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59話「異変」

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「はぁ、息苦しいですね」
「あの気持ち悪い気配がどんどん大きくなっていきます」


ルタ様が約束の時間に戻らず、マーシュとまだ動ける兵士数名を連れて森の奥へと彼らの行方を追いに来た。

私も着いてくる事をマーシュに酷く反対されたが、無理やり押し切り着いてきた感じだ。

「んー。魔物と争った跡はありませんね、泥濘が酷く、足取りは重そうですが」

ルタ様達の足跡を頼りに森の奥へと足を進めていく。
奥へ進めば進む程に地面は泥濘ぬかるみ、生い茂る木々の隙間から日が差す事はなく、辺りの空気さえも重くどんよりとしていた。

幼い頃、よく森の奥までこっそり遊びに来ていたがここまで荒れていた記憶はない。そもそも魔物だって“あの時“以外では子供でも追い払えてしまう弱い個体しかいなかった。環境とは十年でここまで変わってしまうものなのだろうか。

「大分深い所まで入ってきたのに不気味なぐらい気配も無いですし魔物に遭遇しませんね。ただ、ケイ様が感じる“異質な気配“は未だにあるのでしょう?」
「ええ。先程一旦は無くなりましたがまた表れましたので変な感じ…です」

不幸中の幸いか、ここまで魔物に遭遇すること無く来れている。あの異様な気配はまだ感じるが、マーシュによるとルタ様達が魔物と戦闘した形跡はないとの事だった。

「ケイ様、ルタの気配はまだ感じますか?」

私は森の奥から僅かながらルタ様の魔力を感じている。これもマーシュには分からないらしいが、高い魔力を保有する私なら彼の魔力を感じる事も出来るらしい。

ルタ様の魔力を例えるなら、温かく優しく辺りを包み込む、木々の隙間から溢れる陽の光みたいだ。魔力の質は属性が反映され、氷なら冷たく、風なら涼しく、炎なら熱く感じるというが──ルタ様はあれだけ激しい炎を出現させることが出来るのにとっても優しい、暖かい魔力を持っていると思う。

こんな状況であっても、例え僅かだとしても、その暖かい魔力を感じれることが私の中で彼が無事であるという安心材料となっていた。


「ええ、今のところは───」


──が。


「──マーシュ。今、ルタ様の魔力の気配が消えました。……感じ取れません……!!」

突然ルタ様の魔力を感じ取ることが出来なくなった。どんなに鋭く神経を尖らせても分からない。


これはきっと、勘違いではない。


──魔力は生命の源である。
魔力を感じ取れないということは、彼に何かあったということを示唆していた。


「──ケイ様!! お待ちください!!」


頭よりも先に身体が動いていた。

ルタ様に何かあったのか?
もし彼でも対処の出来ないとても危険な魔物に遭遇して命の危険があるのか? 一緒に行動しているのは新兵のみで治癒魔術師ヒーラーは居ない。


陽を受けるルビーの様にキラキラとした瞳と優しい微笑み。彼に抱き締められた時の体温だけではない居心地のいい温かさ。暗い過去と性格から気を遣わせ過ぎて申し訳なくなったとしても、それすらも悟り優しく私に触れる。

冷たく寂しい日々を変えてくれた彼の温もり。



──絶対に失いたくない。




無意識のうちに魔力を込めているのか、異様な程に足が軽い。

「──ケイ様!! お待ち下さい!! 」


マーシュ達をどんどん引き離して、森の奥へと駆けていく。


「……っはぁ、はぁ」



どれくらい走ったんだろうか。



──暫く駆けていると、少し開けたところに出た。




「──ルタ様」



あまりの光景に自身の目を疑った。



「……ルタ様!!!!!」



そこには両手を後方に枷で縛られ、血塗れで地面に倒れ込むルタ様の姿があった。

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