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第三章
誰だって、「自分の人生」の主人公なんじゃよ
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「それで、丘の上に魔物が出たわけじゃな。」
王宮の城壁の上を見回りしつつ、ゆっくりとローガンさんが歩く。僕はローガンさんの後ろを付いて歩きながら、うなずいた。
「そうなんです、カラスかと思ったら、巨大なキラー・レイブンでした。」
もう日が暮れて、星が夜空に見え始めている。
リサ王女はあの後、兵士たちになだめられて、王室の寝所に帰って行った。それが当たり前だ。
僕はといえば、ローガンさんに2人だけで話を聞かせてほしいと言われ、外を見回りすることにして、城壁のところまでやってきた。夜風が、やさしく頬をなでる。ローガンさんが、僕の方を振り返った。
「魔物たちにも、生態系というものがある。あのあたりの丘に、キラー・レイブンのような凶悪なモンスターは出ないはずじゃ。先日のケルベロスといい、何かがおかしい。」
「異変が起きているのでしょうか?」
おそるおそる、聞いた僕から、ローガンさんはちらりと視線を外すと、考え事をするように星空を見上げた。
「何か、強い魔力を持つものが、そのあたりをうろついておる可能性もある。」
「強い魔力を持つもの……」
「その魔力にあてられた獣が、魔物化したことも考えられるしの。十分な警戒が必要じゃ」
「そういうものですか。」
僕は、分かったような、分からないような気持ちでうなずく。獣を魔物に変えるような、強大な魔力を持った存在など、あまりピンとこない。
「時に、おぬしについて聞きたいのじゃが。」
ローガンさんが、鋭い視線を僕に送る。僕は緊張して答える。
「はいっ!」
「オルブライトからの報告によると、また未来を見たそうじゃな。」
「そうなんです……!」
僕は、自分の身に起きたすべてを話した。ローガンさんは熱心に、時に短い質問を挟みながら、僕の話を聞いてくれた。
「……というわけなんです。一体、この指輪は何なんでしょう!?」
「なるほどな……。まあ、おぬしはあまり、知らん方がええ。」
ローガンさんは、穏やかに微笑みをたたえて、諭すように言った。何か知っているが、教えてはもらえないようだ。
僕はうつむくと、人差し指にはまった指輪をながめた。もうすっかり、肉体と同化してしまっている。外れそうにない。
僕は、急に自分の人生がどうなっていくのか、不安になった。
「僕は、いつだって、主人公にはなれなかったんです。」
ポツリ、とつぶやいた。
「……体力もないし、身長だって高くない。魔法だって、うまく扱えない。ステータスはすべて低く、特殊能力もゼロ。物語の脇役で、いつも話が進むのを眺める存在なんです。」
言葉があふれてくるのを、止めることができなかった。
「そんな人間が、なぜ、こんな不思議な指輪をはめて、奇妙な現象に巻き込まれているのか……自分でも、よく分からないんです。」
ふとローガンさんを見ると、いつになく真剣な目をして僕を見つめていた。この老宮廷魔道士は、どこか愁いを帯びた目で、僕の心に語りかけるように、言った。
「いつだって、主人公にはなれなかった魔道士、か。」
僕のことを、じっと見つめる。
「――誰だって、『自分の人生』の主人公なんじゃよ。」
ローガンさんの身にまとう魔道士のローブが、夜空を背景に、ゆるやかにたなびく。
「おぬしは、体力や魔力がない人間は、『能力がない』と勘違いしておる。しかしそれは、大きな間違いじゃ。たとえば、多くの女性は、子供を産むことができるな? ……これは、『生命を生み出す能力』じゃ。神秘的にして、究極の能力とも言える。それを持つ人間は、美しく、強い。そうは思わんかね?」
その言葉は、僕の心の奥に深く入ってくるようだった。
「誰もが、特殊な能力を持っておる。『人を愛することができる』、というのも、特殊な能力じゃ。『夢に向かって、努力することができる』とすれば、それもまた、特殊な能力じゃ。」
ローガンさんは、遠くの星をながめていたが、ふと僕の方を振り返ると、言った。
「よかろう、少しだけ教えてやろう。おぬしが今、はめておる、人生選択の指輪が何なのか。それは――」
僕は、じっと、次の言葉を待った。
「――それは、『人類の希望』じゃよ。」
「ジンルイノキボウ? なんですかそれは?」
ローガンさんが、古代から伝わる物語を、話し始めた。
王宮の城壁の上を見回りしつつ、ゆっくりとローガンさんが歩く。僕はローガンさんの後ろを付いて歩きながら、うなずいた。
「そうなんです、カラスかと思ったら、巨大なキラー・レイブンでした。」
もう日が暮れて、星が夜空に見え始めている。
リサ王女はあの後、兵士たちになだめられて、王室の寝所に帰って行った。それが当たり前だ。
僕はといえば、ローガンさんに2人だけで話を聞かせてほしいと言われ、外を見回りすることにして、城壁のところまでやってきた。夜風が、やさしく頬をなでる。ローガンさんが、僕の方を振り返った。
「魔物たちにも、生態系というものがある。あのあたりの丘に、キラー・レイブンのような凶悪なモンスターは出ないはずじゃ。先日のケルベロスといい、何かがおかしい。」
「異変が起きているのでしょうか?」
おそるおそる、聞いた僕から、ローガンさんはちらりと視線を外すと、考え事をするように星空を見上げた。
「何か、強い魔力を持つものが、そのあたりをうろついておる可能性もある。」
「強い魔力を持つもの……」
「その魔力にあてられた獣が、魔物化したことも考えられるしの。十分な警戒が必要じゃ」
「そういうものですか。」
僕は、分かったような、分からないような気持ちでうなずく。獣を魔物に変えるような、強大な魔力を持った存在など、あまりピンとこない。
「時に、おぬしについて聞きたいのじゃが。」
ローガンさんが、鋭い視線を僕に送る。僕は緊張して答える。
「はいっ!」
「オルブライトからの報告によると、また未来を見たそうじゃな。」
「そうなんです……!」
僕は、自分の身に起きたすべてを話した。ローガンさんは熱心に、時に短い質問を挟みながら、僕の話を聞いてくれた。
「……というわけなんです。一体、この指輪は何なんでしょう!?」
「なるほどな……。まあ、おぬしはあまり、知らん方がええ。」
ローガンさんは、穏やかに微笑みをたたえて、諭すように言った。何か知っているが、教えてはもらえないようだ。
僕はうつむくと、人差し指にはまった指輪をながめた。もうすっかり、肉体と同化してしまっている。外れそうにない。
僕は、急に自分の人生がどうなっていくのか、不安になった。
「僕は、いつだって、主人公にはなれなかったんです。」
ポツリ、とつぶやいた。
「……体力もないし、身長だって高くない。魔法だって、うまく扱えない。ステータスはすべて低く、特殊能力もゼロ。物語の脇役で、いつも話が進むのを眺める存在なんです。」
言葉があふれてくるのを、止めることができなかった。
「そんな人間が、なぜ、こんな不思議な指輪をはめて、奇妙な現象に巻き込まれているのか……自分でも、よく分からないんです。」
ふとローガンさんを見ると、いつになく真剣な目をして僕を見つめていた。この老宮廷魔道士は、どこか愁いを帯びた目で、僕の心に語りかけるように、言った。
「いつだって、主人公にはなれなかった魔道士、か。」
僕のことを、じっと見つめる。
「――誰だって、『自分の人生』の主人公なんじゃよ。」
ローガンさんの身にまとう魔道士のローブが、夜空を背景に、ゆるやかにたなびく。
「おぬしは、体力や魔力がない人間は、『能力がない』と勘違いしておる。しかしそれは、大きな間違いじゃ。たとえば、多くの女性は、子供を産むことができるな? ……これは、『生命を生み出す能力』じゃ。神秘的にして、究極の能力とも言える。それを持つ人間は、美しく、強い。そうは思わんかね?」
その言葉は、僕の心の奥に深く入ってくるようだった。
「誰もが、特殊な能力を持っておる。『人を愛することができる』、というのも、特殊な能力じゃ。『夢に向かって、努力することができる』とすれば、それもまた、特殊な能力じゃ。」
ローガンさんは、遠くの星をながめていたが、ふと僕の方を振り返ると、言った。
「よかろう、少しだけ教えてやろう。おぬしが今、はめておる、人生選択の指輪が何なのか。それは――」
僕は、じっと、次の言葉を待った。
「――それは、『人類の希望』じゃよ。」
「ジンルイノキボウ? なんですかそれは?」
ローガンさんが、古代から伝わる物語を、話し始めた。
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