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猫
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「ジロー、久しぶりだな」
俺はジローの腰を引き寄せ抱きしめると、柔らかな体に顔を埋め、匂いを嗅ぐ。
背中を優しく撫でるとジローは逃げるのを諦めて、
強ばらせていた体の力を少し緩め、されるがままになっている。
「お前は、いつまでたっても俺に懐かないな」
俺はジローの体を撫で続ける。
「そんなところが可愛いいんだけど」
ジローと出会って5年だけど、今日までジローから近寄ってくれた日はない。
あまりにも大人しいので油断していた俺の手をジローは引っ掻き、どこかへ逃げて行った。
「猫相手じゃなくて、俺を構ってくれても良いんじゃない?1時間、ほったらかしなんだけど」
縁側でアイスを食べている谷は、つまらなさそうに言う。谷は向かいに住む幼馴染みだ。
いつの間にか部屋の隅にいた黒猫のジローは一瞬、俺と視線を合わせたが、また逃げた。
「嫌われたか」
「今に始まった事じゃない」
俺は久しぶりに帰ってきた実家の縁側に寝転がると、俺以外には心を開く可愛い可愛いジローの事を想った。
隣で腰掛けている谷はアイスを食べ終え、カップを置くと俺の髪を触る。
いつからか当たり前になった谷の行動を気にすることなくジローの事を考え続けた。
「ジローはいつになったら心を開いてくれるんだろう。ジローを可愛がりたくて帰ってきてるようなものなのに」
俺は引っ掻かれた傷を撫でながら、家族から送られてくるスマホの中のジローファイルを開いて眺めた。
「構い過ぎるから嫌がられるんだ。猫も鬱陶しいと思ってるよ」
「可愛がってるだけなんだけど」
「三木は、自分の想いを押し付け過ぎなんだ。猫にだけ」
俺は幼い時から、猫が大好きで近所の猫を追いかけ回していた。今思えば、端から見るといじめていたように見えていたのかもしれない。それでも俺の猫への愛は止まらず、猫を見つけては友達になろうと試みた。けれど猫たちは何かを察し、俺が足を一歩踏み出しただけで逃げて行く。そして猫コミュニティを駆使してか、町内の猫たちは寄りつかなくなった。けれど俺は諦めず、猫たちの集まりそうな場所を捜した。俺は猫にはなりたくない。猫を愛でる人間でいたい。ようやく実家で猫を飼えるようになったのは、俺が家を出てからだった。迷い猫だったジローは、昔から居たかのように実家にいた。しかし、俺が帰ってくると他人のようによそよそしくなって、居心地が悪いのかどこかへ消えていく。
「それでも、俺は猫が好きなんだ」
「諦めなよ」
谷は俺の手を取ると、傷を見た。
「これも愛なのか?」
「少なくとも、ジローは俺を無視しないから意識はしてくれてる」
「凄い警戒してるけどな」
「それでも良いんだ。いつか、俺の気持ちがほんの少しでも届けば」
谷の握る力が強くなった。
「痛っ。怪力過ぎだよ」
「傷の手当てするよ」
「放って置いていいよ」
「化膿するかも」
「今まで数え切れない程、引っ掻かれてきたけど、平気だった」
「毎回、俺が手当てしてたからだ」
自分から怪我をしに行く俺がきっかけだったのか、谷は医者になった。高齢の先生の後を継いで町唯一の医者である。
谷が戻ってきて、向かい合わせに座った。
「向こうの暮らしでも、誰かに手当てしてもらった?」
「都会は猫が居ない。寂しいよ。どこかに隠れてるかもしれないけど。もしかして、俺の事が都会の猫たちにも知られてるかも。まあ、傷を作る事も無くなったし、その時は自分で何とかするよ」
「三木の手当てなら、誰でも引き受けるよ」
「俺の手当てをしてくれるのは、谷だろう?」
俺専用の救急ケースを落とした。
「大丈夫か?」
顔を真っ赤にした谷が、慌ててケースを拾った。
「いきなり何だよ」
「ごめん」
静かになった谷に、俺は大人しく手当てを受ける。
「俺なら、引っ掻きはしないよ」
「え?」
谷は丁寧に絆創膏を貼った。
「俺なら、ジローのように傷つけない」
「谷?」
「三木の事を誰よりも大切にする。今までも1番だった」
谷は、救急ケースの蓋を勢いよく閉めた。
「三木が猫を想うように、俺も三木の事を想ってきた」
俺は、谷の言っていることが分からない。一生懸命理解しようと努力したが分からなかった。
「三木の事追いかけ回して、周りから気持ち悪がられても。三木は気付かずに猫を追い続けてたけど、俺も追い続けてた」
さっぱり分からず、頭を抱えたくなる。
「まだ、俺の気持ち分かってくれない?」
谷は俺の手を恭しく持ち上げると、絆創膏の上からキスをした。
「大好きだよ。三木が猫を想う気持ちよりも僕の気持ちは大きいから」
俺の負けず嫌いなところが騒ぎ出す。
「俺だって、猫への想いの強さは負けない」
谷は項垂れた。
「どうやったら分かってもらえるんだ」
「飲み物、持ってくる」
俺は台所に行った。
三木が居なくなった途端、ジローが戻ってきて谷の背中に寄りかかった。
「お前には、適わないな」
ジローは、ニャーと鳴いた。
俺はジローの腰を引き寄せ抱きしめると、柔らかな体に顔を埋め、匂いを嗅ぐ。
背中を優しく撫でるとジローは逃げるのを諦めて、
強ばらせていた体の力を少し緩め、されるがままになっている。
「お前は、いつまでたっても俺に懐かないな」
俺はジローの体を撫で続ける。
「そんなところが可愛いいんだけど」
ジローと出会って5年だけど、今日までジローから近寄ってくれた日はない。
あまりにも大人しいので油断していた俺の手をジローは引っ掻き、どこかへ逃げて行った。
「猫相手じゃなくて、俺を構ってくれても良いんじゃない?1時間、ほったらかしなんだけど」
縁側でアイスを食べている谷は、つまらなさそうに言う。谷は向かいに住む幼馴染みだ。
いつの間にか部屋の隅にいた黒猫のジローは一瞬、俺と視線を合わせたが、また逃げた。
「嫌われたか」
「今に始まった事じゃない」
俺は久しぶりに帰ってきた実家の縁側に寝転がると、俺以外には心を開く可愛い可愛いジローの事を想った。
隣で腰掛けている谷はアイスを食べ終え、カップを置くと俺の髪を触る。
いつからか当たり前になった谷の行動を気にすることなくジローの事を考え続けた。
「ジローはいつになったら心を開いてくれるんだろう。ジローを可愛がりたくて帰ってきてるようなものなのに」
俺は引っ掻かれた傷を撫でながら、家族から送られてくるスマホの中のジローファイルを開いて眺めた。
「構い過ぎるから嫌がられるんだ。猫も鬱陶しいと思ってるよ」
「可愛がってるだけなんだけど」
「三木は、自分の想いを押し付け過ぎなんだ。猫にだけ」
俺は幼い時から、猫が大好きで近所の猫を追いかけ回していた。今思えば、端から見るといじめていたように見えていたのかもしれない。それでも俺の猫への愛は止まらず、猫を見つけては友達になろうと試みた。けれど猫たちは何かを察し、俺が足を一歩踏み出しただけで逃げて行く。そして猫コミュニティを駆使してか、町内の猫たちは寄りつかなくなった。けれど俺は諦めず、猫たちの集まりそうな場所を捜した。俺は猫にはなりたくない。猫を愛でる人間でいたい。ようやく実家で猫を飼えるようになったのは、俺が家を出てからだった。迷い猫だったジローは、昔から居たかのように実家にいた。しかし、俺が帰ってくると他人のようによそよそしくなって、居心地が悪いのかどこかへ消えていく。
「それでも、俺は猫が好きなんだ」
「諦めなよ」
谷は俺の手を取ると、傷を見た。
「これも愛なのか?」
「少なくとも、ジローは俺を無視しないから意識はしてくれてる」
「凄い警戒してるけどな」
「それでも良いんだ。いつか、俺の気持ちがほんの少しでも届けば」
谷の握る力が強くなった。
「痛っ。怪力過ぎだよ」
「傷の手当てするよ」
「放って置いていいよ」
「化膿するかも」
「今まで数え切れない程、引っ掻かれてきたけど、平気だった」
「毎回、俺が手当てしてたからだ」
自分から怪我をしに行く俺がきっかけだったのか、谷は医者になった。高齢の先生の後を継いで町唯一の医者である。
谷が戻ってきて、向かい合わせに座った。
「向こうの暮らしでも、誰かに手当てしてもらった?」
「都会は猫が居ない。寂しいよ。どこかに隠れてるかもしれないけど。もしかして、俺の事が都会の猫たちにも知られてるかも。まあ、傷を作る事も無くなったし、その時は自分で何とかするよ」
「三木の手当てなら、誰でも引き受けるよ」
「俺の手当てをしてくれるのは、谷だろう?」
俺専用の救急ケースを落とした。
「大丈夫か?」
顔を真っ赤にした谷が、慌ててケースを拾った。
「いきなり何だよ」
「ごめん」
静かになった谷に、俺は大人しく手当てを受ける。
「俺なら、引っ掻きはしないよ」
「え?」
谷は丁寧に絆創膏を貼った。
「俺なら、ジローのように傷つけない」
「谷?」
「三木の事を誰よりも大切にする。今までも1番だった」
谷は、救急ケースの蓋を勢いよく閉めた。
「三木が猫を想うように、俺も三木の事を想ってきた」
俺は、谷の言っていることが分からない。一生懸命理解しようと努力したが分からなかった。
「三木の事追いかけ回して、周りから気持ち悪がられても。三木は気付かずに猫を追い続けてたけど、俺も追い続けてた」
さっぱり分からず、頭を抱えたくなる。
「まだ、俺の気持ち分かってくれない?」
谷は俺の手を恭しく持ち上げると、絆創膏の上からキスをした。
「大好きだよ。三木が猫を想う気持ちよりも僕の気持ちは大きいから」
俺の負けず嫌いなところが騒ぎ出す。
「俺だって、猫への想いの強さは負けない」
谷は項垂れた。
「どうやったら分かってもらえるんだ」
「飲み物、持ってくる」
俺は台所に行った。
三木が居なくなった途端、ジローが戻ってきて谷の背中に寄りかかった。
「お前には、適わないな」
ジローは、ニャーと鳴いた。
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