┌(┌^o^)┐ の箱庭

シュンコウ

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それくらいで済んでよかったね@(まだ)健全 3

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 デーメー・テールはカロに居を据える薬膳料理を売りにした食事処だ。色彩ゆたかな美しい花々に囲まれる一軒家で、腹を満たすためだけでなく緑に癒されたいと訪う客も少なくないとか。
 イバラがからみあう門扉をくぐり、アーチが影を作った石畳を通り抜けた。よく手入れされたガーデンが両脇に垣間見える。
 見る人が見れば、多種多様な植物たちすべてが薬草種であると気づいただろう。あいにくハマルに草の知識はない。朝っぱらから花粉集めに精を出す忙しいミツバチを視界に捉えては距離をはかるだけである。
 ちりん、ちりりん、りん。木戸を横に引くと、少女のあいくるしい声のたとえとして頻繁に使われる鈴の音色がハマルを出迎えた。
 客の来店をつぶさに伝えるベルはスズランの形をしている。花弁を模した鈴のつらなりが戸の動きの反動で揺れ、ぶつかりあい、美しい金属音を奏でる仕組みだ。
 形容しがたい不可思議な香りが空気に溶けこんでいる。花の蜜のように甘いのに、吸いこむと粘膜がかすかにピリリと痺れる矛盾。
 早朝ゆえかガラガラに空いた店内に見目麗しい店主の姿はなかった。かわりに、そこそこ見知ったうしろ姿が正面のカウンター席に一つ──鈴の音を聞きつけて振り返る。

「おや。おはようございます、ハマルさん」

 うしろへとなでつけられている二房の白のメッシュが角を連想させる黒い髪。ハマルと同じ癖毛なのにゆるやかでおしゃれに落ちついて見えるのは、きちんと整髪剤を使用しているからだろう。
 双眸はジオラマでも珍しいオッドアイ。深紅と緑青の虹彩はやわらかい光をたたえているように見えるが、その実、隙を隠そうと鋭さを持って注意深くうかがっている。笑みを刷き、友好の意を示してきているのにどことないうさんくささが拭えないのがその証左だ。
 もっとも、彼の出立ち──顔の下半分から鎖骨あたりまでを覆う暗色のヴェール、アラビアンストーリーの踊り子のような衣裳、金糸で幾何学模様をぬいこんだローブ──に加えて彼自身の生業もまたうさんくささに拍車をかけているに違いない。
 よくあたるとの評判に嘘偽りがない占い師。そしてカロのトップスリー常連者としても名を馳せる青年。名をアルゲディという。

「……ああ。おはよう」

 挨拶を打ち返してからハマルもカウンター席に腰を下ろした。中身が少ないグラスをかたむけ、小さな氷をカランと鳴らしてからアルゲディが怪訝そうにする。

「なぜわざわざ距離を空けたんです?」

 二人の間には空席が一つ。

「ほかに客もいないのに、席を詰める必要はないだろう。それに」

 カウンターにビニール袋を置いた。重くはないが軽くもなかったので、数十分くらいは皮膚に赤い線が浮き出ているかもしれない。袖をめくる気はないので確認はしないが。

「やることがある」

「つれないですねぇ。まあ、そこがアナタらしいとも言えますが」

 友ではなく、仲間でもなく。全エリアのランキングを競う間柄、その縁で顔見知り、鉢合えば軽く会話を交わす程度。
 そんなハマルの認知を彼に知られたら、大げさに泣きつかれることだろう、おそらく。「ワタクシたちあんなになかよしなのに友だちじゃないんですかそう思っていたのはワタクシだけですかひどいですびえええんっ」と。盛大に。嘘くさく。ノンブレスで。

「そうそう。スピカさんでしたら裏庭で食材を収穫してくる、とのことです。すでに三十分は席を外していますので、そろそろ戻ってくると思いますよ」

 店主不在の理由を告げられたので頷きを返した。先んじて知りたい情報を与えられるのは口を開くのが億劫な時ほどありがたい。質問の労力が省ける。
 人数が増える前に一作業終わらせてしまおう。ハマルはビニール袋のうち片方から中身を取り出した。不必要に散らばって場所を取らないよう気をつけて。
 電子メールのアイコンをそっくりそのまま具現化したような便箋だった。一つ一つの色彩が花弁のように折り重なって鮮やかである。表面には一行、『ハマルへ』。敬称略。
 道中立ち寄ったコンビニで購入したハサミで次々と側面を切っていく。開封に手指を使うのもやぶさかではないが、差出人が不明となるとよからぬものが仕込まれていることもある。必ず道具を使用するよう、口うるさく言われているのだ。
 カッターの刃だけならともかく、毒まで塗られていたら仕事上のパートナーが発狂する。実際にあったので断言は可能だ。
 手紙、『いつも応援しています』
 手紙、『昨日更新された新曲、すてきでした! ずっと聞いています!』
 手紙、『好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです(以下略)』
 手紙時々写真、『ハマルたんかわいいはぁはぁぺろぺろくんかくんかくんか(以下略)』
 カチ、一通だけハサミの刃が金属を噛んだ。針だった。どこから開けても先端が刺さるように数本貼りつけられている。はじめて見るパターンだ。飽きるまで記念に取っておこう。脅迫状、『いつまで王様気取りしてんださっさと引退しろ時代遅れが!』


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