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3.なぜか質問されました。

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 高揚した気分は一瞬にして冷めた。
 血の気が引くというのはこういうことか、と頭のどこかで思う。そんな場合ではないのに。
 ああ、どうしよう、どうしよう。なんてことを言ってしまったんだ、こんなつもりじゃなかったのに。
 いや、でも、そんなに大きな声ではなかったし、いやでも先輩には聞こえてる、ああ、どうしよう、他の人には聞こえてないことを祈るしかない。


「あ、あの、あの、おれ……」


 謝らなきゃ。とにかく謝らなきゃ。
 恐る恐る先輩の顔を見ると、驚いたことに先輩の顔に嫌悪みたいなものは見られなかった。
 むしろ、どこか、キラキラしたような目で俺を見ている。


「ねえ、それって、どんな感情?」


 そんな風に好きな人に尋ねられて、うろたえない人がいたら見てみたい。


「ど、どんな、感情?」

「どういう風に、どういうタイミングで、どういう感情の変化で好きって思うの?君が言った好きは俺のことを恋愛的な意味で好きってことで合ってるよね?」

「あ、あああ、合ってますけど!」


 合ってますけど、合ってるけども、声が大きいと思います!
 え、え、こんなに話す先輩、初めて見た。声まで素敵な人だなぁ。なんてことは横に置いておく。


「教えてくれないかな」


 そう言いながら一歩距離を詰めてくる先輩に、ひえっとなる。リアルに声が出た。
 だって、だって、好きな人が近づいてくるのだ。そりゃあ、ひえっとくらいなる。
 え、というか、この人は、一体全体なにを言ってるんだろう。


「もう何年も恋、みたいなことをしてないんだ。でも、俺はどうしても、恋を、恋愛を、知らなきゃいけないんだ」


 そう言いながら真剣そうに拳を握る姿にうっかり見惚れてしまう。
 言っている意味は微塵も理解できないけど、なんかものすごくやる気があるのは分かる。まじで意味が分からないけど。
 恋を知らなきゃいけないってなんだ?


「俺に恋を教えてくれないかな」


 なんですか、その恋愛漫画や恋愛ドラマにありそうな台詞は!どちらもあまり目を通しませんが、なんとなく俺でも分かりますよ!
 でも先輩がそういうつもりで言っていないのであろうことも分かる。きっとこれは興味なのだ。興味本位の探求精神だ。
 先輩は冒険心もある人。新しく知れて嬉しいが、それとこれとは話が別だ。


「君さえ良ければ、俺と付き合ってくれてもいいから」


 ああ、それにしてもこれだけ近づくと綺麗な瞳がよく見えるなぁとか、薄っすらとくまがある気がするけど忙しいのかなぁとか、髪がめちゃくちゃさらさらだなぁとか、色々考えていたのが先輩のその発言で一気に吹っ飛んだ。
 喜べばいいじゃないか、好きな人からの申し出だ、それを逃せばもう一生こんなことはないだろう。そう心の中の俺の一人が叫んでいて、でも理性的な俺が真っ先に否を唱えた。


「そういうのは良くないと思います!」
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