レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと

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街道調整編

第2話 地図にだけ見える道

 森の中は、思ったよりも静かだった。

 街道から数歩入っただけで、空気が変わる。
 風に揺れる葉の音と、遠くで鳴く鳥の声だけが耳に残った。

「……ほんとに、道なんてあるのか?」

 自分に言い聞かせるように呟きながら、視界の端に浮かぶ地図を見る。

 そこには、確かに表示されていた。
 街道から分岐し、森の奥へと続く――細い点線の道。

 足元には、踏み固められた跡もない。
 だが、一歩進むたびに、地図の線ははっきりしていく。

「見えてるのは……俺だけ、か」

 背筋に、ひやりとしたものが走った。

 普通なら、未知の森に一人で入るなんて正気じゃない。
 冒険者登録したばかりの新人なら、なおさらだ。

 それでも、足は止まらなかった。

 ――このスキル、ただの地図じゃない。

 直感が、そう告げていた。

 しばらく進むと、地図に新しい表示が現れる。

【未踏破エリア】
【危険度:低】
【魔物反応:微】

「……こんなの、聞いてないぞ」

 危険度が低い。
 その表示に、少しだけ安堵する。

 やがて、木々の間が開け、小さな空間に出た。

 そこにあったのは――
 半ば崩れた石造りの入口だった。

「遺跡……?」

 苔に覆われ、意図的に隠されていたかのような構造。
 街の近くに、こんなものがあるなんて、聞いたことがない。

 地図には、入口の奥までしっかり描かれている。

 そして、入口の上に浮かぶ文字。

【簡易ダンジョン】
【推奨レベル:3~5】

「……俺、レベル1なんだけど」

 思わず苦笑する。

 だが、同時に思った。

 ――ギルドが把握していないダンジョン。
 ――しかも、危険度は低め。

 これを報告すれば、確実に評価は上がる。
 最悪、入口だけ確認して戻るという手もある。

 入口に一歩、足をかけた、その瞬間。

 地図が、赤く点滅した。

【警告】
【魔物接近】

「っ……!」

 反射的に後ずさる。

 森の奥、気配が動いた。
 姿は見えないが、地図には――三つの赤点。

「やば……囲まれる」

 街道へ戻る道筋が、地図上ではっきりと示される。
 逃げ道が“見える”という感覚に、背中を押された。

 俺は振り返り、全力で走り出した。

 ――戦えない。
 ――でも、生き残る道は分かる。

 その事実が、胸の奥で静かに確信へと変わっていった。

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