消えない残響:ずっと、誰かがいる

あめとおと

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外伝「筋肉(マッスル)除霊」

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ある日、超有名心霊スポットの廃病院に、一人の男が足を踏み入れました。

名は「剛田(ごうだ)」。

趣味はベンチプレス、座右の銘は「筋肉は裏切らない」。

彼は幽霊を信じていません。

「この世の悩みは、だいたいスクワットで解決する」と本気で思っている男です。


01. 恐怖の先客

剛田が廊下を歩いていると、背後から「……あ……け……て……」という例の声が聞こえてきました。

普通なら腰を抜かす場面ですが、剛田はピタリと足を止め、振り返りました。

「ん? 誰だ? 補助(スポット)に入ってくれるのか?」

そこには、クローゼットから這い出してきた例の「血まみれの老女」がいました。彼女は震える指を突き出し、剛田に襲いかかろうとします。

「お前……前腕の血管(バスキュラリティ)がすごいな! いい絞りだ!」

剛田は恐怖するどころか、老女の腕の筋肉のカットに感動してしまいました。


02. 音への対処

次に、彼の耳元で「……たす……けて……」という耳鳴りのような声が響きます。

剛田は耳を塞ぐどころか、おもむろにワイヤレスイヤホンを装着しました。

「悪い、今から追い込み(トレーニング)なんだ。BGMは爆音のメタルじゃないと集中できなくてな!」

耳鳴りの残響は、時速160キロのツーバスドラムと重低音ベースにかき消され、物理的に粉砕されました。
幽霊の声は、もはやノイズキャンセリング機能の敵ですらありませんでした。


03. 視覚の敗北

最後は「顔のない男」の登場です。

部屋の隅に現れたその怪異は、じっと剛田を睨み(睨む顔はありませんが)、精神を崩壊させようとします。

しかし、剛田はシャツを脱ぎ捨て、鏡の前でポージングを始めました。

「見てくれ、この大胸筋! サイド・チェストッ!!」

「顔のない男」の目の前で、はち切れんばかりの筋肉が躍動します。

男が手を伸ばそうとすると、剛田の放つ凄まじい熱気(代謝)とプロテインのシェイカーから漏れたバニラの香りに気圧され、男の輪郭がみるみる薄くなっていきます。


結末

ついに、霊たちは悟りました。

「こいつ……怖がる隙(筋肉の隙間)がない……!」

幽霊たちは「やってられん」と言わんばかりに、スゥーッと消えていきました。

廃病院には、剛田の「あと1レップ! いけるぞ自分!」という咆哮だけが響き渡りました。

後日、その廃病院からは一切の怪奇現象が消え、代わりに「深夜、どこからかプロテインの香りがする超健康スポット」として有名になったそうです。
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