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第三章
あなたたち、英傑王に伝えなさい
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ソウスケと、宮廷魔道士ローガンが城壁の上で会話を始める、15分前。
レイノルズ王宮の西門に、ふわり、と黒い影が降りたった。夜の闇に紛れているが、黒系の服装に身をつつんだ、奇妙な格好をしているようだ。
たちまち、西門の門番兵たちが、見とがめて言った。
「そこの者! 今、王門は閉鎖されている。早々に立ち去れ!」
月明かりが、黒い影を照らし出した。それは、長い黒髪の美女だった。髪は背中から、腰のあたりまで伸びている。黒いとがった帽子をかぶり、前髪が左耳の前で一筋、けだるげに垂れ下がっていた。
すらりとしたスタイルに、豊かな胸。スリットのはいったスカートからは、生脚がのぞく。妖しげな二重まぶたをしており、状況さえ異なれば、誰もが声をかけたいと思っただろう。
だが、彼女の背中からは、巨大な黒い翼が生えていた。周囲にまき散らかされる、強力な魔力の波動が、彼女が、普通の存在でないことを物語っていた。
「私たちは、世界の規則から逸脱したもの。王宮の規則なんて、知らないわ。――ただちにそこを開けないと、物言えぬ姿にするけど、いいのかしら?」
「おい、なんだこいつ! 気をつけろ!」
別の門番兵が、槍を構えて付け足した。
「不審な動きがあれば、捕縛するぞ!」
「……愚かね。」
美女が、口元で何事かつぶやいた。それは、かすかに聞き取れるか、聞き取れないかというほどの、魔法の詠唱のようだった。
次の瞬間、そこにいた門番兵3人は、石化していた。物言わぬ石像。魔法詠唱の直前の姿で、一人は槍を構えたまま、固い石になってしまっていた。
「では、通らせてもらうわ。」
美女は人差し指を西門に開けると、少し、指を動かした。
たちまち、巨大な木製の西門が、朽ち果てるようなかたちでみるみる内にひからび、バリバリを音をたてて、崩れ落ちた。
黒装束の美女は、コツ、コツ、と足音をたてて西門を通過し、レイノルズ王家の宮殿に歩いていった。
◇◇◇
レイノルズ王宮には、昼夜を問わず警護にあたっている近衛兵が数十人いる。いずれも腕に覚えのある猛者ばかりだ。
その近衛兵たちに、緊張が走った。
明らかに強大な魔力を持つ侵入者が、城門を突破した。それは、高レベル者たちなら何も言葉を交わさずとも、異常な気配として感じ取ることができた。
「これは……!」
「この規模の魔力は、経験したことがない……!」
近衛兵たちが慌てて、宮殿の正門前に集結すると、既に肉眼で見える距離に、黒髪の美女が近づいてきていた。満ち溢れた魔力を見にまとい、長い髪の毛がふわり、と闇夜にただよう。
「あれは……まさか、魔女!? なぜここに……」
誰かがつぶやくと、動揺がさざ波のように広がった。
「この大陸でも最高レベルの魔力を持つとされる『魔女』が……何の前触れもなく、攻めてきたというのか?」
黒装束の美女はゆっくり歩いて近づくと、首をかしげ、前髪を人差し指にくるくると巻き付けた。
「あら、お集まりなのね。さっき『眠りの波動』を出しておいたから、低レベルの人間は眠っているはずだけど……起きているということは、それなりの強さなのかしら。」
魔女は、そこらにいる雑草でも眺めるように、正門前の広場にいる数十人の近衛兵たちを見つめた。ふふ、と不敵に微笑みながら、話しかける。
「あなたたち、英傑王に伝えなさい。聞きたいことがあるから、『黒の魔女』が訪ねてきたって。」
レイノルズ王宮の西門に、ふわり、と黒い影が降りたった。夜の闇に紛れているが、黒系の服装に身をつつんだ、奇妙な格好をしているようだ。
たちまち、西門の門番兵たちが、見とがめて言った。
「そこの者! 今、王門は閉鎖されている。早々に立ち去れ!」
月明かりが、黒い影を照らし出した。それは、長い黒髪の美女だった。髪は背中から、腰のあたりまで伸びている。黒いとがった帽子をかぶり、前髪が左耳の前で一筋、けだるげに垂れ下がっていた。
すらりとしたスタイルに、豊かな胸。スリットのはいったスカートからは、生脚がのぞく。妖しげな二重まぶたをしており、状況さえ異なれば、誰もが声をかけたいと思っただろう。
だが、彼女の背中からは、巨大な黒い翼が生えていた。周囲にまき散らかされる、強力な魔力の波動が、彼女が、普通の存在でないことを物語っていた。
「私たちは、世界の規則から逸脱したもの。王宮の規則なんて、知らないわ。――ただちにそこを開けないと、物言えぬ姿にするけど、いいのかしら?」
「おい、なんだこいつ! 気をつけろ!」
別の門番兵が、槍を構えて付け足した。
「不審な動きがあれば、捕縛するぞ!」
「……愚かね。」
美女が、口元で何事かつぶやいた。それは、かすかに聞き取れるか、聞き取れないかというほどの、魔法の詠唱のようだった。
次の瞬間、そこにいた門番兵3人は、石化していた。物言わぬ石像。魔法詠唱の直前の姿で、一人は槍を構えたまま、固い石になってしまっていた。
「では、通らせてもらうわ。」
美女は人差し指を西門に開けると、少し、指を動かした。
たちまち、巨大な木製の西門が、朽ち果てるようなかたちでみるみる内にひからび、バリバリを音をたてて、崩れ落ちた。
黒装束の美女は、コツ、コツ、と足音をたてて西門を通過し、レイノルズ王家の宮殿に歩いていった。
◇◇◇
レイノルズ王宮には、昼夜を問わず警護にあたっている近衛兵が数十人いる。いずれも腕に覚えのある猛者ばかりだ。
その近衛兵たちに、緊張が走った。
明らかに強大な魔力を持つ侵入者が、城門を突破した。それは、高レベル者たちなら何も言葉を交わさずとも、異常な気配として感じ取ることができた。
「これは……!」
「この規模の魔力は、経験したことがない……!」
近衛兵たちが慌てて、宮殿の正門前に集結すると、既に肉眼で見える距離に、黒髪の美女が近づいてきていた。満ち溢れた魔力を見にまとい、長い髪の毛がふわり、と闇夜にただよう。
「あれは……まさか、魔女!? なぜここに……」
誰かがつぶやくと、動揺がさざ波のように広がった。
「この大陸でも最高レベルの魔力を持つとされる『魔女』が……何の前触れもなく、攻めてきたというのか?」
黒装束の美女はゆっくり歩いて近づくと、首をかしげ、前髪を人差し指にくるくると巻き付けた。
「あら、お集まりなのね。さっき『眠りの波動』を出しておいたから、低レベルの人間は眠っているはずだけど……起きているということは、それなりの強さなのかしら。」
魔女は、そこらにいる雑草でも眺めるように、正門前の広場にいる数十人の近衛兵たちを見つめた。ふふ、と不敵に微笑みながら、話しかける。
「あなたたち、英傑王に伝えなさい。聞きたいことがあるから、『黒の魔女』が訪ねてきたって。」
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