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練習
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トイレから戻ってきた俺は、成田に袖を引っ張られた。
「練習に付き合ってほしい」
「え?」
「帰り、昇降口で待ってる」
「え……」
袖から手が離され、席へ戻れと押された。
クラスメイトを見ると、皆に目をそらされる。
「練習って何?何の話?」
俺は席へ着き、成田に対しての日頃の行いを思い出そうと必死に考えた。
「何もしてない」
面倒な事に巻き込まれたくない俺は、人と深く関わらないように過ごしてきた。
それなりの高校生活で、卒業出来れば良い。
高2で初めて同じクラスになった1匹狼的な成田にも、あまり関わらないようにしてきた。
余計な事はせず、言わないで通してきた。
昨日まで、そんな感じがお互い良い感じといったところだったのに。
何故か話し掛けられた。
『嫌がらせが始まる……』
もしかしたら、関わらないようにしてきた事が成田の逆鱗に触れたのかもしれない。
それなら、クラス中が練習とやらに付き合わなければ納得がいかない。
誰1人として、成田に近付かなかったのだから。
成田の事を考えていたら、あっという間に放課後になった。
「何で俺だけ……」
昇降口を出た所に成田がいる。
成田は学年で1番背が高い。羨ましいと思ったこともあったけれど、今日程、背が普通で良かったと思った事はない。
靴に履き替え、少し屈みながら生徒の波に身を隠し、裏門へ向かおうとした所で腕を引っ張られた。
「ここ」
成田に無表情で見下ろされた。
「……どうも」
俺は腕を掴まれたまま、無言で自転車置き場へ向かう足取りは重かった。
「練習って……」
「ついてきて」
「分かった」
謎の威圧感に自転車に乗り、成田の後をついて行く。
来たことのない所まで来しまった。
『殴られるのか……』
成田に止まる気配が無かった。
「まだつかないのか?」
恐々、声を掛けると成田は分かりづらく頷いた。
「そうか……」
茂みが続く道を走り続けると、ようやく成田は自転車を止め、ブロック塀へ立てかけたので俺も隣に止めた。
俺の普通人生はもうすぐ終わりを迎えるのだろうか。
成田はリュックからカバーのかかった文庫本を出した。
ページを捲っていき、あるページを俺に見せてきた。
「俺もこれを練習したい」
指差す所を黙読していく俺の表情はどうなっているだろうか。
読み終えた俺は、成田から離れた。
「何だ?」
「練習って、その……言いにくいな。あの……」
「キスの練習がしたい。前橋と」
成田が見せてきたページには、高校生が成田のしたがる練習をしている描写が書かれていた。
「現実ではやらないやつじゃん」
「でもこの本、売り上げランキング1位だった」
成田は、俺のがおかしいかのような反応だった。
「ちょっと待て」
後ろを向いて、意味不明なこの状況をどうするべきか無い頭で考えた。
『これが嫌がらせ?男同士でやるの平気なのか?』
そもそも経験のない俺にどうしろと言うのか。若干潔癖症でもあって、接触には抵抗がある。
俺は成田に向き直った。
「恋愛の事は長崎に聞け。成田が知りたい事を教えてくれると思う」
「前橋に教えてほしい」
「こういう事って普通は練習しないと思うんだけど。それに男女でやる事じゃない?」
「この本、男同士だったけど」
「は?」
成田がカバーを外すと、確かに男子高校生が2人で並んでいた。
「そもそも、何で練習したいんだ?好きな奴がいるのか?」
「……いない」
「それなら、やらなくてもいいんじゃない。その時が来たら、自然と雰囲気で何とかなるよ」
「……でも、俺のこの気持ちが何なのか知りたいんだ」
いまいち成田の言いたいことが俺には分からない。
「あと、主人公達が幸せそうでいいなと思った。俺も練習して幸せを知りたい」
「その相手が何で俺?」
「まだ、言えない」
成田は変わらず無表情のまま引かない。
このまま押し問答を続けていると、真っ暗になりそうだ。
逃げるか。
見上げた先の成田の真剣な表情にいつしか怖さは無くなり、練習相手になってもいいような気もしてきた。
俺、流されてる。
どこかにしがみつけそうな物は……ない。
腹をくくろう。
「分かった」
俺の言葉に、成田は目を見開いた。
「早く終わらせよう」
「いいのか?」
「今更?やめていいなら帰るぞ」
成田は鼻息荒く、俺の肩を力一杯掴んだ。
「成田は主人公をやりたいんだよな」
少し考えて首を振る。
「そうなの?じゃあ、俺からやる」
俺は成田の手をどけ、目を瞑った成田の二の腕を掴み、精一杯背伸びをして一瞬だけ唇を押しつけた。
こんなので幸せとやらは得られたのだろうか。
「よし、終わり」
成田を見るのが恥ずかしく、俺は自転車の所まで走った。
「帰ろう……って、おい!」
目を瞑ったまま動かない成田は、その場に倒れ込んだ。
俺は駆け寄り、成田を抱き起こした。
「成田っ、成田っ」
呼びかけても反応が無い。
『どうしよう……どうしよう……どうしよう……』
「どうしたらいいのか分からない。これって、俺のせい?」
遠くを見て、助けてくれそうな人はいないか捜したが人気の無い場所に来てしまったが為に人通りが無い。
「どうする。救急車を呼ぶ?」
震える手でポケットからスマホを取り出し、119番を表示させた。
「繋がったら、なんて言えばいいんだろう。成田の名前覚えてないし」
「……明だよ」
「何?成田っ」
弱々しい声だったが、成田は意識を戻した。
「救急車、呼んだ方が良いか?呼ぶぞ」
「大丈夫」
成田はゆっくりと起き上がった。
「誰かに迎えに来てもらうか?」
「駄目だ」
「どうするんだよ。自転車乗れなさそうだし。もう少し様子見るか?」
「帰れる」
「無理だよ」
「帰る」
俺はふらつきながら立ち上がった成田を支え、自転車の所まで歩いた。
「前橋、ありがとう」
「無事、帰れたら言ってくれ」
「そうじゃなくて、その……自分の気持ちが分かったんだ」
「そんなことより帰るぞ」
俺は2人分のリュックを掛け、成田の背中を支えながら歩いた。
「自転車は明日、取りに来よう」
「明日も一緒に来てくれるのか?」
「仕方ないだろう」
「ありがとう。好きだよ」
「何?」
成田は何とも幸せそうに笑った。
「練習に付き合ってほしい」
「え?」
「帰り、昇降口で待ってる」
「え……」
袖から手が離され、席へ戻れと押された。
クラスメイトを見ると、皆に目をそらされる。
「練習って何?何の話?」
俺は席へ着き、成田に対しての日頃の行いを思い出そうと必死に考えた。
「何もしてない」
面倒な事に巻き込まれたくない俺は、人と深く関わらないように過ごしてきた。
それなりの高校生活で、卒業出来れば良い。
高2で初めて同じクラスになった1匹狼的な成田にも、あまり関わらないようにしてきた。
余計な事はせず、言わないで通してきた。
昨日まで、そんな感じがお互い良い感じといったところだったのに。
何故か話し掛けられた。
『嫌がらせが始まる……』
もしかしたら、関わらないようにしてきた事が成田の逆鱗に触れたのかもしれない。
それなら、クラス中が練習とやらに付き合わなければ納得がいかない。
誰1人として、成田に近付かなかったのだから。
成田の事を考えていたら、あっという間に放課後になった。
「何で俺だけ……」
昇降口を出た所に成田がいる。
成田は学年で1番背が高い。羨ましいと思ったこともあったけれど、今日程、背が普通で良かったと思った事はない。
靴に履き替え、少し屈みながら生徒の波に身を隠し、裏門へ向かおうとした所で腕を引っ張られた。
「ここ」
成田に無表情で見下ろされた。
「……どうも」
俺は腕を掴まれたまま、無言で自転車置き場へ向かう足取りは重かった。
「練習って……」
「ついてきて」
「分かった」
謎の威圧感に自転車に乗り、成田の後をついて行く。
来たことのない所まで来しまった。
『殴られるのか……』
成田に止まる気配が無かった。
「まだつかないのか?」
恐々、声を掛けると成田は分かりづらく頷いた。
「そうか……」
茂みが続く道を走り続けると、ようやく成田は自転車を止め、ブロック塀へ立てかけたので俺も隣に止めた。
俺の普通人生はもうすぐ終わりを迎えるのだろうか。
成田はリュックからカバーのかかった文庫本を出した。
ページを捲っていき、あるページを俺に見せてきた。
「俺もこれを練習したい」
指差す所を黙読していく俺の表情はどうなっているだろうか。
読み終えた俺は、成田から離れた。
「何だ?」
「練習って、その……言いにくいな。あの……」
「キスの練習がしたい。前橋と」
成田が見せてきたページには、高校生が成田のしたがる練習をしている描写が書かれていた。
「現実ではやらないやつじゃん」
「でもこの本、売り上げランキング1位だった」
成田は、俺のがおかしいかのような反応だった。
「ちょっと待て」
後ろを向いて、意味不明なこの状況をどうするべきか無い頭で考えた。
『これが嫌がらせ?男同士でやるの平気なのか?』
そもそも経験のない俺にどうしろと言うのか。若干潔癖症でもあって、接触には抵抗がある。
俺は成田に向き直った。
「恋愛の事は長崎に聞け。成田が知りたい事を教えてくれると思う」
「前橋に教えてほしい」
「こういう事って普通は練習しないと思うんだけど。それに男女でやる事じゃない?」
「この本、男同士だったけど」
「は?」
成田がカバーを外すと、確かに男子高校生が2人で並んでいた。
「そもそも、何で練習したいんだ?好きな奴がいるのか?」
「……いない」
「それなら、やらなくてもいいんじゃない。その時が来たら、自然と雰囲気で何とかなるよ」
「……でも、俺のこの気持ちが何なのか知りたいんだ」
いまいち成田の言いたいことが俺には分からない。
「あと、主人公達が幸せそうでいいなと思った。俺も練習して幸せを知りたい」
「その相手が何で俺?」
「まだ、言えない」
成田は変わらず無表情のまま引かない。
このまま押し問答を続けていると、真っ暗になりそうだ。
逃げるか。
見上げた先の成田の真剣な表情にいつしか怖さは無くなり、練習相手になってもいいような気もしてきた。
俺、流されてる。
どこかにしがみつけそうな物は……ない。
腹をくくろう。
「分かった」
俺の言葉に、成田は目を見開いた。
「早く終わらせよう」
「いいのか?」
「今更?やめていいなら帰るぞ」
成田は鼻息荒く、俺の肩を力一杯掴んだ。
「成田は主人公をやりたいんだよな」
少し考えて首を振る。
「そうなの?じゃあ、俺からやる」
俺は成田の手をどけ、目を瞑った成田の二の腕を掴み、精一杯背伸びをして一瞬だけ唇を押しつけた。
こんなので幸せとやらは得られたのだろうか。
「よし、終わり」
成田を見るのが恥ずかしく、俺は自転車の所まで走った。
「帰ろう……って、おい!」
目を瞑ったまま動かない成田は、その場に倒れ込んだ。
俺は駆け寄り、成田を抱き起こした。
「成田っ、成田っ」
呼びかけても反応が無い。
『どうしよう……どうしよう……どうしよう……』
「どうしたらいいのか分からない。これって、俺のせい?」
遠くを見て、助けてくれそうな人はいないか捜したが人気の無い場所に来てしまったが為に人通りが無い。
「どうする。救急車を呼ぶ?」
震える手でポケットからスマホを取り出し、119番を表示させた。
「繋がったら、なんて言えばいいんだろう。成田の名前覚えてないし」
「……明だよ」
「何?成田っ」
弱々しい声だったが、成田は意識を戻した。
「救急車、呼んだ方が良いか?呼ぶぞ」
「大丈夫」
成田はゆっくりと起き上がった。
「誰かに迎えに来てもらうか?」
「駄目だ」
「どうするんだよ。自転車乗れなさそうだし。もう少し様子見るか?」
「帰れる」
「無理だよ」
「帰る」
俺はふらつきながら立ち上がった成田を支え、自転車の所まで歩いた。
「前橋、ありがとう」
「無事、帰れたら言ってくれ」
「そうじゃなくて、その……自分の気持ちが分かったんだ」
「そんなことより帰るぞ」
俺は2人分のリュックを掛け、成田の背中を支えながら歩いた。
「自転車は明日、取りに来よう」
「明日も一緒に来てくれるのか?」
「仕方ないだろう」
「ありがとう。好きだよ」
「何?」
成田は何とも幸せそうに笑った。
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作者は飲み会を経験した事ないので誤った物を書いているかもしれませんがご了承ください。
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