Gorilla smiled. Gorilla lamented.

YGIN

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Gorilla smiled. Gorilla lamented.

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 とある高台の丘。

 夕暮れになると次第に人の気配は増加し始める。
 連れ立って腕と腕を絡めるカップル。リストラされたサラリーマン。青春の只中で苦悩する学生。
 考えることは皆同様である。
 そこから更に時計の針が角度を変えると飛び切りの夜景が視界を覆うのだから。
 日常生活の苦しみを一過的にではあるが吹き飛ばすことが出来るのだから。

 ああ。まるでゴリラのように美しい夜景だ。
 私はゴリラ生物学准教授のゴリラとしてそう心中で思った。その夜景を自身の視界に広げることがこれで何度目だろうかと指を折って数えてみる。だが、折ったところで良くわからなかったため思考することを辞した。とにかくその夜景たるや、まるで国宝の宝石を散りばめたドレスの如く風光明媚であった。

 私が他の観光客と同じくそのような刹那的高揚感に身を窶していると、ある一頭のゴリラが高台に上ってくるのを視界に捉えた。
――ゴリラだ。
 私は夜景観察という趣味を大変高尚な趣味の一つであると感じており、そこには幾許かの矜恃があった。人間に負けず劣らぬ智慧。それを見出すに当たり格好たる趣味、胸をドラミングすることのできる趣味。それこそが正に『夜景観察』なのであった。だが目の前に表れたゴリラの何と品無き事であろうか。衣服を一糸纏わず裸体。靴も履かず裸足。凡そ二十二世紀の文明とは懸離れたその風体に私は酷い嫌悪感を抱かざるを得なかった。
 そのような原始生活を剥き出しとした身形で跋扈するゴリラが未だ地球の節々に絶え無い事が『現代ゴリラ差別』(※ゴリルガレイド・ゴリオ(2155)「現代ゴリラの実態とその問題点について」中央五里出版 を参照のこと)の根幹である事実に警笛を鳴らすゴリラは無論私だけではない。私は深遠な溜息を露にするとともに、そのゴリラへ人間社会の常識的マナーを説諭するため歩み寄ろうとした。
 どうせこのような若ゴリラが夜景に対して深い情景を心に見出す事など有り得ない。私はそう高を括っていた。
 しかしながら私はハタとその歩みを止めた。
 なんと目の前のゴリラは、夜景を瞳の中へ吸収するいなや、まるでそれに対し深い畏敬の念を返すかの如く、一縷の涙を流してきたのである。
 私はその光景を瞳に宿した時、まるで古い名作劇場映画のワンシーンを垣間見ているかのような郷愁的な心情に至った。
 正に私の邪推の真逆を突いたその様は、論理を越えた爆発であるとさえ言えた。
 ゴリラが持つ雄大な可能性の扉が突如として開かれたかのような、そんな目覚しい心境の境地に達するかのようであった。
 私は、改めてその若ゴリラを見澄ました。
 一見すると、ただのゴリラである。それも常識とは縁遠いタイプのゴリラだ。
 しかし、外見上はそうであったとしても、内面上はそうではないのだろう。
 彼の瞳の奥には、希望や絶望、怒りや哀しみ、嬉しみや慈しみ、その他千万の思い渦巻く『心』があるに違いなかった。そしてその『心』が夜景という自然と人口が融合した神秘に触れた時、溢れ出し呼応する幾千の思いが刺激となり、涙腺を緩ませたのであろう。
 今思えば、私は今迄識あるゴリラとしか関わらないというある種の閉鎖的なコミュニケーション関係を築いてきたように思う。それはレッテル張りという行為を自身が無意識下において行っていたという裏付けでもあったかもしれない。そう、何より私自身がゴリラを差別していたのかもしれないという紛れもない事実がそこにはあったのかもしれない。
 仮にも研究者の端くれである私が、そのようであっては未来の道筋は暗いばかりであろう。ゴリラの未来は細く、拙いものとなってしまうであろう。
 私は自身の内面を戒め、正すことを誓った。そして、その一歩として、眼前の若ゴリラと握手をすることを心に決めた。
 私は再び歩み始めた。
 若ゴリラが佇むその先へ。
 そして若ゴリラの目前まで迫ると、私はゆっくりと歩みを止め、言葉を紡いだ。
「親愛なるゴリラよ。ここで出会ったのも何かの縁だ。私と友達になってくれないか」
 そうして私は自身の右腕を、彼の眼前へと差し出した。
 少し照れ恥ずかしい気持ちにもなったが、ここからまた偉大なる未来が始まると考えると、それに対する胸の高鳴りの方が大きかった。
 数刻の後、若ゴリラは言った。
「いってえ、マジ目にでかいゴミ入ったわぁ、半端ねえわぁ。マジ有り得ねえ。あーあー、つかマジあんま可愛い子居ねえなぁ。狙い場って聞いたからわざわざこんな何もねえところに来たってのに」
「そおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!」
 私はけたたましい叫び声を上げると差し出していた右腕をそのまま高く掲げ、彼の頭に振り落とした。そして彼をひょいと掴み上げると、広がる夜景へと放り投げた。


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