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第一章
7.初めて見る街
しおりを挟む──経鼻経管栄養法チームが始動して2日目。
本日は早速、街の職人さんへ希望の物品たちを再現できるかを確認しに行く。
マーシュ先生は、王宮の調理師さんたちと経管栄養にできるスープの開発だ。
物品調達リーダーはダヴィッドさんで、物品の作成依頼については、できることなら精度の高い物にしたいので私も付いて行くことにした。
王宮から街へは馬車で5分程度で着くらしく、とても近いらしい。
……そういえば昨夜の青年は誰だったんだろう。私は名前を名乗ったが、話が弾んでいたのもあって聞くのを忘れてしまった。
昨夜はとても楽しかったな。
ここ数年で人とこんなに楽しく話したのは久しぶりだった。
思い返すだけで顔が火照りそうになるぐらい恥ずかしいことばかりであったが、またあの青年に会いたい。
彼に恋心を抱いてしまった・・・というよりは、久々に話の波長が合う人(上手に合わせていてくれただけかもしれないが)と出会えたのでまた会うことがあれば話したい。という気持ちだ。
まあ、またいつか会えたら名前を聞こう。
「スミレ様。街は初めてですかな?」
昨夜のことを思い出し、ボーッとしているとダヴィッドさんが話しかけてくれた。
「……はい。召喚されてから王宮から出たことがありません。
なので、目的とは違ってしまいますが、この世界の……シャルム王国の文化がどのような物か楽しみです」
「王女様のご様態を毎日欠かさず見に来てくださいますもんね。本当にありがとうございます。
街は静かな王宮と違って活気に溢れていて、いい所ですよ」
「早く見てみたいです」
「……なんて話していたらスミレ様、もう着きましたよ」
すぐそこにあるとは聞いていたが本当に近い。
馬車に揺られて5分程度で街へ着いた。
──王都シャンデリア。
王宮の城下町ということでとても活気のある街らしい。
街を見て思い出したのは、写真やテレビでしか見たことがないフランスの街並みだ。
可愛らしい建物が並んでいるが、どこか上品で美しい。ディ〇ニーシーの入口らへんの街並みも確かこんな感じだったっけ。
街の中央には大きな時計台が佇み、時を刻んでいる。
ダヴィッドさんによると街のシンボルらしい。
ダヴィッドさんに連れられやって来たのは、街の商人ギルドの本部だった。
何故ここに来たかと言うと、一つ一つ職人さんを回るより、こちらで希望に沿うことのできる職人さんを探した方が早いとのこと。
「おー!ダヴィッドの旦那じゃないですかぃ!!!
お久しぶりですねぇ!また王女様にプレゼントですかい??」
ダヴィッドさんは頻繁に商人ギルドを利用するようだ。話の感じからすると、王女様によくプレゼントしているらしい。
「今回は違って、国からの正式な依頼なんです」
「ほうほう、どのような御用で」
ダヴィッドさんが商人ギルドの方に私を紹介してくれ、どのような物品が欲しいのかを出来るだけ細かく伝える。
一時的とはいえ、体内に留置する物なのでしっかりとした物にしたい。
「こちらの職人たちなら可能かもしれません」
商人ギルドの方は、この職人はこの細工が得意だとか、この部品だけはここに頼んだ方がいいだとかを丁寧にまとめてリストアップしてくれた。
「おぉ、こんなに丁寧にまとめて下さりありがとうございます」
「ダヴィッドの旦那にはいつもお世話になってますからねぇ。また何かあれば何時でも声をかけてくだせぇ!!!
スミレ様も何かあれば直ぐに来てくださいねぇ!!」
「ありがとうございます。本当に助かりました」
ダヴィッドさんと私はぺこりとお辞儀をして、商人ギルドを後にした。
カーンカーンと、時計台の鐘が鳴る。
音に釣られ、ふと時計台を見ると時刻は昼過ぎを過ぎていた。
……そういえば、お腹も空いてきたころだ。
「……スミレ様。お腹がすきませんか?」
「……ええ。いま全く同じことを思っていた所です」
「近くにいい店があるんです。
お昼は職人たちも休んでることですし、昼食の後に向かいませんか?」
「もちろんです!!」
お腹が減っていたことから結構食い気味に答えてしまったが……まあ、いいだろう。
ダヴィッドさんの案内で連れてこられたお店は、オムレツが有名なお店らしい。
そして、出てきたオムレツの大きさは、日本で見かける物の3倍の大きさはあった。
しかし、卵は雲のようにフワフワで口に入れた瞬間溶けてなくなるのだ。
余りの美味しさに3倍の大きさなんてものともせず、一瞬で食べてしまった。
そういえば、王宮のご飯を食べさせてもらっていた時から思っていたが、この世界のご飯は非常に美味しい。
グルメな日本人ですら認める料理たちだ。
よく異世界転生ものに出てくるご飯は美味しくないと聞くが、この世界は当たりみたいだ。
「気に入って頂けたようで何よりです。
実はこのお店、王女様もお忍びでよく来るんです」
「ダヴィッドさんと王女様って仲良しだったんですね」
「いやいや、王女様と私が仲良しだなんて、王女様に失礼に当たります。
……ですが、私は実の娘のように思っています。
あ、これは誰にも言わないで下さいね。怒られてしまいます」
微笑みながら王女様の話をするダヴィッドさんは本当に嬉しそうだ。
王様もマーシュ先生からの提案だったとはいえ、こんな得体の知れない人間が言い出したことによく乗ってくれた。
それだけ、皆王女様を救いたい気持ちが強いんだ。
私も王女様を助けてあげたい。
ランチをした後すぐに職人さんの元を回ったが、終わった頃にはすっかり空は暗くなっていた。
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