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第二話 呼び出し
しおりを挟むある地方のコールセンターで夜勤のバイトをしていた、T君の話です。
そこは通販の注文を受ける窓口でしたが、深夜2時を過ぎるとパタリと電話が止まります。広いフロアに数人だけのスタッフ。
静寂の中に、パソコンのファンの音だけが響く時間帯です。
0秒の着信
ある夜、T君のヘッドセットが鳴りました。
モニターには「非通知」の文字。
規定通りの挨拶をして電話に出ましたが、相手は何も言いません。
「……もしもし? お電話が遠いようですが」
受話器の向こうからは、「ザーッ……」という砂嵐のような音と、微かに「コン、コン、コン」と硬いものを叩くような音が聞こえるだけです。
イタズラ電話だと思い、彼は通話を切りました。
しかし、切った瞬間にまた鳴ります。
出ると、また無言。
それを数回繰り返したあと、T君は異変に気づきました。
電話が繋がる「前」から、ヘッドセットの向こうで「声」がしているのです。
同期
「……たす……けて……」
蚊の鳴くような、細い女の声でした。
驚いてヘッドセットを耳から離しましたが、声は止まりません。
それどころか、隣の席の同僚や、リーダーのデスクにある電話からも、一斉に「……たす……けて……」という声が漏れ始めました。
フロア中の電話機が、着信もしていないのに、一斉に鳴動(共鳴)し始めたのです。
「おい、これ何だ!?」
リーダーが慌てて主装置の電源を切りました。
一瞬、静寂が戻ります。
しかし、次の瞬間。
「ギ、ギギッ……!!」
という凄まじいハウリング音がフロアに響き渡りました。
それは音というより、物理的な衝撃でした。
T君はあまりの音圧に耳を押さえてうずくまりましたが、その時、見てしまったのです。
誰もいないはずのフロアの奥。
一台の電話機から、黒い霧のようなものが這い出し、空中に「人の耳」の形を形作っていくのを。
浸食
その夜を境に、T君の耳からは音が消えなくなりました。
病院に行っても「異常なし」。
しかし、彼の耳の奥では、あの夜のハウリングの残響が、ずっと、ずっと鳴り続けているのです。
しかも、その音は日に日に「言葉」へと変わっていきました。
「……あ……つ……い……」
「……だ……し……て……」
「……こ……っ……ち……に……きて……」
音が大きくなるにつれ、彼の視界も歪み始めました。
鏡を見ると、自分の耳の穴から、小さな、黒い指先のようなものが突き出しているのが見えたそうです。
結末
T君はその後、精神を病んで失踪しました。
彼が最後に残した日記には、震える文字でこう書かれていました。
「あの音は、僕の耳の中で鳴っているんじゃない。
僕の体を通って、あっち側の誰かが、こっちに来ようとしているんだ。
今も聞こえる。
ガリ、ガリ、と、僕の鼓膜を内側から破ろうとする音が。」
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