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知りたくもない『魔王』の事情
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ある日、マリー=ゴールドさんの元にお爺ちゃんの訃報が届きました。彼女の元に届いた同じ人物の訃報はこれで二十一回目です。
「何回倒されれば、気が済むんですか?」
ある地方都市で平和に暮らしていたマリーさんは辟易していました。
結構な田舎在住の魔王さんですが、かつては恐怖で世界を支配しようとしていたらしいです。でも今はご近所名物の好々爺に成り下がっています。怒らせなければ基本無害です。最近は怒りのスイッチが多様で、さっき食べたばかりの朝ごはんが出てこないと怒り出すこともありますが、ご近所の勇者さんと一戦やらかすと、半日程、周囲に被害を出して発散します。昔は一年は続いたのに…と、当時を懐かしむ声も聴かれます。でも最近は、お昼時になると、どっちからともなく空腹を訴え、自分の家に帰ります…お分かりの通り、勇者も高齢です。何度か魔王と戦っている内に『不死』の属性が付いたようです。アンデッドではありません。ちゃんと年を取っています。年齢を数えるのが面倒なくらいの御高齢です。魔王はもう少し年上らしいですが、もはや百年程度の年の差は誤差の範囲とお茶を飲みながら笑っています…はい、茶飲み友達は勇者です…
ある時、魔王は勇者に負けました。戦績は百二十一勝百六十三敗。そこそこ負け越しです。魔王は負けた時は近親者に訃報を送ります。いや、生きてますけど送ります。『近親者のみで葬儀を行います』とか書いて近親者を集めようとしますが、最近、集まりが悪いのです。魔王の愚痴に付き合う程、他の近親者は暇ではありません。皆、生きる為に働いているのです。なので、持ち回りで魔王の元へ向かう事になっています。そして、今回、お鉢が回って来たのがマリーさん。魔王さんの十八番目の奥さんのお孫さんで住んでいる地方都市のブラック企業に働いています。一週間の休みは一時間もらえればサイコー‼と社畜まっしぐらな精神で働いておりましたが、先日、労働基準監督署に見付かり、待遇改善を命じられました。いや、命じられたのなら改善すれば良いのですが、社長が金持って逃げました。社長の机の上に『以上、解散‼』と書かれた紙が置かれていました。置いていかれた幹部以下社員達は激怒しました。「紙がもったいねぇ‼」と…
なけなしの貯金と生活保護で食い繋ぐ日々のマリーさんは、たまに地方で開催される同人誌即売会で自分の作品を委託販売していました。売れ行き…?…むしろ在庫が溜まる一方で、自分の生活スペースを確保する事が精一杯です。そんな中、訪れた爺の訃報‼今度こそ死んでくれれば遺産が少しでも転がり込んで、創作活動の足しになるかも…‼と喜び勇んで田舎に行くと、いつもの様に勇者とお茶してました。
そこで怒り狂ったマリーさん。近くの勇者で魔王を攻撃しました。撓る勇者を巧みに操り、二十回一セットの計三十セット、魔王をブチのめしました。勇者は頭を鷲掴みにされていました。右手でブチのめすのに疲れたら、左手で…その繰り返しでした。ブルブルと震え縮こまる魔王と、どうにでもなっている勇者…完全に戦意喪失の二人は新たなる魔王の誕生を宣言しました。そこに現れたのは魔王の奥さん。見た目がどう見ても若い。マリーさんより十歳は若い。新しいお婆ちゃんの登場。三十八番目の魔王の奥さんが「後の事は任せて逃げなさい」と言ってくれた。せめて、ここに来るまでの旅費は欲しかったが、そんな事も言えずに、マリーさんは逃げました。何故、逃げるのか?分かりませんでしたが、背後から魔王と勇者の悲鳴が聞こえたので逃げるしかありません。奥さんの放つ魔法の爆裂音で破壊力は推し量れます。小さな地震と空気の振動を背にマリーさんは逃げました。ちなみに三十八番目の奥さんは疲れていた様です。四十二番目の奥さんのおやつを用意しなければならなかったからです。記念の五十番目の奥さんは四十五番目の奥さんがおむつを替えています。魔王は目に付いた女性に求婚するクセがあった様で年々若くなっていたそうです。「ついにそこまで来たか」と一桁台の奥さんたちが呆れていました。
どれだけ走ったでしょう…いや、三分も走っていません。運動不足です。小さい地震は間近の震度三クラスから震度一並にはなっています。ここで問題が発生しました。何度も来ていない事が災いして、自分が何処に居るか分からなくなりました。
「更に森に入り込んで、山を登り、獣に追われ、謎の師匠の特訓を受け、片想いの相手と兄弟子が激突‼ここで二人に告白され…」
「妄想は良いので」
…コトヨロ湖に到着したのは十日後。目に付いた果物とキノコを食べつつ、道なき道を突き進むと光が見えて水場に到着。そこで気付いたマリーさんの頭部の異変。耳の上に角が生えている‼水牛系の太いヤツ‼…カチューシャでした。ああ、いつの間に。簡単に取れますが、どこかで見た事がある。はい、爺が付けてました。ワインドアップポジションから振り被って、第一投‼カチューシャを投げたぁ‼………中心付近に水飛沫が上がる…
すると、湖面が沸き立ち、ヌシ様登場‼
「あなたが落としたのはこの金の角カチューシャですか?それとも、こっちの銀の角カチューシャですか?」
柔和な笑みを見せて、二つのカチューシャを見せるヌシ様…塗りが甘くて、所々、塗装が剥げている。金色がペロ~ンってなっている。あ、金色が落ちた。
「どっちでもねぇよ‼変なボケ噛ましてんじゃねぇよ‼」
激怒のマリーさん‼神すら殺す勢いだ‼
「ぁあ⁈」
片や、睨みを効かせるヌシ様‼神すら裸足で逃げ出す怒気が視線に宿る‼
「捨てたんだよ‼拾ってくんなよ‼ってか、新たに作ってくんなよ‼」
「捨てんじゃねぇよ‼環境破壊だろうがよ‼新しく作んの手間なんだよ‼ってか、正直者のてめぇには、この二本と、魔王の呪いの角カチューシャやっから、どっかいけやぁ‼」
「嘘付いて、その二本だって言ってたら、どうなってたんだよ⁈要らねぇけど‼」
「呪いを二倍にして、てめぇの頭から永遠に離れねぇ様にしてやんよ‼」
その時、僕が湖に飛び込んだんですね?
「うむ。つい、頭に血が上ってしまった」
環境破壊に厳しい様ですが、僕が湖に飛び込む行為は良かったんですか?あれ、汗を流していたんですけど?
「セージの場合は身体から排出される全ての物質に『浄化の気』が含まれているから問題ない‼むしろ、毎日飛び込んでくれ‼」
寒い時期は勘弁してください。
さて、お爺さんの遺志を継ぎ、魔王になったマリーさんは、僕を見てオドオドしている。何とか、憐れな子羊を演じようとしているけど、さっきの話を聞く限りでは、最早、手遅れです。全身に転移しています。外科的治療では無理なレベルです。
「ち、違います‼何でこんな所に『聖女』がいるの?」
一目見て気付くなんて、さすが魔王です。
「…ってか、何で、『聖女』が男装なの⁈」
そして、まず、そこを突っ込みますか?
「だって、無理ですよ?こんなに『聖女』しているのに『聖女』じゃないなんて言い張るのは‼普通に小さな『聖女』様ですよ‼お持ち帰りして、神棚に飾って、毎日欠かさず、お供えしますよ‼あたしの知る限り最高のメイクアップテクニックと美容技術をもって、その美を永遠のモノにして見せますよ‼」
急に、魔王色を出さないで下さい。あと、神棚って魔王の神って神道系ですか?
「…はっ‼あたしは何を言っていたんでしょう?」
僕を呪いの高級ビスクドール的に扱おうとしていました。
「⁈『ボクっこ』だとぉ⁈ここに来て、そんな属性を⁈普通、『ボクっこ』と言えば、ショートヘアのアクティブ系でしょ⁈日焼けした肌を惜し気もなく晒す、魅惑の短パン脚線美でしょ⁈性差を感じさせない距離感ぶっこわれな接近戦でしょ⁈こっちがちょっと意識すると『何、意識してんだよ?ば~か』みたいなこと言って内心ドキドキしちゃっているみたいな可愛い所を演出するんでしょ⁈」
そこまでにして下さい。そうじゃない『ボクっこ』だっています。
「‼あなたがそうだと言うならば、神は間違ったモノを創造した‼やはり、この世界は間違っていたんだ‼手始めに『聖女』様を矯正しなければ‼」
また、思考が魔王化してます。神様については若干、思う所はありますが、あなたの場合は根本的な部分で誤解があるので、落ち着いて、こっちの話を聞いてください。
「イヤです‼公園に出没する変質者のハァハァ妄想の被害者になる前に、あたしが保護して、毎日、愛で繰り回すのです‼もちろん、保護者の了承は力づくで得ます‼」
『愛で繰り回す』って何ですか⁈変な言葉を作らないで下さい‼言葉の響きから、とても恐ろしい待遇が待っている様な気がするんですけど‼あと、保護者の了承を得る時は話し合いで穏便に済ませて下さい‼訴訟になったら百パーセント負けます‼
「そこの隣の『聖巫女』が保護者ですね⁈フハハハハハ‼覚悟するがい…」
…その時、マリーさんの言葉が言い切る前に、僕の横から飛び出したヒナギク様は魔王化しつつあるマリーさんの左頬に、打ち下ろしの右フックを食らわしました。
大砲の一撃の様な衝撃音が響き、コトヨロ湖の浜辺に直径五十センチ程のクレーターが出来ました。その中心にはマリーさんの頭部右半分程が埋まってました。頭だけ埋めっている訳でなく身体も付いています。身体の正中線が地面に対して四十五度の角度で硬直していましたが…はい、奇蹟的に生きています…身体がピクピク痙攣していますから。
「しまった。ビンタにすれば首を飛ばせてた」
コワい事を呟かれました。
「さ‼ご飯の準備しよ♡」
はい‼自分は何をしましょう⁈
僕は思わず、敬礼をしていました。前世の右手を額の右側に当てるヤツです。足も揃えて『気をつけ‼』の姿勢です。形式は陸・空軍系の肘を張った姿勢です。
「うん。じゃあ、昨日と同じで火の用意とかしてもらおっかな♡」
思わず、『きゃるん』ってカンジの効果音が零れてきそうな可愛らしい笑顔です。この瞬間だけなら、あなたは間違いなく世界一の美少女です。
「う…ううぅ…」
マリーさんが埋まった状態で呻き声を上げています…何だか、泣いている様で、身体がプルプルと震えています…痙攣じゃありません…
「…『聖女』様に激甘ロリータファッションをキメてほしかった…‼」
…どうしよう…僕も一撃入れたくなったけど、武士の情けで止めておきます…
「変なモノを連れて来て済まなかった」
今日の夕飯は四人で食べています。マリーさんの分はありません。大鍋いっぱいに作ってますが、僕達が満腹になるとヌシ様が全部平らげます。何処で覚えたのかSDG‘sとか言ってました。きっと転生者が言ったのでしょう。僕達としては明日の朝食の分を残しておいて欲しいのですが…いえ。お食べください。泣きそうな表情でこっちを見られるのはとても忍びないので。遠慮せず…
「…で、それ、どうする?」
マリーさんですか?そりゃ、帰ってもらいますよ。
「それがそうもいかんのだ」
?何故です?ヌシ様?
「こいつを外に放逐しても森で遭難サバイバル生活を始め兼ねないからなぁ」
ああ。方向オンチなんですね。
「…かと言って、ここに留まらせるとマナの均衡が崩れる…」
事情は事前に聞いている。何でも、『魔王』と言うのは正確な呼び名ではなく『マナの調律者』と言うのが正しいらしく、『魔王』系は『負』の方向性を持っているとの事。
そんな事にお構いなく、マリーさんは埋まった状態のまま、寝ていた。
「何回倒されれば、気が済むんですか?」
ある地方都市で平和に暮らしていたマリーさんは辟易していました。
結構な田舎在住の魔王さんですが、かつては恐怖で世界を支配しようとしていたらしいです。でも今はご近所名物の好々爺に成り下がっています。怒らせなければ基本無害です。最近は怒りのスイッチが多様で、さっき食べたばかりの朝ごはんが出てこないと怒り出すこともありますが、ご近所の勇者さんと一戦やらかすと、半日程、周囲に被害を出して発散します。昔は一年は続いたのに…と、当時を懐かしむ声も聴かれます。でも最近は、お昼時になると、どっちからともなく空腹を訴え、自分の家に帰ります…お分かりの通り、勇者も高齢です。何度か魔王と戦っている内に『不死』の属性が付いたようです。アンデッドではありません。ちゃんと年を取っています。年齢を数えるのが面倒なくらいの御高齢です。魔王はもう少し年上らしいですが、もはや百年程度の年の差は誤差の範囲とお茶を飲みながら笑っています…はい、茶飲み友達は勇者です…
ある時、魔王は勇者に負けました。戦績は百二十一勝百六十三敗。そこそこ負け越しです。魔王は負けた時は近親者に訃報を送ります。いや、生きてますけど送ります。『近親者のみで葬儀を行います』とか書いて近親者を集めようとしますが、最近、集まりが悪いのです。魔王の愚痴に付き合う程、他の近親者は暇ではありません。皆、生きる為に働いているのです。なので、持ち回りで魔王の元へ向かう事になっています。そして、今回、お鉢が回って来たのがマリーさん。魔王さんの十八番目の奥さんのお孫さんで住んでいる地方都市のブラック企業に働いています。一週間の休みは一時間もらえればサイコー‼と社畜まっしぐらな精神で働いておりましたが、先日、労働基準監督署に見付かり、待遇改善を命じられました。いや、命じられたのなら改善すれば良いのですが、社長が金持って逃げました。社長の机の上に『以上、解散‼』と書かれた紙が置かれていました。置いていかれた幹部以下社員達は激怒しました。「紙がもったいねぇ‼」と…
なけなしの貯金と生活保護で食い繋ぐ日々のマリーさんは、たまに地方で開催される同人誌即売会で自分の作品を委託販売していました。売れ行き…?…むしろ在庫が溜まる一方で、自分の生活スペースを確保する事が精一杯です。そんな中、訪れた爺の訃報‼今度こそ死んでくれれば遺産が少しでも転がり込んで、創作活動の足しになるかも…‼と喜び勇んで田舎に行くと、いつもの様に勇者とお茶してました。
そこで怒り狂ったマリーさん。近くの勇者で魔王を攻撃しました。撓る勇者を巧みに操り、二十回一セットの計三十セット、魔王をブチのめしました。勇者は頭を鷲掴みにされていました。右手でブチのめすのに疲れたら、左手で…その繰り返しでした。ブルブルと震え縮こまる魔王と、どうにでもなっている勇者…完全に戦意喪失の二人は新たなる魔王の誕生を宣言しました。そこに現れたのは魔王の奥さん。見た目がどう見ても若い。マリーさんより十歳は若い。新しいお婆ちゃんの登場。三十八番目の魔王の奥さんが「後の事は任せて逃げなさい」と言ってくれた。せめて、ここに来るまでの旅費は欲しかったが、そんな事も言えずに、マリーさんは逃げました。何故、逃げるのか?分かりませんでしたが、背後から魔王と勇者の悲鳴が聞こえたので逃げるしかありません。奥さんの放つ魔法の爆裂音で破壊力は推し量れます。小さな地震と空気の振動を背にマリーさんは逃げました。ちなみに三十八番目の奥さんは疲れていた様です。四十二番目の奥さんのおやつを用意しなければならなかったからです。記念の五十番目の奥さんは四十五番目の奥さんがおむつを替えています。魔王は目に付いた女性に求婚するクセがあった様で年々若くなっていたそうです。「ついにそこまで来たか」と一桁台の奥さんたちが呆れていました。
どれだけ走ったでしょう…いや、三分も走っていません。運動不足です。小さい地震は間近の震度三クラスから震度一並にはなっています。ここで問題が発生しました。何度も来ていない事が災いして、自分が何処に居るか分からなくなりました。
「更に森に入り込んで、山を登り、獣に追われ、謎の師匠の特訓を受け、片想いの相手と兄弟子が激突‼ここで二人に告白され…」
「妄想は良いので」
…コトヨロ湖に到着したのは十日後。目に付いた果物とキノコを食べつつ、道なき道を突き進むと光が見えて水場に到着。そこで気付いたマリーさんの頭部の異変。耳の上に角が生えている‼水牛系の太いヤツ‼…カチューシャでした。ああ、いつの間に。簡単に取れますが、どこかで見た事がある。はい、爺が付けてました。ワインドアップポジションから振り被って、第一投‼カチューシャを投げたぁ‼………中心付近に水飛沫が上がる…
すると、湖面が沸き立ち、ヌシ様登場‼
「あなたが落としたのはこの金の角カチューシャですか?それとも、こっちの銀の角カチューシャですか?」
柔和な笑みを見せて、二つのカチューシャを見せるヌシ様…塗りが甘くて、所々、塗装が剥げている。金色がペロ~ンってなっている。あ、金色が落ちた。
「どっちでもねぇよ‼変なボケ噛ましてんじゃねぇよ‼」
激怒のマリーさん‼神すら殺す勢いだ‼
「ぁあ⁈」
片や、睨みを効かせるヌシ様‼神すら裸足で逃げ出す怒気が視線に宿る‼
「捨てたんだよ‼拾ってくんなよ‼ってか、新たに作ってくんなよ‼」
「捨てんじゃねぇよ‼環境破壊だろうがよ‼新しく作んの手間なんだよ‼ってか、正直者のてめぇには、この二本と、魔王の呪いの角カチューシャやっから、どっかいけやぁ‼」
「嘘付いて、その二本だって言ってたら、どうなってたんだよ⁈要らねぇけど‼」
「呪いを二倍にして、てめぇの頭から永遠に離れねぇ様にしてやんよ‼」
その時、僕が湖に飛び込んだんですね?
「うむ。つい、頭に血が上ってしまった」
環境破壊に厳しい様ですが、僕が湖に飛び込む行為は良かったんですか?あれ、汗を流していたんですけど?
「セージの場合は身体から排出される全ての物質に『浄化の気』が含まれているから問題ない‼むしろ、毎日飛び込んでくれ‼」
寒い時期は勘弁してください。
さて、お爺さんの遺志を継ぎ、魔王になったマリーさんは、僕を見てオドオドしている。何とか、憐れな子羊を演じようとしているけど、さっきの話を聞く限りでは、最早、手遅れです。全身に転移しています。外科的治療では無理なレベルです。
「ち、違います‼何でこんな所に『聖女』がいるの?」
一目見て気付くなんて、さすが魔王です。
「…ってか、何で、『聖女』が男装なの⁈」
そして、まず、そこを突っ込みますか?
「だって、無理ですよ?こんなに『聖女』しているのに『聖女』じゃないなんて言い張るのは‼普通に小さな『聖女』様ですよ‼お持ち帰りして、神棚に飾って、毎日欠かさず、お供えしますよ‼あたしの知る限り最高のメイクアップテクニックと美容技術をもって、その美を永遠のモノにして見せますよ‼」
急に、魔王色を出さないで下さい。あと、神棚って魔王の神って神道系ですか?
「…はっ‼あたしは何を言っていたんでしょう?」
僕を呪いの高級ビスクドール的に扱おうとしていました。
「⁈『ボクっこ』だとぉ⁈ここに来て、そんな属性を⁈普通、『ボクっこ』と言えば、ショートヘアのアクティブ系でしょ⁈日焼けした肌を惜し気もなく晒す、魅惑の短パン脚線美でしょ⁈性差を感じさせない距離感ぶっこわれな接近戦でしょ⁈こっちがちょっと意識すると『何、意識してんだよ?ば~か』みたいなこと言って内心ドキドキしちゃっているみたいな可愛い所を演出するんでしょ⁈」
そこまでにして下さい。そうじゃない『ボクっこ』だっています。
「‼あなたがそうだと言うならば、神は間違ったモノを創造した‼やはり、この世界は間違っていたんだ‼手始めに『聖女』様を矯正しなければ‼」
また、思考が魔王化してます。神様については若干、思う所はありますが、あなたの場合は根本的な部分で誤解があるので、落ち着いて、こっちの話を聞いてください。
「イヤです‼公園に出没する変質者のハァハァ妄想の被害者になる前に、あたしが保護して、毎日、愛で繰り回すのです‼もちろん、保護者の了承は力づくで得ます‼」
『愛で繰り回す』って何ですか⁈変な言葉を作らないで下さい‼言葉の響きから、とても恐ろしい待遇が待っている様な気がするんですけど‼あと、保護者の了承を得る時は話し合いで穏便に済ませて下さい‼訴訟になったら百パーセント負けます‼
「そこの隣の『聖巫女』が保護者ですね⁈フハハハハハ‼覚悟するがい…」
…その時、マリーさんの言葉が言い切る前に、僕の横から飛び出したヒナギク様は魔王化しつつあるマリーさんの左頬に、打ち下ろしの右フックを食らわしました。
大砲の一撃の様な衝撃音が響き、コトヨロ湖の浜辺に直径五十センチ程のクレーターが出来ました。その中心にはマリーさんの頭部右半分程が埋まってました。頭だけ埋めっている訳でなく身体も付いています。身体の正中線が地面に対して四十五度の角度で硬直していましたが…はい、奇蹟的に生きています…身体がピクピク痙攣していますから。
「しまった。ビンタにすれば首を飛ばせてた」
コワい事を呟かれました。
「さ‼ご飯の準備しよ♡」
はい‼自分は何をしましょう⁈
僕は思わず、敬礼をしていました。前世の右手を額の右側に当てるヤツです。足も揃えて『気をつけ‼』の姿勢です。形式は陸・空軍系の肘を張った姿勢です。
「うん。じゃあ、昨日と同じで火の用意とかしてもらおっかな♡」
思わず、『きゃるん』ってカンジの効果音が零れてきそうな可愛らしい笑顔です。この瞬間だけなら、あなたは間違いなく世界一の美少女です。
「う…ううぅ…」
マリーさんが埋まった状態で呻き声を上げています…何だか、泣いている様で、身体がプルプルと震えています…痙攣じゃありません…
「…『聖女』様に激甘ロリータファッションをキメてほしかった…‼」
…どうしよう…僕も一撃入れたくなったけど、武士の情けで止めておきます…
「変なモノを連れて来て済まなかった」
今日の夕飯は四人で食べています。マリーさんの分はありません。大鍋いっぱいに作ってますが、僕達が満腹になるとヌシ様が全部平らげます。何処で覚えたのかSDG‘sとか言ってました。きっと転生者が言ったのでしょう。僕達としては明日の朝食の分を残しておいて欲しいのですが…いえ。お食べください。泣きそうな表情でこっちを見られるのはとても忍びないので。遠慮せず…
「…で、それ、どうする?」
マリーさんですか?そりゃ、帰ってもらいますよ。
「それがそうもいかんのだ」
?何故です?ヌシ様?
「こいつを外に放逐しても森で遭難サバイバル生活を始め兼ねないからなぁ」
ああ。方向オンチなんですね。
「…かと言って、ここに留まらせるとマナの均衡が崩れる…」
事情は事前に聞いている。何でも、『魔王』と言うのは正確な呼び名ではなく『マナの調律者』と言うのが正しいらしく、『魔王』系は『負』の方向性を持っているとの事。
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