静かな湖畔の…

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ウチのコ候補は…

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「コラァ‼あっち行けぇ‼」
 …開け放ったドアの向こうには現実が待っていました…
 …ヨシノさんが小さな動物を追い払っていました…
 …ワンちゃんとネコちゃんっぽいです…ワンちゃんはポメラニアンっぽくて、ネコちゃんは短毛種のいわゆる『ネコ‼』ってネコです…ワンちゃんは威嚇の意味があってか、ワンワン鳴いていますし、ネコちゃんは怯えて身体を丸めています…二匹とも、真っ白ふわふわのモフモフな毛並みです…
 …何でしょう…いや、分かっているんですが、絵面的に動物虐待です…何と言っても、ヨシノさん、身の丈程ある刀身の刀を振り回しています。あんなモノ持っていました?
「乙女の秘密です‼」
 イヤな乙女の秘密だ。
「ダメでしょ‼ヨシノ‼城から『マサムネ』を持ち出しちゃ‼」
 出所が分かりました。おそらく、無許可で持ち出したのでしょう。
「私のマジックバックに勝手に入っていたのです‼」
 言い訳がヒドいです。そして、マジックバックなんて持っていたんですね?
「武器庫の最奥に置かれていた『マサムネ』が外に出たいと懇願していたのです‼この願いを聞き届けねば、乙女が廃ります‼」
 それは『マサムネ』の妖刀の魅了に中てられたのでしょう。乙女の矜持とは違います。
「いずれにせよ、この畜生共を成敗しなければ、腹の虫が治まりません‼」
 戦闘狂いつもの発作が発症しているだけじゃないですか?本音がダダ漏れていますよ?
「ヨシノ‼止めなさい‼可哀想でしょ‼」
 そうですよ‼ヒナギク様‼ほら、こっちおいで‼
「わ~い‼」
「ありがとう‼お姉ちゃん達‼」
 あああ。コワかったねぇ?ケガはないかな?
「僕は大丈夫‼」
 そうか。ワンちゃんは大丈夫か。
「あたしは二回、当たっちゃったけど、痛くない‼」
「我慢は良くないわよ?ホントに大丈夫?」
「今は平気‼痛いのないよ‼」
 ああ、ネコちゃんを抱えるヒナギク様…何て、絵になるんだろう…
「セージィ…ヤバいよこの子。持ってないみたいに軽い~…」
 生後一か月くらいでしょうかねぇ…乳離れはしたんでしょうか?そして、ワンちゃんは僕の頬をペロペロ舐めない。
「親愛の証だよ。僕、家族になりたい‼」
「あたしもヒナギクとセージがママが良い‼」
 うん。そうだね?でも一つだけ良いかな?
「なぁに?」
 君達なんで喋れるの?
 そうでした。ここは秘境コトヨロ湖畔。普通の生き物はいるハズがなぁい‼

 小屋の近くに掘られた井戸から水を汲みだして、近くに置いたバケツに移し替える。湖の水は用心の為に飲まない方が良いとカズラ姉さんに言われているので、面倒だけど、飲料水は井戸水を使っている。もちろん、そのままでは飲まない。煮沸消毒しないといけないので、飲む分の水をコップに掬い、魔法で温める…‼はい‼一瞬で爆発‼水蒸気に変化しました‼忘れてました‼魔力千倍‼うわ~、エルフの繊細な魔力操作でも無理かぁ…いや、違うな。酔いが回っているからだな、この感覚。
「そのまま飲んでも大丈夫じゃないの?」
 いくら不老不死でも、お腹を下す事はあるんですよ?マサラ婆ちゃんが変なモノ食べてトイレに籠る事が、たまにあるんですから。
「そう言えば、トイレってどうするの?まさか、その辺で…?」
 あまり褒められた行動じゃありませんが、近くを流れる川に流すそうです。その時は、オマルを洗う様に言われています。清潔にしないと病気になりますから。
「そうかぁ。不老不死でも病気はするのかぁ」
 怪我だってしますよ。直りは早いですけど。
「じゃあ、色々と注意しないとダメだね」
 そうですね。特に得体の知れない生き物を触る時とか。
「でも、可愛いんだからしょうがないじゃない♡」
 そこは否定しません。前世でも『カワイイは正義』って言葉があったくらいですから。
 魔法による瞬間湯沸かしを諦めて、僕達は小屋の中の竈でお湯を沸かす事にした…
 …僕達はこの時、ヨシノさんから僕達の肩で寝ている生き物の正体を知らされていた…
 なんでも、アケオメ山の山頂付近に生息する白金王狼プラチナム・フェンリル水晶帝虎クリスタル・タイガーと言う、この世界でも最強クラスの魔獣らしい…ただ、あまりに強過ぎて、聖獣と言うか、神獣に近い存在になっていて、何年生きているのか?は不明。また、この子達の姿も変幻自在でマサラ婆ちゃんの竜姿並の大きさにもなれるし、一般的なオオカミやトラの成獣にもなれるらしい。それが何故こんな愛玩動物の姿に成り果てたのか?
「聖女様の『浄化の気』を吸い込んだからだよ」
 正確には『浄化の気』に合わせた姿らしく、この姿になるべきと本能的に察知したらしい。コトヨロ湖の僕達の生活拠点に来たのはご近所挨拶…つまり、ここに定住するつもりはない…ヌシ様が関係しているらしいが、仲が悪いとか?
「ここは僕達の守護領域じゃないからね。アケオメ山を留守にできないんだ」
「アケオメ山もコトヨロ湖並の魔境だから、危険な魔獣や魔物を管理しないと」
 縄張りが違うと言う事か…
「ウチの子にならないの~‼さびし~‼」
 気持ちは分かりますけど、彼らには役目がありますから。
「大丈夫。時々、遊びに来るよ」
「それにママ達のお陰で、アケオメ山の魔物達の動きが沈静化しそうなんだ」
 どうやら『浄化の気』の影響がアケオメ山の方にも向いているらしい。
「数年もすれば、この一帯は清浄の地に変わるよ。魔物や魔獣の強さは変わらないけど」
 あ、その辺は弱体化しないんだ。
「地脈の影響でね。ここに生息する生き物は他の地域に比べて頑強になるんだ」
「不老不死や、潜在能力向上系の飲食物があるのは、濃密な地脈のエネルギーを含んだ食べ物が原材料だからなんだ」
 ちなみに『不老不死』と言っているが、実際には良く分かっていないらしく、その系列の飲食物を摂取した者が千年以上姿を変えず生き続けていたと言うだけで、もっと長い時間観察すれば、老いて死ぬかも知れないとの事。
 …ん?地脈の影響って事は『瘴気』が集うのも?
「それはコトヨロ湖特有の現象だね」
「確かに、地脈の影響も多少あるけど、ここは地形や湖の成り立ちとか…そう言った影響で『瘴気』が集まり易いんだ」
 じゃあ、アケオメ山にも『瘴気』が集まるの?
「コトヨロ湖から流れて来る分が殆どだよ」
「あたし達で払える程度の弱い濃度ね」
 そう言うと、二匹は大きな欠伸をして、
「僕達はそろそろ帰るよ」
「まだまだ、ヤンチャな奴らが多くてね」
 僕達の肩から降りる。
「あああぁん‼行っちゃうのおおぁお⁈」
 まぁ、確かに、名残惜しいですけどね。
「本当はママ達の拠点をアケオメ山に移してほしいけど、向こうはコトヨロ湖程、環境は優しくないからね」
「麓にエルフの集落があるけど、山頂付近までは来れないし」
 あ、そうか。カズラ姉さんの生まれた里もあるんだ。
「え?カズラって、あの暴れエルフの?」
「アケオメ山中腹に住む凶暴な魔獣達を震え上がらせた?」
 何て伝説のエルフなんですか?まぁ、祖母ですけど。
「なるほど。何か懐かしいカンジがしたんだ」
「泣き付いて来た魔獣達の救援に駆け付けた時、あいつに殴られたな。懐かしいよ」
 …ご迷惑をお掛けして、申し訳ございません…

 一通りの別れの挨拶を済ませ、二匹は成獣の姿になってアケオメ山の方に向かって飛んで行った。うん。空飛んでました。
「おのれぇ…畜生共ぉ…」
 僕とヒナギク様は暴れるヨシノさんを取り押さえつつ二匹を見送った。
 いや、二人掛かりで何とかなるモノですね?
「あたしもびっくり‼ヨシノ、調子悪い?」
「お二方が強いんです‼もう放してください‼」
 ダメです‼『マサムネ』を放さなければ解放できません‼
「それは聞けません‼『マサムネ』と私は一心同体‼身体の一部と同じなのです‼」
 それは『マサムネ』の妖気に中てられているんですよ‼正気に戻って‼
「イヤです~‼聖獣を、神獣を斬らせてください~‼」
 …っとぉ‼ダメだ‼このままだとヨシノさんの骨や筋を傷めてしまう‼
「ん?どうした?」
 あ、ヌシ様‼危険です‼ヨシノさんが妖刀に魅入られてます‼
「ほう?『マサムネ』か。久しいのぅ?」
「貴様‼…」
「おっと‼」
「グヮア‼」
 ‼ヌシ様、ヨシノさんに、首トン入れたぁ‼
「ヴフゥ‼」
 更に、鳩尾にも‼それはやり過ぎ‼ほら‼もう刀は手放してます‼
「やれやれ、おかしな気が入って来たと思えば、ケダモノ二匹が迷い込んだか?」
 いや、ケダモノって…ご近所挨拶って事で、さっきまで居ましたけど。
「膂力が付いたのはケダモノ共の加護だ…ったく、余計な事を…」
 それよりも助かりました。
「何、お前らに不便があっては困るからな…」
 あ、『マサムネ』は持たない方が…
「使おうとしなければ、ただの金属の棒だ…ん?」
 どうしました?刃の方を見てますが…?
「ああ。また、斬ってはならぬモノを斬り付けたか」
 そう言ってヌシ様は、僕に『マサムネ』の刃を見せた…
 …あ‼ああ…確かに刃毀はこぼれがありますね?それも何か所も…
「セージ。お前、これを打ち直せ」
 え?
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