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48話
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後日談。
この事件を受けて結局、フロニカミドという少女へチームCが夢介入するという一件は延期となった。
とはいってもこのキャンプは7月下旬の出来事であり、8月下旬には結局リナリアを含めたチームCは全員フロニカミドの夢へ突入することなる。またこれらの出来事でチームAやハスを含めたメンバーがごたついていたことが、チームC全員の死を回避できなかった要因であったかもしれない。
チームAの面々が正常な状態に戻るまで他チームを含めた活動は束の間消極化した。
8月上旬。昼。
サクラコは真夏だというのに、意識を回復させたフリージアを公園へと誘った。
「ごめんなさいね、公園で。でも私公園って好きなの」
「いえ、大丈夫ですよ、良く存じていますから……」
そうは言いつつも全身汗だく、額にも目一杯汗をしたためているフリージアは苦笑いを浮かべている。
まったくどうして、若々しい女性二人が談話しようというのに、それがお洒落なカフェではないのか。しかも季節は夏。太陽光線がギラギラと照り返し、ベンチも茹蛸の如く火照っている状態である。
相変わらずサクラコはセンスの欠片もないのだった。
「あまり長く話すつもりはないの。でも、ちょっとボタニカルの直属病院で話すのってなんか嫌でしょう?」
「そうですね……、それは確かに……」
しかしフリージアはもしかするとまだ冷房が効いているそちらの方がマシなんじゃないかとさえ思えてきた。あるいはサクラコは自分に対して嫌がらせをしたいのかもしれないとさえ感じてきた。
だが、サクラコは至って大まじめだった。
「単刀直入に聞いてしまうけれど、グラジオラスは死んだの?」
フリージアはその問いにやんわりと首を横に振った。
「いえ、彼、もとい私のもう一つの人格は私の中にあります。ただ、なんというか冬眠状態という言い方をすれば良いでしょうか。言葉で上手く説明するのは難しいですがそのような状態です。ただもう、あのような事をしでかすようなことはないと思います。私自身が今、彼の記憶を全て引き継いだ状態で、その全てを理解したうえで一つ一つ心を整理していますから」
サクラコはそれを聞くと安堵した。
「そう、それは良かったわ。といっても、既にシャクヤクに問い詰めて事の顛末は知っていたのだけれどね。でもアロエがまさかあんな自分の身を投げるようなことをするとは思わなかったから、フリージア、貴方の口から直接聞きたかっただけなのよ」
フリージアは続けた。
「そうでしたか。いえ、私もサクラコさんがそれを知っていることはわかっていたような気がします。元々アロエさんとは、グラジオラスではなく私自身がお話をする機会がそこそこあったんです。実をいうと、彼にはやんわりとではありますが、私自身の過去について示唆したこともあります。なぜでしょうか。ひょっとしたら私はアロエさんに好意があったのかもしれません。それでそれを受けて彼がどこまでを考えていたのかはわかりません。ですが結局グラジオラスにはたどり着かなかったのは事実でしょう。だからきっとあのキャンプの晩、私を糾弾しようとしていましたし、またシャクヤクさんの夢へ入った際に、後悔心のようなものが芽生えあのような行為に及んだのでしょう」
サクラコは頷いた。
「まぁ、そんなところでしょうね。え、というか、やっぱり貴方ってその……。アロエのこと好きなの……?」
フリージアは困惑したような表情を見せた。
「い、いえ、好意というか。私はその……男性には酷いことをされてきましたし、にも関わらず男性恐怖症になり得る記憶の破片は全てグラジオラスに押し付けていたために、自分の異性に対する物差しが崩壊してしまっていたんです。ですから、きっとそのようなグラついた行き場のない感情の落としどころとして、たまたまアロエさんのあのぶっきらぼうな気質が丁度手頃だったのでしょう。きっとただそれだけなんだと思います。ですから、別にサクラコさんからアロエさんを取ったりはしませんよ……?」
サクラコは汗だくになりながら、大きな声で反論した。
「はっ! いや、私がアロエが好きなんてそんなことある訳がないでしょう!? あ、あくまで貴方の感情を知りたかっただけよ! 私は別にあんな単細胞な男興味もないわ!」
フリージアは汗をぬぐいながら、サクラコのそんな狼狽ぶりを見てフフっと笑んだ。
「でもサクラコさんてすごく冷静沈着なイメージがあるのに、アロエさんの事になるといつもそうなるんですよねえ」
サクラコはまた声が上擦った。
「ちょ、ちょっと、フリージア? もしかして私をからかってるんじゃないでしょうねぇ?」
「さぁ、どうでしょうか……ふふ」
フリージアのそんな笑みとともに、公園内では子どものはしゃぎまわる声や、夏の風物詩たる蝉の鳴き声がこだましていた。
この事件を受けて結局、フロニカミドという少女へチームCが夢介入するという一件は延期となった。
とはいってもこのキャンプは7月下旬の出来事であり、8月下旬には結局リナリアを含めたチームCは全員フロニカミドの夢へ突入することなる。またこれらの出来事でチームAやハスを含めたメンバーがごたついていたことが、チームC全員の死を回避できなかった要因であったかもしれない。
チームAの面々が正常な状態に戻るまで他チームを含めた活動は束の間消極化した。
8月上旬。昼。
サクラコは真夏だというのに、意識を回復させたフリージアを公園へと誘った。
「ごめんなさいね、公園で。でも私公園って好きなの」
「いえ、大丈夫ですよ、良く存じていますから……」
そうは言いつつも全身汗だく、額にも目一杯汗をしたためているフリージアは苦笑いを浮かべている。
まったくどうして、若々しい女性二人が談話しようというのに、それがお洒落なカフェではないのか。しかも季節は夏。太陽光線がギラギラと照り返し、ベンチも茹蛸の如く火照っている状態である。
相変わらずサクラコはセンスの欠片もないのだった。
「あまり長く話すつもりはないの。でも、ちょっとボタニカルの直属病院で話すのってなんか嫌でしょう?」
「そうですね……、それは確かに……」
しかしフリージアはもしかするとまだ冷房が効いているそちらの方がマシなんじゃないかとさえ思えてきた。あるいはサクラコは自分に対して嫌がらせをしたいのかもしれないとさえ感じてきた。
だが、サクラコは至って大まじめだった。
「単刀直入に聞いてしまうけれど、グラジオラスは死んだの?」
フリージアはその問いにやんわりと首を横に振った。
「いえ、彼、もとい私のもう一つの人格は私の中にあります。ただ、なんというか冬眠状態という言い方をすれば良いでしょうか。言葉で上手く説明するのは難しいですがそのような状態です。ただもう、あのような事をしでかすようなことはないと思います。私自身が今、彼の記憶を全て引き継いだ状態で、その全てを理解したうえで一つ一つ心を整理していますから」
サクラコはそれを聞くと安堵した。
「そう、それは良かったわ。といっても、既にシャクヤクに問い詰めて事の顛末は知っていたのだけれどね。でもアロエがまさかあんな自分の身を投げるようなことをするとは思わなかったから、フリージア、貴方の口から直接聞きたかっただけなのよ」
フリージアは続けた。
「そうでしたか。いえ、私もサクラコさんがそれを知っていることはわかっていたような気がします。元々アロエさんとは、グラジオラスではなく私自身がお話をする機会がそこそこあったんです。実をいうと、彼にはやんわりとではありますが、私自身の過去について示唆したこともあります。なぜでしょうか。ひょっとしたら私はアロエさんに好意があったのかもしれません。それでそれを受けて彼がどこまでを考えていたのかはわかりません。ですが結局グラジオラスにはたどり着かなかったのは事実でしょう。だからきっとあのキャンプの晩、私を糾弾しようとしていましたし、またシャクヤクさんの夢へ入った際に、後悔心のようなものが芽生えあのような行為に及んだのでしょう」
サクラコは頷いた。
「まぁ、そんなところでしょうね。え、というか、やっぱり貴方ってその……。アロエのこと好きなの……?」
フリージアは困惑したような表情を見せた。
「い、いえ、好意というか。私はその……男性には酷いことをされてきましたし、にも関わらず男性恐怖症になり得る記憶の破片は全てグラジオラスに押し付けていたために、自分の異性に対する物差しが崩壊してしまっていたんです。ですから、きっとそのようなグラついた行き場のない感情の落としどころとして、たまたまアロエさんのあのぶっきらぼうな気質が丁度手頃だったのでしょう。きっとただそれだけなんだと思います。ですから、別にサクラコさんからアロエさんを取ったりはしませんよ……?」
サクラコは汗だくになりながら、大きな声で反論した。
「はっ! いや、私がアロエが好きなんてそんなことある訳がないでしょう!? あ、あくまで貴方の感情を知りたかっただけよ! 私は別にあんな単細胞な男興味もないわ!」
フリージアは汗をぬぐいながら、サクラコのそんな狼狽ぶりを見てフフっと笑んだ。
「でもサクラコさんてすごく冷静沈着なイメージがあるのに、アロエさんの事になるといつもそうなるんですよねえ」
サクラコはまた声が上擦った。
「ちょ、ちょっと、フリージア? もしかして私をからかってるんじゃないでしょうねぇ?」
「さぁ、どうでしょうか……ふふ」
フリージアのそんな笑みとともに、公園内では子どものはしゃぎまわる声や、夏の風物詩たる蝉の鳴き声がこだましていた。
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