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湖城での療養 三
しおりを挟むアルシュがまともに目を覚ましたのは、何度かのうたた寝のあとである。
「……なんで僕と君が同じベッドで一緒に眠っていたんだい?」
向き直った姿勢でキリエは現状に至る過程を問うた。真剣な眼差し、表情である。が、二人が腰を下ろしている場所がやわらかくて広すぎるキングサイズのベッドの上であること、まだ寝足りないのだろう、しきりに相手が欠伸をこぼしている時点で残念ながら雰囲気は半減していた。
しかも少々目のやり場に困る。アルシュは寝着の一番上の留め具を外しており、少しでも目線を下げたら胸の谷間が見えるのだ。
社交場における淑女の正装・ドレスもそうだが、どうして女性の服はここまで胸を強調するのだろうか。割と純情気味であるキリエは、女の肉体的な性を誇張する格好がどうにも苦手であった。
連続でこみ上げる欠伸を殺しきれないアルシュはといえば、寝起きの乱れた格好など歯牙にもかけてはいなかった。己のことよりも、できるかぎり居住まいを正そうとするキリエの意思を探る様子である。
「……キリエは昨日のこと、どこまで覚えている?」
直入で質問に質問を返されてしまった。
普段ならばごまかさないでちゃんと答えて、と詰問するところである。しかし「昨日」という単語に反応して意識の奥で記憶が閃いたために、そうはいかなかった。まるで門を開け放った水流のように、怒涛の過去が押し寄せる。
「ぁ……」
何よりも真っ先に胸を突き刺したのは、強い悲しみだった。
幻覚にすぎない筈の感情がキリエの心を襲う。痛い。苦しい。無意識に胸元を握る指は、次第にかきむしる形を取ろうとわななく。
ああ。ああ。昨日。そうだ、昨日、は。
きらびやかなホール。集まった貴賓。開かれたパーティー。他でもないキリエが心待ちにしていた、婚約者エメとの正式な婚約発表の場。
久方ぶりに見たエメの顔。最後に会ったのはいつだったか。
エメがかかった流行り病で両親が急逝したことにより、仕事が増量したせいで顔を見に行くこともままならなくて。なんとか仕事の合間に見に行った彼女の顔は、病人そのもののやつれた顔で。
あの時よりもだいぶ血色がよくなった。まだ頬や顎が少し細いが、大方健常な体を取り戻した。この日のために美しく着飾った彼女の元気な様子が目に見えて嬉しかった。
でもやはり無理はしてほしくない。せめて負担を減らせれば、と。彼女のために種を手に入れ、大事に育ててきた薬草花の花束を贈って。ああ、そうだ、彼女は、花を。
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