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10.なりたい自分、なれなかった自分
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「ワームって何の意味があるか、わかるか? お前がいつも言ってるやつ」
俺の問いかけに一拍置いて、わあむわあむと返事がある。ふっと笑って言葉を続けた。
「コンピュータってわかるかな。難しい? まあ大昔に発明された当時では画期的だった機械……まあ機械でいいか。それだと思ってくれればいいんだけど、それに悪いことする……虫がいるんだよな。いろんな種類があるんだけど、その中でも自分で増える奴がいるんだよ。厄介だよな」
うごうごと動く虫をイメージして指を動かして見せる。
「つまりワームっていうのはあの人のことなんだよ。勝手に自分で生命を増やした。大罪人にはそれぞれ種類別の名前が付くから、もしあの人が生きてたら罪人ワームだった。そしてそれを庇ってるのも同罪だから俺は罪人ワーム。俺が最初に名乗ったのはそういう意味。わかった?」
わあむ、と確かに返ってくる返事に少し笑う。あの時発した言葉がもし別のものだったならこいつは違う言葉を喋っていたのだろうか。
「大罪人はその星に置いてもらえないんだ。大抵が宇宙に放り出されて、過酷な仕事をする。俺の場合はこうやって他所の星に来て、人間が住める場所か確認すること。でも本当はさ、俺はまだ未成年だったし、子ども作ったのはあの人だしってことで、俺は罪に問われないところだったんだ。でもさ、そうするとあいつはどうなるんだよって話だろ。あいつは星にいないはずの人間なんだから、置いてもらえないよな。殺されはしないよ、死刑はあの星になかった。でもさ、あいつ一人で宇宙に放り出されるのは、殺されるのと何が違う?」
俺はどちらも同じだと思った。寂しがりなあいつが一人宇宙へなんて行ったらすぐに死んでしまうだろうと思った。
あの人には確かに罪があった。俺だって歳を考慮しなければ罪だった。罪とわかっていた。
それならあいつの何が罪だ? 生まれてきたことか? 勝手に生まれさせられたのに、それが罪だというのなら、生きているだけで罪だというのなら、それは間違っているだろう。そんな言い分は許されないだろう。あいつは生きていただけなのに。
「だから俺は言ったよ。こいつを匿ったのは俺の意思だ。俺だって罪を犯した、それを罪だと知りながら。だから俺を罪人として宇宙に出してくれ。そして一人分空いた枠にこいつを入れてやってくれ。それで何もかも解決だから。数は何も変わらない。同じ子どもだ。そうしてくれ、お願いだ、お願いします、こいつを殺さないでください」
あんな拙い頼み方で許されたのは同情と今まで見つけることのできなかった罪悪感だろう。
「まあ、それでもだいぶ情状酌量の余地アリってことで、人間が移り住める星が見つかったらそこに移住していいって許可が下りた。まあその星でもたくさん働かなきゃいけないけど、ワームにしては破格の対応だよ。俺は運が良ければこの星に住める。まあ、お前がいいって言ってくれればね、そしたらずっとここに」
いてもいいか、と尋ねるより先に、わあむと返事があって笑ってしまう。
「答えるの早いよ。もっとゆっくり考えないと。大切なことだろ? こんなに静かな星なのに、人間てうるさいからさ、ちゃんと考えろ」
大事なことなんだからと言ってもそいつはわかっているのかわかっていないのか、俺の背を柔らかく撫でてきた。
「ま、これで俺がなんでここに来たかの話は終わり。つまんない話でごめんな」
俺以外にはどうでもいいつまらない何の盛り上がりもない話だったと思う。
それなのに、わあむわあむと全部許したみたいな返事に、俺はどんな顔をしていいかわからなくなる。
「優しいなぁ。こんなどうでもいい、馬鹿みたいな話を最後まで聞いてくれるなんて。優しいなぁ。俺もそういう人間になりたかったなぁ」
そういう風になれていたなら、何か変わっていたかもしれないのに。
またアラームが鳴って、去らなければいけなくなった。宇宙船は寂しい。俺以外に誰もいないから。腕に抱ける温もりがないから。
宇宙船に帰って今日も特に変化はなく大人しそうな生命体だと報告をして眠りに就こうとしたその時だった。
本部からの連絡だった。人間からの通信だ。久しぶりに聞く人間の声に、こんな感じだったっけ、と自分の記憶の薄れに驚いた。
相手の話を丁寧に聞いて全てに頷いてから通信はほどほどの長さで切れた。もう誰とも話す用事はないのに、眠れそうになかった。
俺の問いかけに一拍置いて、わあむわあむと返事がある。ふっと笑って言葉を続けた。
「コンピュータってわかるかな。難しい? まあ大昔に発明された当時では画期的だった機械……まあ機械でいいか。それだと思ってくれればいいんだけど、それに悪いことする……虫がいるんだよな。いろんな種類があるんだけど、その中でも自分で増える奴がいるんだよ。厄介だよな」
うごうごと動く虫をイメージして指を動かして見せる。
「つまりワームっていうのはあの人のことなんだよ。勝手に自分で生命を増やした。大罪人にはそれぞれ種類別の名前が付くから、もしあの人が生きてたら罪人ワームだった。そしてそれを庇ってるのも同罪だから俺は罪人ワーム。俺が最初に名乗ったのはそういう意味。わかった?」
わあむ、と確かに返ってくる返事に少し笑う。あの時発した言葉がもし別のものだったならこいつは違う言葉を喋っていたのだろうか。
「大罪人はその星に置いてもらえないんだ。大抵が宇宙に放り出されて、過酷な仕事をする。俺の場合はこうやって他所の星に来て、人間が住める場所か確認すること。でも本当はさ、俺はまだ未成年だったし、子ども作ったのはあの人だしってことで、俺は罪に問われないところだったんだ。でもさ、そうするとあいつはどうなるんだよって話だろ。あいつは星にいないはずの人間なんだから、置いてもらえないよな。殺されはしないよ、死刑はあの星になかった。でもさ、あいつ一人で宇宙に放り出されるのは、殺されるのと何が違う?」
俺はどちらも同じだと思った。寂しがりなあいつが一人宇宙へなんて行ったらすぐに死んでしまうだろうと思った。
あの人には確かに罪があった。俺だって歳を考慮しなければ罪だった。罪とわかっていた。
それならあいつの何が罪だ? 生まれてきたことか? 勝手に生まれさせられたのに、それが罪だというのなら、生きているだけで罪だというのなら、それは間違っているだろう。そんな言い分は許されないだろう。あいつは生きていただけなのに。
「だから俺は言ったよ。こいつを匿ったのは俺の意思だ。俺だって罪を犯した、それを罪だと知りながら。だから俺を罪人として宇宙に出してくれ。そして一人分空いた枠にこいつを入れてやってくれ。それで何もかも解決だから。数は何も変わらない。同じ子どもだ。そうしてくれ、お願いだ、お願いします、こいつを殺さないでください」
あんな拙い頼み方で許されたのは同情と今まで見つけることのできなかった罪悪感だろう。
「まあ、それでもだいぶ情状酌量の余地アリってことで、人間が移り住める星が見つかったらそこに移住していいって許可が下りた。まあその星でもたくさん働かなきゃいけないけど、ワームにしては破格の対応だよ。俺は運が良ければこの星に住める。まあ、お前がいいって言ってくれればね、そしたらずっとここに」
いてもいいか、と尋ねるより先に、わあむと返事があって笑ってしまう。
「答えるの早いよ。もっとゆっくり考えないと。大切なことだろ? こんなに静かな星なのに、人間てうるさいからさ、ちゃんと考えろ」
大事なことなんだからと言ってもそいつはわかっているのかわかっていないのか、俺の背を柔らかく撫でてきた。
「ま、これで俺がなんでここに来たかの話は終わり。つまんない話でごめんな」
俺以外にはどうでもいいつまらない何の盛り上がりもない話だったと思う。
それなのに、わあむわあむと全部許したみたいな返事に、俺はどんな顔をしていいかわからなくなる。
「優しいなぁ。こんなどうでもいい、馬鹿みたいな話を最後まで聞いてくれるなんて。優しいなぁ。俺もそういう人間になりたかったなぁ」
そういう風になれていたなら、何か変わっていたかもしれないのに。
またアラームが鳴って、去らなければいけなくなった。宇宙船は寂しい。俺以外に誰もいないから。腕に抱ける温もりがないから。
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