【R18】僕の幼馴染は悪役令嬢らしい

蒼キるり

文字の大きさ
1 / 3

前編

しおりを挟む
 アルメル嬢に初めて会ったのは、七歳の頃。父上と共に訪れたパーティーで、僕はアルメル嬢に紹介されることになっていた。
 父上はとても緊張していた。なぜかというと、アルメル嬢は男爵家である我が家よりずっと高貴な公爵家の令嬢で、七歳という幼い身でありながら驚くほど聡明で、おまけにものすごくプライドが高いからだそうだ。
 僕がもしアルメル嬢の不興を買えば、最悪うちの領地を奪われる……ということになる恐れもある。そのくらいの身分差なのだ。

 頼むから怒らせるな、いい子にしてろ、アルメル嬢の言うことは全部聞け、と父上に言い聞かせられていると僕も段々と緊張してきた。人生で一番緊張したかもしれない。
 だから大人びた清楚なドレスを身に纏い、淑やかに紅茶を口にするアルメル嬢を前にして、いつものような振る舞いができなくなってしまったのは仕方ないと思う。父上が脅かし過ぎたせいだ。


「はじめまして、お会いできて光栄です」


 そう挨拶をしていたときに緊張でうっかり躓いてしまい、誤ってアルメル嬢をドンッと押してしまったのだ。
 もちろん故意ではない、事故だ。緊張によるミスだ。しかし身分が上の方にするには許されないミスだと僕でもわかった。
 アルメル嬢は目を丸くしながら、バタンッと床に転んでしまう。頭をしたたかにぶつけているのが見えた。父が隣で悲鳴を上げている。

 あ、僕の人生、終わった……


「お嬢さま!? お嬢さま、しっかりなさってください!」


 近くにいたメイドが真っ青になってアルメル嬢に駆け寄っている。
 アルメル嬢は小さく唸り、それから目を見開いてバッと起き上がった。
 ああ今から僕はどんな目に合わせられるんだろう……謝罪は受け入れてもらえるだろうか……生涯の汚点になるどころか平民落ちすらあり得るな……平民になったらどうしよう、あーせめて農地とか貰えないかな、貰えるといいな……
 なんて一周回って冷静に考えてしまっていると、アルメル嬢がいきなりわなわなと震え、自分の手を見つめながら叫んだ。


「わ、わ、わたし、悪役令嬢アルメルじゃないの!」


 いぃーやぁー! と叫び出すアルメル嬢に「お、お嬢さま!?」とメイドが動揺している。僕も動揺している。というか多分ここにいる全員が動揺している。
 え、なんで叫び出したの? そんなに強く頭を打ったのか? もしかして僕の人生だけでなく父上の人生も終わるのでは?
 ていうか、今アルメル嬢はなんて言った? 悪役令嬢? なんだそれ。


「アルメル様! この度は申し訳ありません! うちの愚息が粗相をしてしまい! 本当に申し訳ありません! 息子の不始末は親の不始末! どうか罰は息子にではなく、この私に!」


 真っ青な顔で言い募る父上に「おお、いつも兄さん贔屓のこの人も僕のためにこんなこと言ってくれるんだ」とこんな時に思うことではないがちょっと感動してしまう。
 父上の言葉を聞いたアルメル嬢はきょとんとした顔で首を振った。さっきまでのとっつきにくいオーラはどこかに吹っ飛んでしまったのか、親しみやすい雰囲気で父上を見ている。


「いいわ、そんなに気にしないで。ちょっと痛いだけだもの。それに子どものすることよ」


 怒ったりしないわ、とにっこりと微笑んでいる。言っていることが大人過ぎて混乱する。初対面の子どもに怪我させられそうになったんだぞ? いや僕が言うなって話だが。
 というか、本当にこの人はアルメル嬢なのか? 噂と全然違うんだけど。絶対冷たい目をして「どういう躾をなさっているのかしら?」くらいは言うと思っていた。噂なんて信用ならないってことだろうか?


「それより、あなた。そう、あなたよ! 本当にありがとう」

「へ? 僕、ですか?」

「そうよ! 思い出させてくれてありがとう。あなたがいなかったら、十年後には断罪されて処刑コース間違いなしだったわ」

「なに言ってるんだこの人」


 思わず口にしてしまっていた。だってなに言ってるんだこの人過ぎたから。父上に「なんて口をきくんだ!」と怒られてしまったけど。
 いやでもなに言ってるんだこの人くらい思うだろ。このまま普通に生きてたら同じかそれ以上の身分の人と結婚して幸せになる未来が確定してるような家柄の令嬢でなんで『断罪』だの『処刑』だのが出てくるんだ。
 そんなに頭を打ったのか? そうだとしたら罪悪感が出てくる。やっぱり僕の人生終わったのでは? いやもし頭を打って突拍子のないことしか言えない公爵令嬢になってしまったとしたらこの人の人生も終わりかもだが。


「あなた、お名前は?」

「……オドラン家のジルと申します」

「そう、ジル、ジルね。あなたみたいな人いたかしら。覚えてないから少なくとも攻略対象ではないということね。モブなのかしら。モブにしては可愛い顔してるわ」


 ふんふんっとなぜか鼻息荒く顔を近づけられる。別に嫌な気はしなかった。
 というかそれどころではない。動いて大丈夫なのか? 大怪我をしているのでは? 周りの人も早くこの人を医者に見せた方がいいのでは? 怒られるのが怖くて口を挟めないのか?


「本当にありがとう。私、今度こそ早死にはごめんだわ。まだ七歳だもの、人生これからよ。どうにかできるはず!」

「……まあ人生はこれからですね」

「でしょう? あなたとは話が合いそうだわ」


 にこっと微笑みながら手を握られる。綺麗なブロンドの髪が揺れ、透き通るように青い瞳に見つめられて、なぜか一瞬どきりとしてしまう。


「ねえ、私たち、友達になりましょう?」


 周りからなぜか歓声が上がった。父上は「よかった、命が繋がった!」と泣いていた。
 あと僕は歳より大人びているからもしかしたら何かの間違いでアルメル嬢に気に入られるのではという考えが当たったと喜んでいた。
 それは全くの偶然だと思うのでどうか先見の目があるとか勘違いしないでほしい。父上、調子に乗ると一気に失敗するタイプだと思うから。あとそういうことうっかりでもこの場で言わないほうがいいと思う。


「……こちらこそ」


 断るという選択肢があるわけもなく、僕は手をそっと握り返した。
 何故か胸がどきどきと高鳴る理由をこの時の僕はまだ知らなかった。


***


 そんなこんなで僕とアルメルは友達になった。アルメルはしょっちゅう可愛らしい招待状を僕の元に送ってくる。
 家に来ないかというお誘いなので、父上はいつも「行きなさい! 今すぐ行きなさい! アルメル様を一秒でも待たせてはいけない!」と背中をぐいぐい押してくる。落ち着いてほしい。
 そしてアルメル家に行くと「ジルジルジルー! 待ってたよー!」と盛大に迎えられ、二人でお茶を飲んだりお菓子を食べたり遊んだりする。すごく健全なお友達だ。
 アルメルはいきなり「悪役令嬢は断罪されて処刑されちゃうのよ、嫌ー!」とか「なんでみんなそんなに怖がるの!? 私は悪役令嬢みたいな振る舞いしないよ!?」などといきなり意味不明なことを叫ぶようになってしまったので、周りから前とは違った意味で怖がられるようになってしまったらしい。
 よって、友達は僕一人しかいないようだった。そのことにへこんでいるようだけど、別に僕がいるからいいんじゃないだろうか……なんて思ってしまう。


「アルメルってこんなに面白いのにね」


 僕以外の友達ができないなんて不思議だよね、と言うとさっきまで「このまま性格が悪いっていう噂が広がるっちゃう! そんなの原作のままじゃない!」と意味のわからないことを叫んでいたアルメルはきょとんと目を瞬かせ、それから「えへへ」と可愛らしく笑った。


「そんなこと言ってくれるの、ジルだけよ。お世辞でも嬉しい」

「僕は本当に思ったことしか言わないよ」

「ほんと? へへ、うれしい。ジルみたいに素敵な子がモブだったなんて信じられない。もしいたら絶対攻略してたのに」


 またよくわからないことを言ってる。そういうこと言ってるから僕以外の友達ができないんだよ。とは言ってあげないけど。
 だってアルメルが変なことを叫ばなくなって、普通のご令嬢みたいな振る舞いができるようになったら、絶対僕以外の友達がたくさんできてしまう。それはちょっと、かなり嫌なので。


「あ、でもヒロインの恋人になったら、私とは友達になれなかったわね。それは困るわ。私、絶対あなたとは仲良くしたいもの」


 にこっと笑いながら言われると、「そう」と答えながら紅茶を飲んで赤くなりそうな顔を誤魔化すしかない。


「ジルとずっと仲良しでいるためにも、しっかり破滅を回避しなきゃ!」


 むん! と拳を掲げて張り切っているようだ、相変わらず内容はよくわからないけど、アルメルが元気なのはいいことだ。
 僕もずっと仲良しでいたいと思ってる、アルメルの思っている友達としての仲良しとは違うけど。
 それをいつか伝えていいものなのかも分からず、僕はアルメルの顔を眺めながら紅茶を口にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

面食い悪役令嬢はつい欲に負けて性悪クズ王子の手を取ってしまいました。

トウ子
恋愛
悪役令嬢に転生したことに気づいた私は、いつか自分は捨てられるのだろうと、平民落ち予定で人生設計を組んでいた。けれど。 「まぁ、とりあえず、僕と結婚してくれ」 なぜか断罪の代わりに王太子に求婚された。最低屑人間の王太子は、私も恋人も手に入れたいらしい。断りたかったけれど、断れなかった。だってこの人の顔が大好きなんだもの。寝台に押し倒されながらため息をつく。私も結局この人と離れたくなかったのよねぇ……、と。 ムーンライトノベルズでも公開。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

世話焼き幼馴染と離れるのが辛いので自分から離れることにしました

小村辰馬
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢、エリス・カーマインに転生した。 幼馴染であるアーロンの傍にに居続けると、追放エンドを迎えてしまうのに、原作では俺様だった彼の世話焼きな一面を開花させてしまい、居心地の良い彼のそばを離れるのが辛くなってしまう。 ならば彼の代わりに男友達を作ろうと画策するがーー

淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫

梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。 それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。 飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!? ※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。 ★他サイトからの転載てす★

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

田舎の幼馴染に囲い込まれた

兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新 都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。

【完結】お父様(悪人顔・強面)似のウブな辺境伯令嬢は白い?結婚を望みます。

カヨワイさつき
恋愛
魔物討伐で功績を上げた男勝りの辺境伯の5女は、"子だねがない"とウワサがある王子と政略結婚結婚する事になってしまった。"3年間子ども出来なければ離縁出来る・白い結婚・夜の夫婦生活はダメ"と悪人顔で強面の父(愛妻家で子煩悩)と約束した。だが婚姻後、初夜で……。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...