死にたくないので、今世は「悪女」の看板を下ろして「聖女」の利権を奪い尽くします

あめとおと

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第3話:想い出の場所? いいえ、そこは今「工事中」です


「お姉様! ひどいわ、あんな言い方……っ!」

公爵邸に帰るなり、ミアが涙を浮かべて食ってかかってきた。
後ろには、彼女を庇うように王太子アルベルトが立っている。

「レオノーラ、今日の君はやりすぎだ。ミアはただ、善意でカシアンを助けようとしただけなんだぞ」

アルベルトの非難の眼差し。
前世までの私なら、この視線一つで胸が締め付けられ、必死に弁解していただろう。
けれど今の私には、彼の言葉はただの「騒音」にしか聞こえない。

「あら、殿下。善意があれば、他人の手柄を横取りしても許されるのですか? それは王族として少々、不用心な考えではありませんこと?」
「な……っ」

言葉に詰まるアルベルトを無視して、私は優雅に書類を差し出した。

「それより殿下。例の『北の離宮の裏庭』……あそこ、私が私費で買い取らせていただきました。本日より大規模な改修工事に入りますので、立ち入りはご遠慮くださいませ」

ミアの顔から、さっと血の気が引いた。
あそこは来週、ミアがアルベルトを呼び出し、「二人だけの秘密の約束」を交わすはずの運命の場所。
そこで二人は、幼い頃に一度だけ会ったことがあるという「偽りの思い出」を捏造し、愛を深めるのだ。

「えっ……!? あの庭を……工事……?」
「ええ。あそこは湿気が多くて、今のままでは不衛生でしょう? だから全て根こそぎ掘り返して、底から入れ替えることにしたの。……ああ、そういえば、古びた約束のペンダントでも埋まっていそうな汚い穴もありましたけれど、ゴミと一緒に処分させておきましたわ」

「ゴミ」と言い切った瞬間、ミアがガタガタと震え出した。
彼女が用意していた「再会の証拠」を、掘り返す前に物理的に消滅させたのだ。

「レオノーラ! 許可も得ずになんという暴挙を!」
「私有地の管理をどうしようと、私の自由ですわ。……それとも殿下、あんなジメジメした場所で、義妹と『密会』でもするご予定でしたの?」

「……っ、そんなわけがあるまい!」
顔を赤くして否定するアルベルト。
だが、その心には確実に「疑念」と「違和感」が芽生え始めていた。
いつもは自分に縋ってくるはずの婚約者が、一度も自分と目を合わせず、淡々と「自分たちの居場所」を奪っていく。
その時だった。

「――お騒がせしているようだね。レオノーラ嬢」

重厚な声とともに、広間に一人の男が入ってきた。
アルベルトが息を呑み、ミアが恐怖に顔を強張らせる。

現れたのは、隣国の若き皇帝であり、この世界で唯一「聖女の補正」が効かないと言われる魔力無効化体質――ギルバート。
前世では、物語の終盤に「死神」としてこの国を滅ぼしに来た男だ。

「ギ、ギルバート陛下!? なぜ我が国に……」
「レオノーラ嬢に、先日の『お礼』を言いに来ただけだ。彼女のおかげで、我が国の深刻な干ばつが防げたのでね」

私は優雅にカーテシーをした。
ミアが「聖杯」で自分の名声を上げようとしていた裏で、私はすでに隣国と「水利権」の契約を済ませていたのだ。もちろん、聖女の奇跡など使わない、高度な土木魔術の理論を添えて。

ギルバートは、立ち尽くすアルベルトを一瞥もしないまま、私の手を取り、その甲に深く唇を落とした。

「この賢明で強欲な令嬢を、ただの『婚約者』として腐らせておくとは。……この国の王太子は、よほど目が腐っているらしい」

「な……何をっ!」
「レオノーラ。君の望むものは、この国にはもうないだろう? 全て奪い尽くしたら、私の元へ来るといい。……君に相応しい『玉座』を用意して待っている」

ギルバートの射抜くような視線。
それは「愛」というよりも、より深く重い「執着」の色を帯びていた。

隣でミアが「嘘よ……あんなイケメン、シナリオにいない……!」と絶望的な顔で呟いている。

一方のアルベルトは、自分の所有物だと思っていた婚約者が、自分より遥かに格上の男に口説かれている光景に、経験したことのない激しい焦燥感――「失いたくない」というどす黒い後悔を、初めて抱き始めていた。



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