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第12話(最終話) ミレイア商店の日常
王都エルドラの朝。
市場通りは、いつものように賑わっていた。
野菜を売る声。
焼きパンの匂い。
馬車の音。
そして――
「はい次」
ミレイア商店の前には、長い列ができていた。
ミレイアは机の前で叫ぶ。
「ちょっと待って!順番守って!」
並んでいるのは、普通の町の人だけではない。
商人。
騎士。
そして――
「魔導ランタンの修理依頼だ」
王城の騎士。
ミレイアが頭を抱える。
「なんで王城の人まで並んでるのよ!」
店の奥では、リクトが机に向かっていた。
カチャカチャ。
魔導具を分解している。
ミレイアが叫ぶ。
「リクト!今日だけで三十件よ!」
「うん」
「手伝って!」
「やってる」
リクトはマイペースだった。
その様子を見て、客の一人が言う。
「本当にこの人が魔導塔を直したのか?」
別の客が答える。
「そうらしいぞ」
市場ではもう有名な話だった。
王都中央魔導塔を直した修理屋。
だが本人はいつも通りだった。
ミレイアは帳簿を見ながら言う。
「依頼が増えすぎてる……」
そのときだった。
カラン。
店の扉が開く。
ミレイアは顔を上げた。
「いらっしゃい……」
言葉が止まる。
店の入り口に立っていたのは――
金色の髪の少女。
後ろには騎士が二人。
ミレイアは固まった。
「……王女様?」
エリシア王女はにこりと笑った。
「こんにちは」
店の客たちが一斉に振り向く。
騎士が小さく言う。
「道を空けてください」
店の中がざわめく。
ミレイアが慌てる。
「ちょ、ちょっと待ってください!こんな店に!」
エリシアは普通に言った。
「依頼があるの」
ミレイア
「王城からじゃなくて!?」
「今日は個人的に」
リクトは机の前で言った。
「次」
ミレイア
「王女様よ!?」
リクト
「順番」
客の一人が慌てて言った。
「いやいや俺は後でいい!」
別の客も言う。
「殿下が先だ!」
エリシアは少し笑った。
「ありがとう」
そしてリクトの前に座る。
リクトは聞いた。
「なに壊れた?」
エリシアは小さな箱を出した。
それは古い魔導オルゴールだった。
「これ」
ミレイアが言う。
「かわいい」
エリシアは説明する。
「母からもらったものなの」
「音が出なくなってしまって」
リクトはオルゴールを手に取る。
カチャ。
裏蓋を開ける。
「歯車」
「壊れてる?」
「曲がってる」
エリシアが少し心配そうに聞く。
「直る?」
リクトは普通に答えた。
「直る」
カチャ。
小さな工具で歯車を調整する。
カチ。
カチ。
数分後。
リクトは蓋を閉めた。
「回して」
エリシアがつまみを回す。
カチ。
次の瞬間。
優しい音色が流れた。
店の中が静かになる。
ミレイアが小さく言う。
「綺麗……」
エリシアは少し驚いた顔をしている。
「もう直ったの?」
リクト
「うん」
王女はオルゴールを見つめた。
そして小さく笑った。
「ありがとう」
ミレイアが聞く。
「お代は……」
エリシアは考えた。
そして言った。
「じゃあ」
ミレイア
「じゃあ?」
「王城からの依頼、これからもお願いね」
ミレイア
「それ報酬じゃない!」
ロイドが店の奥から現れた。
「十分な報酬だと思うが」
ミレイア
「いつからいたんですか!」
ロイドは笑っている。
「研究院の仕事帰りだ」
カイルも後ろにいた。
「最近この店に研究者が通い始めてるんですよ」
ミレイア
「なんで!?」
ロイドが言う。
「彼の理論を知りたいからだ」
リクトは次の修理を始めている。
カチャカチャ。
エリシアがその様子を見て言った。
「あなた、本当に変わらないのね」
リクト
「?」
「王都の英雄になったのに」
リクトは首を傾げた。
「修理屋」
ミレイアが笑った。
「まあそうね」
店の外では、人々の声が聞こえる。
市場の賑わい。
王都の生活。
中央魔導塔は、今日も空に静かに光っている。
そしてその王都の片隅で。
今日も一人の修理屋が、魔導具を直していた。
出世にも。
名声にも。
興味はない。
ただ――
壊れたものを直すのが、好きだから。
ミレイア商店は今日も忙しい。
「次!」
リクトは顔を上げる。
「はい」
王都で一番の修理屋の、いつもの一日だった。
― 完 ―
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