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3.今も変わらず可愛いから困る。
しおりを挟むああ、懐かしい記憶。あの頃は良かった。
輝は猫に好かれているといってもまだ一匹も飼ってはいなかったし、せいぜい登下校の時にまとわりつかれる程度だった。
私も安心していられたのに、今となっては平然と浮気される有様である。納得いかない。
「ほんと、あのかわいい輝はどこに行っちゃったの?」
「えー、なんの話?」
輝と一緒に台所に立ちながら、ついついそんなことを口にしてしまう。
輝は困った風に言いつつも笑っている。
「美衣ちゃんは今も昔もかわいいよ」
「……それなら浮気は控えてね」
「えー、僕は美衣ちゃんが一番って言ってるのに」
一番が私で、拾ってくる猫たちがその下なら、それを浮気と言わずになんと言うのだろうか。
うん、やっぱりこれは浮気だ。
ふん、と顔を背けながら仕事場でおすそ分けしてもらったものを取り出す。
「わー、美味しそうだね。鯛?」
「そうだよ、余ったから。私が食べるの」
「えー、僕も食べたい」
輝は無視して、鯛の刺身を切り分けつつお皿に並べていく。
私は商店街の魚屋さんで働いている。まだまだ修行の身だから、主にレジ打ちだけど。
昔から魚が大好物で、店員募集という文字に飛びついたのだ。
それはいい選択だったようで、こうしてよく余り物をもらえる。
「ねえ、美衣ちゃん、僕も」
「だめ」
「んー、お味噌汁飲んでみない?美味しくできたよ」
くるくるとお玉で鍋をかき回しながら輝が言う。
いらない、とすげなく首を振った。
そもそも私は猫舌だから熱いものでほだされるわけないじゃないか、全くもう。何年一緒にいると思ってるのだろうか。
そんなことを考えていると、私たちの足元にわらわらと数匹の猫たちが集まってきた。
魚の匂いを嗅ぎつけて来たらしい。目ざといことで。
魚!魚!と興奮している猫たちには申し訳ないけど、私は頑として首を振った。
「あんたたちはダメ。刺身の食べ過ぎはよくないの。これは私と輝の分!」
私の言葉をしっかり理解して、しゅん、としてしまったけど、病気なんかにするわけにはいかないじゃないか。
輝は猫に甘いところがあるから、私がしっかりしない。
そう思っていると、何故か輝がにこにこと私を見ていた。嫌な予感がする。
「……なに?」
「やっぱり美衣ちゃん、僕にも食べさせてくれるんだね」
どういう意味だ、と首を傾げてすぐに理解する。
しまった、と思ってももう遅い。
嬉しいなぁ、とにこにこしている輝にほだされそうになる自分を自覚しつつ、私は輝の口に刺身を一切れ突っ込んだ。
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