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ー光ー 第九章 鬼神と無能神様

第百二十四話 本当の話

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 天光琳は目を開けると森の中にいた。
 周りに神が居ない静かな場所だった。


 (あ......そういえば...)


 天光琳はあることに気づいた。


「貴方の名前は......?」

「あぁ、そうか。記憶を消したんだったな。......俺の名前は落暗。しかしこれは本名ではないぞ」


 やはり記憶を消されていたのか。
 それにしても落暗という名前は本名では無いのか?


「本名は...?」

「まだ教えられないな。光琳様が"こっちへ来たら"教えてるぞ」


「こっちへ来たら」とは落暗と手を組むことだろう。
 何も出来ない光琳をなぜ?しかも現在光琳は剣も扇も持っていない。
 本当に何も出来ないのだ。


「僕......何も出来ないのに」

「そうだな。何も出来ない」


 天光琳は下を向いた。


「姉上に力を全て持ってかれたのかな......」

「そう。その通りだ」

「!?」


 冗談で言ったつもりなのだが......本当なのか?
 いや、天麗華はそんなことするはずは無いだろう。
 あんなに優しい姉が......。


「姉上は...そんなこと......」

「本当だぞ?」


 天光琳は信じなかった。


「では......光琳様は何故神の力が使えないか...知っているか?」

「知らない......」


 今までは神の力が使えないのは修行や稽古が足りていないからだと思っていた。
 しかしいくら努力しても少しも神の力が使えることはなかった。
 なら昔何かあったとしか思えない。


「では一つ......話をしよう」


 そう言って落暗は鬼神の力を使い結界を張った。
 誰にも聞かれないようにするためだ。


「これは光琳様が生まれる前の話......」





 天宇軒と天万姫は政略結婚で結ばれた。
 お互いあまり知らなかった。

 天万姫は玲瓏美国の神々にとても愛されていた。
 また、花のように美しく、男神からも人気だった。

 そんな中、天万姫は好きでも無い相手と結婚することになった。

 元々、数年前から美梓豪と天俊杰は二神を結婚させようと話をしていた。
 桜雲天国と玲瓏美国の仲を深めるためだ。
 しかしまだ二神は幼かったため、天宇軒が十八歳になったら結婚させようと約束をした。


 ......しかし。
 天宇軒が六歳になった時のことだ。
 天俊杰はこの世を去った。
 突然のことだった。

 天俊杰は自ら命を絶った......いや星連杰の父に殺されたのだ......と。

 桜雲天国は滅びるかもしれない。もうダメかもしれない......。
 美梓豪はこの状況では政略結婚は難しいと考えたが、天俊杰との約束だったため破棄はせず、様子を見ることにした。

 そして桜雲天国は何とか持ち直し、天宇軒は十八歳になった。

 そのため政略結婚は破棄とはならず、二神は結婚することになった。

 天万姫は王の娘は政略結婚になると覚悟はしていたため、すんなりと受け入れた。

 ......が、玲瓏美国の神々は受け入れなかった。
 その中に、天万姫と幼なじみの仲が良い男神がいて、その男神は天宇軒を恨んだ。


 そして月日は経った。
 二神の間に一神の娘が生まれた。
 "奇跡の神"ではない、普通の神......天麗華だ。

 天麗華はどちらかと言うと天宇軒似の顔立ちだが美しく、微笑むと可愛らしい。

 大切な娘として一生懸命育てよう......そう思った。
 しかし天宇軒は仕事で忙しく、天麗華の面倒を見れなかった。
 父天俊杰が星連杰にやらされていた仕事をそのまま引き継いでいるため、時間がなかった。

 そのため、天麗華のことは護衛神に任せることになった。



 そして四年後。
 事件が起きた。

 四歳になった天麗華は街へ行きたいと言い、数名の護衛神とともに街へ出かけた。

 天麗華は奇跡の神ではないが、王一族の神のため、生まれつき神の力は高かった。
 修行や稽古はまだしていなかったのだが、ちょっとした神の力を使うことができ、街では神の力で花かんむりを作り、街の神々に得意げそうに見せていた。

 ......が、その直後。
 ある女神が天麗華の背後に立った。
 天麗華は護衛神だと思い、笑顔で振り返った。
 しかしそれは護衛神ではなく、仮面をつけた見たことの無い女神が立っていた。
 その女神は「こっちへおいで」と言い、天麗華の手を握った。

 幼い天麗華には怪しい者だとは思えず、天麗華は着いて言ってしまったのだ。

 そして神通りひとどおりが少ない所へ連れていかれると、仮面をつけた女神は突然天麗華の下に結界を作り、呪文を唱え始めた。
 ここで天麗華はこの女神が怪しい者だと気づいたが......遅かった。

 女神が呪文を唱え終わると、天麗華は強い光に覆われた。
 そして天麗華はその場で倒れ意識を失った。
 ちょうどその時、天麗華がいなくなったと急いで探していた護衛神の一神がその状況を目にした。

 その護衛神はその女神を捕まえ、仲間を呼び、あとから駆けつけてきた護衛神は天麗華を抱えて城に戻った。

 天麗華はその二日後に目を覚ました。
 当然その護衛神たちはクビになり、女神は王族殺人未遂で封印されることとなった。

 天麗華の心配をし、その女神を一度も見なかった天万姫は封印の儀が行われた日に初めて女神を目にした。
 そして驚いた。

 それは......玲瓏美国にいた時、ずっとそばにいてくれた側近の優しい女神だった。
 何故そんなことをしたかと言うと、その女神は「ある男神に脅された」と答えた。

 ある神とは、天宇軒を恨んでいた天万姫の幼なじみの男神だった。
 その男神は側近であった女神に、二神の間に生まれた女神に「力消しの術を使え。さもなくばお前を殺す」と脅されたという......

 それを聞いた瞬間、神々は息を飲んだ。


「力消しの術を使った......だと?」


 天宇軒と天万姫は頭が真っ白になった。
 目覚めた天麗華はその状況が理解出来ず、「母上、父上、どうしたのですか?」と二神を心配した。
 天宇軒たちは心が痛くなった。
 この子は一生神の力が使えないと......そう思った。

 その後、女神は封印され、天万姫の幼なじみの男神も封印された。
 脅されたとはいえ、禁断の術を使ったことには変わりない。

 そして天麗華の神の力は戻ることは無かった。




 その年、二神の間にもう一神......男神が生まれた。

 天宇軒は仕事で忙しく、その男神のことも面倒は見れなかった。

 天万姫はたまに面倒を見ていたが、やはり天宇軒の手伝いなどで忙しく、男神のことも護衛神に任せることになった。


 ある日、たまたま天万姫が男神の面倒を見ている時の事だった。
 男神は天万姫に頭を撫でられると嬉しそうに笑った。
 その時。その男神の手から光が現れた。
 その光はだんだん変化していき、桜の花となった。

 男神は桜の花びらを天万姫にさしだし、笑顔で微笑んだ。

 その時、天万姫はこの男神は奇跡の神なのだと初めて知った。
 生まれたばかりと言うのに能力がある。
 しかも一つだけではなかった。
  
 天光琳が嬉しそうに笑うと花びらが舞ったり、物が動いたりする。
 奇跡の神は神の力が高すぎて、まだ神の力をコントロール出来ず、無意識に使ってしまう。
 だが、成長すれば神の力をコントロールすることが出来るようになり、無意識に使ってしまうことはなくなる。

 この奇跡の神が......天光琳だった。

 実は無能神様である天光琳は奇跡の神だったのだ。

 そこで天万姫はあることに気づいた。


 "天光琳の力を天麗華に分けることはできるのだろうか"


 まだ皆は天光琳が奇跡の神だとは知らない。
 奇跡の神は力を半分にしても、普通の神と同じぐらい、もしくはそれでもまだ高いぐらいだ。

 なら問題ないかもしれない。
 天麗華は王一族なのに一生神の力を使うことが出来ない。
 今後天麗華がどうなっていくのか不安でしか無かった。

 そのため、天万姫は天光琳の力を天麗華に移すと決めた。

 しかし方法は......禁断の術を使うしかない。
 "力移しの術"......。
 力移しの術は力を"必ず全て神の力"移すことが出来る。
 が......天万姫はその事を知らなかった。

 途中で辞めれば半分移すことができるだろう。......そう思っていたのだ。


 そして夜。天万姫は二神と一緒に寝ると世話役の護衛神にいい、二神が眠っている間に禁断の術、力移しの術を使った。天宇軒や周りの神には言わずに......。



 禁断の術はとても威力が強いものだった。
 使った瞬間、とても強い光に包まれた。
 天万姫は威力が強すぎてコントロール出来ず、途中で辞めることも出来なかった。

 ......そして......天光琳の力は全て天麗華に移り、天麗華は"偽りの"奇跡の神となり、天光琳は無能神様となったのだ。






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