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9・言えなかった『パパ』
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…藍はオーストラリアに来ていた…彼女の傍には見た目十歳ほどの女の子…
「白井は別件で来られなくなりまして…」
見た目はフツーの小学生だが、口調は丁寧な大人風…背伸びしているカンジを受けない事から、同僚か上司なのだろう…佇まいに隙が無い上に、許可を得たかどうか分からないが、ポケットに小口径の拳銃を持っている…
「では、行きましょう‼」
『青い不死鳥の物語』の作者の弾丸海外旅行の三番目の目的地がこのオーストラリアの赤い大地にあった。沿岸部にある国際空港から大陸中央部へのセスナ移動、その後は車で八時間…これは作者達と同じ時間配分だったと、現地ガイドが説明してくれた。本来なら、目的地近くの集落にヘリポートもあるが、現状、ヘリが修理中な上に、交換しなければならない部品が廃盤となっているらしく、緊急の場合のみ、少し遠い街からの出動が掛けられるらしい…もっとも、向かっている集落に人が残っているかも、アヤシイらしい…
「到着しました(英語)」
この周辺の野生動物保護管を兼務している女性ガイドが、すっかり、ぐったりしている藍と少女に告げる。
「…おかしいな…もう少し、タフだと思ったけど…?」
後部座席からよろよろと降りる藍。
「年齢を過信しちゃ、いけませんよ?」
同じく、腰砕け状態の少女が疲れた笑みで声を掛けてくれる。
廃墟となっている家屋に歩を向け、屋根が造る陰に身を隠す。少し離れて、へたり込む少女も屋根の影にいる。
「こんな所にホントにあるのかね?」
女性ガイドが差し出したペットボトルを開けて、藍が呟く…
小一時間の休息の後に、藍はなんとか立ち上がる。
「どこに?」
「あたしにしか分からない調査。」
藍は十周年インタビューに記されていた通りの場所に向かう。
「集落の北西方向の端、そこから一キロは走った場所」
取材旅行の場所を聞かれた際の作者の回答だが…
「一キロは走ったって…どういう意味だろ?」
その言葉に従い北西に歩みを進める。
藍は、このインタビューにある作者の言葉に違和感を覚えていた。今回の海外調査において、作者が海外取材に行った場所には決まって、青い鳥の思念体があったからだ。おそらくだが、青い鳥の思念体は葵の想念が顕現しているだろう…確かに、その場所を知ったとしても葵の想いを知る事は出来ないだろう…藍が持つ思念体の中の思いを体感する能力は相当レアな能力で、現状、藍を含めて世界では三人しか所持していない能力と聞いているし、超能力が発現して数年後の世界では、その存在すら知られていなかっただろう…それでも最近ではその能力を主題にした推理モノの創作がちょっとずつ広まっているようだが、所詮、創作なので自身の体感とのギャップが大きく感じられていた…それは、彼女にとっての独特の感性に由来している…
…自分ではない誰かの感性を受ける不快感と、自分ではない誰かを生きる期待感…
「共感してほしいとは思わないけど」
…諦めの感情が沸いてくる…
それはそれとして、海外取材における作者の行動には作者自身のポリシーとも言うべき『実在する架空の存在』と言う部分が欠如している様に見える。質問者が上手く乗せたのかもしれないが、取材場所を明確に語っている。実は日本の研究施設のあった場所については住所を字付きの地名と番地まで語っていた。その言動は、まるで、調べてくれと言わんばかりの符丁の様に、藍は感じていたが…
「…っと、この辺かな?」
昔のストリートビューが写るタブレットを眺めながら、角部の壁と柱だけが残る、北西方向にあった建物の辺りを通過する…
「‼」
目の前の十メートル先に、青い鳥の思念体…だが、今まで見た事のない大型の地を走る系の鳥…傍に寄ると嘴が藍の目線程の高さにある。
「…え…と…」
恐る恐る青い鳥の思念体に手を伸ばす…が。
「あ‼」
あと一センチほどの所で、地を駆け出す青い鳥。
「ま、待って‼」
思わず、追い縋る様に駆け出す藍。十メートル程は付いて行けていたが、徐々に引き離されていく…
「待って…‼」
だが、駆ける脚を止めない藍。本能が身体を突き動している事に気付いていない…ただ、追い付けない事実に焦りが浮かぶ…
「乗って下さい‼」
と、背後からのクラクションと少女の声に、我に返り、振り返る。
「…あ…うん‼」
事態を理解して、藍は車に乗り込む…
…そこから一キロほど離れた場所…
「ここ‼停めて‼(英語)」
藍の言葉に車が停止。車を降りて、数メートル後退…行き過ぎた様だ…
「…エミューって言うんだっけ…」
目の前にはその場に佇む青いエミューの思念体…今度は間違いなく触れる…
「…ただ起きて、眠るだけの日々…」
…卵型のカプセルの中に満たされた培養液に浮かぶ彼女は葵ではなかった…痩せた体躯と細い手足は葵に似ていたが、長い髪は透き通る程に白く、彼女の肢体に絡み付いており、その様は、長い年月、カプセルに居た事を示している…
彼女は『ホリー』と呼ばれていた…大手製薬会社から供出された『不死鳥の血』から、唯一生み出された葵のクローンである。保管状態が悪かったのか、他の細胞がクローニングに耐えられず、彼女もまた、カプセルの中でしか生きていけない存在だったし、彼女自身もそれを理解していた。
意識がないと思われていたホリーだった為か、彼女の世話は培養液の浄化と養分調整だけ…稀に、カプセルの前に椅子を持ち込んで、スマホ片手に経過観察をしている程度…イタズラとして、溶液濃度を調整するバルブを開けたり閉めたりしていたが、気付かれる事は殆どなかった…ただ、予定されている培養液の濃度に僅かな変化があった事を目敏く観察していた者から研究員の何人かが𠮟責を受けていた。
…迷惑が掛かると思い、ホリーは数回だけでその手のイタズラは止める事にした…
彼女を世話している研究者は四人。男性三人の女性一人だが、年代的には男性の一人が他の研究者に比べ二十歳程年上だろう…
若手研究者の三人の内の男性二人は一人は金茶髪で長髪青年のジムと、もう一人はガチムチ金髪青年のボブ。女性は金髪のジェシカ。年上の所長はクリスと名乗っており、研究者を叱責していたのもクリスだった…もっとも、彼の叱責は、研究対象の喪失の危惧以上の感情をホリーも感じ取っていた…
…ある日、ジェシカが観察していた時…
「…ん…」
何回目かの覚醒かは分からないが、ホリーが目を開けて、目の前に意識を向ける。
「…え?」
片手にスマホを持った彼女と目が合ってしまった。ただ、もう片方の手がこちらに向いている様に見えるが…その状態で、お互いの沈黙が数秒…まぁ、ホリーは話せないが…
「所長‼」
慌てて席を立って、声を上げるジェシカが、奥の別の部屋に行ってしまう。
「…どうしよう…」
起きている事…と言うより意識がある事を知られてしまった事に、戸惑うホリーの前に研究員四人が慌てて、駆け寄って来る。
「…本当だ…」
驚嘆の眼のままの四人が、まじまじとホリーを見つめる事、十秒程…
…耐え切れず、ホリーが片手を上げる仕草を見せて、ニッコリ。
その瞬間、四人が歓声の声を挙げる。その時のホリーには分からなかったが、少なくとも、敵意を向けていない事が判明した上での四人の歓喜だった。
改めて自己紹介と思ったが、問題があった。
ホリーと、どの様にコミュニケーションを取るか?
様々なアイディアが出された。まず、ボブが手話を取り入れたボディランゲージを開発。これによって大まかな意思が伝えられたが、ホリーの要求する所には到底及んでいない上に、身体の動きによる言語化にホリーの理解が追い付いていない事が判明。おまけに培養液の中と言う事で、大きな動きをするとカプセルの中でホリーが容易にひっくり返ってしまう事もあり、三日で次の対策が求められる事となった。
次の対策は、ホリーの言語の習得に力を入れる事。これはジムが担当。大型のディスプレイに絵と言語を映し出し、この絵はどの言葉?この言葉はどの絵?と言った幼児教育さながらに、根気よく、教育して行く事となった。回答にはもう一つの大型ディスプレイをタッチパネル化し、タッチペンによる念動力操作で行われる事となった。これもある程度の効果が得られたが、違和感なく覚えてくれたのがヒト・イヌ・ネコと言った固有名詞と、赤い・苦い・熱いと言った形容詞だけで、カプセル内では体験できない動詞や形容詞については理解を得るのに相当な困難を要した。その上、彼女の念動力操作がディスプレイを傷付けない程度に力に抑えなければいけない事も判明。ホリーには相当の集中力が必要とされ、受け答えと言う意味では、長くても十分程度しか出来ない状態だった…
次にジェシカの案。これは単純でホリーのテレパシー能力を利用する事…しかし、一言にテレパシーと言っても言語での表現ばかりではない。試しに、ジェシカが受信した『ネコ』のテレパシーは、ジムが見せてくれた子猫の動画のイメージが一瞬、見えた気がしただけで、言語としての『CAT』とは聞こえてこなかったのだ。ホリー自身が言葉を発する環境に居ない事もこの現象の要因の一つだが、『ネコ』と言う映像のイメージと、『CAT』と言う言葉の響きのイメージを、ホリーが別々に認識していた事も問題だった。そこで、培養液の音波振動を考慮したスピーカーをカプセルに取り付け、映像と言語と音声の擦り合わせを、再び、根気良く、行う事となった。
『ホリーとおしゃべり計画』は難航していたが、ここで、クリスが提案。
「君らのやり方を組み合わせて、簡略化すればばいいのではないか?」
つまり、この場に居る時はボディランゲージで、カプセル内の水流を乱さない程度の動きの手話・指話・表情で会話し、離れている時は各自のスマホにメールを送れるようにタッチパネルの設定を改良、その上で無理に文章化させず、略式化した単語を開発し、それをホリーに教育。緊急の場合にのみ、テレパシーを使わせると言った方向性を提示し、研究が進められた。「ホリーの声が聞きたかった」と愚痴るジェシカがいたが…
しばらくはホリーの教材作成とそれに伴う培養液の成分調査が研究員達の仕事となった。 問題は彼女の学習意欲を削がず、身体に負担の掛からない程度のストレスをどの程度与えるべきか?そして、彼女の興味を引く様な教育プログラムをいかに組むか?の問題があった。ホリーのやる気と疲労を考慮しながらの培養液の調整は研究者たちを悩ませる事となった。その要因の一つとして、ホリーが研究員の行為に対し、協力的な事が挙げられていた。
「みんな、自分の為にやってくれている」
その事をホリーも充分に分かっていた。だが、その想いからくる頑張りは、心身…特に精神的なストレスを蓄積させ、ホリーの睡眠時間に影響が出ていたが、その辺りのデータをホリーは超能力で改竄していた。
「…やった‼」
そして遂に、ホリーの教育プログラムが終了し、満足のいく成果を出す事に成功。カプセルの外では、若者三人がシャンパンの瓶を開け、盛大に祝杯を挙げる。楽し気な三人をカプセルの中から眺めるホリーは表面上、同じく歓喜し、カプセル越しにジムとボブにハイタッチ、ジェシカのキスをカプセルに寄せた頬に受けた…
だが、クリスはホリーの寝不足に気付いていたらしく、祝賀会の後に二人きりになった時に静かに注意された。
「君を長く生かす事が我々の第一命題なんだ」
そこまで難しい言葉はホリーには理解できなかったが、クリスがホリーを一番に心配している事は、カプセルの天辺付近に触れている掌から伝わる温もりから分かっていた…もちろん、物理的な温かさではないし、こんな実験体なんかに注いでいい暖かさではない事もホリーは理解していたが、我慢の限界か、その時の彼女は眠りに就いてしまった…
それから研究所は超能力開発に力を注ぐ事となった。
幸いだったのはホリーが協力的だった事で、研究所内における念動力に関する知識が大幅に蓄積される事となった。と言っても、他の研究所より遅れていた分を取り戻している程度だが…ホリーの体温の変化や微弱な筋肉の収縮によって、人体のどの部位…具体的に脳のどの領域が刺激されているのかが判明したのだ。ただし、これはホリー特有の場合もあるため、外部への発表は控えられる事となったが…ホリー自身も超能力を使い続ける事で、念動力ならば、より重い物体を持ち上げや移動、より繊細な物体操作、更には簡単な化学反応を起せる程度の細密念動能力も手に入れていた…その成果か、自身の脳を刺激する事によって、言語系のテレパシーが明確に使える様になった。
この事にもっとも喜んだのはジェシカであり、カプセルの近くを通るたびに自分の名前を呼ぶ様にホリーに強請っていた。もっとも、この行為はホリーが就寝間近であっても行われた為、ジェシカだけホリーへのテレパシー挨拶回数の制限が設けられた…
この頃になると、フツーにテレビでの情報収集をホリーは自主的に行うようになり、言語に対する理解が深まると共に、邪魔にならない程度に、周囲の者に質問する様になっていた…そんな中で、ホリーが興味を示したのは、身近な人々の好意のベクトル…つまり誰が誰を好きか?と言った女の子らしい興味であった…
「ジムは誰が好きなの?」
まず、最初に聴取したのはジムだった。
「え?…ホリー…何言ってるんだい?」
巨大ディスプレィにその文字を浮かばせて、その場を去るジムだが、彼の脳裏には気さくに微笑むジェシカの姿がはっきりと映っていた。ちなみに、この頃のホリーは研究所から五キロ離れた水場付近に生息するカンガルーの空腹具合やオスの発情状況等は手に取る様に認識できる程の受信能力を持っていたので、彼女の前では大抵の隠し事は通用しなかった…もっとも、誰にも告げ口などしていないが…
次にホリーの前に現れたのは、随分と重そうな荷物を軽々と持っているボブ。
「ボブ‼ボブ‼」
そこに、ホリーがカプセルの壁面を叩く。彼の場合、この方法が気付いてくれる。
「何だい?」
立ち止まって、こっちに顔を向けてくれる。
「好き。人。誰?」
研究所謹製の指話交じりの手話をボブに見せる。勿論、この方が彼には通じ易い。が、
「フ。」
笑みを見せて、立ち去るボブと、
「え?」
瞬間、青褪めるホリー。ボブの脳裏には精悍な表情を浮かべるジムの姿…
「え?オス同士?え?えええぇぇえ⁈」
…その日の培養液の検査で異常が見つかり、ホリーは数日、寝かされる事となった…
強制睡眠から開けて、すぐに最後の一人であるジェシカに聞く…
「…好きなヒトっている…?」
…ホリーとしてはジムが好きならボブには悪いが(?)問題なし。ボブが好きなら歪な三角関係が形成されると予想していた…
しかし、返って来た答えは、
「もちろん、ホリーよ‼」
ばっちりウィンクと共に告げられた言葉と、彼女の脳裏に移る長い白髪を無造作に身体に巻き付けた痩せた少女の映像が見えてしまう…
「…誰だ?…」
更に映像は、少女の手を取り、強引に抱き寄せるジェシカが少女に唇を寄せ…
「あ‼あたしか⁈」
何とか声を押し殺し、現実の彼女に目を向ける。
「どうしたの?」
「な、何でもない‼」
「そう。じゃあ、忙しいから‼」
それだけ告げると、いつもの投げキッスをホリーに放ち、立ち去って行く…
…勿論、この日の夜も、検査に異常が出た為、強制睡眠となった…
何かの間違いがあるといけないので、その後、何度かホリーはジェシカの自分に対する好意の部分を覗いてみたが、ジェシカの妄想は更に過激な方向に進行していたので、三回目以降ジェシカの思考を覗く行為を止め、誰が好きと言った質問は自らの中で、堅く封印される事となった…
そんな生活にも慣れた頃、ホリーは夢を見た。
内容は、とても有り得ない…途中で夢だと気付いてしまう程に有り得ない夢…
…外の世界を自分の力で歩いている夢…視界にはただ青い空が広がり、ひどく楽しい気分で、これ以上ない程の笑顔で目指す場所もないままに、ただ歩いている夢…
「生きれるだけで充分だよ」
生温かい培養液の中で目覚めて、誰にも聞かれない呟きをポツリと口にする。
それから数日後、研究所内が慌ただしくなった。
特に用事がなくても来てくれていた研究員が、定時観測の時間以外は顔を見せる事がなくなり、目の前の壁を隔てた向こう側の部屋からは金属加工時の切削音や研磨音、あまり使われていなかった備え付けのクレーンの起動音…時々、バチバチと言う音と共に、青白い光がドアの隙間から溢れていた…
「…この感じって、鉄鋼系の工作をしている?…いや、彼等、生化学が選考だよね?何、工学系の工作に手を出してるの?何が目的?まさか、あたしのサイボーグ化か?ってか、そんなドカドカ、バチバチな工作過程でできた身体なんて欲しくないぞ‼」
…そんな思いを抱きつつ、ホリーは数日間、起きて寝るしかない不安な日々を過ごす事となった…
その日、工作機器の音に起こされずに、ホリーは目を覚ました。
「あれ?ここ、いつもの場所じゃない」
薄暗い室内…これはホリーに光刺激を与え過ぎない為の措置だが、あまりに暗すぎる事もあり、弱い念動波放ち、反響である程度の状況が把握…周囲に細い鉄材が四本…その頂上部に可動部がある…関節駆動用の試作部品とホリーは判断。
「ついに、あたしも廃棄物扱いか…」
廃材置き場であろうかと、勝手な予測を立てる…が、
「ホリー‼」
ジェシカの言葉に反応し、振り返ろうとすると、
「わ‼」
カプセルごと回転し、中のホリーが水流に抗い切れず回転。
「成功だ‼」
今度はジムの声。だが、声の方向が見えないので、しばらく流れに身を任せていると、四人の姿が見えて来る。とりあえず、捨てられた訳ではない事に、ホリーが落ち着きを取り戻すと、周囲の状況が分かって来る。
以前、カップセルが置かれていた部屋の四倍は広い室内の中央にいる事は何となく理解したが、四本の関節付きの金属部品が自分を乗せている四本脚のロボットの脚部である事にようやく気付く。
「え?」
更に意識を飛ばすと、前と思われる方向のホリーの視界に大きさの違うジョイスティックが三本…中央の大きめの一本が移動用で、それを挟む両側の二本はマニュピレーター操作用と思われる…自身がいるカプセルを除けば、四本脚の蜘蛛の様なフォルムだろうか…
「どうしたの?これ?」
言葉と共に発するテレパシーを四人に向けると、
「夢だったんだろ?」
腕組みするボブの言葉。
「それを叶えるのが、あたし達の願いだからね」
ジムの隣で涙ぐむジェシカ。
「…あ…」
…ホリーが数日間に見た睡眠時の夢を思い出す…無意識の内に、周囲にテレパシーを飛ばしてしまった様だった…
「おいで、ホリー」
…クリスが腕を広げ、微笑んでいる…
その言葉に、ホリーはジョイスティックを使って、移動…蜘蛛の脚が、器用に動き、十秒程で、ホリーを乗せた機体が四人の前に到着。
「オイオイ‼そのままの姿勢でこっちに来るとは思わなかったな‼」
苦笑しつつ、頭に手を置くジムの言葉に、一同が笑い声を挙げる…勿論、ホリーも…
その後、幾つかの注意事項と機体の調整が行われた。
ホリーへの注意は、主にマニュピレーターの操作に関してで、機体性能の問題上どうしようもない場合を除き、極力、念動力でアームやマニュピレーターを動かさない様に…と、キツく言い渡された。「動力に負荷が…」とか、「関節部の摩擦で耐久性が…」云々…との念がジムから発せられたが、要するに、無理な動きをさせない様にとの注意だと、ホリーは簡単に考える事にした…ホリー不在のテスト起動は問題なかったらしいが、一応の確認としてホリーも動かす事に…さすがに、マニュピレーターの先端は五本指の人型ではなく二本指のクレーンゲームのキャッチ部分に似た構造…感度センサーを仕込む時間がなかったらしく、握力はそれなりに強いと忠告を受ける。つまり人を掴まない様にとの事。
課題として与えられた機動テストをホリーは難なくこなし、急旋回時のカプセル内の水流の調整も問題なく終了…その日の夜に外に出る事となった…
…ここまで急かしたてたのは、ホリーが意図的に流した感応波の影響であった事を、その場に居た誰もが知る事はなかったが…
月と星が天空を支配する時間となった頃合いに、研究所から大型トレーラーが荒野に向けて出発する。ホリーを搭載した蜘蛛形ロボットの野外機動実験の場所は、人里からも研究所からも離れた荒野で行われる事となった。場所の選考は、ホリーが野生動物の影響が出ない場所を…と嘆願した事により、ジェシカが野生動物保護管に問合せし、決定した。
「…と‼」
…停止する感覚をホリーが感じ取ってから十秒程して、トレーラーの後部ドアが開かれる。
「おいで‼」
正面から声を掛けるのはジェシカで、トレーラー出口の両側面からジムとボブが手招きしている。スロープが敷かれているのは彼等の力業だ。クリスはジェシカの隣で腕組みしながら、こちらを見ている…
足先に車輪が付いている訳ではないので、脚を動かしながら、出口に向けて移動…重心とバランスと乗り心地を考慮しながらの移動だが、移動速度は思った以上に遅くない。本体駆動用のモーター音と床板をカチャカチャと音を立てつつ、用意されたスロープを使って降りる…
「…わあ…」
スロープから一メートル程離れて、上からの薄明りに見上げる。
…静寂と共に広がる夜空には、細い月と満天の星空…培養液越しであっても、その煌めきは、ホリーにとって初めての光景で、初めての感動だった…掴めるはずのない光に向けてアームを無意識の内に伸ばす…それはカプセルの上限いっぱいまで腕を伸ばしているホリーの動きがシンクロしているからだろうか…
…これ以上の幸せはない…
「みんな」
振り返ると、四人がこちらを見ている。皆、感慨深げだ。
しかし、
「ごめんなさい」
ホリーの言葉が確かに聞こえた。
「え?」
だが、その言葉を出したホリーの口元から息を吐く様に赤い雲が溢れ、口を閉ざした事で鼻から赤い線が浮かぶ。
「いやあああぁぁあ‼」
絶叫するジェシカがホリーのカプセルに張り付く。
「ホリー‼ダメ‼しっかりしてぇ‼」
力任せにカプセルを叩くジェシカをボブが引き剥がす。
「落ち着け‼」
「落ち着いていられるの⁈」
ボブとジェシカの言い争いの中で、ジムが培養液の調整を始める。
「どうだ⁈」
クリスがジムの作業と、カプセル内のホリーを交互に目を移すと、
「…ダメです…‼…ホリーの身体が限界です…‼」
悔しさを滲ませつつ、ジムは地面を殴りつける。
「…ここまで来てか…‼」
その感情はクリスにも伝染し、
「ダメ、ダメエエェェエ‼」
再びの絶叫と共に、ジェシカの涙が溢れて、零れ落ちる。
そこに、
「やれやれ。どこの愁嘆場ですか?」
車のヘッドライトの強烈な光が放たれ、この場に居るはずのない女性の声が聞こえる。
「…何故、クローンの成功体を隠していたのですか?」
…目が慣れて分かってきた事は、女性は二人で、どちらとも着慣れていないスーツを身に纏っているが、先頭の方の女性は気が強そうなカッチリ系で、後ろの方はやる気のない感じの無気力系に見える…声は先の女性の言葉で冷たい視線がホリーに向けられる。
「待って下さい‼彼女は成功体と言っても、生体として弱い個体です‼」
「延命措置ならこちらでします。あなた方はそれとデータを引き渡せばいいんです」
「見て分かりませんか?この子には時間がないんですよ?叶えられるなら、叶えられる限りの願いを叶えてあげたい‼我々で看取ってやりたいんです‼」
「感情移入し過ぎですね?あれが放つ精神波に中てられましたか?」
「違います‼彼女の意識が目覚める以前からの…いえ、彼女を創り出した時点での、我々の総意です‼」
クリスの言葉に、交渉役の女性が四人に目を向ける。
「…どいつもこいつもですね」
…ホリーを守る様にカプセルの前に立つ者と、反抗的な視線を向ける者…その両方から感じ取れる敵意に、女性が物憂げに溜息…
「…ヒルダ、始末しろ…」
後方に控えているもう一人女性に声を掛けると、
「あ?終わった?」
ヒルダと呼ばれる女性の意識が前方に向けられる。
「‼」
視線を合わせた時に走る、ホリーだけが感じ取った緊張感。
「…ったく、研究畑のお前に交渉なんて、所詮、無理なんだよ…」
だが、ホリーが警戒している事に気付かないまま、ヒルダが語り出す。
「うるさい‼お前だって、元々はこっち側だろう?」
「あれ?あたしは、こんな非人道的な研究には反対していたぜ?」
「良く言う‼超能力を身に着けてすぐに、周りの研究員をぶち殺したくせに‼」
「精神鑑定は徹底すべきだったな‼あたしが潜在的サイコパスだって知ってりゃ、主任は死なずに済んだんだからな‼それともセーラ、お前は知っていたのか?」
「ジャンキーな殺人狂ごときが、あたしを名前で呼ぶな‼主任と呼べ‼」
「図星か?話題を逸らしやがった‼」
激高するセーラと呼ばれる女性に対し、嘲笑を見せるヒルダ。
「…何が望みだ…?」
「そいつが欲しい」
と、ヒルダがゆっくりとホリーを指差す。
「はぁ?元々、オカシイと思ってたが…」
「勘違いするんじゃねぇよ。そいつの持っている、より強い超能力因子がほしいんだよ」
「それこそ勘違いだぞ?お前の能力は遺伝的に現状以上の能力を引き出せないと…」
「ならば、遺伝子を変異させれば良いだろ?お前は不得手かもしれねぇが」
「…‼お前…まさか…?」
ヒルダの真意を察したセーラが彼女から少しずつ離れる…が、
「逃がさねぇよ」
ホリーに向けていた指先をヒルダはセーラに向き直すと、
「ぅぐ‼」
人差し指の延長線上のセーラの腹部から鮮血が飛び散る。
「な…何をする…?」
その場で膝を落とすセーラに
「お前邪魔なんだよ」
指先をセーラに向けたままのヒルダの瞳に宿る光が明るさを増し、
「ギャッ‼」
今度は右の右胸部から噴出し、セーラの上体が後方に倒れる。
「な、何で?…何で、こんな事を⁈この仕事に不満があったのか?お前の精神鑑定を密かに知っていた事が許せないか?それとも、あの主任と恋仲だったか?」
…迫る死の足音が、ヒルダの足音と重なったのだろう…セーラは懺悔の言葉を近付く死神…ヒルダに向ける…が、
「‼」
ヒルダが、その場で何かを投げ下ろす様な仕草を見せると、瞬時にセーラの身体が地面に圧し潰され、
「ばぁか。あんな変態ハラスメント野郎、好きなわけねぇだろ?」
…肉片と呼ぶには平面的過ぎるセーラを一瞥…
「…味方と見ていいの?」
その一連を静観していたホリーだが、
「…精査するにしても、新鮮な素材がないとなぁ…」
口元に笑みを浮かべて、こちらを見据えるヒルダの意志に、ホリーは今まで感じた事のない感覚である戦慄を覚える・・・その感覚に合わせて、マニュピレーターがヒルダに向けられる。
「お?やる気か?」
一方のヒルダは、完全におちょくっている口調と格下相手の煽り手招き。
「…逃げて下さい…」
…そんな中、ホリーは四人に、テレパシーを送る…内容は言語系と、周辺の状況を簡単に現した図で、トレーラーと相手が乗って来た車に矢印が向いている映像系…ホリーのテレパシーに大分慣れた様で、その意味も四人は理解していた…が、
「お前を置いて逃げられるか‼」
ヒルダらしい人型とホリーのロボットがぶつかり合う矢印の先に、×印が付けられている事にジムが声を挙げる。
「足手まといになるつもりはない‼」
「ホリーは渡さない‼」
いつの間にか、ジェシカがトレーラーから持ってきた、軍用と思われる中型のライフルを、ボブやジム、クリスにも渡している。しかし、
「ダメ‼」
叩き潰されたセーラの姿と恐怖のイメージを四人に投げ掛ける。
だが、四人は怯む事はなかった…いや、精神的には相当の影響があったが、恐怖を上回るホリーを想う感情が、彼らを退かせなかった。
「…‼仕掛ける‼」
ヒルダに突出するホリー。右のマニュピレーターをヒルダに振り下ろす。
「甘い、甘い‼」
ひらりとヒルダは躱し、ヒルダの居た場所にマニュピレーターの先端が強打。上腕部のフレームが中程から折れる。追撃とばかりに、配線の付けられたままの腕をヒルダに振り向ける。だが、この攻撃はヒルダがその場にしゃがみこんで頭上を通過する。その彼女の頭上でアームが停止し、振り回された上腕部に繋がれた配線が切断され、バチバチとスパークの火花を上げ、その剥き出しの先端部分をヒルダに向けて、突き出す。
この場の戦闘に高揚しているヒルダは気付いていなかったが、本来、千切れた配線の先端がアームの動きと連動する筈がない。アームの動きに併せて配線の位置を操っているのはホリーが念動力。ホリーとしては、気付かれない様に振り回しているアームに配線を巻き付けているだけだが、その操作に気を取られ、もう一方のアーム操作が疎かになっている上に、電撃アームが本来のアームの長さより短い事に気付いていない事で、ヒルダを追い詰めきれていなかった…
一方、ヒルダの方は、始めの内こそ余裕だったが、ホリーの捨て身とも思える奇策と時折弾けるスパーク光とバチッと鳴る音に焦りを覚え始めていた…人質を取る事も頭の隅に浮かんだが、この状況とそれなりの超能力者とのタイマン…そして、自分を庇うはずのセーラを殺してしまった事…それは彼女の中では望んだ状況だったが、大手製薬会社への裏切り行為であることは明白で、せめて、ホリーを制圧する位はしないと身の安全は謀れないとの余計な思案に苛立ちが浮かぶ。
「…まだか…?」
そんな事情もあってか、避ける事で精一杯なヒルダ…いや、あえて、こちらから攻勢に出ないだけで、来るべき時を待っていた…それはホリーのロボットの電池切れではなかった。
「…⁈」
何度目かの攻勢に出ようとしたホリーのロボットの動きが止まる。
機器的不具合ではない。
「やっと、効いて来たか」
ヒルダが戦闘態勢を解き、服の埃を払う。
「な、何をした…⁈」
対するホリーはヒルダにアームを向けられなくなっている自身の意志に戸惑いを感じている…敵意は相変わらず沸騰状態なのに、ヒルダに対抗しようとすると動けなくなる…
「催眠暗示‼」
自身の異常とヒルダの微妙な明滅を繰り返す瞳の光に、ホリーが気付く。
「なぁに。悪い様にはしねぇよ…ちょっとばっかり痛い思いはするけどなぁ…」
暗示の効果か、ヒルダの思考がホリーにも届く。その思念に最も強烈に浮かんでいるのは、ホリーを傷め付けるヒルダの映像…そのイメージに、ホリーの意識が完全に委縮。戦意が完全に萎んでしまう。
気が付けば、カプセルに手が届くまで数歩の距離にヒルダがいる。
「…誰か…助けて…‼」
必死の想いの先に浮かんだのは、見知らぬセーラー服の少女。
「助けに来たよ」
ホリーの耳にはっきりと聞こえる、その少女の声…いや、思念。
目の前に、さっきのイメージのままの少女がヒルダとの間に佇んでいる。
「何だ?お前…?」
ヒルダも認識しているから現実にそこに居るのだろう…などと思ったら、
「ギャッ‼」
突然、バックステップとしては有り得ない高さと距離でヒルダが後方に吹き飛び、そのままの勢いで数メートル転がってしまう。
「お、お前、オリジナルか⁈」
咄嗟に顔を挙げて、ヒルダは少女に言い放つ。
「?…ああ、ワタシノサイボウ、アナタ、モ、モッテル?」
大分、カタコトながらも、ヒルダの意を先読みして解する少女。
「『不死鳥の血』を処分しに来たのか⁈」
ヒルダの爆発的な殺気が沸き起こり、周囲の空気を揺らす。
しかし、
「シンデ」
少女の翳した手から光が放たれると同時に、ホリーは意識を失う…暗示を掛けた者が死ぬと、深く暗示を開けられた者の意識が飛んでしまう事が稀にあるらしい…自分がそのレアケースなのだと、瞬時にホリーは思い起こし、自らの意識を手放した…
「オーストラリアですか?」
アジトに届いた一通のエアメールの宛先は茜だった。
電子メールを使わずに接触を試みているあたり、厳しい監視があるのだろうと茜は推理していた。送り主は面識のない男性だが、表でも裏でも有名な人物…クリスだった。
そこから、三日間、茜は自室に籠って、手紙の内容を解読した…本来、そこに書かれていた内容は季節の挨拶、近況報告と特殊疾病対策室で扱った事象を纏めた茜の論文に対する論評と修正指摘、その内容の使用許諾の事後承諾等を綴っていたが、所々に見えるアラビア数字が乱数表になっている事に気付いた。しかし、ある程度は解析可能ながらも、さすがに、自身の能力では無理があったので、ICとさくらの助力を得て、三十分程で解析。解読した内容は、彼の研究所の緯度・経度を表したアルファベットと数字、それと葵のクローンが完成している事と各種先天性の疾病を抱えている為、培養液から出られない事と予想される余命日数が記されていた…
「行ってくれる?」
「はい。」
軽い気持ちで頷くが、注意を受ける。
「研究所を襲撃するんじゃなくて、クローンを守って」
意図が分からなかったが、改めて、茜の手元にある手紙に籠る想いに気付き、
「わ、分かりました」
今度は慎重に了承の意を込めて、頷く。
葵達が転移した先は研究所だったが、誰も居なかった。全員が外に出ていた。
「どこ行った?」
「不用心だよね?」
「まぁ、周りに人なんて居ないからね」
正面入り口から裏に回ると、シャッターが解放された大部屋と大きな車と普通サイズの車の轍が、荒野に続いている…
「あっちか」
…暗い地平線の下に僅かな光が見える…人の気配もある…
「行くよ」
近くをうろついている緑に声を掛けると、駆け寄る足音。
転移の範囲に入って、葵は目的地に転移。
トレーラーの影からホリー対ヒルダ戦を見ていた所、ホリーの危機に割って入った。
「プリーズ、デッド」
夢を見ていた。
自分の脚で歩いている。はるか先にある目的地はもうすぐ。
ふと、思い出す。
「みんなは?」
後ろを見ると、みんながこっちを見ている。
「そうか」
名残惜しそうなみんなの表情に悟る。
「先にいってるね‼」
手を振って、目的地に向かう。
「…まだ、生きてる…」
ホリーが目覚めると、カプセルの中…培養液内の血液濃度が高くなっているのか、視界に赤が薄く広がっている。カプセルの外はコンテナの中で、ただただ暗い…
「あ」
そこにセーラー服の少女が振り返る。
「あなたがオリジナル?(英語)」
「いえす‼」
言葉を補うテレパシーが通じ合っている。
「え~と…トラスト、ミー、プリーズ‼」
その言葉と共に、オリジナルこと葵がホリーの背後に回る。
「ドント、ムーブ。オーケイ?」
動きを追おうとするホリーに葵が一言。
「何をするの?(英語)」
「ん~…サプライズ、プレゼント‼」
そこに葵の超能力が発動。
「わ‼」
ホリーの身体が後方に傾いたかと思うと、カプセルの壁面をホリーの身体がすり抜け、
「おっと」
待ち構えていた葵の腕に抱えられる。
「…ゲホッ‼ゲホッ‼…ゴホッ‼エフッ‼」
受け止められたホリーが咳き込むたびに、肺を満たしている培養液が吐き出される。
落ち着いた所で、ホリーを抱えた葵が歩き出す。
何も言わない葵に、何も言えないホリー。葵も何も言えない様だが…
しばらく出口方向に歩くと、一人の人影が見える。
「…あ…」
クリスだった。コンテナの外に佇んでいる。
「…ミスター、クリス‼」
やがて、スロープを中程まで降りると、
「…チェンジ、プリーズ…」
ホリーをクリスに差し出し、クリスも黙って受け取る。
「ホリー」
ただし、受け取ったクリスは驚きとも、喜びとも、悲しみとも取れない表情…
そんな彼にホリーは精一杯の笑みを見せる。
やがて、何処へ…ともなく、クリスが歩き出す。
…照り付ける日差しと緩い風…感覚的には「暑い」…でも、クリスから感じる温もりは物理的な温度ではない、感覚…いや、感情が伝わる…
「ああ、そうか」
…もう少し、欲張っても良いのか…
ホリーの意識が薄れ出すと同時に、心残りが浮かぶ。
「…もう…いいよ…(英語)」
ちょうど、ホリーを横たえられる岩場がある事を認識して、ホリーが一言。クリスがその意を汲み取り、ホリーの背を岩場に預けて、安置させる…
…しばしの沈黙…
「…空、青い…(英語)」
ホリーの声。
「…太陽、熱い…地面、堅い…風、美味しい…(英語)」
続く、たどたどしくも弱々しいホリーの言葉が続き、
「クリス」
目線がクリスに向く。
「何だ?(英語)」
「…パパって呼んでいい(英語)」
…ホリーの精一杯の感情を込めた、呟き声…
「勿論だ‼(英語)」
再び、ホリーを抱えるクリス。今度は、葵から差し出されたからではなく、自分の意志で。ホリーが嫌がっても構わないと言う気持ちで、強く、今まで聞きたかった…でも、聞けなかった言葉がホリーから直接、聞けた事が、ただ嬉しかった…そして…
「ありがとう。クリス(英語)」
…最後の我が儘を言えた事に、ホリーは充足の念を飛ばすが…
「…AH…SORRY DAD…」
…その念を外に飛ばせなくなったホリーの意識が消える…
「…‼」
…気が付くと藍は、完全に倒れ込んでいた。
「ARE YOU OK?」
駆け寄って来たのは、現地ガイドの女性。
「な、何ですか?この念は…?」
同行している少女は、車内で、ぐったりしている。
「あ、I‘M OK‼」
少女の言葉が耳に入っていたが、まずはガイドさんへの対応と思い、藍は身体を起す。
「…申し訳ありません…澤地さん…あなたと感覚を共有してました…」
少女が車から降り、藍の元に向かう。
「他者との感覚共有って…」
「その件は、もう少し落ち着いてから…」
少女の言葉と目線の先には、必要以上に慌てているガイドが救急を呼ぼうとスマホを取り出している…
「ああ、そうね」
と、藍が立ち上がって、ガイドに駆け寄る。
藍達三人は、集落に戻って一泊する事となった。
「さて、説明してもらおうか?」
屋根のある空き家での宿泊と車中泊の二択を迫られ、現地ガイドは警戒の意味を込めて車中泊、藍と少女は空き家での宿泊となった…LEDランタンの灯りを挟んで、毛布に包まった二人が座り込んでいる…
「…まず…何から話せばいいでしょう…」
彼女との感覚共有は既に解消されている為、今まで忘れていた他人である事の微弱な嫌悪感を感じ取っていた…少なくとも、藍は目の前の少女に前まで感じていた必要以上の好意が持てなくなっていた。
少女の話は、『青い鳥』の思念体に宿る葵の記憶が本物か?と言う事の証明を、彼女が持っている『感覚共有』の能力で調査してほしいと言う事らしい。
「…本部としては、あなたの思念体からの情報供給能力を疑う者もいますから…」
「そこは超能力省に問い合わせれば、登録されているし…」
「あそことは一線を画している…と言うより、特殊能力庁の担当官と『ブルふぇに』調査本部の本部長の仲が険悪ですから…」
「派閥抗争ですかぁ?」
「個人的な因縁ですよ。警官時代の検挙数はこっちが多かったとか、昇任試験でズルしたとか、恋仲の女性を盗られたとか、くだらない系です」
「宮仕えは辛いねぇ」
「宮仕え関係ないですよ?それ」
真剣な話が笑い話になった所で、和解が成立。
「感覚共有の影響で、体力の消耗があるんです」
「体格差があると、疲労が大きいんだっけ?」
「白井に掛けると、双方、立てなくなりますね」
「え?あいつって、そこまでガタイ良かった?」
「彼はあなたを守る為に鍛えていますから」
「あれに守られるのは心外なんですけど?って言うか、それがエスカレートして、平然とストーカーされるのはイヤなんですけど?その上で、ヤツのストーカー行為を公的任務として命令しないで欲しいんですけど‼お願いできますか⁈」
と、藍が立ち上がり、屋外に向かう…
「どうしました?」
後を追う少女。
…その先には、空を見上げている藍の姿…
「あ、そうか。こっち、南半球だった」
目当ての星座がない事に藍が呟くが、それでも夜空を見続ける…
今回の調査による人的障害は一切なかった。
「我々に対しての質問はなかったのか?」
警察庁本部ビルの一室。警官の制服を着ている少女が、提出した調査結果を映し出したタブレットを眺めている制服を着た人物に問われる。
「…その辺りは察したのでしょうね…彼女、相当にキレますよ?」
「こちら側に引き込める可能性は?」
今度はスーツ姿の男性の声。
「無理ですね。帰りの機内で、『ブルふぇに』への想いをこれでもかってくらい、アツく語られまくって、時差ボケでもないのに頭がおかしくなりそうでしたから」
「噂通り、生粋の『ブルふぇに』マニアか」
笑い声交じりに、自衛隊の礼服の男性が言い放つ。
「そんな人物に調査を依頼するのはどうなのかな?」
前のスーツ姿とは違う男性の懐疑的な言葉が放たれると、
「妥当と思います。彼女の『青い不死鳥の物語』における感情は、熱狂感より事実性を重視している様に感じ取れました」
「なるほど、宗教家と言うより研究者目線なのか」
警察制服の男性の言葉と共に、立ち上がる男性陣。
「この件は外部に漏らすな。それと例の報道規制はコードC4で」
「了解」
敬礼して、退室する一同を見送る少女。
「テロ活動の制圧に行ってたのか?」
今回の電子データを白井に渡す藍が問いかける。
「俺、財務省の下っ端官僚‼」
「そういう事にしておいてやるよ」
藍は気持ち的に納得していなかったが、言葉で納得の意を示した。
電子データには今回、藍が見た『青い鳥』の思念以外に、研究員四人のその後が記されていた…名前と容姿と大体の年齢を調査したら、案外、簡単に見当が付いてしまった。
まず、ジムはアンドロイド開発、製造の会社を設立。ロールアウトされた試作一号機の性能に世界が驚愕。人体の構造を熟知している彼ならではの拘りを生かした性能が評判を呼び、ジェシカとの共同経営を機に多方面の製品の製造に着手。現在では国際的にも大手の複合企業体となる。ちなみに、共同経営の打診と同時にジェシカと結婚。子供は居なかったが、試作一号機と共に幸福な家庭を築けたと、自叙伝に記されている…
ボブはフィットネス事業に着手し、事故や先天的な手足の欠損を負った者向けの効果的な運動指針を発表。それが評判となり健常者向けのフィットネスも展開…欠損障害者向けのフィットネスは現在まで基礎理論として活用されている。
クリスはクローン研究を破棄。人クローンの人権擁護団体を設立…それ以降は記録がないが、彼には十歳の娘が居た事が判明。研究所に入る半年前、事故で亡くなっている。
ちなみに、ジムが造った試作一号機は痩身の少女型で、髪は透けるような白髪…東洋系の顔立ちで、現在は対応年数を超えた事で記念館の一室の椅子に鎮座している。
「白井は別件で来られなくなりまして…」
見た目はフツーの小学生だが、口調は丁寧な大人風…背伸びしているカンジを受けない事から、同僚か上司なのだろう…佇まいに隙が無い上に、許可を得たかどうか分からないが、ポケットに小口径の拳銃を持っている…
「では、行きましょう‼」
『青い不死鳥の物語』の作者の弾丸海外旅行の三番目の目的地がこのオーストラリアの赤い大地にあった。沿岸部にある国際空港から大陸中央部へのセスナ移動、その後は車で八時間…これは作者達と同じ時間配分だったと、現地ガイドが説明してくれた。本来なら、目的地近くの集落にヘリポートもあるが、現状、ヘリが修理中な上に、交換しなければならない部品が廃盤となっているらしく、緊急の場合のみ、少し遠い街からの出動が掛けられるらしい…もっとも、向かっている集落に人が残っているかも、アヤシイらしい…
「到着しました(英語)」
この周辺の野生動物保護管を兼務している女性ガイドが、すっかり、ぐったりしている藍と少女に告げる。
「…おかしいな…もう少し、タフだと思ったけど…?」
後部座席からよろよろと降りる藍。
「年齢を過信しちゃ、いけませんよ?」
同じく、腰砕け状態の少女が疲れた笑みで声を掛けてくれる。
廃墟となっている家屋に歩を向け、屋根が造る陰に身を隠す。少し離れて、へたり込む少女も屋根の影にいる。
「こんな所にホントにあるのかね?」
女性ガイドが差し出したペットボトルを開けて、藍が呟く…
小一時間の休息の後に、藍はなんとか立ち上がる。
「どこに?」
「あたしにしか分からない調査。」
藍は十周年インタビューに記されていた通りの場所に向かう。
「集落の北西方向の端、そこから一キロは走った場所」
取材旅行の場所を聞かれた際の作者の回答だが…
「一キロは走ったって…どういう意味だろ?」
その言葉に従い北西に歩みを進める。
藍は、このインタビューにある作者の言葉に違和感を覚えていた。今回の海外調査において、作者が海外取材に行った場所には決まって、青い鳥の思念体があったからだ。おそらくだが、青い鳥の思念体は葵の想念が顕現しているだろう…確かに、その場所を知ったとしても葵の想いを知る事は出来ないだろう…藍が持つ思念体の中の思いを体感する能力は相当レアな能力で、現状、藍を含めて世界では三人しか所持していない能力と聞いているし、超能力が発現して数年後の世界では、その存在すら知られていなかっただろう…それでも最近ではその能力を主題にした推理モノの創作がちょっとずつ広まっているようだが、所詮、創作なので自身の体感とのギャップが大きく感じられていた…それは、彼女にとっての独特の感性に由来している…
…自分ではない誰かの感性を受ける不快感と、自分ではない誰かを生きる期待感…
「共感してほしいとは思わないけど」
…諦めの感情が沸いてくる…
それはそれとして、海外取材における作者の行動には作者自身のポリシーとも言うべき『実在する架空の存在』と言う部分が欠如している様に見える。質問者が上手く乗せたのかもしれないが、取材場所を明確に語っている。実は日本の研究施設のあった場所については住所を字付きの地名と番地まで語っていた。その言動は、まるで、調べてくれと言わんばかりの符丁の様に、藍は感じていたが…
「…っと、この辺かな?」
昔のストリートビューが写るタブレットを眺めながら、角部の壁と柱だけが残る、北西方向にあった建物の辺りを通過する…
「‼」
目の前の十メートル先に、青い鳥の思念体…だが、今まで見た事のない大型の地を走る系の鳥…傍に寄ると嘴が藍の目線程の高さにある。
「…え…と…」
恐る恐る青い鳥の思念体に手を伸ばす…が。
「あ‼」
あと一センチほどの所で、地を駆け出す青い鳥。
「ま、待って‼」
思わず、追い縋る様に駆け出す藍。十メートル程は付いて行けていたが、徐々に引き離されていく…
「待って…‼」
だが、駆ける脚を止めない藍。本能が身体を突き動している事に気付いていない…ただ、追い付けない事実に焦りが浮かぶ…
「乗って下さい‼」
と、背後からのクラクションと少女の声に、我に返り、振り返る。
「…あ…うん‼」
事態を理解して、藍は車に乗り込む…
…そこから一キロほど離れた場所…
「ここ‼停めて‼(英語)」
藍の言葉に車が停止。車を降りて、数メートル後退…行き過ぎた様だ…
「…エミューって言うんだっけ…」
目の前にはその場に佇む青いエミューの思念体…今度は間違いなく触れる…
「…ただ起きて、眠るだけの日々…」
…卵型のカプセルの中に満たされた培養液に浮かぶ彼女は葵ではなかった…痩せた体躯と細い手足は葵に似ていたが、長い髪は透き通る程に白く、彼女の肢体に絡み付いており、その様は、長い年月、カプセルに居た事を示している…
彼女は『ホリー』と呼ばれていた…大手製薬会社から供出された『不死鳥の血』から、唯一生み出された葵のクローンである。保管状態が悪かったのか、他の細胞がクローニングに耐えられず、彼女もまた、カプセルの中でしか生きていけない存在だったし、彼女自身もそれを理解していた。
意識がないと思われていたホリーだった為か、彼女の世話は培養液の浄化と養分調整だけ…稀に、カプセルの前に椅子を持ち込んで、スマホ片手に経過観察をしている程度…イタズラとして、溶液濃度を調整するバルブを開けたり閉めたりしていたが、気付かれる事は殆どなかった…ただ、予定されている培養液の濃度に僅かな変化があった事を目敏く観察していた者から研究員の何人かが𠮟責を受けていた。
…迷惑が掛かると思い、ホリーは数回だけでその手のイタズラは止める事にした…
彼女を世話している研究者は四人。男性三人の女性一人だが、年代的には男性の一人が他の研究者に比べ二十歳程年上だろう…
若手研究者の三人の内の男性二人は一人は金茶髪で長髪青年のジムと、もう一人はガチムチ金髪青年のボブ。女性は金髪のジェシカ。年上の所長はクリスと名乗っており、研究者を叱責していたのもクリスだった…もっとも、彼の叱責は、研究対象の喪失の危惧以上の感情をホリーも感じ取っていた…
…ある日、ジェシカが観察していた時…
「…ん…」
何回目かの覚醒かは分からないが、ホリーが目を開けて、目の前に意識を向ける。
「…え?」
片手にスマホを持った彼女と目が合ってしまった。ただ、もう片方の手がこちらに向いている様に見えるが…その状態で、お互いの沈黙が数秒…まぁ、ホリーは話せないが…
「所長‼」
慌てて席を立って、声を上げるジェシカが、奥の別の部屋に行ってしまう。
「…どうしよう…」
起きている事…と言うより意識がある事を知られてしまった事に、戸惑うホリーの前に研究員四人が慌てて、駆け寄って来る。
「…本当だ…」
驚嘆の眼のままの四人が、まじまじとホリーを見つめる事、十秒程…
…耐え切れず、ホリーが片手を上げる仕草を見せて、ニッコリ。
その瞬間、四人が歓声の声を挙げる。その時のホリーには分からなかったが、少なくとも、敵意を向けていない事が判明した上での四人の歓喜だった。
改めて自己紹介と思ったが、問題があった。
ホリーと、どの様にコミュニケーションを取るか?
様々なアイディアが出された。まず、ボブが手話を取り入れたボディランゲージを開発。これによって大まかな意思が伝えられたが、ホリーの要求する所には到底及んでいない上に、身体の動きによる言語化にホリーの理解が追い付いていない事が判明。おまけに培養液の中と言う事で、大きな動きをするとカプセルの中でホリーが容易にひっくり返ってしまう事もあり、三日で次の対策が求められる事となった。
次の対策は、ホリーの言語の習得に力を入れる事。これはジムが担当。大型のディスプレイに絵と言語を映し出し、この絵はどの言葉?この言葉はどの絵?と言った幼児教育さながらに、根気よく、教育して行く事となった。回答にはもう一つの大型ディスプレイをタッチパネル化し、タッチペンによる念動力操作で行われる事となった。これもある程度の効果が得られたが、違和感なく覚えてくれたのがヒト・イヌ・ネコと言った固有名詞と、赤い・苦い・熱いと言った形容詞だけで、カプセル内では体験できない動詞や形容詞については理解を得るのに相当な困難を要した。その上、彼女の念動力操作がディスプレイを傷付けない程度に力に抑えなければいけない事も判明。ホリーには相当の集中力が必要とされ、受け答えと言う意味では、長くても十分程度しか出来ない状態だった…
次にジェシカの案。これは単純でホリーのテレパシー能力を利用する事…しかし、一言にテレパシーと言っても言語での表現ばかりではない。試しに、ジェシカが受信した『ネコ』のテレパシーは、ジムが見せてくれた子猫の動画のイメージが一瞬、見えた気がしただけで、言語としての『CAT』とは聞こえてこなかったのだ。ホリー自身が言葉を発する環境に居ない事もこの現象の要因の一つだが、『ネコ』と言う映像のイメージと、『CAT』と言う言葉の響きのイメージを、ホリーが別々に認識していた事も問題だった。そこで、培養液の音波振動を考慮したスピーカーをカプセルに取り付け、映像と言語と音声の擦り合わせを、再び、根気良く、行う事となった。
『ホリーとおしゃべり計画』は難航していたが、ここで、クリスが提案。
「君らのやり方を組み合わせて、簡略化すればばいいのではないか?」
つまり、この場に居る時はボディランゲージで、カプセル内の水流を乱さない程度の動きの手話・指話・表情で会話し、離れている時は各自のスマホにメールを送れるようにタッチパネルの設定を改良、その上で無理に文章化させず、略式化した単語を開発し、それをホリーに教育。緊急の場合にのみ、テレパシーを使わせると言った方向性を提示し、研究が進められた。「ホリーの声が聞きたかった」と愚痴るジェシカがいたが…
しばらくはホリーの教材作成とそれに伴う培養液の成分調査が研究員達の仕事となった。 問題は彼女の学習意欲を削がず、身体に負担の掛からない程度のストレスをどの程度与えるべきか?そして、彼女の興味を引く様な教育プログラムをいかに組むか?の問題があった。ホリーのやる気と疲労を考慮しながらの培養液の調整は研究者たちを悩ませる事となった。その要因の一つとして、ホリーが研究員の行為に対し、協力的な事が挙げられていた。
「みんな、自分の為にやってくれている」
その事をホリーも充分に分かっていた。だが、その想いからくる頑張りは、心身…特に精神的なストレスを蓄積させ、ホリーの睡眠時間に影響が出ていたが、その辺りのデータをホリーは超能力で改竄していた。
「…やった‼」
そして遂に、ホリーの教育プログラムが終了し、満足のいく成果を出す事に成功。カプセルの外では、若者三人がシャンパンの瓶を開け、盛大に祝杯を挙げる。楽し気な三人をカプセルの中から眺めるホリーは表面上、同じく歓喜し、カプセル越しにジムとボブにハイタッチ、ジェシカのキスをカプセルに寄せた頬に受けた…
だが、クリスはホリーの寝不足に気付いていたらしく、祝賀会の後に二人きりになった時に静かに注意された。
「君を長く生かす事が我々の第一命題なんだ」
そこまで難しい言葉はホリーには理解できなかったが、クリスがホリーを一番に心配している事は、カプセルの天辺付近に触れている掌から伝わる温もりから分かっていた…もちろん、物理的な温かさではないし、こんな実験体なんかに注いでいい暖かさではない事もホリーは理解していたが、我慢の限界か、その時の彼女は眠りに就いてしまった…
それから研究所は超能力開発に力を注ぐ事となった。
幸いだったのはホリーが協力的だった事で、研究所内における念動力に関する知識が大幅に蓄積される事となった。と言っても、他の研究所より遅れていた分を取り戻している程度だが…ホリーの体温の変化や微弱な筋肉の収縮によって、人体のどの部位…具体的に脳のどの領域が刺激されているのかが判明したのだ。ただし、これはホリー特有の場合もあるため、外部への発表は控えられる事となったが…ホリー自身も超能力を使い続ける事で、念動力ならば、より重い物体を持ち上げや移動、より繊細な物体操作、更には簡単な化学反応を起せる程度の細密念動能力も手に入れていた…その成果か、自身の脳を刺激する事によって、言語系のテレパシーが明確に使える様になった。
この事にもっとも喜んだのはジェシカであり、カプセルの近くを通るたびに自分の名前を呼ぶ様にホリーに強請っていた。もっとも、この行為はホリーが就寝間近であっても行われた為、ジェシカだけホリーへのテレパシー挨拶回数の制限が設けられた…
この頃になると、フツーにテレビでの情報収集をホリーは自主的に行うようになり、言語に対する理解が深まると共に、邪魔にならない程度に、周囲の者に質問する様になっていた…そんな中で、ホリーが興味を示したのは、身近な人々の好意のベクトル…つまり誰が誰を好きか?と言った女の子らしい興味であった…
「ジムは誰が好きなの?」
まず、最初に聴取したのはジムだった。
「え?…ホリー…何言ってるんだい?」
巨大ディスプレィにその文字を浮かばせて、その場を去るジムだが、彼の脳裏には気さくに微笑むジェシカの姿がはっきりと映っていた。ちなみに、この頃のホリーは研究所から五キロ離れた水場付近に生息するカンガルーの空腹具合やオスの発情状況等は手に取る様に認識できる程の受信能力を持っていたので、彼女の前では大抵の隠し事は通用しなかった…もっとも、誰にも告げ口などしていないが…
次にホリーの前に現れたのは、随分と重そうな荷物を軽々と持っているボブ。
「ボブ‼ボブ‼」
そこに、ホリーがカプセルの壁面を叩く。彼の場合、この方法が気付いてくれる。
「何だい?」
立ち止まって、こっちに顔を向けてくれる。
「好き。人。誰?」
研究所謹製の指話交じりの手話をボブに見せる。勿論、この方が彼には通じ易い。が、
「フ。」
笑みを見せて、立ち去るボブと、
「え?」
瞬間、青褪めるホリー。ボブの脳裏には精悍な表情を浮かべるジムの姿…
「え?オス同士?え?えええぇぇえ⁈」
…その日の培養液の検査で異常が見つかり、ホリーは数日、寝かされる事となった…
強制睡眠から開けて、すぐに最後の一人であるジェシカに聞く…
「…好きなヒトっている…?」
…ホリーとしてはジムが好きならボブには悪いが(?)問題なし。ボブが好きなら歪な三角関係が形成されると予想していた…
しかし、返って来た答えは、
「もちろん、ホリーよ‼」
ばっちりウィンクと共に告げられた言葉と、彼女の脳裏に移る長い白髪を無造作に身体に巻き付けた痩せた少女の映像が見えてしまう…
「…誰だ?…」
更に映像は、少女の手を取り、強引に抱き寄せるジェシカが少女に唇を寄せ…
「あ‼あたしか⁈」
何とか声を押し殺し、現実の彼女に目を向ける。
「どうしたの?」
「な、何でもない‼」
「そう。じゃあ、忙しいから‼」
それだけ告げると、いつもの投げキッスをホリーに放ち、立ち去って行く…
…勿論、この日の夜も、検査に異常が出た為、強制睡眠となった…
何かの間違いがあるといけないので、その後、何度かホリーはジェシカの自分に対する好意の部分を覗いてみたが、ジェシカの妄想は更に過激な方向に進行していたので、三回目以降ジェシカの思考を覗く行為を止め、誰が好きと言った質問は自らの中で、堅く封印される事となった…
そんな生活にも慣れた頃、ホリーは夢を見た。
内容は、とても有り得ない…途中で夢だと気付いてしまう程に有り得ない夢…
…外の世界を自分の力で歩いている夢…視界にはただ青い空が広がり、ひどく楽しい気分で、これ以上ない程の笑顔で目指す場所もないままに、ただ歩いている夢…
「生きれるだけで充分だよ」
生温かい培養液の中で目覚めて、誰にも聞かれない呟きをポツリと口にする。
それから数日後、研究所内が慌ただしくなった。
特に用事がなくても来てくれていた研究員が、定時観測の時間以外は顔を見せる事がなくなり、目の前の壁を隔てた向こう側の部屋からは金属加工時の切削音や研磨音、あまり使われていなかった備え付けのクレーンの起動音…時々、バチバチと言う音と共に、青白い光がドアの隙間から溢れていた…
「…この感じって、鉄鋼系の工作をしている?…いや、彼等、生化学が選考だよね?何、工学系の工作に手を出してるの?何が目的?まさか、あたしのサイボーグ化か?ってか、そんなドカドカ、バチバチな工作過程でできた身体なんて欲しくないぞ‼」
…そんな思いを抱きつつ、ホリーは数日間、起きて寝るしかない不安な日々を過ごす事となった…
その日、工作機器の音に起こされずに、ホリーは目を覚ました。
「あれ?ここ、いつもの場所じゃない」
薄暗い室内…これはホリーに光刺激を与え過ぎない為の措置だが、あまりに暗すぎる事もあり、弱い念動波放ち、反響である程度の状況が把握…周囲に細い鉄材が四本…その頂上部に可動部がある…関節駆動用の試作部品とホリーは判断。
「ついに、あたしも廃棄物扱いか…」
廃材置き場であろうかと、勝手な予測を立てる…が、
「ホリー‼」
ジェシカの言葉に反応し、振り返ろうとすると、
「わ‼」
カプセルごと回転し、中のホリーが水流に抗い切れず回転。
「成功だ‼」
今度はジムの声。だが、声の方向が見えないので、しばらく流れに身を任せていると、四人の姿が見えて来る。とりあえず、捨てられた訳ではない事に、ホリーが落ち着きを取り戻すと、周囲の状況が分かって来る。
以前、カップセルが置かれていた部屋の四倍は広い室内の中央にいる事は何となく理解したが、四本の関節付きの金属部品が自分を乗せている四本脚のロボットの脚部である事にようやく気付く。
「え?」
更に意識を飛ばすと、前と思われる方向のホリーの視界に大きさの違うジョイスティックが三本…中央の大きめの一本が移動用で、それを挟む両側の二本はマニュピレーター操作用と思われる…自身がいるカプセルを除けば、四本脚の蜘蛛の様なフォルムだろうか…
「どうしたの?これ?」
言葉と共に発するテレパシーを四人に向けると、
「夢だったんだろ?」
腕組みするボブの言葉。
「それを叶えるのが、あたし達の願いだからね」
ジムの隣で涙ぐむジェシカ。
「…あ…」
…ホリーが数日間に見た睡眠時の夢を思い出す…無意識の内に、周囲にテレパシーを飛ばしてしまった様だった…
「おいで、ホリー」
…クリスが腕を広げ、微笑んでいる…
その言葉に、ホリーはジョイスティックを使って、移動…蜘蛛の脚が、器用に動き、十秒程で、ホリーを乗せた機体が四人の前に到着。
「オイオイ‼そのままの姿勢でこっちに来るとは思わなかったな‼」
苦笑しつつ、頭に手を置くジムの言葉に、一同が笑い声を挙げる…勿論、ホリーも…
その後、幾つかの注意事項と機体の調整が行われた。
ホリーへの注意は、主にマニュピレーターの操作に関してで、機体性能の問題上どうしようもない場合を除き、極力、念動力でアームやマニュピレーターを動かさない様に…と、キツく言い渡された。「動力に負荷が…」とか、「関節部の摩擦で耐久性が…」云々…との念がジムから発せられたが、要するに、無理な動きをさせない様にとの注意だと、ホリーは簡単に考える事にした…ホリー不在のテスト起動は問題なかったらしいが、一応の確認としてホリーも動かす事に…さすがに、マニュピレーターの先端は五本指の人型ではなく二本指のクレーンゲームのキャッチ部分に似た構造…感度センサーを仕込む時間がなかったらしく、握力はそれなりに強いと忠告を受ける。つまり人を掴まない様にとの事。
課題として与えられた機動テストをホリーは難なくこなし、急旋回時のカプセル内の水流の調整も問題なく終了…その日の夜に外に出る事となった…
…ここまで急かしたてたのは、ホリーが意図的に流した感応波の影響であった事を、その場に居た誰もが知る事はなかったが…
月と星が天空を支配する時間となった頃合いに、研究所から大型トレーラーが荒野に向けて出発する。ホリーを搭載した蜘蛛形ロボットの野外機動実験の場所は、人里からも研究所からも離れた荒野で行われる事となった。場所の選考は、ホリーが野生動物の影響が出ない場所を…と嘆願した事により、ジェシカが野生動物保護管に問合せし、決定した。
「…と‼」
…停止する感覚をホリーが感じ取ってから十秒程して、トレーラーの後部ドアが開かれる。
「おいで‼」
正面から声を掛けるのはジェシカで、トレーラー出口の両側面からジムとボブが手招きしている。スロープが敷かれているのは彼等の力業だ。クリスはジェシカの隣で腕組みしながら、こちらを見ている…
足先に車輪が付いている訳ではないので、脚を動かしながら、出口に向けて移動…重心とバランスと乗り心地を考慮しながらの移動だが、移動速度は思った以上に遅くない。本体駆動用のモーター音と床板をカチャカチャと音を立てつつ、用意されたスロープを使って降りる…
「…わあ…」
スロープから一メートル程離れて、上からの薄明りに見上げる。
…静寂と共に広がる夜空には、細い月と満天の星空…培養液越しであっても、その煌めきは、ホリーにとって初めての光景で、初めての感動だった…掴めるはずのない光に向けてアームを無意識の内に伸ばす…それはカプセルの上限いっぱいまで腕を伸ばしているホリーの動きがシンクロしているからだろうか…
…これ以上の幸せはない…
「みんな」
振り返ると、四人がこちらを見ている。皆、感慨深げだ。
しかし、
「ごめんなさい」
ホリーの言葉が確かに聞こえた。
「え?」
だが、その言葉を出したホリーの口元から息を吐く様に赤い雲が溢れ、口を閉ざした事で鼻から赤い線が浮かぶ。
「いやあああぁぁあ‼」
絶叫するジェシカがホリーのカプセルに張り付く。
「ホリー‼ダメ‼しっかりしてぇ‼」
力任せにカプセルを叩くジェシカをボブが引き剥がす。
「落ち着け‼」
「落ち着いていられるの⁈」
ボブとジェシカの言い争いの中で、ジムが培養液の調整を始める。
「どうだ⁈」
クリスがジムの作業と、カプセル内のホリーを交互に目を移すと、
「…ダメです…‼…ホリーの身体が限界です…‼」
悔しさを滲ませつつ、ジムは地面を殴りつける。
「…ここまで来てか…‼」
その感情はクリスにも伝染し、
「ダメ、ダメエエェェエ‼」
再びの絶叫と共に、ジェシカの涙が溢れて、零れ落ちる。
そこに、
「やれやれ。どこの愁嘆場ですか?」
車のヘッドライトの強烈な光が放たれ、この場に居るはずのない女性の声が聞こえる。
「…何故、クローンの成功体を隠していたのですか?」
…目が慣れて分かってきた事は、女性は二人で、どちらとも着慣れていないスーツを身に纏っているが、先頭の方の女性は気が強そうなカッチリ系で、後ろの方はやる気のない感じの無気力系に見える…声は先の女性の言葉で冷たい視線がホリーに向けられる。
「待って下さい‼彼女は成功体と言っても、生体として弱い個体です‼」
「延命措置ならこちらでします。あなた方はそれとデータを引き渡せばいいんです」
「見て分かりませんか?この子には時間がないんですよ?叶えられるなら、叶えられる限りの願いを叶えてあげたい‼我々で看取ってやりたいんです‼」
「感情移入し過ぎですね?あれが放つ精神波に中てられましたか?」
「違います‼彼女の意識が目覚める以前からの…いえ、彼女を創り出した時点での、我々の総意です‼」
クリスの言葉に、交渉役の女性が四人に目を向ける。
「…どいつもこいつもですね」
…ホリーを守る様にカプセルの前に立つ者と、反抗的な視線を向ける者…その両方から感じ取れる敵意に、女性が物憂げに溜息…
「…ヒルダ、始末しろ…」
後方に控えているもう一人女性に声を掛けると、
「あ?終わった?」
ヒルダと呼ばれる女性の意識が前方に向けられる。
「‼」
視線を合わせた時に走る、ホリーだけが感じ取った緊張感。
「…ったく、研究畑のお前に交渉なんて、所詮、無理なんだよ…」
だが、ホリーが警戒している事に気付かないまま、ヒルダが語り出す。
「うるさい‼お前だって、元々はこっち側だろう?」
「あれ?あたしは、こんな非人道的な研究には反対していたぜ?」
「良く言う‼超能力を身に着けてすぐに、周りの研究員をぶち殺したくせに‼」
「精神鑑定は徹底すべきだったな‼あたしが潜在的サイコパスだって知ってりゃ、主任は死なずに済んだんだからな‼それともセーラ、お前は知っていたのか?」
「ジャンキーな殺人狂ごときが、あたしを名前で呼ぶな‼主任と呼べ‼」
「図星か?話題を逸らしやがった‼」
激高するセーラと呼ばれる女性に対し、嘲笑を見せるヒルダ。
「…何が望みだ…?」
「そいつが欲しい」
と、ヒルダがゆっくりとホリーを指差す。
「はぁ?元々、オカシイと思ってたが…」
「勘違いするんじゃねぇよ。そいつの持っている、より強い超能力因子がほしいんだよ」
「それこそ勘違いだぞ?お前の能力は遺伝的に現状以上の能力を引き出せないと…」
「ならば、遺伝子を変異させれば良いだろ?お前は不得手かもしれねぇが」
「…‼お前…まさか…?」
ヒルダの真意を察したセーラが彼女から少しずつ離れる…が、
「逃がさねぇよ」
ホリーに向けていた指先をヒルダはセーラに向き直すと、
「ぅぐ‼」
人差し指の延長線上のセーラの腹部から鮮血が飛び散る。
「な…何をする…?」
その場で膝を落とすセーラに
「お前邪魔なんだよ」
指先をセーラに向けたままのヒルダの瞳に宿る光が明るさを増し、
「ギャッ‼」
今度は右の右胸部から噴出し、セーラの上体が後方に倒れる。
「な、何で?…何で、こんな事を⁈この仕事に不満があったのか?お前の精神鑑定を密かに知っていた事が許せないか?それとも、あの主任と恋仲だったか?」
…迫る死の足音が、ヒルダの足音と重なったのだろう…セーラは懺悔の言葉を近付く死神…ヒルダに向ける…が、
「‼」
ヒルダが、その場で何かを投げ下ろす様な仕草を見せると、瞬時にセーラの身体が地面に圧し潰され、
「ばぁか。あんな変態ハラスメント野郎、好きなわけねぇだろ?」
…肉片と呼ぶには平面的過ぎるセーラを一瞥…
「…味方と見ていいの?」
その一連を静観していたホリーだが、
「…精査するにしても、新鮮な素材がないとなぁ…」
口元に笑みを浮かべて、こちらを見据えるヒルダの意志に、ホリーは今まで感じた事のない感覚である戦慄を覚える・・・その感覚に合わせて、マニュピレーターがヒルダに向けられる。
「お?やる気か?」
一方のヒルダは、完全におちょくっている口調と格下相手の煽り手招き。
「…逃げて下さい…」
…そんな中、ホリーは四人に、テレパシーを送る…内容は言語系と、周辺の状況を簡単に現した図で、トレーラーと相手が乗って来た車に矢印が向いている映像系…ホリーのテレパシーに大分慣れた様で、その意味も四人は理解していた…が、
「お前を置いて逃げられるか‼」
ヒルダらしい人型とホリーのロボットがぶつかり合う矢印の先に、×印が付けられている事にジムが声を挙げる。
「足手まといになるつもりはない‼」
「ホリーは渡さない‼」
いつの間にか、ジェシカがトレーラーから持ってきた、軍用と思われる中型のライフルを、ボブやジム、クリスにも渡している。しかし、
「ダメ‼」
叩き潰されたセーラの姿と恐怖のイメージを四人に投げ掛ける。
だが、四人は怯む事はなかった…いや、精神的には相当の影響があったが、恐怖を上回るホリーを想う感情が、彼らを退かせなかった。
「…‼仕掛ける‼」
ヒルダに突出するホリー。右のマニュピレーターをヒルダに振り下ろす。
「甘い、甘い‼」
ひらりとヒルダは躱し、ヒルダの居た場所にマニュピレーターの先端が強打。上腕部のフレームが中程から折れる。追撃とばかりに、配線の付けられたままの腕をヒルダに振り向ける。だが、この攻撃はヒルダがその場にしゃがみこんで頭上を通過する。その彼女の頭上でアームが停止し、振り回された上腕部に繋がれた配線が切断され、バチバチとスパークの火花を上げ、その剥き出しの先端部分をヒルダに向けて、突き出す。
この場の戦闘に高揚しているヒルダは気付いていなかったが、本来、千切れた配線の先端がアームの動きと連動する筈がない。アームの動きに併せて配線の位置を操っているのはホリーが念動力。ホリーとしては、気付かれない様に振り回しているアームに配線を巻き付けているだけだが、その操作に気を取られ、もう一方のアーム操作が疎かになっている上に、電撃アームが本来のアームの長さより短い事に気付いていない事で、ヒルダを追い詰めきれていなかった…
一方、ヒルダの方は、始めの内こそ余裕だったが、ホリーの捨て身とも思える奇策と時折弾けるスパーク光とバチッと鳴る音に焦りを覚え始めていた…人質を取る事も頭の隅に浮かんだが、この状況とそれなりの超能力者とのタイマン…そして、自分を庇うはずのセーラを殺してしまった事…それは彼女の中では望んだ状況だったが、大手製薬会社への裏切り行為であることは明白で、せめて、ホリーを制圧する位はしないと身の安全は謀れないとの余計な思案に苛立ちが浮かぶ。
「…まだか…?」
そんな事情もあってか、避ける事で精一杯なヒルダ…いや、あえて、こちらから攻勢に出ないだけで、来るべき時を待っていた…それはホリーのロボットの電池切れではなかった。
「…⁈」
何度目かの攻勢に出ようとしたホリーのロボットの動きが止まる。
機器的不具合ではない。
「やっと、効いて来たか」
ヒルダが戦闘態勢を解き、服の埃を払う。
「な、何をした…⁈」
対するホリーはヒルダにアームを向けられなくなっている自身の意志に戸惑いを感じている…敵意は相変わらず沸騰状態なのに、ヒルダに対抗しようとすると動けなくなる…
「催眠暗示‼」
自身の異常とヒルダの微妙な明滅を繰り返す瞳の光に、ホリーが気付く。
「なぁに。悪い様にはしねぇよ…ちょっとばっかり痛い思いはするけどなぁ…」
暗示の効果か、ヒルダの思考がホリーにも届く。その思念に最も強烈に浮かんでいるのは、ホリーを傷め付けるヒルダの映像…そのイメージに、ホリーの意識が完全に委縮。戦意が完全に萎んでしまう。
気が付けば、カプセルに手が届くまで数歩の距離にヒルダがいる。
「…誰か…助けて…‼」
必死の想いの先に浮かんだのは、見知らぬセーラー服の少女。
「助けに来たよ」
ホリーの耳にはっきりと聞こえる、その少女の声…いや、思念。
目の前に、さっきのイメージのままの少女がヒルダとの間に佇んでいる。
「何だ?お前…?」
ヒルダも認識しているから現実にそこに居るのだろう…などと思ったら、
「ギャッ‼」
突然、バックステップとしては有り得ない高さと距離でヒルダが後方に吹き飛び、そのままの勢いで数メートル転がってしまう。
「お、お前、オリジナルか⁈」
咄嗟に顔を挙げて、ヒルダは少女に言い放つ。
「?…ああ、ワタシノサイボウ、アナタ、モ、モッテル?」
大分、カタコトながらも、ヒルダの意を先読みして解する少女。
「『不死鳥の血』を処分しに来たのか⁈」
ヒルダの爆発的な殺気が沸き起こり、周囲の空気を揺らす。
しかし、
「シンデ」
少女の翳した手から光が放たれると同時に、ホリーは意識を失う…暗示を掛けた者が死ぬと、深く暗示を開けられた者の意識が飛んでしまう事が稀にあるらしい…自分がそのレアケースなのだと、瞬時にホリーは思い起こし、自らの意識を手放した…
「オーストラリアですか?」
アジトに届いた一通のエアメールの宛先は茜だった。
電子メールを使わずに接触を試みているあたり、厳しい監視があるのだろうと茜は推理していた。送り主は面識のない男性だが、表でも裏でも有名な人物…クリスだった。
そこから、三日間、茜は自室に籠って、手紙の内容を解読した…本来、そこに書かれていた内容は季節の挨拶、近況報告と特殊疾病対策室で扱った事象を纏めた茜の論文に対する論評と修正指摘、その内容の使用許諾の事後承諾等を綴っていたが、所々に見えるアラビア数字が乱数表になっている事に気付いた。しかし、ある程度は解析可能ながらも、さすがに、自身の能力では無理があったので、ICとさくらの助力を得て、三十分程で解析。解読した内容は、彼の研究所の緯度・経度を表したアルファベットと数字、それと葵のクローンが完成している事と各種先天性の疾病を抱えている為、培養液から出られない事と予想される余命日数が記されていた…
「行ってくれる?」
「はい。」
軽い気持ちで頷くが、注意を受ける。
「研究所を襲撃するんじゃなくて、クローンを守って」
意図が分からなかったが、改めて、茜の手元にある手紙に籠る想いに気付き、
「わ、分かりました」
今度は慎重に了承の意を込めて、頷く。
葵達が転移した先は研究所だったが、誰も居なかった。全員が外に出ていた。
「どこ行った?」
「不用心だよね?」
「まぁ、周りに人なんて居ないからね」
正面入り口から裏に回ると、シャッターが解放された大部屋と大きな車と普通サイズの車の轍が、荒野に続いている…
「あっちか」
…暗い地平線の下に僅かな光が見える…人の気配もある…
「行くよ」
近くをうろついている緑に声を掛けると、駆け寄る足音。
転移の範囲に入って、葵は目的地に転移。
トレーラーの影からホリー対ヒルダ戦を見ていた所、ホリーの危機に割って入った。
「プリーズ、デッド」
夢を見ていた。
自分の脚で歩いている。はるか先にある目的地はもうすぐ。
ふと、思い出す。
「みんなは?」
後ろを見ると、みんながこっちを見ている。
「そうか」
名残惜しそうなみんなの表情に悟る。
「先にいってるね‼」
手を振って、目的地に向かう。
「…まだ、生きてる…」
ホリーが目覚めると、カプセルの中…培養液内の血液濃度が高くなっているのか、視界に赤が薄く広がっている。カプセルの外はコンテナの中で、ただただ暗い…
「あ」
そこにセーラー服の少女が振り返る。
「あなたがオリジナル?(英語)」
「いえす‼」
言葉を補うテレパシーが通じ合っている。
「え~と…トラスト、ミー、プリーズ‼」
その言葉と共に、オリジナルこと葵がホリーの背後に回る。
「ドント、ムーブ。オーケイ?」
動きを追おうとするホリーに葵が一言。
「何をするの?(英語)」
「ん~…サプライズ、プレゼント‼」
そこに葵の超能力が発動。
「わ‼」
ホリーの身体が後方に傾いたかと思うと、カプセルの壁面をホリーの身体がすり抜け、
「おっと」
待ち構えていた葵の腕に抱えられる。
「…ゲホッ‼ゲホッ‼…ゴホッ‼エフッ‼」
受け止められたホリーが咳き込むたびに、肺を満たしている培養液が吐き出される。
落ち着いた所で、ホリーを抱えた葵が歩き出す。
何も言わない葵に、何も言えないホリー。葵も何も言えない様だが…
しばらく出口方向に歩くと、一人の人影が見える。
「…あ…」
クリスだった。コンテナの外に佇んでいる。
「…ミスター、クリス‼」
やがて、スロープを中程まで降りると、
「…チェンジ、プリーズ…」
ホリーをクリスに差し出し、クリスも黙って受け取る。
「ホリー」
ただし、受け取ったクリスは驚きとも、喜びとも、悲しみとも取れない表情…
そんな彼にホリーは精一杯の笑みを見せる。
やがて、何処へ…ともなく、クリスが歩き出す。
…照り付ける日差しと緩い風…感覚的には「暑い」…でも、クリスから感じる温もりは物理的な温度ではない、感覚…いや、感情が伝わる…
「ああ、そうか」
…もう少し、欲張っても良いのか…
ホリーの意識が薄れ出すと同時に、心残りが浮かぶ。
「…もう…いいよ…(英語)」
ちょうど、ホリーを横たえられる岩場がある事を認識して、ホリーが一言。クリスがその意を汲み取り、ホリーの背を岩場に預けて、安置させる…
…しばしの沈黙…
「…空、青い…(英語)」
ホリーの声。
「…太陽、熱い…地面、堅い…風、美味しい…(英語)」
続く、たどたどしくも弱々しいホリーの言葉が続き、
「クリス」
目線がクリスに向く。
「何だ?(英語)」
「…パパって呼んでいい(英語)」
…ホリーの精一杯の感情を込めた、呟き声…
「勿論だ‼(英語)」
再び、ホリーを抱えるクリス。今度は、葵から差し出されたからではなく、自分の意志で。ホリーが嫌がっても構わないと言う気持ちで、強く、今まで聞きたかった…でも、聞けなかった言葉がホリーから直接、聞けた事が、ただ嬉しかった…そして…
「ありがとう。クリス(英語)」
…最後の我が儘を言えた事に、ホリーは充足の念を飛ばすが…
「…AH…SORRY DAD…」
…その念を外に飛ばせなくなったホリーの意識が消える…
「…‼」
…気が付くと藍は、完全に倒れ込んでいた。
「ARE YOU OK?」
駆け寄って来たのは、現地ガイドの女性。
「な、何ですか?この念は…?」
同行している少女は、車内で、ぐったりしている。
「あ、I‘M OK‼」
少女の言葉が耳に入っていたが、まずはガイドさんへの対応と思い、藍は身体を起す。
「…申し訳ありません…澤地さん…あなたと感覚を共有してました…」
少女が車から降り、藍の元に向かう。
「他者との感覚共有って…」
「その件は、もう少し落ち着いてから…」
少女の言葉と目線の先には、必要以上に慌てているガイドが救急を呼ぼうとスマホを取り出している…
「ああ、そうね」
と、藍が立ち上がって、ガイドに駆け寄る。
藍達三人は、集落に戻って一泊する事となった。
「さて、説明してもらおうか?」
屋根のある空き家での宿泊と車中泊の二択を迫られ、現地ガイドは警戒の意味を込めて車中泊、藍と少女は空き家での宿泊となった…LEDランタンの灯りを挟んで、毛布に包まった二人が座り込んでいる…
「…まず…何から話せばいいでしょう…」
彼女との感覚共有は既に解消されている為、今まで忘れていた他人である事の微弱な嫌悪感を感じ取っていた…少なくとも、藍は目の前の少女に前まで感じていた必要以上の好意が持てなくなっていた。
少女の話は、『青い鳥』の思念体に宿る葵の記憶が本物か?と言う事の証明を、彼女が持っている『感覚共有』の能力で調査してほしいと言う事らしい。
「…本部としては、あなたの思念体からの情報供給能力を疑う者もいますから…」
「そこは超能力省に問い合わせれば、登録されているし…」
「あそことは一線を画している…と言うより、特殊能力庁の担当官と『ブルふぇに』調査本部の本部長の仲が険悪ですから…」
「派閥抗争ですかぁ?」
「個人的な因縁ですよ。警官時代の検挙数はこっちが多かったとか、昇任試験でズルしたとか、恋仲の女性を盗られたとか、くだらない系です」
「宮仕えは辛いねぇ」
「宮仕え関係ないですよ?それ」
真剣な話が笑い話になった所で、和解が成立。
「感覚共有の影響で、体力の消耗があるんです」
「体格差があると、疲労が大きいんだっけ?」
「白井に掛けると、双方、立てなくなりますね」
「え?あいつって、そこまでガタイ良かった?」
「彼はあなたを守る為に鍛えていますから」
「あれに守られるのは心外なんですけど?って言うか、それがエスカレートして、平然とストーカーされるのはイヤなんですけど?その上で、ヤツのストーカー行為を公的任務として命令しないで欲しいんですけど‼お願いできますか⁈」
と、藍が立ち上がり、屋外に向かう…
「どうしました?」
後を追う少女。
…その先には、空を見上げている藍の姿…
「あ、そうか。こっち、南半球だった」
目当ての星座がない事に藍が呟くが、それでも夜空を見続ける…
今回の調査による人的障害は一切なかった。
「我々に対しての質問はなかったのか?」
警察庁本部ビルの一室。警官の制服を着ている少女が、提出した調査結果を映し出したタブレットを眺めている制服を着た人物に問われる。
「…その辺りは察したのでしょうね…彼女、相当にキレますよ?」
「こちら側に引き込める可能性は?」
今度はスーツ姿の男性の声。
「無理ですね。帰りの機内で、『ブルふぇに』への想いをこれでもかってくらい、アツく語られまくって、時差ボケでもないのに頭がおかしくなりそうでしたから」
「噂通り、生粋の『ブルふぇに』マニアか」
笑い声交じりに、自衛隊の礼服の男性が言い放つ。
「そんな人物に調査を依頼するのはどうなのかな?」
前のスーツ姿とは違う男性の懐疑的な言葉が放たれると、
「妥当と思います。彼女の『青い不死鳥の物語』における感情は、熱狂感より事実性を重視している様に感じ取れました」
「なるほど、宗教家と言うより研究者目線なのか」
警察制服の男性の言葉と共に、立ち上がる男性陣。
「この件は外部に漏らすな。それと例の報道規制はコードC4で」
「了解」
敬礼して、退室する一同を見送る少女。
「テロ活動の制圧に行ってたのか?」
今回の電子データを白井に渡す藍が問いかける。
「俺、財務省の下っ端官僚‼」
「そういう事にしておいてやるよ」
藍は気持ち的に納得していなかったが、言葉で納得の意を示した。
電子データには今回、藍が見た『青い鳥』の思念以外に、研究員四人のその後が記されていた…名前と容姿と大体の年齢を調査したら、案外、簡単に見当が付いてしまった。
まず、ジムはアンドロイド開発、製造の会社を設立。ロールアウトされた試作一号機の性能に世界が驚愕。人体の構造を熟知している彼ならではの拘りを生かした性能が評判を呼び、ジェシカとの共同経営を機に多方面の製品の製造に着手。現在では国際的にも大手の複合企業体となる。ちなみに、共同経営の打診と同時にジェシカと結婚。子供は居なかったが、試作一号機と共に幸福な家庭を築けたと、自叙伝に記されている…
ボブはフィットネス事業に着手し、事故や先天的な手足の欠損を負った者向けの効果的な運動指針を発表。それが評判となり健常者向けのフィットネスも展開…欠損障害者向けのフィットネスは現在まで基礎理論として活用されている。
クリスはクローン研究を破棄。人クローンの人権擁護団体を設立…それ以降は記録がないが、彼には十歳の娘が居た事が判明。研究所に入る半年前、事故で亡くなっている。
ちなみに、ジムが造った試作一号機は痩身の少女型で、髪は透けるような白髪…東洋系の顔立ちで、現在は対応年数を超えた事で記念館の一室の椅子に鎮座している。
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