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47話
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そのアロエが炎の中へ飛び込んでいく光景までを見て、サクラコは夢からロストした。
目を覚ますと、サクラコの眼には紺色の壁が広がっていた。
ここはどこだろうか。
サクラコがそう感じながらゆっくりと半身を起こすと、その内装を見てどうやらテント内だと確信した。
のそりとした緩慢な動作で、テントを後にしたサクラコ。
既に外は明るく、鳥の鳴き声が聞こえてくる。
朝だ。まだそこまで気温も高くなく、むしろ涼しい風が吹き抜けてきて気持ちが良い。
炊事場まで少し歩くと、グリルの前でハスがディレクターズチェアに座りながら朝食のウィンナーを焼いていた。
「おはよう、サクラコ」
「あら、おはようハス」
取り敢えずはハスへと挨拶するサクラコ。
だがその光景があまりに長閑過ぎて、イマイチ頭がすっきりしないサクラコは軽い欠伸をした。
おもむろに木製テーブルの前にある長椅子に掛ける。
「飲み物もそこにある。まずは朝食を取ると良い」
「ええ、ありがとう」
既にあったパンやサラダを口にしながら、ハスのバーベキューする様子を漠然と眺める。
そしてサクラコがモグモグとスライスされたゆで卵を頬張り始めたぐらいでハスが口を開いた。
「起床するのは君が一番最後だった。カモミールらは既にふもとの病院だ。ここにいるのはラナン、ナノハ、ガーベラ、リナリアだけだ。彼らは今三号車の捜索中だ。折れている雑木林にタイヤの跡を発見したのであの先にあるのは間違いないだろう。また、昨晩君達が巻き込まれた夢内部のことについては大方聞き及んでいる。だが、事態は取り敢えず収束したと言えるだろう。私にも様々思うところがあるが、今は君もゆっくりしていてると良い。大きな反省会はまた後でやれば良いのだ。君が落ち着いたらテント等の片付けに入り、昼前には山を出る予定だ」
ハスは焼き終えたウィンナーをサクラコの取り皿へ移すとニコリと微笑んだ。だが、その真っ黒な瞳の下は著しいクマが出来ていた。
「昨晩私達がシャクヤクの夢へ入った後の貴方達の経緯を教えてもらって良いかしら?」
ハスは快く肯いた。
「良いだろう。私はギボウシに負かされ暫く倒れていた。リナリアも同様だ。だから事の全てを見ていたのはラナンとナノハだけだ。彼等から聞いた話を基にすると、ギボウシがアロエに馬乗りとなり、あわやという場面でチームAの全員が突然昏倒した。その後それが夢介入に依るものだと直感した二人は、君達の身体を安全な場所へ運ぶことを試みた。私とリナリアは起こされ、それを手伝うこととなった。幸い、ギボウシが私に注射したのは軽い睡眠薬だったらしく、またリナリアも君によって気絶させられていたが、それほど重症でもなかった。我々は君達の身体を各テントまで輸送した。また昨晩の騒ぎについては酒の飲み過ぎで暴れてしまったということにしてある。無論二度とこのキャンプ場を利用することは叶わないだろうが幸い深くは追求されずに済んだ。最近、学生の若者達があれより派手な大喧嘩を引き起こしたこともあったそうで、あまり怪しまれずには済んだようだった。もとより夜も比較的遅い時間であったため丘にいた観光客は疎らだったことも良かった。と、まぁ、こんなところだろうか。後はともかく、我々は君達を注意深く夜通し見守った。アベリア、アズサ、いや特にフリージアとアロエが酷い状態になったため、祈るような気持だったが、幸い夜は明け、最も早くカモミールが目を覚ました。あとは事態を把握し、とにかく病院へと急いだ次第だ」
ハスはそこまで言い終えると間を置いた。
サクラコは返答する。
「そう。だとすると、貴方達一睡もしていないのね。それはとても悪いことをしたわ。むしろ休息をとるべきは貴方達ではないかしら?」
ハスは首を振った。
「いや、私やラナンらのことを気にすることはない。むしろ色々試したが結局何も手助けできなかったのだから責められるぐらいあって構わない。なに、一晩寝なかったぐらいで潰れるようなメンバーではないことは君もご存知の通りだ。あとはボタニカルに帰ってから休ませてもらうさ。とにかく一歩間違えば誰かが死んでいてもおかしくなかった。今は犠牲者がでなかったことをとにかくホッとしている」
―― 犠牲者……。結局あの後、フリージアのもう一つの人格。グラジオラスはどうなったのかしら……。
「そう、まぁ確かに私がハスの立場であれば同じことを思ったかもしれない。そうね、あまり追求するのは野暮ね。とにかく朝食を頂いてガーベラ達を待つわ」
「ああ、それが一番良い」
ハスは浅黒い顔をニコリと歪めた。
サクラコが朝食を取り終え、しばらくするとラナン、ナノハ、ガーベラ、リナリアが戻って来た。
ガーベラが呑気にハスへと報告した。
「発見したでありますハス大尉! あーれは、やばいぐらいグッチャグチャだったよー、凶器もあったし望遠鏡は壊れちゃってるし車もボロボロだよぉ。あれは弁償額ヤバいって絶対」
「そうね、ガベちゃんの家計も大変だね」
「なんで私が全部払うことになっちゃうの!?」
「ヒドイココロのユガミを感じマシタ。すごく、すごく興味深かった」
「うん、ラナン大好き……」
そんな彼らに対してサクラコは礼を言った後、全員で片付けに入った。
車についてはかろうじてエンジンはかかる状態だったため、散乱していたポテトやコーラ、望遠鏡の残骸など、整理できるだけを整理した。
ガーベラが「じゃあ、私のドライビングテクニックを披露するときが来ましたですかな!」とノリノリで運転免許証を掲げてきたが、その免許証をリナリアがボキリと折り曲げたため、結局元三号車はラナンが運転することとなり、助手席に言うまでもなくナノハが乗った。
「行こうか、サクラコ」
サクラコはキャンプ場の駐車場で、その風景をぼんやりと眺めていたが、やがてハスの促しを聞くと再び一号車の助手席へと乗った。
「とりあえず全員、ふもとの病院で落ち合うことになっている。そんなに離れている訳でもないのですぐ着くだろう」
そうは言ったものの、やはり少し眠たそうなハスの表情を見るとサクラコは申し訳ない気持ちになった。
目を覚ますと、サクラコの眼には紺色の壁が広がっていた。
ここはどこだろうか。
サクラコがそう感じながらゆっくりと半身を起こすと、その内装を見てどうやらテント内だと確信した。
のそりとした緩慢な動作で、テントを後にしたサクラコ。
既に外は明るく、鳥の鳴き声が聞こえてくる。
朝だ。まだそこまで気温も高くなく、むしろ涼しい風が吹き抜けてきて気持ちが良い。
炊事場まで少し歩くと、グリルの前でハスがディレクターズチェアに座りながら朝食のウィンナーを焼いていた。
「おはよう、サクラコ」
「あら、おはようハス」
取り敢えずはハスへと挨拶するサクラコ。
だがその光景があまりに長閑過ぎて、イマイチ頭がすっきりしないサクラコは軽い欠伸をした。
おもむろに木製テーブルの前にある長椅子に掛ける。
「飲み物もそこにある。まずは朝食を取ると良い」
「ええ、ありがとう」
既にあったパンやサラダを口にしながら、ハスのバーベキューする様子を漠然と眺める。
そしてサクラコがモグモグとスライスされたゆで卵を頬張り始めたぐらいでハスが口を開いた。
「起床するのは君が一番最後だった。カモミールらは既にふもとの病院だ。ここにいるのはラナン、ナノハ、ガーベラ、リナリアだけだ。彼らは今三号車の捜索中だ。折れている雑木林にタイヤの跡を発見したのであの先にあるのは間違いないだろう。また、昨晩君達が巻き込まれた夢内部のことについては大方聞き及んでいる。だが、事態は取り敢えず収束したと言えるだろう。私にも様々思うところがあるが、今は君もゆっくりしていてると良い。大きな反省会はまた後でやれば良いのだ。君が落ち着いたらテント等の片付けに入り、昼前には山を出る予定だ」
ハスは焼き終えたウィンナーをサクラコの取り皿へ移すとニコリと微笑んだ。だが、その真っ黒な瞳の下は著しいクマが出来ていた。
「昨晩私達がシャクヤクの夢へ入った後の貴方達の経緯を教えてもらって良いかしら?」
ハスは快く肯いた。
「良いだろう。私はギボウシに負かされ暫く倒れていた。リナリアも同様だ。だから事の全てを見ていたのはラナンとナノハだけだ。彼等から聞いた話を基にすると、ギボウシがアロエに馬乗りとなり、あわやという場面でチームAの全員が突然昏倒した。その後それが夢介入に依るものだと直感した二人は、君達の身体を安全な場所へ運ぶことを試みた。私とリナリアは起こされ、それを手伝うこととなった。幸い、ギボウシが私に注射したのは軽い睡眠薬だったらしく、またリナリアも君によって気絶させられていたが、それほど重症でもなかった。我々は君達の身体を各テントまで輸送した。また昨晩の騒ぎについては酒の飲み過ぎで暴れてしまったということにしてある。無論二度とこのキャンプ場を利用することは叶わないだろうが幸い深くは追求されずに済んだ。最近、学生の若者達があれより派手な大喧嘩を引き起こしたこともあったそうで、あまり怪しまれずには済んだようだった。もとより夜も比較的遅い時間であったため丘にいた観光客は疎らだったことも良かった。と、まぁ、こんなところだろうか。後はともかく、我々は君達を注意深く夜通し見守った。アベリア、アズサ、いや特にフリージアとアロエが酷い状態になったため、祈るような気持だったが、幸い夜は明け、最も早くカモミールが目を覚ました。あとは事態を把握し、とにかく病院へと急いだ次第だ」
ハスはそこまで言い終えると間を置いた。
サクラコは返答する。
「そう。だとすると、貴方達一睡もしていないのね。それはとても悪いことをしたわ。むしろ休息をとるべきは貴方達ではないかしら?」
ハスは首を振った。
「いや、私やラナンらのことを気にすることはない。むしろ色々試したが結局何も手助けできなかったのだから責められるぐらいあって構わない。なに、一晩寝なかったぐらいで潰れるようなメンバーではないことは君もご存知の通りだ。あとはボタニカルに帰ってから休ませてもらうさ。とにかく一歩間違えば誰かが死んでいてもおかしくなかった。今は犠牲者がでなかったことをとにかくホッとしている」
―― 犠牲者……。結局あの後、フリージアのもう一つの人格。グラジオラスはどうなったのかしら……。
「そう、まぁ確かに私がハスの立場であれば同じことを思ったかもしれない。そうね、あまり追求するのは野暮ね。とにかく朝食を頂いてガーベラ達を待つわ」
「ああ、それが一番良い」
ハスは浅黒い顔をニコリと歪めた。
サクラコが朝食を取り終え、しばらくするとラナン、ナノハ、ガーベラ、リナリアが戻って来た。
ガーベラが呑気にハスへと報告した。
「発見したでありますハス大尉! あーれは、やばいぐらいグッチャグチャだったよー、凶器もあったし望遠鏡は壊れちゃってるし車もボロボロだよぉ。あれは弁償額ヤバいって絶対」
「そうね、ガベちゃんの家計も大変だね」
「なんで私が全部払うことになっちゃうの!?」
「ヒドイココロのユガミを感じマシタ。すごく、すごく興味深かった」
「うん、ラナン大好き……」
そんな彼らに対してサクラコは礼を言った後、全員で片付けに入った。
車についてはかろうじてエンジンはかかる状態だったため、散乱していたポテトやコーラ、望遠鏡の残骸など、整理できるだけを整理した。
ガーベラが「じゃあ、私のドライビングテクニックを披露するときが来ましたですかな!」とノリノリで運転免許証を掲げてきたが、その免許証をリナリアがボキリと折り曲げたため、結局元三号車はラナンが運転することとなり、助手席に言うまでもなくナノハが乗った。
「行こうか、サクラコ」
サクラコはキャンプ場の駐車場で、その風景をぼんやりと眺めていたが、やがてハスの促しを聞くと再び一号車の助手席へと乗った。
「とりあえず全員、ふもとの病院で落ち合うことになっている。そんなに離れている訳でもないのですぐ着くだろう」
そうは言ったものの、やはり少し眠たそうなハスの表情を見るとサクラコは申し訳ない気持ちになった。
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