夢園師

YGIN

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16話 

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 一号車社内。

「まったく、なんですか、あの態度は」
 サクラコがプンスカとアロエに対して怒っている様を見て、車内は特に空気が悪くなる様子もなく、むしろ意気揚々だった。
「ははは、若いとは良いことだな、羨ましい限りだ」
 絶賛運転中のハスは、浅黒い肌をゆがめて柔和に笑んでいる。
 仕事にも根を詰めがちなハスにとっては、リフレッシュできる非常に良い機会だった。
 二列目では、ディーラー服のガーベラと可愛らしい白いワンピースを着たチームCのリナリアの仲良しコンビが話している。
「まずは世界を征服することから始めないとだよね」
 サクラコは、すぐ後ろでリナリアからとんでもない一言が繰り出されたことで思わず噴き出した。
 ――まるで妖精のような可愛らしい声をしておきながら、相変わずとんでもないことを言う子ね……。
 サクラコは、アロエのことなどより、二列目の話に聞き耳を立てざるを得なかった。
「大学でさぁ、唯一やり損ねたことと言えば、そっち方面だよねぇ」
 ガーベラが残念そうな口調で言う。
「そうそう、学生時代って、やっぱりどこか抜けているものだよね。物事を俯瞰的かつ多角的に見ることは意識していたけれど、結局存在すら認知してないことには及びがつかなかったっていうか」
「駄目だよねぇ、駄目だよねぇ、所詮私達ってその程度なんだよねえ。だから、やっぱりギャンブルで道を照らしていくしかないんだよね」
「いや、それは違うと思うけど?」
「えぇえええ?」
「いや、ガベちゃん、ほんと今度私の口座から無断でお金引き出したら殴るよ?」
「えええぇえええ。キャッシュカードと暗証番号まで教えてくれたんだから、普通使って良いって思わない?」
「思わない、最低、今この場で指切り落とす」
「よよよよよぉ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って、すぐ返すからちょっと待って。今、一発すごいの当てるから」
「ジャンクラットは絶対負けるからダメ!」

 遠部からみるだけならば、そこそこ可愛らしい女の子二人(ガーベラはちょっぴり病人ような顔しているが)談笑しているにしか見えないのかもしれなかったが、近場で聞けば危ない集団だ。
 ガーベラは勿論、学生時代同期だったらしいリナリアも、かなり変わり者である。下手に頭脳が優秀な分、余計たちが悪い。
 サクラコは話を聞いていると、頭が痛くなってきそうだったので、やはり聞き耳を立てるのを辞めることにした。

 ふと、三列目をこっそり覗くと、互いにだんまりを決め込んでいるアズサとギボウシが視界に入った。
 今日はどちらも黒のシャツを身に着けていた。悪い言い方をすれば被っていた。ペアルックかと見間違うほどに。

 それにしても、明らかに(主にアベリアの)悪意ある座席順だとサクラコは感じた。
 チームAで最も相性の悪い組み合わせは誰かと問われれば、間違いなく皆、アズサとギボウシを挙げるだろうからだ。
 サクラコは、ピリピリしている二人を少しでも和ませようと話を振ってみた。
「ギボウシは、今何か読んでいるの?」
 少し間があって、興味なさげにギボウシが返してきた。
「別に。乗り物酔いするから今は何も読んでいないね」
 しかし、水を得た魚のようにアズサが突っかかって来た。
「はっ。普段から本の虫を誇示しているのに、この程度の揺れで読めなくなるなんて軟弱ね」
 しまった、とサクラコは思った。
 素直にハスと、今度のチームCの任務についての詳細でも話しておけばよかったのに、と。
 だが、もう遅かった。
「乗り物酔いを精神論で推し量ろうなんて、君はやっぱり化石のような頭をしているんだね」
「はぁ? 男のくせに部屋の隅で本を読むことしかできない、身体も子どもサイズのミジンコ君に言われるなんて心外も良いところ」
「はぁ……。日々教養を高めることの重要さを、つゆほども理解できていないなんてね……。君はそういえば、動物園のサルのように、ただはしゃぎまわるだけのような男が好きなんだったね」
「は? 私は、精神も肉体も洗練されている逞しい男が好きなだけ。その言い方は語弊だらけ」
「じゃあ端的に言ってあげようか? 馬鹿が好きなんだろ? そう言えば君のお兄さんも……」
 即座、アズサが腰から短刀を取り出してギボウシへ斬りかかろうとしたため、ガーベラとリナリアが二列目のシートを乗り出してアズサを掴んだ。
「アズアズ、ここは夢の中じゃないよ。銃刀法違反だよ」
「そうだよ、ギボウシも言い過ぎだよ」
「くっ、離せ、こんなやつが居るからお兄ちゃんはっ……!」
「ハス! 止めて止めて!」
「おい、落ち着くんだ皆っ!」
 ギーッと、急ブレーキがかかり、ワゴン車は近くの民家の前で急停車した。
 勢いでガーベラとリナリアは三列目まで吹き飛ばされた。
 だが幸い、誰もアズサの短刀は刺さらなかった。
 暫し全員が静止したのち。
「全員、一旦、車から降りなさい!」
 サクラコがそうピシャリと言うと、彼らは熱くなるのを中断し、渋々と下車した。

 数分後。
「もしもし、カモミール?」
「どうしたんだい? 取り敢えずすぐ近くのコンビニエンスストアの駐車場に止めてみたけど」
「そうね。ちょっと、こちらで揉め事があったの。それで、そうね……、私達はちょっと遅れて向かうわ……」
「大丈夫かい?」
「ええ、ハスも居るし大丈夫よ」
「わかった、アロエとフリージアにも伝えておくよ。先着してテントなどの準備を進めておくからゆっくりおいで」
「ありがとう、助かるわ」

 サクラコは通話を切ると、まるで絵に描いたような白い入道雲が聳える空を眺めた。
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