その日の夕刻。
護衛隊が戻り、報告を行った。
「市内の四つの市場で確認。
いずれも『辺境商会の下請け商人から仕入れた』と証言していますが、
その商人の名簿には存在しません」
「つまり――架空の業者ね」
マリエールの灰色の瞳が細められる。
「巧妙に偽装されています。印章も精密な模造。
おそらく、内情を知る者の手によるものです」
◇ ◇ ◇
その言葉に、ノラの顔が曇る。
「じゃあ……裏切り者がいるんですか?」
マリエールは静かに首を振った。
「断定はできません。
けれど、辺境と王都をつなぐ流通路のどこかに“手を入れた”者がいる」
ジークフリートが腕を組み、唸る。
「ちっ……王都の腐れ商人どもが、まだ懲りてねぇってわけか」
◇ ◇ ◇
その夜。
王子が宿舎を訪れた。
「話は聞きました。……敵は早いですね」
マリエールは窓辺に立ち、王都の灯を見下ろす。
「祝宴の翌日に動くとは思いませんでした。
まるで、私たちの動きをすべて読んでいたかのようです」
王子は静かに頷いた。
「つまり、敵は内部に情報源を持っている。
――あなたの商会の中か、あるいは王都の議会に近い誰か」
「ええ。
だからこそ、私は“信頼”をもう一度洗い出す必要があるのです」
◇ ◇ ◇
マリエールは帳面を開き、淡々と記す。
――「敵=情報網あり」
――「対応=信用再構築」
――「行動=迅速」
そして静かに呟いた。
「鈴の花は、小さくても毒を持つ。
……次は、こちらが試す番ですね」
王子の唇に微かな笑みが浮かぶ。
「その言葉を聞くと、敵が気の毒に思えてきますよ」
◇ ◇ ◇
一方その頃、王都の倉庫街。
男たちが次々と木箱を運び出し、夜の馬車に積み込んでいた。
箱の側面には、偽りの印章が輝く。
「次は西門経由で出す。明朝には“辺境ブランド”が都中に広がる」
「――あの娘がどんな顔をするか、見ものだな」
闇の中で、鈍く笑い声が響いた。
露店には新鮮な果実、香草、布織りが並び、商人たちの声が飛び交う。
その中に――ひとつ、見慣れた刻印の木箱があった。
「おや、これって辺境商会の品じゃないのか?」
「そうだ。だが少し妙でな。値が安すぎる」
通りがかりの商人たちがひそひそと話す。
箱の側面に刻まれていたのは、“辺境商会”の印章。
だが、細部の彫りが微かに違っていた。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
宿舎の作戦室に、ジークフリートが怒気を帯びた声で飛び込んできた。
「お嬢! 王都の市場で、商会の偽造品が出回ってる!」
「……偽造?」
マリエールは帳面を閉じ、立ち上がる。
ノラが慌てて続けた。
「しかも、どれも辺境産の名を語って粗悪な品ばかり……!
お嬢様の名で売られているんです!」
◇ ◇ ◇
マリエールは深く息を吸い、すぐに指示を飛ばした。
「護衛隊は王都各所の市場を確認して。
ジークフリート、取引記録の照合を。
ノラ、流通経路の聞き込みをお願い」
彼女の声には焦りよりも、冷静な鋭さがあった。
机の上の帳面にはすぐに新たな項目が記される。
――「偽造印章=発見」
――「流通経路=不明」
――「被害=信用失墜」
◇ ◇ ◇
その日の夕刻。
護衛隊が戻り、報告を行った。
「市内の四つの市場で確認。
いずれも『辺境商会の下請け商人から仕入れた』と証言していますが、
その商人の名簿には存在しません」
「つまり――架空の業者ね」
マリエールの灰色の瞳が細められる。
「巧妙に偽装されています。印章も精密な模造。
おそらく、内情を知る者の手によるものです」
◇ ◇ ◇
その言葉に、ノラの顔が曇る。
「じゃあ……裏切り者がいるんですか?」
マリエールは静かに首を振った。
「断定はできません。
けれど、辺境と王都をつなぐ流通路のどこかに“手を入れた”者がいる」
ジークフリートが腕を組み、唸る。
「ちっ……王都の腐れ商人どもが、まだ懲りてねぇってわけか」
◇ ◇ ◇
その夜。
王子が宿舎を訪れた。
「話は聞きました。……敵は早いですね」
マリエールは窓辺に立ち、王都の灯を見下ろす。
「祝宴の翌日に動くとは思いませんでした。
まるで、私たちの動きをすべて読んでいたかのようです」
王子は静かに頷いた。
「つまり、敵は内部に情報源を持っている。
――あなたの商会の中か、あるいは王都の議会に近い誰か」
「ええ。
だからこそ、私は“信頼”をもう一度洗い出す必要があるのです」
◇ ◇ ◇
マリエールは帳面を開き、淡々と記す。
――「敵=情報網あり」
――「対応=信用再構築」
――「行動=迅速」
そして静かに呟いた。
「鈴の花は、小さくても毒を持つ。
……次は、こちらが試す番ですね」
王子の唇に微かな笑みが浮かぶ。
「その言葉を聞くと、敵が気の毒に思えてきますよ」
◇ ◇ ◇
一方その頃、王都の倉庫街。
男たちが次々と木箱を運び出し、夜の馬車に積み込んでいた。
箱の側面には、偽りの印章が輝く。
「次は西門経由で出す。明朝には“辺境ブランド”が都中に広がる」
「――あの娘がどんな顔をするか、見ものだな」
闇の中で、鈍く笑い声が響いた。
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