鬼使神差〜無能神様が世界を変える物語〜

天楪鶴

文字の大きさ
42 / 184
ー光ー 第三章 旅の後

第四十一話 母親

しおりを挟む
 枕と掛け布団を持って、天光琳は天万姫の部屋へ来た。
 取りに行っている時も、天万姫はずっとそばにいてくれた。


「お邪魔します...」


 天光琳はゆっくり天万姫の部屋へ入った。
 天光琳は母親である天万姫の部屋に入ったのは久しぶりだ。何年ぶりだろうか。

 小さい頃はたまにここで寝ていた。普段は天麗華と寝ていたのだが、よく枕を持って天万姫の部屋へ行っていた。
 家具もカーテンもカーペットも、昔と変わっていない。
 天光琳は懐かしい気持ちになった。


 天光琳はしばらく部屋の中を眺めていると、ベッドの上の布団を整えている天万姫が声をかけた。


「ベッド使って良いわよ、私はソファで寝るから」


 天光琳はベッドの前に立っている天万姫の方を見た。

 布団が乱れている......天万姫らしくない。
 ...やはり扉を開ける音で目が覚めて直ぐに駆けつけてくれたのだろう。


「え...でも母上......」


 気を使ってくれたのだろう。部屋にはベッドが一つしかなく、大きいけれどさすがに一緒には寝れない。もう1神寝れるとしたらソファしかない。

 息子をソファで眠らせ自分はベッドで寝るのは酷い......と天万姫は思ったのだろう。


 天光琳はベッドのすぐ横にあるソファの近くに行った。大きく、触るとふかふかだった。

 細身で小柄な体型の天光琳なら余裕で寝れる大きさだ。天万姫は普通体型だが、天光琳の方が小さいため、天光琳がソファで寝た方が良いだろう。

 ......申し訳ない気持ちでいっぱいなので、むしろそっちの方が有難いのだが...。


「母上、僕ソファで寝たいです!」


 天光琳は目を輝かせながら言った。
 こんなふかふかなソファで寝てみたい...そう思ったのだ。


「いいの...?寝にくくないかしら...」

「大丈夫です!」


 夜中なので声のボリュームは下げているが、はっきりと答えた。


「ふふ、それなら良いわよ。寝にくかったらすぐに言ってね」

「はい!」


 天光琳は笑顔で言った。




「そういえば......母上も疲れているように見えます...」

「...え?」


 天光琳はふかふかのソファに寝転がりながら言った。


「どうして...?」


 天万姫はベッドにすわり、布団を整えながら言った。


「笑顔が減ったというか......なんとなくですが...。何かあったのですか?」


 天光琳がそう言うと、天万姫はふふっと笑った。


「さすが天光琳ね。でも大丈夫よ」


 天万姫はそう言ったが、天光琳は気になって仕方がない。
 心配なのだ。


「話...聞きますよ。...ぼ...僕でよければ...」


 天光琳はいつも天万姫に助けて貰っている。今度はこっちの番だ。


「ありがとう......そうね...」


 声が少し暗くなった。ただ事ではないな...と天光琳は察した。


「最近宇軒さんに避けられているような気がするの」

「え!?父上にですか!?」


 天光琳は予想外の内容で驚いた。

 天宇軒と天万姫はとても仲が良い。喧嘩したところなんて見たことがないのだが......そんな二神が突然どうしたのだろう。


「えぇ。最近口数が減って......宇軒さんから話しかけてくれることが無くなったの」

「...喧嘩したんですか...?」

「...いいえ。していないわ...」


 突然冷たくなったようだ。
 ......玉桜山に言った天光琳たちを心配していたあの夜から。

 天万姫には心当たりがないようだ。
 天光琳も天万姫がなにかやってしまったとは思っていない。
 ...天宇軒も疲れているのだろうか。


「...って、ごめんなさい。こんな話をしてしまって......」


 息子に話すような内容ではなかったと天万姫は後悔した。


「大丈夫ですよ。僕こそ、全然力になれなくてごめんなさい」

「うんん、話せて少し楽になったわ。ありがとう」


 天万姫の声は明るくなった。
 少しでも楽になったなら良かった...と天光琳は思った。



「そろそろ寝ましょうか」

「はい」


 天万姫はベッドから降り、部屋の電気を消した。


「母上と寝るなんて久しぶりです」

「そうね、久しぶりね」


 二神は嬉しそうに笑った。
 母上がいるから今は怖くない...と天光琳は安心した。
 そして二神は眠りについた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...