【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん

文字の大きさ
145 / 152

第144話 風が還る場所(かえるばしょ)

――風は巡る。

それは、マリエール=ド=ヴィエル=アストリアが生涯語り続けた言葉だった。
そして今、世界を駆け巡った“始原の風”が、再びその故郷へと帰ろうとしていた。

◇ ◇ ◇

夕暮れ。
ヴィエルの丘に、黄金の光が降り注いでいる。
かつて辺境と呼ばれたこの地は、いまや“理と風の発祥地”として知られ、
商都であり、学都でもあり、そして――人々の祈りの地となっていた。

街の中心には、鈴の花を象った白い記念碑が立っている。
その名も〈風環(ふうかん)の柱〉。
“理の風はこの地に始まり、この地に還る”――
その想いを込めて建てられた塔だ。

風が吹くたびに、塔の周囲を取り巻く小さな風鈴が一斉に鳴る。
音は高く、やわらかく、まるで天と地を結ぶ橋のようだった。

◇ ◇ ◇

セレスティーヌ=ヴィエルは、塔の前で足を止めた。
彼女の髪を撫でる風が、遠い昔の声を運んでくる。

『風は道を記し、理はその上を歩む。』

それは幼い頃、マリエール陛下が教えてくれた言葉だった。
彼女は微笑み、胸の前で手を組んだ。

「――陛下。
 あの日の風が、今もここに吹いています。」

子どもたちが駆け寄ってくる。
みな、腰に小さな鈴を下げている。
風に揺れて音を鳴らしながら、無邪気に笑った。

「先生! 見てください! また鈴の花が咲きました!」

丘の斜面に、白い小花が風に揺れている。
それはまるで、マリエールが歩いた道をなぞるように並んでいた。

セレスティーヌはしゃがみ込み、花の一つにそっと触れた。
「この花はね、“誰かの理がそこに届いた証”なのよ。」

「想い、願い、優しさ。それらはみんな理の一部。
 そしてそれが風に乗ると、こうして花になるの。」

子どもたちは息を呑み、そっと花を見つめた。
風が吹く。
花弁がひとひら舞い上がり、塔の方へと流れていった。

◇ ◇ ◇

その頃、塔の上層ではアルノー=リュミエールが空を見上げていた。
共鳴装置の理波計が穏やかな波を描いている。

「……風が、還ってきている。」

彼の隣に立つ技術士官が頷く。
「全世界の理波が、ひとつの座標へ収束しています。
 ここ、ヴィエルです。」

アルノーは微笑んだ。
「陛下の理が、“道”を覚えていたんだ。」

塔の中心部――理晶核が淡く輝き、
その中に白い光の粒が舞う。
彼はそっと手を伸ばし、呟いた。

「マリエール陛下……あなたが蒔いた理は、いま、帰ってきました。」

◇ ◇ ◇

王城・離宮。

静かな書斎。
窓を開け放つと、遠くから柔らかな風が吹き込んだ。
マリエール=ド=ヴィエル=アストリアは机に手を置き、
その風を胸いっぱいに吸い込む。

「……帰ってきたのですね。」

エリオットが静かに頷いた。
「ええ。学都からの報告によれば、世界中の理波が再び一点に集まり、
 “安定の輪”を形成したと。
 それは、かつて陛下が語られた“理の循環”そのものです。」

マリエールは微笑んだ。
「理は旅を終え、再び風に還った。
 これでようやく――世界は“対話”の段階へ進めるのですね。」

彼女は窓辺に歩み寄り、外を見つめる。
遠く、雲の切れ間に一筋の光。
その光はまるで、鈴の花のような形を描いていた。

『理は風にあり、風は還る。
還る場所こそ、人の心。』

マリエールは静かに瞳を閉じた。
風が頬を撫で、鈴の音が響く。
それは祝福の音にも、祈りの音にも聞こえた。

◇ ◇ ◇

夜。
ヴィエルの丘の上、〈風環の柱〉の前で、
セレスティーヌとアルノーが立っていた。
二人の後ろでは、子どもたちが鈴の灯りを空へ放つ。

風が吹き、鈴が鳴る。
光は空へ、海へ、そして再び世界へと還っていく。

「……これで、ようやく輪が完成しましたね。」
セレスティーヌの声は、風に溶けるほど静かだった。

アルノーは頷く。
「ええ。
 でも、これは終わりじゃない。
 ――風は、還って、また始まる。」

彼は手を空にかざした。
無数の光が集まり、鈴の花の形を作る。
それはまるで、マリエールの微笑みが風の中に溶けたようだった。

『理は風にあり、風は巡る。
巡る理こそ、生命の息吹。』

鈴の音が夜空に消えていく。
ヴィエルの街の灯が優しく瞬き、
新たな“理の時代”の幕が、静かに上がった。
感想 5

あなたにおすすめの小説

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

追放された宮廷花師が辺境の荒野に花を咲かせたら、王都の庭園だけが枯れ続けているようです

歩人
ファンタジー
「花を飾るだけの令嬢は不要だ」——王城の庭園を十年守った伯爵令嬢フローラは追放された。 翌月、王城の庭園が一夜にして枯れ果てる。さらに隣国への外交花束を用意できず国際問題に—— フローラの花束に込められた花言葉が、実は外交メッセージそのものだったのだ。 一方、辺境の荒野に降り立ったフローラが地面に触れると花が芽吹き始める。 荒野を花畑に変えていくスローライフの中で、花の感情が色で見える加護が目覚めて——。

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

出来損ないと虐げられた公爵令嬢、前世の記憶で古代魔法を再現し最強になる~私を捨てた国が助けを求めてきても、もう隣で守ってくれる人がいますので

夏見ナイ
ファンタジー
ヴァインベルク公爵家のエリアーナは、魔力ゼロの『出来損ない』として家族に虐げられる日々を送っていた。16歳の誕生日、兄に突き落とされた衝撃で、彼女は前世の記憶――物理学を学ぶ日本の女子大生だったことを思い出す。 「この世界の魔法は、物理法則で再現できる!」 前世の知識を武器に、虐げられた運命を覆すことを決意したエリアーナ。そんな彼女の類稀なる才能に唯一気づいたのは、『氷の悪魔』と畏れられる冷徹な辺境伯カイドだった。 彼に守られ、その頭脳で自身を蔑んだ者たちを見返していく痛快逆転ストーリー!

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……