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キオン編
それは加護ではなく、 一
しおりを挟む*冒険者エース攻め/無知シチュ
「──以上を冒険者試験合格者とし、ギルドマスターの権限において冒険者の資格を持つことを認める!」
身の丈ほどの羊皮紙を広げ、試験官を務めていた担当ギルド員が高らかに告げ終わるのと同時に盛大な歓声が上がった。
広場に集まっているのは、冒険者を目指す見習い達──否、本日づけで冒険者の資格を得た新米達だ。幸い今回は不合格者は出ておらず、その場にいる誰もが喜び、興奮に頬を赤らめていた。
一人ひっそりと顔を綻ばせたキオンもその一人だ。冒険者となるために日々重ねた鍛錬、血の滲むような努力が報われた瞬間である。
「身分証明書は受付カウンターにて発行される! 各自、速やかに手続きを済ませるように! なお、三日以内に取得しなかった者は合格を取り消されるので、必ず忘れないこと!」
ギルド員の念を押す忠告を背景に、新米冒険者達は次々と受付カウンターへなだれこんだ。用のある多くの冒険者達と接するだけあって窓口も受付嬢も多いが、通常の人数に加えて百人を軽く超える合格者達が押し寄せたらさすがにたまらない。付近は豪雨が続いた川のように氾濫した。
これではしばらく待つことになるだろう。身分証発行にどれだけの時間を有するかはわからないが、おそらく一時間や二時間程度では順番は回ってこない。
並ぶより、ある程度時間が経ってから受け取りに向かった方がよさそうだ。幸い、このギルド支部は街の中枢付近にある。冒険者御用達の酒場や道具屋、武具店が囲むように軒を列ねるので、それらを眺めるだけでも時が過ぎるのはあっという間だろう。
一人、受付カウンターとは逆方向にある出入口へ向かっていると。
「キオン君」
声をかけられ、振り返ったキオンは目を丸くする。
「ヒメロスさん!」
軽く手を上げ、親しみを感じさせる笑みを浮かべていたのは、冒険者ギルドの精鋭中も精鋭、エースと称される者の一人に数えられるヒメロスだった。
彼が引き受けた依頼は必ず最良の結果を持って完了すると言われ、冒険者、見習い、街人問わず憧れと尊敬を抱かざるを得ないほどの有名人である。
「合格、おめでとう」
「あ、ありがとうございます!」
彼も今回の試験官の一人として携わっていたのは知っていた。が、まさか直々に声を、それも祝福の言葉をかけてもらえるとは!
合格者として名前を呼ばれた時以上に歓喜が心の中を占める。何を隠そう、キオンはヒメロスの大ファンであった。冒険者になりたい。そう思ったきっかけであり、目標に掲げた人物でもある。
「はは、相変わらず発表後はすぐに混むね」
ヒメロスの視線が受付カウンターへと向いた。苦笑い。半年に一度だけ見られるという光景をキオンが目の当たりにするのはこれが初めてだが、ヒメロスの方は見慣れているらしい。
「ところで外に出ようとしていたみたいだが。もう身分証は受け取ったのか?」
「あ、いえ。混んでいるので暇つぶしをしてから、あとで受け取ろうと……」
「そうか。じゃあ俺の部屋に来るかい? 君のささやかな合格祝いをしようじゃないか」
「えっ。いいんですか?」
思わぬ言葉に目が輝く。それは常日頃雲の上にいるような憧れの人と近づける絶好の機会だった。
言葉に甘えるのは図々しいかも、と思わなくもない。が、これを逃すとこの先彼と親しくなれるチャンスが巡ってくるかどうか。
それに、せっかく誘ってもらったのだ。断る方が失礼だろう。
「もちろんさ。さ、行こうか」
「はい!」
キオンの背中に手を添えて、ヒメロスが歩き出した。
誘導される形でついていくキオンは気づかない。その柔和な笑みの裏に潜む、獲物を見定め、舌舐めずりをした淫欲の影に。
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