鬼使神差〜無能神様が世界を変える物語〜

天楪鶴

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ー光ー 第九章 鬼神と無能神様

第百二十五話 闇

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 天万姫は焦り、天光琳に力を戻すことは出来ないのか......と何度もやったが無理だった。
 禁断の術、力消しの術の力移しの術は一度しか使えない。もうどうすることも出来ないのだ。

 次の日になり、何も知らない天麗華は突然神の力が使えるようになったと喜んだ。
 天光琳はまだ幼く、自分の神の力が無くなったとは気づいていなかった。そもそも、自分が奇跡の神だった......ということも。

 天万姫は禁断の術を使ったことは誰にも言わなかった。
 当然天麗華は天宇軒に使えるようになったと喜んで言った。
 まさか天光琳を移したとは疑いもせず、桜雲天国の神々は心から喜び安心した。






「......ということだ」

「......母上が......嘘だ!母上はそんなことしないっ!」

「そうか......信じないか」


 天万姫はそんなことするはずない。いつも心配してくれて、優しくしてくれるいい母親なのだから。


「何故そんなことを言うの?」

「何故かって......?俺は過去を見ることができるからな。光琳様や光琳様の周りの神たちの過去を見たんだよ」


 落暗は得意げそうに言った。
 過去を見てきた......だと?
 落暗が言っていたことは天光琳がまだ幼かった頃、もしくは生まれていない時のこと。
 そのため、あの話が事実なのかは分からない。
 そもそも自分が奇跡の神だったなんて......。


「......嘘だ......嘘だ嘘だ....」

「では、花見会の時。光琳様が舞を終え舞台から降り皆と話していた後......何故天万姫は暗い顔をしていた......?」

「......あ...」


 天光琳は花見会の時を思い出した。
 そういえば舞を終えたあと天万姫の方をちらっと見たら、天万姫は暗い顔をして下を向いていた。

 確か天光琳は天万姫に具合が悪いのか......と聞いた気がする。
 その時天万姫は大丈夫、とパッと笑顔を作っていた。


「それに、天麗華も知っているぞ」

「え......?」

「天麗華は光琳様の前で神の力を使う時、自分が奇跡の神だと言った時、言いづらそうにしていただろう?」


 確かにそうだった。
 玲瓏美国で人間界のことを教えてくれた時、天光琳や天俊熙は凄いと褒めたのだが、天麗華はあまり嬉しそうではなかった。

 また、落暗が玉桜山に現れたと報告があり、玉桜山へ行く天家三神をどうするか話していた時、天麗華が行くと言ったら天李偉が止めた。その時天麗華は確か「私が......奇跡の神だからよ」と言いづらそうに言っていた。
 天光琳はその時のことをよく覚えている。


「......で、でも!姉上は知らないんじゃ......」

「いや、知ってるぞ。光琳様が久しぶりに天俊熙と市場へ行った日の夕食......天麗華は夕食の時間に遅れて来ただろう?その時の天麗華の様子はどうだった?」

「姉上は......」


 天光琳はあの日のことを思い出した。
 天麗華は普段遅れてこないため、あの日のことははっきりと覚えている。
 確か......ずっと顔色が悪かった。そしていつもはよく話しているのだが、あの日は全然喋らなかったし、天光琳が声をかけた時もぼーっとしていて反応が遅かった。


「あの日、天麗華は新しい能力を手に入れ......自分の神の力について知ったのだ。その能力と言うのは自分の過去を知れる能力だ。天麗華はあの日、何故突然神の力が戻ってきたのかずっと不思議に思っていたのだ。そして使ってみたら......まさか自分の力が本当は光琳様のものだなんて、驚いただろう」


 落暗は何故そこまで知っているのか気になるところだが天光琳はそれどころでは無い。


「姉上も母上も......知っていて......僕には何も言わなかったの......?」

「そうだ」


 天光琳は頭が真っ白になった。
 まさかあんな優しい二神がずっと自分に黙っていたとは。

 天光琳は今まで神の力が使えず笑われバカにされ......苦しい思いを沢山してきた。
 そして毎日のように修行や舞の稽古に取り組み、遊ぶ時間なんてなかった。
 その様子をみて二神は応援してくれたり、支えたりしてくれた。

 ......しかし、そもそも天光琳をこのような状況にしたのは、二神ではないか。

 天万姫なんて、天光琳が人間の願いを叶えられなくて天宇軒に叱られている時「今日もダメだったみたいだけれど、貴方の頑張りは無駄にはならないわ。...いつかきっと...結果に繋がる時がくるわ」と言っていた。
 この言葉は天光琳の心に刺さり、もっと頑張ろうとやる気をくれた言葉だった。

 が、今その言葉を聞くとだんだん腹が立ってくる。
 力を移しておいて、自分を無能神様にしておいて、そんなことを言うのか。
 今まで頑張ってきたのはなんだったのか。
 自分の努力がバカバカしい。


「僕は......」

「酷いやつだ。力を移したくせにあたかも自分は光琳様の仲間です...と言っているようなものだよな」


 落暗は天光琳の肩に手を置いた。すると落暗の手からは黒い光が現れ、天光琳の体内へと送られていく。


「......」

「さぁ、どうする?」


 どうする......そう聞かれても......いや。あれがある。天光琳の頭には"いけないこと"が思い浮かんだ。


「俺は鬼神落暗。この世界を滅ぼすためにここへ来た。......光琳様と一緒にな」

「一緒に......」


 落暗はニヤリと怪しい笑を浮かべた。


「そうだ。一緒に......。俺は光琳様のおかげでここにいるのだ。人間は願いを叶えて貰えなかったことにより、神に怒りや不満をぶつける。その怒りや不満の気持ちから鬼神である俺は生まれた。そしてその気持ちが増えれば増えるほど強くなる。......神界で人間の願いを叶えられない神は......光琳様しかいないだろう?」

「......」


 天光琳は絶望した顔をし、下を見つめている。
 落暗は天光琳に力を移しながら話を続けた。


「俺は倒されても光琳様がいるかぎり......光琳様が失敗し続ける限り俺は何度でも復活する。光琳様には感謝でしかない。......だから光琳様には幸せになってもらいたいのだ。周りは皆敵だ。私が光琳様の味方。光琳様を苦しませたりはしない......」

「僕......は......」


 天光琳は頭が痛くなってきた。天万姫も天麗華も......天俊熙も天宇軒も皆敵だと思えてくる。そうだ。皆敵だ。
 皆自分から離れていく......けれど落暗はずっとそばで支えてくれるのだ。

 鬼神落暗は味方だったのだ。
 落暗は一度も天光琳を傷つけようとはしなかった。

 落暗の力で何度か怪我はしたが、全て天光琳が言われた通りじっとしていなかったから。落暗は自分を傷つけたりしないと言っていたのに、天麗華たちや京極庵を庇ったりしたから怪我をしたのだ。落暗は悪くない。


「さぁ、光琳様。こっちへ来て一緒に復讐をしよう......」

「......」

「みーんな殺してしまえば光琳様を苦しめる神はいなくなる......。どうだ?楽ではないか......?」


 天光琳の髪は乱れ、目には光がなかった。
 落暗が天光琳の耳元で囁くと、天光琳は目を閉じた。

 あの自分を犠牲にし仲間想いの天光琳は......消えてしまったのだ......。


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