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湖城での療養 十七
しおりを挟むお世話係……つまりはキリエにつく侍女ということか。
見た目の大人しさを裏切るテンションの高さには驚いた。悪い子ではなさそうだが……。
永住権だけでなく侍女まで、と己への好待遇に申し訳ない気持ちがわいてくる。が、本気で嬉しそうな様子を雰囲気で伝えてくる彼女の前で、遠慮を申し出ることはできず。
「えっと……うん、よろしくね」
「はわわわ……キリエ様の微笑み、尊い……」
笑みを向けると胸を押さえ、うつむいてしまった。
「だ、大丈夫かい?」
もしや心臓の病気でも患っているのだろうか。心配になって手を差し伸べようとする前に、アルシュがキリエの肩を掴んだ。
「心配は不要だ。ただときめいているだけだから、命に別状はない」
「そ……うなの、か?」
ときめきで胸が痛くなる、とは。
首を傾げかけて、思い当たった。そういえばキリエも、エメの笑顔を見るたびに胸がきゅっと締めつけられるような思いを味わった覚えがある。あれと似たようなものだろうか。
それなら確かに心配は不要だろう。動悸と息切れは苦しいが、死ぬことはない。現に何度も味わっているキリエでも、こうして生きているのだから。
「さて。仲は早めに深めた方がよいでしょう。ソルシエールちゃん、キリエちゃんを中庭に案内するように。あなた達が心をこめて作り上げた絶景を、ぜひ見せてあげてください」
「かしこまりました! キリエ様、行きましょうっ!」
ソルシエールに手を取られ、立ち上がらせられる。
「私も──」
「アルシュは引き継ぎがありますので残ってください」
立ち上がりかけたアルシュは、有無を言わさない引き留めの言葉をかけられてしまった。物言いたげな表情で座り直す。
「キリエ。引き継ぎが終わり次第、すぐに合流するから。絶対に溺れるなよ」
「アルシュ様、ご安心くださいませ! このソルシエール、命にかえてもキリエ様をお守りいたしますとも!」
「はは……アルシュ、またあとで。陛下、失礼いたします」
ぐいぐいと引っ張られながらかろうじて両者に頭を下げ、退室する。
身分の差による線引きが常にあるカルブンクルスでは考えられない強引さだが、サプフィールはそのあたりが曖昧だ。
それでも敬意を持って接しているのが言動に滲み出ているからだろう。彼女の行動に不快さを覚えることはなかった。元々身分差を理由に威張り散らすような思考もないが。
「キリエ様もきっと驚きますよー! 私達でもびっくりしちゃいましたから!」
……妹がいたら、こんな感じなのだろうか。
ぱしゃぱしゃと回廊の水を跳ねさせ、危なげなくスキップをするソルシエールを見て、キリエの唇には知らず小さな笑みが浮かんでいた。
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