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【二】一・聖女と勇者の会議は踊る

107. 聖女と勇者の探索パーティー〈3〉魔法

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 みんなで遊びたい、すなわち戦いたい――というレグルシウスの聖女クララの希望によってベガリュタル城から準備されたのは、古代魔法を宿した武器、魔道具だった。ご丁寧に人形やローブまで整えてある。

「危ない橋も一緒に渡ることで、関係を深めようというわけですね」
「危ない橋だなんて大げさですね、オフィーリア様。そちらの研究所の方々による調査は終わっているでしょうに」

 魔道具とは、今の私たちが古代魔法と呼ぶ類の魔法術式と発動素材が組み込まれた道具のことである。

 かつての魔法つかいは、自らの体内にある魔力を直に魔法に変えて魔法を発現させる他、時に道具を介しても魔法を使っていたという。

 各国の研究所には魔法を調査している者もおり、魔道具はその対象のひとつだ。先日イラリアの魔法に制限をかけた忌々しき魔道具も、きっと王立研究所から神殿へと渡ったものである。

「血中魔素の量が違えば、起きる現象も違うかもしれないでしょう? これでクララ様やレオンに何かあれば、面倒なことになります。大胆ですね、クララ様」
「でも、イラリアさんなら治せるでしょう?」
「うふふ、うちのイラリアをあてにしないでくださいませ」
「あら、姉さま、私のために喧嘩しないで? 私だってお役に立てます!」

 私たち聖女や勇者は現代の魔法使いとも扱われるが、その性質はかつての魔法つかいたちとは違う。私たちは単属性魔法しか使えない。

 女ならば『癒』、男ならば『火』、『水』、『地』、『風』のいずれか、その者を愛した五柱の神にまつわる一魔法のみだ。

 女神に愛された女――私やイラリア、クララ様のような聖女は、癒やしの魔法を使える。現在の女神さまが私に向けているのが〝愛〟なのかどうかは、ここでは置いておくとして。

 そして四神のいずれかに愛された男――勇者は、その神が司るものを操る魔法を使える。レオンは『火』で、セルジオ王子は『水』、カスィム殿は『風』である。

 ただし、これは、自らの魔力を直に発現させる形の魔法に限ってのこと。

 クララ様は、うっとりとした顔で私を振り返る。と、その可愛らしさにレオンが衝撃を食らって萌えているのが視界の端に見えた。

「魔道具を使えば、他属性魔法や無属性魔法も使える。私たち神の愛し子なら、当時の魔法に限りなく近い形で再現できる可能性も高い。いずれは触れなければならないことです。オフィーリア様。ならば遊びの形で楽しくやりましょう?」
「では、二手に分かれてやりましょうか、クララ様」

 あれこれ言ったが、結局これは彼女への歓待の場でもある。もちろん断れはしない。

 せいぜい時間稼ぎにしかならなかった。だが、考えと決意は固まった。

「第一王女として、ここは私から行きます。人形を倒す時間で競いましょう。私の武器はクララ様がお選びください。ただし、触れずに」
「随分と警戒心が強いのですね。では、こちらで」
「クララ様は、随分と思い切りの良い方ですね」
「ふたりとも、そんなにバチバチしないでくれよ」
「人形の発動は、レオンにしてもらうわ。お願いね。クララ様とイラリアは時間の計測を」
「お、おう」

 クララ様に圧され、事はサクサクと進んで。

 人形が動きだす。
 みんなを下がらせ、私は彼女が選んだ武器をとる。

 触れただけでは、何も起こらない。ただ重い。

「火属性、形状は斧、爆発の術でしょうか」
「レオンが炎の勇者なので、彼の剣術と見比べてみたくて。オフィーリア様が得意な形状ではないでしょう? それ」
「よくおわかりですね」
「まあ、私も、斧で人や魔物をどうこうした経験はありませんけれど」

 私がより得意なのは弓術、クーデター時や騎士の試験の時に愛用していたのは細剣レイピアだ。

「――人形ができあがりましたね。では」

 この人形は、昔から、模擬戦や訓練にも使われるもの。魔力や魔素液を源に動く。

「いってきます、イラリア」
「いってらっしゃいませ、姉さま、お気をつけて!」
「あらまあ、仲良しですね」

 慣れない魔道具の武器を手に、イラリアとクララ様の声を背に、私は駆けた。

 始めは試しに、魔力を意識しないで人形を叩く。

 ――私、また、体重が減ったかしら?

 なんにせよ。この体格では、ただの斧として振るうだけでは時間がかかりすぎる。それはわかった。そもそも刃も研がれていない。

 ――爆発の術なら、加減しないと大変なことになるわよね……。どこまで精巧な魔道具かもわからない。王立研究所や城のみんなのことは信じたいけれど。

 やるしかない、か。

「{爆発}」

 魔力を込め、口走るように唱え、発動させる――
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