幼馴染の王子が某令嬢に婚約を破棄されて自害しかけたので、

シュンコウ

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湖城での療養 十六

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「そ、んな、ことは……」

「ない、と言いきれるか? お前、誰もいない部屋で一人で過ごしたらまた自殺衝動に駆られるだろう」

「う……」


 湖に築かれているのがサプフィールである。湖上にある、というのは比喩ではなく、城内であっても窓から腕を伸ばせば簡単に触れられるほど水面が近い。
 湖の水深は、底が見えないほどに深い。底なしとも言われる。泳ぎがあまり得意ではないキリエなら、落ちたら最後。間違いなく水死する。
 アルシュの言葉を否定できなくて、言葉がつまった。
 今朝はアルシュに、女性に抱き枕にされているという婚姻を結んでいない男女にあるまじき状況に意表を突かれて、昨日を思い出すことすら忘れていた。たった一人で目覚めていたら、押し寄せる記憶に耐えきれず、二回目の自殺に挑んでいただろう。


「また、のくだりが気になるところですが、ひとまずは置いておきましょう。キリエちゃん、あなたの侍女を紹介するわね」


 国王がポットのそばに置かれていた呼び鈴を鳴らした。リン、と透明な見た目にそぐわしい澄んだ音が、涼しげに鳴り響く。


「失礼します」


 ノックをし、許しを得た少女が入室する。その髪の色を見て少し驚いた。
 一見は波打つ黒髪だが、光に当たると緑の色味を見せる。緑の黒髪、という表現があるが、それを文字通りに体現しているようだ。
 青系統の色味を持つサプフィール人ではない。赤系統の髪色のカルブンクルス人とも違う。
 どこの国の出身だろうか。緑といえば……。
 記憶を巡らせる前に、少女がこちらを見た。長い前髪は厚く、目は隠れて見えない。が、目が合った。……気がした。
 少女の雰囲気がぱあっと明るくなった。


「わ、わ、わ! キリエ様? 本物!? わあっ、キリエ様だっ!」

「えっ、あ」

「はじめまして! 会えて光栄ですっ! あっ、さるお方ってもしかしてキリエ様のことっ? うわわ、断らなくて正解だった!」

「あの」

「ソルシエールちゃん。キリエちゃんが困っていますよ」


 やんわりと国王がたしなめた。
 ぴたりと止まった少女──ソルシエールは、すぐにビシリと敬礼する。


「失礼しました! キリエ様のお世話係を拝命いたしました、ソルシエールと申します! 精一杯キリエ様の快適ライフに貢献したく存じますので、以後、未来永劫よろしく賜りたく!」


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