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1話/アドルークという名の吸血鬼
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私は真祖の吸血鬼だった。
吸血鬼だからといって、みんなが血を好んで吸うことはあんまり無い。私も、お腹いっぱいまで血を吸いたいとは思わないし、必要最低限で十分だと思っている。
ただ、その最低限というのが、他の吸血鬼の基準からすると異常に少ないらしいのだ。
「……はぁ」
鏡に映る自分の姿を見て、思わずため息が出る。
そこには赤い瞳、黒髪の少女の姿があった。
身長は150cmくらいだろうか。
胸にはささやかな膨らみがあり、腰はくびれていて、手足は細くて長い。
自分で言うのもなんだけど、美少女だと思う。
しかし、少女と呼ぶには少しだけ成長していた。
見た目の年齢は14歳だ。だが実際過ごした年月は見た目の10倍を優に超えている。真祖の吸血鬼である私の肉体年齢の成長は止まっているはずなのだけど……なぜか最近になって少しずつ成長し始めていた。
「このままだとまずい」
私は自分の胸元を見て呟く。
この身体のままではいけない気がするのだ。
もちろん、外見なんてどうでもいい。だけど、今のままではいけないと心の中の何かが訴えていた。
私は自分の姿を見ながら考える。
絶壁。
まあ、それは悪くない。全然悪くない。
まだ成長段階なのだ。胸は。
これから大きくなってゆくに違いない。
でも、問題はそこじゃない。この細い手足では、いざという時に戦えないのではないか? そう思ったのだ。
まあ真祖の吸血鬼の力で念力くらいは使えるから、戦うこと自体はできるだろう。ただ、それじゃダメなんだ。私が求めているのはそういう事ではない。もっとこう、相手を魅了するような技とか、魔法みたいなものを使いたいんだ。
「んー…………」
そんな事を考えているうちに、いつの間にか眠ってしまったようだ。気がつくと外は多くの吸血鬼が活動する夜になっていた。
「ふぁああ……」
大きなあくびをして、ベッドの上で体を伸ばす。
もう一度窓の外を見ると、空は真っ暗だった。
「よしっ…!」
気合いを入れて立ち上がる。
そして部屋を出て階段を降りる。
「あれ?」
そこで気づいたのだが、家の中には誰もいないようだった。私の侍従の吸血鬼が一人もいない。
それは珍しいことだ。
いつもなら必ず誰かがいるはずだ。
「どこにいる…?」
不思議に思いながら、とりあえず外に出ることにした。
外は静まり返っていて、とても不気味だった。
まるで世界に自分しか存在していないような感覚に陥るほどだ。
「うわぁ……」
思わず声が出てしまう。
それほどまでに凄惨な光景が広がっていた。
辺り一面に大量の血痕がある。
そしてよく見ると屋敷の周りを囲むように多くの人間が倒れていた。その中には知っている顔もある。
唯一の人間の使用人のアドウィンストンがこの中で最も重症だった。内蔵が見えるくらいに体を引き裂けられていた。
「アドウィンストン。これは一体何があったんだ……」
私が呆然としていると、後ろから物音がした。
振り返るとそこには黒いローブを着た男が立っていた。
男はフードを被っていて、顔はよく見えない。
その手には血のついた剣を持っていた。
「貴様!何者だ!!」
私は咄嵯に叫ぶ。
すると男は何も言わずにこちらに向かって走り出した。速い!! 一瞬にして距離を詰められる。
そして首に刃を当てられた。
「うぐッ!?」
ギリギリと首を締め付けられる。
抵抗しようにも力が強すぎてどうすることもできない。
「……貴様、私を殺すつもりなのか?」
苦し紛れに問いかける。
すると男はゆっくりと口を開いた。
「お前が吸血真祖アドルークか?」
男の問いに対して、私は肯定するように睨みつけた。
「……そうだ」
「そうか」
それだけ言うと、男はさらに強く私の首を掴んだ。
「がはッ」
あまりの強さに意識を失いそうになる。
なんとか堪えようとするが、無駄な足掻きにしかならなかった。視界がぼやける。
そして次の瞬間、何か温かいものが私の中に入って来た。
それは魔力であり、血液でもあった。
何かが全身を巡るような感覚。
同時に私の中の何かが変わっていく。
身体の奥底にある何かが目覚めていくような感じがした。違和感を感じる前に嫌悪感が脳裏をよぎった。
思わず吐きそうになったが、なんとか耐えた。
「これで契約完了だ」
しばらくして男は言った。
「けほっ、けほ…一体何を……」
私は咳をしながら呼吸を整える。
「俺はこの国の第三皇子ヴェルア。お前には俺が皇帝になるまで手伝ってもらう。いいな?」
「はぁ?いきなり出てきてなんなんだ。そんなの無理に決まって―――」
「断れば殺すぞ」
ヴェルアと名乗った男は有無を言わせぬ口調で言い放った。どうやら本気らしい。
「わかった。だが、なぜ私が協力しなければならないんだ?」
「理由は簡単だ。この国は腐っているからだ」
ヴェルアは私の質問に答えるように続けた。
「今の帝国は権力争いで内部が荒れている。第一王子の派閥と第二王子の派閥が争っていて、どちらが次期皇帝になるのかで揉めているのだ。そして、このままでは内戦が起こるだろう」
「…………」
私は黙って話を聞いていた。
「そして、この国には吸血鬼がいる。つまり吸血鬼をまとめるためにお前の力が必要だというわけだ」
「なるほど……」
私は納得して呟いた。
確かに、この国には他の真祖はいないし、強い力を持つ吸血鬼は私くらいしかいない。
「だから、協力してくれないか?」
ヴェルアは真っ直ぐな瞳で言う。
その言葉からは真剣さが伝わってきた。
「私は人間の権力を持っていないし、皇帝から賜ったものなどない。私は過去にこの国を独裁したことがあるが…、それでもいいと言うなら、協力する」
私の言葉を聞いて、ヴェルアは少しだけ笑みを浮かべて言った。
「構わない。むしろ好都合だ」「そうか」
「では早速仕事に取り掛かろう」
「ああ」
こうして、私たちは協力関係になった。
これからどうなるかわからないが、きっと大丈夫だろう。
だって、彼と一緒にいれば退屈しないのだろうから。
◆◆
「ヴェルア様。本当によかったのですか?あんな少女に協力なんかさせて……」
城に戻った後、俺は侍従のトワソンに声をかけられた。
トワソンは心配そうな顔をしていた。
「俺があいつの敵にならない限り、危害を加えることはないだろう」
「しかし……」
「それにしても、まさかあの少女が吸血真祖だとは思わなかったな」
俺は独り言のように呟く。
「えぇ……。まあ、それは私も驚きましたけどね」
トワソンは苦笑いしながら言う。
「それで、どうするつもりです?」
「別にどうもしないさ。ただ、利用価値があると思っただけだ」
「そうですか。それなら良いのですが……」
「とりあえず、明日また様子を見に行くことにしよう」
「わかりました」
俺たちはそのまま自室へと向かった。
「……はぁ」
部屋に着いてすぐにため息が出た。
◆◆
今日一日の出来事を思い返すと、頭が痛くなる。「……疲れた」
私は思わず弱音を漏らす。
すると、部屋の扉がノックされた。
「入れ」
「失礼します」
入ってきたのはアドウィンストンだった。
アドウィンストンはこの屋敷にいる唯一の人間だった。
「アドウィンストン。無事だったのか」
アドウィンストンは腹に大きな傷を負っていたが、なんとか生きていた。
「はい。あの時は助かりました。ありがとうございます」
アドウィンストンは頭を下げる。
「気にするな。それより、傷は大丈夫なのか?」
「はい。もう治りかけています」アドウィンストンは腹部をさする。「……そうか」
「ところで、何かあったんですか?」アドウィンストンは首を傾げる。
「お前を生かすためとは故、吸血鬼にさせてしまった。悪いと思っている」
アドウィンストンは驚いた表情をする。
「いえ、構いませんよ。元々、私は死んでいた身なので。それに、私はあなたに感謝しているんですよ」
「感謝?」
「はい。私を救ってくれたのは、紛れもなくアドルーク様ですよ。だから、私はあなたの役に立ちたいと思っています」
「……」
私はアドウィンストンを見つめる。
「……わかった。よろしく頼む」
「はい!」
アドウィンストンは再び元気よく返事をした。
それから数日後。
私はヴェルアと共に城へ来ていた。
城内は私の独裁時代のよりも騒がしかった。
「すごい騒ぎようだな……」
「そうだな。そろそろ来る頃だと思っていたが……」
私たちが話していると、後ろから声をかけられた。
「これはこれは、お久しぶりですね」
振り返るとそこには眼鏡をかけた優男が立っていた。
「貴殿は確か……」
「はい。私は宰相のロッシュフォード・ヴァンクラットです」
「そうか。覚えていないかもしれないが、私はアドルークだ。今はヴェルアに協力しながら暮らしている」
「存じておりますよ。あなたがこの国の真祖であることは祖父から聞いておりました。」
「祖父か……もしやフランツェ・ヴァンクラット卿か?彼の孫は優秀だと言っていたが……」
「はい。私はその孫の一人です」
「なるほど」
「……それで、なぜここに?」
ヴェルアは鋭い視線を向けて言った。
「それは勿論、この国の皇帝になる為に来たのですよ」
「やはりそうか」
「もちろん、あなたたちが邪魔をしなければの話ですが」
「残念だが、それはできない相談だ」
「でしょうね」
「……」
私は無言で睨み合う二人を見る。
この二人の仲は最悪だという噂を聞いていたが、本当らしい。
「まあいいでしょう。とりあえず、今日のところは引き下がりましょう。また後日、会いに来ることにします」
「そうか」
「では、失礼します」
そう言って、彼は去っていった。
「……大丈夫か?」
私は心配になって尋ねる。
「問題ない」
「ならいいんだが……。しかし、何故奴らはこの国の皇帝の座を狙う?」
「さあな。おそらく、あいつらの先祖がこの国を作ったからだろう」
「そういうことか……」
「ああ」
私たちはしばらく黙ったまま歩いた。
◆◆
その後、私はヴェルアに案内されて城の中を見て回った。
そして、最後に玉座の間へとやってきた。
「ここが、お前の使っていた場所だ」
「道理で懐かしいわけだ。……」
「まあ、今となってはただの部屋だけどな」
「そうだな」
私は玉座の椅子に腰掛ける。
懐かしいな……。
私が独裁していた時のことを思い出した。
あの時は楽しかった。どんな人でも私の言うことを聞いていた。
それがとても心地よかったのだ。
しかし、そんな日々は長く続かなかった。
私はいつしか自分のしていることに疑問を抱くようになった。
私は一体何をしているのだろうか。
そんなことを考えていると、ふとある考えが浮かんできた。
ーー私は一体何のために生きているのだろう。
答えはすぐに出た。
それは、誰かに必要とされたかったからだ。
私は孤独が嫌いだった。
誰からも相手にされず、ずっと一人ぼっちだった。
だから、私はこの世界を支配しようと思った。
私は自分を必要としてくれる人が欲しかっただけなのだ。
それなのに、いつの間にか私は他人の人生まで奪っていたのか……。
気がつくと涙が出ていた。
「どうした?」
「いや、なんでもない」
私は涙を拭う。
「……そうか」
ヴェルアは何も言わずに私の側にいてくれた。
「……すまないな」
「気にするな。俺もお前の立場になったら同じ行動をとっていたかもしれない」
「ありがとう」
私はもう一度、涙を流した。
それからしばらくして、私は玉座の間を後にして屋敷に帰った。
◆◆
屋敷に帰ると、アドウィンストンが待っていた。
「おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま」
私はアドウィンストンの頭を撫でる。
「……えへっ」
アドウィンストンは嬉しそうに笑った。
「ところで、何か用事でもあったのか?」
「いえ、特に何もありませんが」
「そうか」
私はアドウィンストンを抱きしめる。
「きゃっ!ど、どうかしましたか!?」
「いや、ちょっとこうしたくなっただけだ」
私はしばらくの間、そのままの状態でいた。
「……もう大丈夫ですか?」
「ああ、もう大丈夫だ」
私はゆっくりと離れる。
「では、夕食の準備をしてきますね!」
アドウィンストンは台所へ向かっていった。
「……さて、私も仕事を始めるとするか」
私は執務室へと向かった。
「お疲れ様です」
私は仕事をしていると、アドウィントンがお茶を持って来てくれた。
「ああ、ありがとう」
私は一口飲む。
うん、美味しい。
「今日は一段とお疲れのようでしたが、大丈夫ですか?」
「問題はない。少し昔のことを思い出していたのでな」「そうでしたか」
「ああ」
私は再び書類に目を通す。
「……この書類はなんだ?」
私は一つの書類を手に取って言った。
そこには、『吸血霧砲事件』について書かれていた。
「それは、以前あった『吸血事件』の模倣犯が起こした事件です」
「そうか…、なぜお前がその情報を知っている?」
私が低い声でアドウィンストンに聞くと、アドウィンストンの瞳が澱のように濁る。
「それはですね……」
彼はそう言いながらこちらに向かって歩いてくる。
「あなたを裏切ったからですよ」
次の瞬間、私は壁に叩きつけられていた。
「ぐっ……」
背中を強く打ったせいで息がしずらい。
アドウィンストンの背後からは禍々しい程の闇のオーラ。死霊魔術の類だ。私の憶測と勘が正しければアドウィンストンは操られている。
「くそ……こんな時に」
私は必死に立ち上がろうとするが、体が上手く動かない。おそらく、肋骨が何本か折れている。それに、体の内側から焼かれるような痛みが走る。これは呪炎か?
「どうして私があナタを裏切っタか分かりますか?」
「……」
私は声が出せないので首を横に振る。
「簡単なことデすよ。アナタは邪魔だかラです」
「……」
「私はこノ国ヲ支配スル為に必ズあなたガ邪魔になりマス。ソれニ、アナタは強すぎるんデス」
「……」
「だから、私はあなタを殺スことにシマした」
アドウィンストンは懐からナイフを取り出す。おそらく、呪具だろう。
「安心シてください。一瞬で終ワリますカラ」
彼は私の胸に刃を突き刺した。
あ、やばいな。
血がどんどん抜けていく。体が冷たくなっていくのを感じる。そうやって呆けていると、もう指先の感覚がない。
「これで終わりデス」
アドウィンストンの手に魔力が集まるのを感じた。
掌では黒い光が収束している。
「バイバい」
その言葉と同時に私は”仕方なく”真祖の権能を使うことにした。
「……〖春花月昇〗」
其れは、吸血真祖アドルークに与えられた最初の権能。月日の流れは早い。あっという間に花が咲き、月は昇る。
時間の流れは決して揺るぐことはなく、『不変』を望む。
其の吸血真祖は『不変』である──。
アドウィンストンの放った攻撃は私の胸を貫き、心臓を破壊した。そして、私の身体から力が抜ける。
「……ゴフッ」…だが、まだ生きている。
アドウィントンが驚きの声を上げる。
「どウして!?」
私は口から大量の血液を吐き出しながら其の愚かなる吸血鬼に告げる。
「お前は私に権能を使わせた。そこは褒めよう。だが、私と親しい者の肉体を使うなぞ、言語道断。私はお前の居場所がわかったぞ。死霊魔術師エルフェンハイト・ヴィヴィ」
アドウィンストンの顔に焦りの表情が浮かぶ。
「なん……デ」
「さぁ、何故だと思う?」
私はゆっくりと立ち上がる。
「ま、待ってくだサイ!わ、私はあなたの味方でス!あなたもわカっていルはずデス!この世界は間違っている。我々の力があれバ…!」
「黙れ」
私はアドウィンストンの頭を鷲掴みにする。
「ぐっ……」
「お前の言う通りだ。私もこの世界をどうにかしたいと思っている。だがな、それは私の目的だ。貴様の目的ではない」
「そ、そんなことはありマせん!私は…!」
「いい加減にしろ」
私はアドウィンストンの体を傷つけぬように頭を掴んだまま床に押し付ける。
「グハッ!?」
「今からお前の記憶を覗かせてもらう。覚悟はできているな?」
「……はい」
私は記憶を読み取る。すると、彼の記憶が流れ込んでくる。どうやら、この男はアドウィンストンを使った『吸血霧砲事件』の主犯格だったらしい。
「そうか、お前があの事件の主犯か」
「はい、そうデス」
私はゆっくりと手を離す。
「お前がやったのはただの殺人だ。自分の利益の為だけに罪のない者を殺してきた。そしてそれを吸血鬼になすり付けた。お前は人間と吸血鬼の敵だ」
「それは違いマス!彼らは我々を虐げてイルんです!」
「それが事実だとしても、お前が殺した者達の家族が許さないだろう。それに、お前は自分の快楽の為に人を殺した。それは許されることじゃない」
「……」
アドウィントンは下を向いて何も言わなくなった。
「わかりマした。それならば、この体の主と共ニ死んでやるゥゥゥゥゥ!!」
アドウィントンの体が闇に包まれていく。おそらく、死霊魔術を使ったのだろう。
「無駄なことをするな。お前は死ぬ」
「え?」
私はアドウィントンを蹴り飛ばす。そして、そのまま壁に打ち付けられた彼を拘束する。
「ガハァ……」
アドウィントンはそのまま動かなくなる。死んだのだろうか?私は念のため首筋に手を当てる。脈はある。どうやら気絶しているだけのようだ。
「ふぅ……」
私はため息をつく。これで今回の件は片付いただろう。後は、吸血鬼達に任せればいい。私は、意識を手放した。
◆◆
「ここは?」
私は目を開ける。辺りを見渡すと、そこは見慣れた天井だった。そこには吸血鬼の始祖グルマがいた。
燃えるような赤い髪と赤い瞳。見ていると脳に直接焼き付けられるような美形の青年の姿をしていた。
「やぁ、アドルーク。僕達、恋人だったよね?僕のこと覚えてる?」
彼は悪戯っぽく笑う。
「あぁ、もちろん。嫌がる私を無理やり吸血鬼にしたクソ恋人始祖サマだろ。」
私は皮肉混じりにそう答える。だが、この男のことだからきっと気づいているのだろうな。
「へぇ~。アドルークは意外と根に持つタイプなんだね~」
やはり、こいつは気付いていたようだ。
「……まぁ、いいよ。君が無事ならそれで」
どうやら、私の考えはお見通しのようだ。だが、それでも彼は満足そうだ。
「さて、再開のキスでもするかい?アドルーク」
「ふざけるな」
私はその言葉と同時に彼の顔面に拳を叩き込む。しかし、彼はまるで羽虫を手で払うかのように軽く避けた。
「ちっ、相変わらずムカつく野郎だな」
「それはお互い様だよ。君は本当に変わらないねぇ?」
「…お前が私に『不変』を求めたんだろうが」
「はい、正解♪やっぱり君のそういうところ好きだなぁ」
この男はいつもこうだ。こちらの気持ちなど気にせず、自分の欲求を押し付けてくる。だが、不思議と不快ではないのだ。むしろ、心地よいくらいでなんか、嫌だ。
「で、お前は何しに来たんだよ」
「何って、決まってるじゃないか。僕のカナリア…!君に会いに来たのさ」
「帰れ」
私はシッシと手を振って追い返すジェスチャーをする。
「ひどい!せっかく来たのに追い返そうとするなんて!」
「お前は来る度に面倒ゴトを引き連れてくるんだ。そして、今もな。」
グルマの背後には大量の吸血鬼と、吸血鬼を狩りに来た皇室騎士団が居た。
吸血鬼だからといって、みんなが血を好んで吸うことはあんまり無い。私も、お腹いっぱいまで血を吸いたいとは思わないし、必要最低限で十分だと思っている。
ただ、その最低限というのが、他の吸血鬼の基準からすると異常に少ないらしいのだ。
「……はぁ」
鏡に映る自分の姿を見て、思わずため息が出る。
そこには赤い瞳、黒髪の少女の姿があった。
身長は150cmくらいだろうか。
胸にはささやかな膨らみがあり、腰はくびれていて、手足は細くて長い。
自分で言うのもなんだけど、美少女だと思う。
しかし、少女と呼ぶには少しだけ成長していた。
見た目の年齢は14歳だ。だが実際過ごした年月は見た目の10倍を優に超えている。真祖の吸血鬼である私の肉体年齢の成長は止まっているはずなのだけど……なぜか最近になって少しずつ成長し始めていた。
「このままだとまずい」
私は自分の胸元を見て呟く。
この身体のままではいけない気がするのだ。
もちろん、外見なんてどうでもいい。だけど、今のままではいけないと心の中の何かが訴えていた。
私は自分の姿を見ながら考える。
絶壁。
まあ、それは悪くない。全然悪くない。
まだ成長段階なのだ。胸は。
これから大きくなってゆくに違いない。
でも、問題はそこじゃない。この細い手足では、いざという時に戦えないのではないか? そう思ったのだ。
まあ真祖の吸血鬼の力で念力くらいは使えるから、戦うこと自体はできるだろう。ただ、それじゃダメなんだ。私が求めているのはそういう事ではない。もっとこう、相手を魅了するような技とか、魔法みたいなものを使いたいんだ。
「んー…………」
そんな事を考えているうちに、いつの間にか眠ってしまったようだ。気がつくと外は多くの吸血鬼が活動する夜になっていた。
「ふぁああ……」
大きなあくびをして、ベッドの上で体を伸ばす。
もう一度窓の外を見ると、空は真っ暗だった。
「よしっ…!」
気合いを入れて立ち上がる。
そして部屋を出て階段を降りる。
「あれ?」
そこで気づいたのだが、家の中には誰もいないようだった。私の侍従の吸血鬼が一人もいない。
それは珍しいことだ。
いつもなら必ず誰かがいるはずだ。
「どこにいる…?」
不思議に思いながら、とりあえず外に出ることにした。
外は静まり返っていて、とても不気味だった。
まるで世界に自分しか存在していないような感覚に陥るほどだ。
「うわぁ……」
思わず声が出てしまう。
それほどまでに凄惨な光景が広がっていた。
辺り一面に大量の血痕がある。
そしてよく見ると屋敷の周りを囲むように多くの人間が倒れていた。その中には知っている顔もある。
唯一の人間の使用人のアドウィンストンがこの中で最も重症だった。内蔵が見えるくらいに体を引き裂けられていた。
「アドウィンストン。これは一体何があったんだ……」
私が呆然としていると、後ろから物音がした。
振り返るとそこには黒いローブを着た男が立っていた。
男はフードを被っていて、顔はよく見えない。
その手には血のついた剣を持っていた。
「貴様!何者だ!!」
私は咄嵯に叫ぶ。
すると男は何も言わずにこちらに向かって走り出した。速い!! 一瞬にして距離を詰められる。
そして首に刃を当てられた。
「うぐッ!?」
ギリギリと首を締め付けられる。
抵抗しようにも力が強すぎてどうすることもできない。
「……貴様、私を殺すつもりなのか?」
苦し紛れに問いかける。
すると男はゆっくりと口を開いた。
「お前が吸血真祖アドルークか?」
男の問いに対して、私は肯定するように睨みつけた。
「……そうだ」
「そうか」
それだけ言うと、男はさらに強く私の首を掴んだ。
「がはッ」
あまりの強さに意識を失いそうになる。
なんとか堪えようとするが、無駄な足掻きにしかならなかった。視界がぼやける。
そして次の瞬間、何か温かいものが私の中に入って来た。
それは魔力であり、血液でもあった。
何かが全身を巡るような感覚。
同時に私の中の何かが変わっていく。
身体の奥底にある何かが目覚めていくような感じがした。違和感を感じる前に嫌悪感が脳裏をよぎった。
思わず吐きそうになったが、なんとか耐えた。
「これで契約完了だ」
しばらくして男は言った。
「けほっ、けほ…一体何を……」
私は咳をしながら呼吸を整える。
「俺はこの国の第三皇子ヴェルア。お前には俺が皇帝になるまで手伝ってもらう。いいな?」
「はぁ?いきなり出てきてなんなんだ。そんなの無理に決まって―――」
「断れば殺すぞ」
ヴェルアと名乗った男は有無を言わせぬ口調で言い放った。どうやら本気らしい。
「わかった。だが、なぜ私が協力しなければならないんだ?」
「理由は簡単だ。この国は腐っているからだ」
ヴェルアは私の質問に答えるように続けた。
「今の帝国は権力争いで内部が荒れている。第一王子の派閥と第二王子の派閥が争っていて、どちらが次期皇帝になるのかで揉めているのだ。そして、このままでは内戦が起こるだろう」
「…………」
私は黙って話を聞いていた。
「そして、この国には吸血鬼がいる。つまり吸血鬼をまとめるためにお前の力が必要だというわけだ」
「なるほど……」
私は納得して呟いた。
確かに、この国には他の真祖はいないし、強い力を持つ吸血鬼は私くらいしかいない。
「だから、協力してくれないか?」
ヴェルアは真っ直ぐな瞳で言う。
その言葉からは真剣さが伝わってきた。
「私は人間の権力を持っていないし、皇帝から賜ったものなどない。私は過去にこの国を独裁したことがあるが…、それでもいいと言うなら、協力する」
私の言葉を聞いて、ヴェルアは少しだけ笑みを浮かべて言った。
「構わない。むしろ好都合だ」「そうか」
「では早速仕事に取り掛かろう」
「ああ」
こうして、私たちは協力関係になった。
これからどうなるかわからないが、きっと大丈夫だろう。
だって、彼と一緒にいれば退屈しないのだろうから。
◆◆
「ヴェルア様。本当によかったのですか?あんな少女に協力なんかさせて……」
城に戻った後、俺は侍従のトワソンに声をかけられた。
トワソンは心配そうな顔をしていた。
「俺があいつの敵にならない限り、危害を加えることはないだろう」
「しかし……」
「それにしても、まさかあの少女が吸血真祖だとは思わなかったな」
俺は独り言のように呟く。
「えぇ……。まあ、それは私も驚きましたけどね」
トワソンは苦笑いしながら言う。
「それで、どうするつもりです?」
「別にどうもしないさ。ただ、利用価値があると思っただけだ」
「そうですか。それなら良いのですが……」
「とりあえず、明日また様子を見に行くことにしよう」
「わかりました」
俺たちはそのまま自室へと向かった。
「……はぁ」
部屋に着いてすぐにため息が出た。
◆◆
今日一日の出来事を思い返すと、頭が痛くなる。「……疲れた」
私は思わず弱音を漏らす。
すると、部屋の扉がノックされた。
「入れ」
「失礼します」
入ってきたのはアドウィンストンだった。
アドウィンストンはこの屋敷にいる唯一の人間だった。
「アドウィンストン。無事だったのか」
アドウィンストンは腹に大きな傷を負っていたが、なんとか生きていた。
「はい。あの時は助かりました。ありがとうございます」
アドウィンストンは頭を下げる。
「気にするな。それより、傷は大丈夫なのか?」
「はい。もう治りかけています」アドウィンストンは腹部をさする。「……そうか」
「ところで、何かあったんですか?」アドウィンストンは首を傾げる。
「お前を生かすためとは故、吸血鬼にさせてしまった。悪いと思っている」
アドウィンストンは驚いた表情をする。
「いえ、構いませんよ。元々、私は死んでいた身なので。それに、私はあなたに感謝しているんですよ」
「感謝?」
「はい。私を救ってくれたのは、紛れもなくアドルーク様ですよ。だから、私はあなたの役に立ちたいと思っています」
「……」
私はアドウィンストンを見つめる。
「……わかった。よろしく頼む」
「はい!」
アドウィンストンは再び元気よく返事をした。
それから数日後。
私はヴェルアと共に城へ来ていた。
城内は私の独裁時代のよりも騒がしかった。
「すごい騒ぎようだな……」
「そうだな。そろそろ来る頃だと思っていたが……」
私たちが話していると、後ろから声をかけられた。
「これはこれは、お久しぶりですね」
振り返るとそこには眼鏡をかけた優男が立っていた。
「貴殿は確か……」
「はい。私は宰相のロッシュフォード・ヴァンクラットです」
「そうか。覚えていないかもしれないが、私はアドルークだ。今はヴェルアに協力しながら暮らしている」
「存じておりますよ。あなたがこの国の真祖であることは祖父から聞いておりました。」
「祖父か……もしやフランツェ・ヴァンクラット卿か?彼の孫は優秀だと言っていたが……」
「はい。私はその孫の一人です」
「なるほど」
「……それで、なぜここに?」
ヴェルアは鋭い視線を向けて言った。
「それは勿論、この国の皇帝になる為に来たのですよ」
「やはりそうか」
「もちろん、あなたたちが邪魔をしなければの話ですが」
「残念だが、それはできない相談だ」
「でしょうね」
「……」
私は無言で睨み合う二人を見る。
この二人の仲は最悪だという噂を聞いていたが、本当らしい。
「まあいいでしょう。とりあえず、今日のところは引き下がりましょう。また後日、会いに来ることにします」
「そうか」
「では、失礼します」
そう言って、彼は去っていった。
「……大丈夫か?」
私は心配になって尋ねる。
「問題ない」
「ならいいんだが……。しかし、何故奴らはこの国の皇帝の座を狙う?」
「さあな。おそらく、あいつらの先祖がこの国を作ったからだろう」
「そういうことか……」
「ああ」
私たちはしばらく黙ったまま歩いた。
◆◆
その後、私はヴェルアに案内されて城の中を見て回った。
そして、最後に玉座の間へとやってきた。
「ここが、お前の使っていた場所だ」
「道理で懐かしいわけだ。……」
「まあ、今となってはただの部屋だけどな」
「そうだな」
私は玉座の椅子に腰掛ける。
懐かしいな……。
私が独裁していた時のことを思い出した。
あの時は楽しかった。どんな人でも私の言うことを聞いていた。
それがとても心地よかったのだ。
しかし、そんな日々は長く続かなかった。
私はいつしか自分のしていることに疑問を抱くようになった。
私は一体何をしているのだろうか。
そんなことを考えていると、ふとある考えが浮かんできた。
ーー私は一体何のために生きているのだろう。
答えはすぐに出た。
それは、誰かに必要とされたかったからだ。
私は孤独が嫌いだった。
誰からも相手にされず、ずっと一人ぼっちだった。
だから、私はこの世界を支配しようと思った。
私は自分を必要としてくれる人が欲しかっただけなのだ。
それなのに、いつの間にか私は他人の人生まで奪っていたのか……。
気がつくと涙が出ていた。
「どうした?」
「いや、なんでもない」
私は涙を拭う。
「……そうか」
ヴェルアは何も言わずに私の側にいてくれた。
「……すまないな」
「気にするな。俺もお前の立場になったら同じ行動をとっていたかもしれない」
「ありがとう」
私はもう一度、涙を流した。
それからしばらくして、私は玉座の間を後にして屋敷に帰った。
◆◆
屋敷に帰ると、アドウィンストンが待っていた。
「おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま」
私はアドウィンストンの頭を撫でる。
「……えへっ」
アドウィンストンは嬉しそうに笑った。
「ところで、何か用事でもあったのか?」
「いえ、特に何もありませんが」
「そうか」
私はアドウィンストンを抱きしめる。
「きゃっ!ど、どうかしましたか!?」
「いや、ちょっとこうしたくなっただけだ」
私はしばらくの間、そのままの状態でいた。
「……もう大丈夫ですか?」
「ああ、もう大丈夫だ」
私はゆっくりと離れる。
「では、夕食の準備をしてきますね!」
アドウィンストンは台所へ向かっていった。
「……さて、私も仕事を始めるとするか」
私は執務室へと向かった。
「お疲れ様です」
私は仕事をしていると、アドウィントンがお茶を持って来てくれた。
「ああ、ありがとう」
私は一口飲む。
うん、美味しい。
「今日は一段とお疲れのようでしたが、大丈夫ですか?」
「問題はない。少し昔のことを思い出していたのでな」「そうでしたか」
「ああ」
私は再び書類に目を通す。
「……この書類はなんだ?」
私は一つの書類を手に取って言った。
そこには、『吸血霧砲事件』について書かれていた。
「それは、以前あった『吸血事件』の模倣犯が起こした事件です」
「そうか…、なぜお前がその情報を知っている?」
私が低い声でアドウィンストンに聞くと、アドウィンストンの瞳が澱のように濁る。
「それはですね……」
彼はそう言いながらこちらに向かって歩いてくる。
「あなたを裏切ったからですよ」
次の瞬間、私は壁に叩きつけられていた。
「ぐっ……」
背中を強く打ったせいで息がしずらい。
アドウィンストンの背後からは禍々しい程の闇のオーラ。死霊魔術の類だ。私の憶測と勘が正しければアドウィンストンは操られている。
「くそ……こんな時に」
私は必死に立ち上がろうとするが、体が上手く動かない。おそらく、肋骨が何本か折れている。それに、体の内側から焼かれるような痛みが走る。これは呪炎か?
「どうして私があナタを裏切っタか分かりますか?」
「……」
私は声が出せないので首を横に振る。
「簡単なことデすよ。アナタは邪魔だかラです」
「……」
「私はこノ国ヲ支配スル為に必ズあなたガ邪魔になりマス。ソれニ、アナタは強すぎるんデス」
「……」
「だから、私はあなタを殺スことにシマした」
アドウィンストンは懐からナイフを取り出す。おそらく、呪具だろう。
「安心シてください。一瞬で終ワリますカラ」
彼は私の胸に刃を突き刺した。
あ、やばいな。
血がどんどん抜けていく。体が冷たくなっていくのを感じる。そうやって呆けていると、もう指先の感覚がない。
「これで終わりデス」
アドウィンストンの手に魔力が集まるのを感じた。
掌では黒い光が収束している。
「バイバい」
その言葉と同時に私は”仕方なく”真祖の権能を使うことにした。
「……〖春花月昇〗」
其れは、吸血真祖アドルークに与えられた最初の権能。月日の流れは早い。あっという間に花が咲き、月は昇る。
時間の流れは決して揺るぐことはなく、『不変』を望む。
其の吸血真祖は『不変』である──。
アドウィンストンの放った攻撃は私の胸を貫き、心臓を破壊した。そして、私の身体から力が抜ける。
「……ゴフッ」…だが、まだ生きている。
アドウィントンが驚きの声を上げる。
「どウして!?」
私は口から大量の血液を吐き出しながら其の愚かなる吸血鬼に告げる。
「お前は私に権能を使わせた。そこは褒めよう。だが、私と親しい者の肉体を使うなぞ、言語道断。私はお前の居場所がわかったぞ。死霊魔術師エルフェンハイト・ヴィヴィ」
アドウィンストンの顔に焦りの表情が浮かぶ。
「なん……デ」
「さぁ、何故だと思う?」
私はゆっくりと立ち上がる。
「ま、待ってくだサイ!わ、私はあなたの味方でス!あなたもわカっていルはずデス!この世界は間違っている。我々の力があれバ…!」
「黙れ」
私はアドウィンストンの頭を鷲掴みにする。
「ぐっ……」
「お前の言う通りだ。私もこの世界をどうにかしたいと思っている。だがな、それは私の目的だ。貴様の目的ではない」
「そ、そんなことはありマせん!私は…!」
「いい加減にしろ」
私はアドウィンストンの体を傷つけぬように頭を掴んだまま床に押し付ける。
「グハッ!?」
「今からお前の記憶を覗かせてもらう。覚悟はできているな?」
「……はい」
私は記憶を読み取る。すると、彼の記憶が流れ込んでくる。どうやら、この男はアドウィンストンを使った『吸血霧砲事件』の主犯格だったらしい。
「そうか、お前があの事件の主犯か」
「はい、そうデス」
私はゆっくりと手を離す。
「お前がやったのはただの殺人だ。自分の利益の為だけに罪のない者を殺してきた。そしてそれを吸血鬼になすり付けた。お前は人間と吸血鬼の敵だ」
「それは違いマス!彼らは我々を虐げてイルんです!」
「それが事実だとしても、お前が殺した者達の家族が許さないだろう。それに、お前は自分の快楽の為に人を殺した。それは許されることじゃない」
「……」
アドウィントンは下を向いて何も言わなくなった。
「わかりマした。それならば、この体の主と共ニ死んでやるゥゥゥゥゥ!!」
アドウィントンの体が闇に包まれていく。おそらく、死霊魔術を使ったのだろう。
「無駄なことをするな。お前は死ぬ」
「え?」
私はアドウィントンを蹴り飛ばす。そして、そのまま壁に打ち付けられた彼を拘束する。
「ガハァ……」
アドウィントンはそのまま動かなくなる。死んだのだろうか?私は念のため首筋に手を当てる。脈はある。どうやら気絶しているだけのようだ。
「ふぅ……」
私はため息をつく。これで今回の件は片付いただろう。後は、吸血鬼達に任せればいい。私は、意識を手放した。
◆◆
「ここは?」
私は目を開ける。辺りを見渡すと、そこは見慣れた天井だった。そこには吸血鬼の始祖グルマがいた。
燃えるような赤い髪と赤い瞳。見ていると脳に直接焼き付けられるような美形の青年の姿をしていた。
「やぁ、アドルーク。僕達、恋人だったよね?僕のこと覚えてる?」
彼は悪戯っぽく笑う。
「あぁ、もちろん。嫌がる私を無理やり吸血鬼にしたクソ恋人始祖サマだろ。」
私は皮肉混じりにそう答える。だが、この男のことだからきっと気づいているのだろうな。
「へぇ~。アドルークは意外と根に持つタイプなんだね~」
やはり、こいつは気付いていたようだ。
「……まぁ、いいよ。君が無事ならそれで」
どうやら、私の考えはお見通しのようだ。だが、それでも彼は満足そうだ。
「さて、再開のキスでもするかい?アドルーク」
「ふざけるな」
私はその言葉と同時に彼の顔面に拳を叩き込む。しかし、彼はまるで羽虫を手で払うかのように軽く避けた。
「ちっ、相変わらずムカつく野郎だな」
「それはお互い様だよ。君は本当に変わらないねぇ?」
「…お前が私に『不変』を求めたんだろうが」
「はい、正解♪やっぱり君のそういうところ好きだなぁ」
この男はいつもこうだ。こちらの気持ちなど気にせず、自分の欲求を押し付けてくる。だが、不思議と不快ではないのだ。むしろ、心地よいくらいでなんか、嫌だ。
「で、お前は何しに来たんだよ」
「何って、決まってるじゃないか。僕のカナリア…!君に会いに来たのさ」
「帰れ」
私はシッシと手を振って追い返すジェスチャーをする。
「ひどい!せっかく来たのに追い返そうとするなんて!」
「お前は来る度に面倒ゴトを引き連れてくるんだ。そして、今もな。」
グルマの背後には大量の吸血鬼と、吸血鬼を狩りに来た皇室騎士団が居た。
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