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ー光ー 第一章 無能神様

第二十一話 桜花爛漫之舞

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「あぁ~めっちゃ疲れた!」


 天俊熙は小屋の中に入り寝転がった。


「昔はこんなに疲れてたっけなぁ......」

「いや、天光琳に合わせて時間を増やしているからな、昔の修行時間とは五時間ぐらい違うぞ」

「やっぱりかぁ......」


 小屋の床は冷たく気持ちがいいため、ゴロゴロしながら天俊熙は言った。


 (光琳はすげぇな......。でも...これだけ頑張ってもまだ神の力が使えないなんて絶対おかしいだろ...過去になにかあったのか......)


 天俊熙は天光琳が神の力を使えないのは、修行や稽古をサボっていたから...なんて一度も思ったことは無かった。理由は同い年のため、小さい頃からずっと一緒に修行や稽古をしていたからだ。

 しかし今日、久しぶりに一緒に修行して、改めて天光琳の頑張りを知った。


 (そもそも神の力がない状態で生まれてきたのか......いや、神である限り、無いなんて有り得ない......神の力は少しでもあるはずだ。じゃあ何故だ......大きな罪でも犯したのか......。でも、小さい頃から一緒にいるが、罪を犯したことなんて一度もないはずだ。それに大きな罪を犯して神の力を失ったなんて聞いたことがない......うーん...)


「俊熙...?どうしたの?」

「ん?あーいや、なんでもない。疲れてぼーっとしてただけだ」


 天俊熙は笑いながら言った。真剣な顔で考えていたため、天光琳は気になったのだろう。


「......てか、ごめん!俺今日休憩ばかりで光琳の邪魔してたかも!」


 天俊熙は自分が邪魔かもしれないと思い、勢いよく起き上がった。

 勝手に着いてきて、疲れただの休憩時間が欲しいだのわがままを言ってしまった。天俊熙は修行する必要はないのに、天光琳にペースを合わせてしまっていた。


「え?別に邪魔なんて思ってないから大丈夫だよ、久しぶりに楽しく修行できたし!」


 天光琳は両手を振りながら笑顔で言った。


「そうか...?」


 天光琳は気を使って言っている訳では無い。
 最初にやった体力作りの修行ではいつも一人でやっている。


「うん!昔に戻れたみたいですごく楽しかった!」


 天光琳がそう言うと、天俊熙は安心した......が、後ろで草沐阳が不満そうな顔をしている。


「俺との修行は楽しくなかったのか...?」

「いや楽しいです!楽しいんですけど...勝負なんてしないじゃないですか...」


 草沐阳は悲しそうに言った。まるで孫に嫌われた祖父のように......。

 たまに草沐阳は教えるだけではなく、一緒に修行をやることはあるのだが......天俊熙のように勝負することは無かった。

 どの修行も昔のように引き分けではなく、天光琳が圧勝してしまったが、それでも昔のように楽しむことが出来た。...決して自分と天俊熙を比べて余裕ぶっている訳では無い。


「そうか......そうだよな、同い年の従兄弟と修行をやった方が楽しいもんな......」

「え、老師?!楽しいですって!!!」

「ははは!」


 草沐阳はいじけ、それに焦る天光琳を見て天俊熙は笑った。
 この光景はお爺さんと孫のようだ。


 草沐阳は結構傷ついたのだろう。草沐阳的には天光琳が楽しめるように工夫はしていたらしい。......天光琳は楽しくないとは言っていないのだが...。


「いいよ...気を使わないで......いいんだよ」

「老師!違います、本当なんです!」 


 この後、いじける草沐阳を慰めるのに結構時間がかかった。


 ✿❀✿❀✿


「さて、気を取り直して、舞の稽古を始めるか」

「「お願いします!」」


 二神は練習用の扇を手に持った。


「そうだな...まずは"桜花爛漫之舞おうからんまんのまい"を舞ってみてくれ」

「「はい!」」


 "桜花爛漫"とはよく使われる舞で、一番最初に習う舞でもある。桜雲天国の代表的な舞で異国の神々に披露する時にもよく使われる。

 人間の願いを叶える時は、願いの種類によって舞を変える。

 例えば、『あの人に早く会いたい』と言う願いなら"一日千秋いちじつせんしゅうのまい"。
『病気や怪我をしませんように』と言う願いなら"無病息災之舞むびょうそくさいのまい"など色々ある。

 しかし桜花爛漫之舞の場合はどの願いでも使える。そのため一番最初に習うのだ。

 だが、願いの威力は弱いため、叶ったとしてもすぐに終わってしまったりする。

 しかしそれは失敗にはならない程度なので、十歳になったばかりの神はよく使っているのだ。

 どの舞の名前も四字熟語になっていて、人間界で作られた言葉だ。


 二神はタイミングを合わせて舞い始める。
 桜花爛漫之舞は桜が咲き乱れるのをイメージし、ゆっくりと美しい雰囲気だ。

 二神は間違えることなく美しく舞う。
 天俊熙は天光琳の方をちらっと見た。


 (格別だな...)


 天光琳は動きが滑らかで、舞の雰囲気を正確に表現している。天俊熙は天家の神なので普通の神より稽古時間が長いため、綺麗なのだが、天光琳はさらにその上だった。

 やはり花見会の時に聞こえてきた『こういう舞台だから綺麗に見えるだけ』と言うのは間違いだった。

 舞い終わり、二神は扇を閉じた。
 草沐阳は笑顔で首を縦に振っている。


「光琳、完璧だ。俺より上手くなってしまって......他に言うことは無いぞ...」

「あ...ありがとうございます!」


 草沐阳は天光琳の舞は自分より美しいと心から思った。そして草沐阳は天俊熙の方を向いた。


「俊熙、すごく成長したな、びっくりした...」

「え、本当ですか!?」


 天俊熙は小さい頃、舞が一番苦手だった。

 男神は女神より美しく舞うことが出来ないとずっと思っていたからだ。

 しかし、大きくなった今、その思い込みはだんだん消えていき、美しく舞うことを意識しているため昔より美しく舞うことが出来ている。


「しかし、少し動きが硬いかもしれんな......桜花爛漫之舞の場合は桜が咲き乱れているのを意識し、もう少し肩の力を抜いた方がいいぞ」

「分かりました、ありがとうございます!」


 舞は美しいほど、人間の願いを叶えやすい。
 神の力さえあれば、下手でも失敗することは無いのだが......美しい方が威力は高くなる。

 そして手に入る神の力が多くなり、能力も増えやすくなるのだ。


「久しぶりに一緒に舞ったね!」


 天光琳は嬉しそうに言った。


「そうだな!」


 昔も今みたいに一緒に稽古をしていた。
 稽古始めたての五歳の時は、天麗華と天李偉もいた。

 小さい頃の天光琳と天俊熙は、二神に憧れていた。

 草沐阳はよく天光琳と天俊熙に『二神をよく見ること。よく見て良いところを見つけ、自分に取り入れろ』と言っていた。
 逆に十歳以上になった女神二神が修行と稽古を終えた後は、
『天光琳と天俊熙のことをよく見ろ』と天李静に言ったため、二神は天李静に下手な舞を見せる訳にはいかず、より真剣に頑張った。

 しかし舞が苦手な天俊熙は『天李静はお手本になることはなくていいな』とずっと言っていた。

 天家の中で一番年下の天李静はお手本になることは無い。天俊熙はお手本になるのがすごく嫌だったのだろう。


「よし、天光琳は先程の舞をキープして、天俊熙は先程言ったことを意識して、もう一度やってみてくれ」

「「はい!」」


 そう言って二神は再び扇を開いた。
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