鬼使神差〜無能神様が世界を変える物語〜

天楪鶴

文字の大きさ
4 / 184
ー光ー 第一章 無能神様

第三話 神の力

しおりを挟む
 城から少し離れたところに天桜山てんおうざんという山がある。

 城の近くに住んでいる神々は皆、天桜山で修行や舞の稽古をしている。

 桜雲天国は年中桜が咲いている。そのため森は淡い紅色で包まれていて美しい。

 また、木々には美しい様々な模様の透き通った布が垂れ下がって、木の先端部分には沢山の天灯が吊るされている。

 桜雲天国の桜は全てこのように管理されている。

 また、散る花びらが地面に落ちて、桜のカーペットのようになっている。

 しかし桜雲天国の桜は散って地面に落ちると、数時間後雪のように溶けて消えてしまう。

 そのため、地面には茶色くしおれた桜の花びらは無く、淡い紅色で綺麗な状態なものばかりだ。



 夜になると天灯の暖かい色が桜を照らしとても美しい。

 そんな木々に囲まれているが、天桜山は修行や舞の稽古をする山だ。

 美しいが、そんな美しさに見とれている場合ではない。

 天光琳は動きやすい服装に着替え、体力作りなどの修行をした後、稽古用の扇を持ち、そのまま天桜山にある小さな小屋で舞の稽古をしている。

 小さな小屋は白いレンガの造りになっていて、山の中にある小屋とは思えないほど綺麗な建物だ。

 この小屋には天家の者、そして老師せんせい草沐阳ツァォムーヤンしか出入りできない。

 草沐阳は六~七十代ぐらいの男性だが、若い頃の整った顔はそのままであり、女神から人気のある老師だ。

 しかし草沐阳は現在天家専属の老師で、天家にしか修行と稽古を教えていない。

 桜雲天国の女神は皆天家を羨ましがっている。

 草沐阳は稽古の時は厳しく、しっかり教えてくれて、普段はとても優しく話してくれるため、天光琳は稽古と稽古が嫌になることはなく、毎日励めている。

 そして今修行にくる天家の者は天光琳しかいないため、草沐阳は天光琳に集中して教えることができるのだ。


「うーむ...またダメだったのか...」
「はい...」

 草沐阳は顎髭を触りながら言った。
 二神は稽古を始める前、いつも小屋の入り口付近にある椅子に座り軽く話をする。

 話...と言ってもほぼ天光琳の反省会だ。


「俺が見る限り、悪いところはないと思うのだが......やはり修行が足りぬか...」
「どれぐらい修行すればいいのでしょうか。僕は小さい頃からずっと修行、稽古を続けてきました。なのに......」


 草沐阳も分かっている。天光琳はいくら修行、稽古をしても変わることはない。ずっと神の力を使えないままだ。


「やはり僕は生まれつき神の力がないのでしょうか」


 天光琳は下を向いた。


「いや...。天家の神はもともと神の力が高いから力がない...というのは考えられん。ひょっとして......あ、いやなんでもない」


 草沐阳は何か言いかけたが、ありえない、という顔をして辞めた。


「教えてください」


 天光琳はありえない答えでも、少しの手がかりがあればそれで良かった。

 自分には神の力はないのか。なぜ天家の神なのに神の力が使えないのか。...修行、舞の稽古をすればいつか使えるようになるのか......。


「...光琳の腹部に何か印はないか?」
「...?...ありません」
「そうか」


 草沐阳はやっぱりな...と知っているかのように頷いた。

 天光琳は印について気になった。


「印があるとなにがあるんですか?」


 すると草沐阳は真剣な顔になりゆっくりと話し始めた。


「神界には一度しか使えない二つの禁断の術がある。一つは力移しの術。もう一つは...力消しの術。名前の通り、力移しの術は、力を移すことができる。力消しの術は、力を消すことが出来る恐ろしい術だ。
 この術を使った者には腹部に印がつく。力移しの術は術を使った者に。力消しの術は消された者に」

「...という事は、僕には力消しの術は使われていないのですね」

「その通りだ」


 天光琳にとって力消しの術を使われていないという事は、良いことでもあるし、少し残念でもあった。

 力消しの術を使われていなければ神の力を使えるはずだ。しかし天光琳は使えないのだ。

 使えない理由が見つかった訳では無い。


「この二つの禁断の術はもう既に使われている。もし光琳に使われたとしたら力移しの術だが......力移しの術は血が繋がった神同士じゃないと使えない。この国の王一族である君の家族が使うとは考えられない」

「...」

 その通りだ。天光琳も自分の家族がそんなことをするはずがない...と分かっている。

 父天宇軒は天光琳に冷たいが、この国の王なのだ。

 天光琳に厳しいことを言っている天宇軒が力移しの術を使ったとなると......それは王失格だ。

 それに力移しの術を使ったとして、天光琳の力は誰に移されたのか。

 姉である天麗華は奇跡の神なので生まれつき力が高い。

 天宇軒、天万姫に移されたとすると、天家の神は生まれつき力が高いので、奇跡の神と同じぐらいの力になるが......

 二神はそこまで高くはない。

 なので力移しの術は使われていない...と考えるのが良いだろう。


「老師...術を使った神って分かるのですか?」

「はっきりとは分からんが......しかし、十八年前に玲瓏美国れいろうめいこくの王一族の美家の神に使える女神が、桜雲天国に訪れた際、この国の神に力消しの術を使ったと言われている。その女神はすぐにこの国で封印されたそうだ」


 封印...神界では重い罪を犯した神には封印をする。

 神界では処刑...というものは存在しない。

 神は殺されてはならないのだ。

 処刑した神も重い罪を犯してしまったことになる。

 そのため封印をして、一生この世に蘇ることを出来なくするのだ。


「この国で力消しの術が使われたってことは......使われた人は誰なのですか?」

「残念ながらそれも分からん。しかしこの世で神の力を使えないのは......君だけだ。恐らく力を消された者はもう亡くなってしまったのかもしれない。寿命で亡くなったか...力が無くなり自ら命を絶ったか......」


 結局天光琳の神の力が使えない理由は分からなかった。


「この話はもうお終いにしよう。さて...稽古を始めるか」
「はい!」


 二神は立ち上がり、小屋の中へ入っていった。

 修行で少し疲れたが、休んではいられない。早く神の力を使えるようになりたいからだ。

「準備は良いか?」
「はい!」

 一度目を閉じ深呼吸をして、扇を片手で広げる。

 天光琳の準備が整ったことを確認し、草沐阳は神の力で曲が流れる光の玉、音玉を出し、舞で使われている曲を流した。

 そして目を開け、扇を使いながら美しく舞始める。

 天光琳は集中し、体を大きく動かしながらくるくると回ったり、身を縮めたりする。

 曲によって表情を変えたり、動きを合わせて速くしたりゆっくりしたり......。

 美しくみえるように工夫を沢山して舞い続けた。


 ✿❀✿❀✿


 その日は日が落ちるまで稽古をした。

 稽古で疲れきった天光琳は床に座り込んだ。


「疲れたぁ...」
「今日はいつもより頑張ったな」


 草沐阳は天光琳にお茶を渡しながら言った。天光琳は両手で受け取り、お礼を言った。


「光琳の舞はもう完璧に近い...もう舞の稽古をしなくても良いレベルなんだが...」

「まだやりたいです!」


 天光琳は先程もらったお茶を飲み干し、コップを置きながら言った。


「はっはっは、流石宇軒の息子だ」


 草沐阳は大きな声で笑った。

 草沐阳は修行や稽古を教えることが好きなので、迷惑だとは一切思っていない。


「明日もしっかりと教えてやるからな...あ、光琳、そろそろ帰らなければいけないのではないか!?」


 草沐阳は時計を見て驚いた。

 いつもはもう帰っている時間だ。


「わっ、本当だ!!」


 天光琳は立ち上がり、急いで着替え、練習用の扇を持って小屋を出た。

 城までいつも草沐阳が見送ってくれる。

 早歩きで二神は城へ向かった。



 城に到着した。


「お疲れ様、明日も頑張ってな」


 いつもならもう少し話してから別れるのだが、今日は遅くなってしまったので話は短く済ませた。


「はい、頑張ります!ありがとうございました」


 そう言って天光琳は草沐阳に会釈をし、走って中へ入っていった。



 部屋に戻った天光琳は疲れて一旦ベッドに横になった。

 もう動きたくない。ベッドと背中がくっついてしまったような感覚だ。


「次こそは...上手くいく」


 天光琳はそう呟き、そのまま眠りについてしまった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...