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ー悪ー 第一章 アタラヨ鬼神
第三話 着替え
しおりを挟む「鬼神王様のお部屋はこちらです」
「ひ......ひろ......」
シュヴェルツェに案内されたのは自分の部屋だった。
これは本当に自分の部屋なのだろうか。あまりにも広すぎる。
入口からベッドまで少し距離がある。
「うーん......僕ってずっとこんな広い部屋で過ごしてたの?」
「いえ。この城は貴方が眠っている間に作り直されたものなので、こちらの部屋は初めて来るはずですよ」
「なるほど......」
少し居心地が悪いような気がするが、そのうちなれるだろう。
「そういえば鬼神王様、ずっとその格好ではいけませんよね」
「あ......」
鬼神王は気づかなかったが、服はかなりボロボロだ。
眠る前の戦いで着ていた服と同じだろう。
(僕はみんなの前でこんなみっともない格好をしていたってこと......?)
いやしかし、鬼神たちは鬼神王がどうして眠っていたのか知っている。
言わなくとも、鬼神王をみっともないと嘲笑うようなことはしないだろう。
「どんな服がお好みでしょうか?」
「ひぃっ!?」
急に後ろから声が聞こえ、鬼神王は驚き飛び跳ねた。
後ろを見ると、ピナフォア(召使いなどが着ている服)姿の女の鬼神が立っていた。
「メリーナ、鬼神王様を驚かせたな」
「驚かせたって言っても......私は最初から部屋の中にいたじゃないですか......」
シュヴェルツェの顔を見る限りかなり怒っている。過保護な親のようだ。
どうやらこの鬼神はメリーナという名前らしい。
鬼神王は部屋にメリーナが居ることに気づいていなかった。
部屋が広すぎてきちんと見れていなかったからだ。
背丈は鬼神王より少し高い。
タレ目だが、明るい性格のように見える。
メリーナは鬼神王の前で頭を下げた。
「鬼神王様......誠に申し訳ございません......」
「あ、うんん!謝ることでもないよ!」
自分が勝手に驚いただけなのに謝られると申し訳ない気持ちになって堪らない。
メリーナは顔を上げ、安心したようにパッと微笑んだ。そして「次は気をつけますね」と言って、スキップしながら鬼神王のすぐ横を通り過ぎて行った。そして鬼神王のすぐ横のクローゼットを開いた。
鬼神王はクローゼットの中を覗き込んでみた。
そういえばメリーナに先程『どんな服がお好みでしょうか?』と質問されていたのだった。鬼神王はそれを思い出し考えた。
(好きな服か......)
特に思いつかない。
前の自分はどうだったのだろうか。
しかし記憶が無くなっても自分は自分だ。好みが変わったりする訳では無いだろう。
恐らく前の自分もファッションにはそこまで興味無かっただろう。
「鬼神王様が目覚めるのを待ち続けていたのです。その間にこんなにお洋服を集めたのですよ!」
メリーナは得意げそうに言った。
「すごーい、見てもいい?」
「どぞどぞ~」
メリーナはクローゼットから何着か服を取り出し、近くのデーブルの上に並べた。
和服、洋服......様々な衣装がある。
「どれが着たいですかぁ?」
「う~ん......いっぱいあって迷うなぁ」
シュヴェルツェは壁にもたれ掛かり、腕を組んで退屈そうにしている。
この後にまだ予定があるのか知らないが、鬼神王のそばから離れないという事は何かあるのだろう。
なるべく早く選ばなければいけない。
「これはどうですか~?」
メリーナがおすすめしてくれた服は首もとにフリルがついた黒色の洋服。
ヒラヒラのレースが高級感を出しており、オシャレな見た目だ。
しかし鬼神王は微妙そうな顔をした。
「確かに鬼神王様には似合いませんねぇ 」
鬼神王がどんな顔立ちなのか分からない時に用意した服たちだ。
これはハンサムよりの男が着るような洋服だ。女よりの顔立ちの鬼神王には似合わない。
「ではこちらは......?」
「デザインは好きだけど....胸元が......いやかな......」
次にオススメされたのは上は着物のように広く、下はズボン。和と洋が合わさった服でオシャレなデザインなのだが、鬼神王が目を向けたのは胸元だ。
男とはいえ、こんな広いデザインはあまり好きでは無い。
「そうですか?鬼神王様、よく見ると首元にかっこいい模様があったので、見せた方が良いかなぁ~て思ったのですが......」
鬼神王はあることに気がついた。
自分の体には黒い刺青のようなものが入っている。
鬼神たちもあるのかと思い、なんとも思わなかったのだが、どうやら自分だけのようだ。
確かに首もとの模様は胸元や腕まで広がっている。
見せた方が良いかもしれないが......嫌なものは嫌だ。
「メリーナ、鬼神王様のその模様は、傷を隠すためにあるんだ」
奥の方で退屈そうにしていたシュヴェルツェが言った。
そういえば首から脇まで続く大きな傷があった。
これを隠すためなのだろう。
鬼神王自身も初めて知った。
いや......忘れているだけなのかもしれないが。
「ではあまり見せるのも良くないですねぇ......う~ん......」
「けれど、前の鬼神王様はその模様かっこいいからと言って腕だけ見せていましたよ。今の服を見れば分かると思います」
「そうなの?」
(......確かに)
今着ているボロボロの服は確かにそうだ。
やはり自分は自分だ。
記憶が消えただけで他神(たにん)に変わったわけではない。
鬼神王も今、腕だけなら良いかもしれない......と思った。
「ではこちらはどうですか!」
「......おぉ......いいかも!」
メリーナが出した服は、上半身は人間界でいう平安貴族のような形の服だが、ノースリーブになっている。
下はズボンなのだが、腰紐が中華なデザインになっている。
そしてつけ袖があり、ちょうど肩の模様だけ見えるようなデザインだ。
「それならこのマントも合いますね!」
このマントはつけ袖に付けれるようになっている。
そのため、上からマントを付けても、肩は見えるようになっている。
ヒラヒラとした形で、可愛さと少し大人っぽさを出している。
「お着替え手伝いますよ!」
一神でも着替えられるのだが......と思いつつ、鬼神王はメリーナに手伝ってもらいながら着替えた。
そして髪も整えてくれた。
先程まで結んでおらず、下ろしたままだった。
それをクシで丁寧に解かし、緩めのハーフアップにしてくれた。
また、前髪で目が少し隠れていたのだが、少し切り、整え、センター分けにしてくれた。
着替えは完了だ。
鬼神王は立ち上がり、姿見の前に立った。
「おぉ~!とてもお似合いですよ~!」
「お似合いです」
「ほんと?えへへ」
鬼神王は一回周り、照れ笑いした。
先程とは雰囲気が変わり、気分が上がる。
右手と左手の肌の色が違うため肩が見える服は少し心配ではあったのだが、服の色と合っていて全然問題ない。
そして全体的に高級感があり強そうな雰囲気も出ている。
「ありがとう、メリーナ」
「いえいえ!お役に立てて嬉しいです」
メリーナは嬉しそうに微笑んだ。ずっと王のためになにかやりたかったのだろう。
ようやく夢が叶ったようで、メリーナは随分嬉しそうだ。
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