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王子様は気付かない(ヴェラ)
しおりを挟む「へえー、まだこんな所があったとはな。気に入った。しかも結界も立派なもんだ…こりゃ俺達レベルじゃなきゃ近づくことすら出来ないぞ。」
「古き良き風習を正確に守っているなり。ここの空気は澄んでいて心地がいいなりよ。」
「あっらぁ~!見てよあれ!絶滅したと思っていた精霊や動植物がまだ生き生きしてるわぁ~!!!」
「いい景色…素敵だわ。ここまで美しい所は、そうそうないわ。」
仲間と旅をしながら、定住先を探していた。
そうしているうちに、4大魔法使いなんて御大層な名前がついてしまった。
そうして、私達はこの国…フィーネシュカ公国に住むことにした。
私達は長い旅をついに終わらせた。
だが、それなりに名高い魔法使いになってしまったので、大騒ぎになる可能性が高い。
とりあえず、フィーネシュカ大公には挨拶したほうがよさげだろう。
私達はフィーネシュカ大公に挨拶しに行った。
「衛兵が邪魔ねぇ…もう直接言いに行くわよぉ~あそこが大公の部屋ね!」
止める間もなく大公の部屋の窓をぶち抜き、突撃していく仲間に呆れながら続いた。
「な、なんだー!地震かー!?」
「閣下!!ご無事ですか!!?」
飛び起きた大公と駆けつけた衛兵達や王子様は、私達を見て固まってしまった。
「ご機嫌よう、大公様。突然ですが私達、こちらに住むことにしましたの。ああ、領地はいらないわ。塔を建てるからそこだけ下さいな。代わりに、国家防衛を手助けしましょう」
大公はしばらく考えてから、承諾した。
それから何件か話し合い、私達は城を去った。その後、それぞれ気に入った場所に塔を
建て住み着いた。
「それにしたって隣国は随分強欲なのね」
富、領地、権力。たくさんの物を持っているのにまだ足りないらしい。そんな相手に、この国も、大公も王子様もよくやっていると思う。
「そういえば、6人王子様がいたはず」
大公もそれなりにイケオジだったし、王子様もイケメンなのかしら。ちょっと見てみたいわね。
私は気まぐれに6人の王子様を見に行った。
そうして、見つけてしまったのだ。
ふーん…今のところ、5人の王子様はみーんなできがいいわね。末っ子の王子様はどこにいるのかしら。探すとあっさりと見つかった。
彼は兄と大公の、役人には任せられない細々とした補佐をしていた。そして…
「あら…彼、面白いわね。」
あいつが結界がどうとか言ってたけど、彼が張っていたのね。高レベルで質も高い魔力が漂ってくる。色んなモノを引き寄せるだろうに、彼はそれに気付いていない。身も心も綺麗で澄んでいる。見目も中々に可愛い。兄たちとはまた違う、魅力的な王子様。
しばらく眺めていると、仕事終わりの兄達と大公がやってきて、お茶会を始めた。
のんびりとお菓子に舌鼓をうち、ほわほわした笑顔で話を聞いている。知らず知らずのうち、私は彼から目が離せなくなっていた。
その日から、毎日私は彼を見に行った。
たまに遊びに来る仲間たちは、唖然としていた。
「まさか…どんな男が来ても能面か嫌味な笑顔で追い返し、機嫌が悪いと殺しかけるお前が…」
「まさか…一度も色事がなかったお主が…」
「まさか、自分より顔がよくて強くてかっこよくて優しくて性格が良くてなんでもできる、金持ちの男なら触れさせてあげてもいいとか言っていたあんたが…」
「「「ゆるふわのんびり王子に惚れるとは…」」」
なんとでも言えばいい。私は彼に恋焦がれるようになった。何度も何度も大公に末の王子を渡せと迫った。だが、頑として大公は首を縦に振らなかった。息子はまだ年若い。誰かと結婚させるのはまだ早いと。だが…
「なんて…なんてこと…!」
隣国の王女が彼を寄越せと言ってきたらしい。偵察に来ていた王女は、城下の視察に来ていた彼を見て一目惚れしたらしい。
隣国の王女は戦乙女で公国の敵といえば、まっさきに思い浮かべることができる。また、彼女の幾度も結婚したが、いずれの夫とも原因不明の死を遂げている。そんな女に、大事な王子はやれない。公国ははねのけるらしい。そうして、私を呼んだ。
「まだ、あの子を愛しているか。」
「ええ。勿論。」
しばらく大公は黙ったままだった。そうして、覚悟を決めて口を開いた。
「息子を貴方に託そう。だが、もしもあの子が貴方を愛せなかったり、あの子に何かあったとしたら、即座に返してもらう。」
「構いませんわ。そんな事にはならないもの。それで、いつ結婚させて頂けるのかしら。そんなに長くは待てませんが。」
それから長く話し合い、1年後に結婚式をあげることになった。
そうして、王女との婚姻を断ったあと、隣国が攻めてきた。戦乙女が癇癪を起こして、持ちうる武力全てを投下してきたのだ。
だが…今まで戦にはノータッチを貫いてきた、5人の王子様が先導し、戦況をくるりくるりと混乱させ、有利に進めていった。砲撃を打っても彼の結界が跳ね除けた。おそらくいつもの強度だったら割れていたと思うが、彼が結界の強度を高めていたらしい。隣国の魔法使いはそれなりに手強かったが、敵ではなかった。
かなりゴタついたが、公国は勝利した。
戦乙女は幽閉。金をむしり取り、
兵やその他諸々の人々にわけられた。
私は戦乙女の元へと向かった。身の程知らずに彼を望み、そうして叶わず幽閉された女の顔を見てみたくなったのだ。
たくさんの結界やトリックを抜けた先に戦乙女はいた。
「ご機嫌よう、お姫様?あら…随分な姿ですわね?」
戦乙女はボロボロだった。あちこちが包帯で覆われている。だがその美貌は枯れてはいなかった。怪我をしてなお美しい。
「だ、まれ…この化物が…っ!」
「口を慎みなさい敗北者。」
ギラギラと燃えるような視線を送り、今にも飛びかかりそうな気配がする。
「良いことを教えてあげるわ。彼はね、私の旦那様なのよ。あと数ヶ月したら彼の花嫁になるの、私。」
「は…?そんな馬鹿な!!!お前のような化物に、あの大公がロシュエルを渡すはずがない!!!」
お前ごときが彼の名を呼ぶな。不愉快を隠そうともせず、私は煽る。
「いいえ?本当よ。もうドレスも式場も決まってるし、招待状も送ってあるわ。…ああ、可哀想だから貴方にも渡してあげる。」
戦乙女は、私から招待状をむしり取り、封を破いた。
「嘘だ!!嘘だ嘘だ嘘だ!!!ロシュエルが、そんな!!」
そこには彼と私の名前が連ねてある。ちゃんと本物である事を証明する特殊な印も押されている。
「彼も承諾したわ。可愛いわよね。いい夫婦になれるといいな、ですって。」
ゆらり、と戦乙女の雰囲気が変わった。立ち上る怒りと嫉妬で肌が焦げそう。おそらく今、完全に彼女の視界に入った。
「今だけだ。その余裕ぶった態度をとれるのは。ロシュエルは、私のものだ!!」
「勝手に妄想してなさい。何があろうと、大公は貴方に彼を渡したりしない。勿論私もね。それに貴方が来る頃には、身も心も私のものよ。」
瞬間、気味の悪い哄笑が響いた。ニヤニヤと侮蔑を込めた笑みを浮かべる戦乙女。
「本当にそう思うか?化物をロシュエルが愛すとでも?そもそもロシュエルと言葉を交わしたことさえないお前が?」
なぜ知ってるんだ。そう思ったが、その疑問は押し殺す。あとで調べないと。
「愛すわ。そうさせるのよ。」
炎のような目と氷点下の目がその場を支配した。そうして、どちらともなく目を逸らし、私は立ち去った。
イライラする。あんな女に化物扱いされるなんて。でも、何よりも、彼の名前があの女の口から出てきた事が不愉快極まりなかった。彼に会いたい。こっそり隠れ見るなんてもう嫌だったし、声をかわしたかった。
彼は眠っていた。当たり前だ。もう夜中なのだから。そっと頬に触れ、口付けた。あと数ヶ月したら、意識のある彼と…唇はその時までとっておきましょう。その時を想像し、機嫌を直した。
塔へ戻り、一番奥の扉を開ける。そこには、当日私が着るドレスがある。最高に美しく見えるように誂えたものだ。そうして…ティアラには、とある異界の男が売り飛ばしてきた、最高級の魔石が嵌っている。
「愛しい旦那様。絶対に虜にしてあげるわ」
不敵に微笑み、扉を閉めた。
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