鬼使神差〜無能神様が世界を変える物語〜

天楪鶴

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ー悪ー 第一章 アタラヨ鬼神

第二十四話 話し相手

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池から流れる川に沿って歩いていくと、辿り着くことができた。そこまで離れていない。
 鬼神王は滝の流れる池の近くでしゃがんだ。


(不思議だ。なぜかここにいると急に胸が苦しくなる)


 憂鬱になる......とは少し違う。この感情は上手く言い表せれない。悲しみと寂しさが混ざったような感じだ。そして"誰か"に会いたいという気持ちが強くなる。その"誰か"が誰なのか分からない。その"誰か"はもうここにはいないのだろうか。亡くなってしまったのだろうか。もう会うことは出来ないのだろうか......。


「......思い出せないのかな」


 この感情も、自分のことが分からない苦しみも、全ては記憶が消えてしまったせいだ。
知りたい。この気持ちが次第に強くなっていくばかりだ。


「......」


 ふわりといけないことが頭に浮かんだ。
封印を解いたらどうなるのだろうか。......と。
 ここにはある"もの"を封印しているという。シュヴェルツェは鬼神王であってもどうすることも出来ないと言っていた。
 ある"もの"とは一体なんだろうか。怪物か。いや彩しか。それとも......神か。
 頭にあらゆるものが浮かんでくる。想像する度気になってくる。鬼神王は立ち上がり、ふわりと浮かんだ。そして陣が描かれている岩の付近までいく。
 心臓がドクドクと大きくなる。良くないことをしているからだ。バレたらどうなるのだろうか......。
 鬼神王は岩に触れようとした。


『......て............り......』

「!」


 突然、声が聞こえた。これは女の声だ。この前も聞こえた。鬼神王は怖くなり岩に触れる寸前で手を引っ込めた。


『......て......ぐ.........り......』


 次は男の声だ。
 鬼神王は炎を出し、辺りを照らした。しかし誰もいない。聞こえるのは声だけだ。
なんと言っているのかよく分からない。


「て......ぐ......り?」


 なにかの暗号だろうか。しかしいくら考えても何も分からない。
 すると突然、強風が吹いた。鬼神王は危うく飛ばされそうになったが、何とか絶えた。風が止むと鬼神王は岩から離れ、急いで地面に着地した。


「そろそろ帰ろう」


 なんとなく良くないことが起こりそうな気がした。鬼神王は早歩きで戻ろうとする。すると、後ろから何者かに引っ張られているような気がして、振り返った。体が重い。しかし誰もいない。


「......っ」


 鬼神王は走って森を出ていく。シュヴェルツェが言っていた通り、ここは危険な場所だ。夜に一神で立ち寄るところでは無い。

 森を出ると、息を切らせた鬼神王は近くの木のベンチに座った。あの時、危険と言われた場所に立ち寄らず、真っ直ぐ帰ればよかったのかもしれない。そうしていたら、こんな怖い思いをすることはなかったはずだ。


(明日はヴェルに謝ろう。そして人間を不幸にさせて、鬼神たちと遊んで......それから......)


 月を眺めながらぼんやりと明日の予定を考えていた。すると、後ろの方から足音が聞こえてきた。


「鬼神王」


 声を聞かなくても誰だか分かった。歩く度コツコツと音が響く。この音、この声、ルーシェだ。


「ルーシェさん......」


 なぜこんな時間にこんなところにいるのだろう。ルーシェは変わらず不機嫌そうな顔をし、鬼神王の隣に座った。


「ルーシェさん、なぜこんな時間に?」
「俺こそ聞きたい。ヴェルに何も言われないのか?」


 確かにそうだ。この国の王がこんな夜中に一神、疲れきった様子でベンチに座っている。そちらの方が気になるだろう。鬼神王は先程あったことを全て話した。


「なるほどな。......ちなみに俺はいつもこの時間、一神で散歩をしている。今日だけでは無い」
「眠くならないのですか?」


 ルーシェは頷いた。どうやらルーシェは夜行性らしい。今日は祭りだったため、昼間起きていたのだが、普段は眠っているそう。......と言っても、眠る時間は最高でも三時間ほど。短眠者(ショートスリーパー)なのだ。


「......」
「......」


 話題が何も思い浮かばず、二神の間に沈黙の時間が流れる。鬼神王は気まずいと思っているのだが、ルーシェはなんとも思っていないようすだ。

 一分ほど時間が経った。鬼神王はなにか話そうと思い口を開いた。


「寂しく......ないのですか?」
「寂しい......か...」


 ルーシェは顔を下に向けた。


「......寂しいよ」


 声のトーンが低い。鬼神王はちらりとルーシェを見た。ルーシェは腕を組み、下を見つめている。なにか複雑なことがありそうだ。


「......昔は......こんな時間に起きていなかったんだよな」


 ルーシェは昔のことを話し始めた。鬼神王は頷きながら聞く。


「アイツ......メリーナが俺の弟子になってからだよ。最初、俺は俺のやり方を教えればそれでいい......そう思っていた」


 メリーナが話してくれたことと繋がる。メリーナに聞いておいて良かったと心から思った。


「けれど、アイツは俺のやり方についていけなかった。師匠になったならもう少し強くならなければ。アイツみたいな弱いやつでも短時間で強くなれるような方法を教えてやらなければいけない。そう思って、夜遅くまで起きて、一神で鍛錬していた。そして昼間、アイツがきたら教える。そういう日々を繰り返していたら、こうなった」


 メリーナのために夜遅くまで起きてメリーナのために考えていたとは。それだというのにメリーナは弟子をやめた。 メリーナ本人は気づいないのだろう。知っていたらあんな簡単にやめたりなんかしない。


「けどさ......お前にとられたんだよ」


 ルーシェは足を組み、ため息をついた。
鬼神王は何も言えなくなった。とられた......とったつもりはないが、今メリーナは鬼神王の側近だ。とったと言われても納得はいく。


「ある日突然俺の前から姿を消した。そして気づいたらお前のそばにいた」


 ルーシェは歯を食いしばった。


「許せなかった。いくら頑張っても叶わない、ヴェルからの誘いでお前の側近になったこと。簡単に俺を見捨てて、お前の傍で笑っていることが。悔しいんだよ」


 ルーシェが最初から鬼神王に当たり強いのはそういう理由があったからか。鬼神王には家族はいない。となると大切な仲間がいないと一神ぼっちだ。ルーシェにとって、メリーナは妹、もしくは娘のような存在だったのだろう。そんな存在のものが、突然離れていった。そして自分より強い相手によって奪われた。
 自分だったらどうだろうか。きっとルーシェと同じで許せないだろう。叶わない相手にすべて持っていかれる。たとえ、側近になったとしても、自分の前に姿を表せばそれで良い。時々会いに来てくれればそれでよい。しかしメリーナは違う。メリーナは城にこもりっぱなしだ。彼女自身はそれを嫌とは思っていない。出ようと思えば出れるからだ。
 恐らく、メリーナはルーシェとあまり会いたくないのだろう。今日会った時は嬉しそうにしていたが、内心申し訳ない気持ちでいっぱいだったのだろう。あんなに頼んで弟子にさせてもらったのに、簡単にやめてしまったのだ。成長したところも見せられずに......。
 ルーシェは誰かといることは少ない。


「ごめんなさい」
「なんで謝る」


 ルーシェは足を組み直し、鬼神王を見た。


「確かにお前のせいでメリーナは修行を辞めたし、お前に負けた。お前には腹立つことばかりだよ」
「......」
「けど、お前に負けて良かったのかもしれない」


 鬼神王は眉をひそめ、強く握りしめていた手を緩めた。


「おかげでただ目標もなく、ダラダラと過ごしていた日々が変わりそうだよ。俺にはまだまだ修行が必要。強くなって、いつかお前に勝つ。そしてメリーナが戻って来てくる。それが俺の目標だ」


 ルーシェは珍しく微笑んだ。メリーナは決してルーシェが弱かったから辞めたのでは無い。けれど事実を教えるのが必ずしも良いとは思わない。ここで事実を言って落ち込ませるつもりは無い。目標が出来たというのならば、史実を教える必要はないだろう。


「負けませんからね!」
「望むところだ!」


 ライバルが出来た。ルーシェは強かった。恐らくいつも通りのんびり過ごしているといつか越されてしまうかもしれない。負けたくない。けれどルーシェを応援したくなってしまう。しかし自分は王だ。負けてはいけない。その応援したい気持ちを抑え、これから戦っていかなくてはいけない。


「そういえば......俺、ずっとお前のこと見下してたけど、お前に負けたことだし......俺の喋り方失礼だよな。......すいません」
 

 見下していた......という言葉はどうしても気になってしまい聞き流せないが......確かに、王に対して呼び捨てタメ口はかなり失礼だ。できるのはルーシェだけだ。しかし鬼神王はルーシェに敬語を使っている。これはとてもおかしいことだが......鬼神王は首を横に振った。


「そのままで大丈夫です。変えたら逆に違和感があって嫌です」
「えっ......あー......わかった」


 王がそういうのであれば大丈夫だろう。鬼神王は微笑んでそう答えた。

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