私の夫は猫に好かれる。

蒼キるり

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4.なんだかんだと日常なのです。

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 美味しい鯛のお刺身の大部分を私が食べ終え後片付けをしているところで、今日の浮気相手もとい新人くんが私に近づいてきた。
 他の猫たちに私には逆らってはいけないと教えられたのだろう。
 私は猫集団のヒエラルキートップに存在する。基本的に逆らわれることはない。
 ちなみに輝は言うまでもなく別格だ。無条件にお腹を見せられている。
 にゃあお、と可愛らしく鳴く子猫を輝がいそいそと撫でる。
 全く全然反省してないんだから、と呆れつつ尋ねた。


「この子の名前はどうするの?」

「んー、丸とかはどうかな」


 食器を拭きながら、輝はにこにこ笑いながら言う。
 丸。まる。まあ、言いやすくはあるけども。うーん。


「なんで?」

「丸くなるから」

「そりゃ猫だからね」


 そういう歌だってあるのだから丸くなるだろう。
 輝は名前をつけるのはかなり適当だと思う。
 いや輝は真面目に決めているつもりだけど、傍目から見るとそのままじゃないかと言いたくなるのだ。


「餅丸と被らない?」


 餅丸というのはうちの一番の古株の猫だ。
 元々野良猫で、カロリー制限をしているのにでっぷりとして白く丸い。
 鏡餅のような猫なので餅丸。もちろん輝が名付けた。


「んー、じゃあグレー、かな」

「また安直な。別にいいけど」


 グレー、と呼びかけるとゴロゴロと喉を鳴らした。
 子猫だから言葉は拙いけど、喜んでいることはちゃんとわかったので輝に伝えておく。
 名前をつけてもらって子猫は大興奮だ。


「美衣ちゃんは猫と話せていいなぁ」


 僕も話せたらいいのに、という輝に駄目だよと強く言う。
 なんで?と首を傾げる輝には何も言わずに抱き着いておく。
 散々子猫、グレーに構ったのだからそろそろ私の相手をしてくれてもいいはずだ。
 私は妻なのだから、一番なのは当然で、もっと言うなら別格でなければいけないはずである。


「美衣ちゃんは本当に猫みたいだねぇ」

「猫みたいな妻は嫌い?」

「そんなわけないよ」


 ふにゃ、と笑う輝に私は満足感を覚えつつ再度抱きつく。
 輝が猫と話せたら、私より猫を構うようになってしまうかもしれないじゃないか。それはダメだ。絶対に絶対に駄目だ。

 ぎゅうぎゅうと抱き着く私を不思議そうに見つめていた輝は、それでも笑って私を撫でてくれた。
 新人のグレーは目を丸くして、他の猫たちはけたけたと笑っている。
 好きに見ればいい。輝の一番は私なのだ。せいぜい指を咥えていればいい。

 輝が猫を拾っては私が怒り、猫たちが笑って新人は段々とこの家と私たちに慣れていく。
 そして私と輝は喧嘩をしても仲良しなのだ。
 これが私と輝の日常である。


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