黒魔女とエセ紳士

鶴機 亀輔

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第2章

アルファの力関係2

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 そのまま、あたしは三上が作った料理をトレーに載せて運んだ。

 三上が料理を作っている合間にお皿を下げつつ常連さんに朝の挨拶をする。

 ナプキンやカトラリー、ジュースやビール、ワインの補充をして、メニューをモーニングからランチへと変えていく。

 炊飯器のお米をセットしていると南さんが「先輩、すみません」と涙目になって謝ってきた。

 彼女は返ってきた食器に入っていたゴミをゴミ箱に落とし、食器を予洗いしながら、しょんぼりとした表情をする。

 お米のスイッチを押したあたしは、先ほど食洗機に通して生ぬるくなっているグラスをふきんで磨きながら、彼女の言葉に耳を傾けた。

「何よ、突然。どうしたの?」

「だって私、ぜんぜん朝の仕事ができてないし、蛇崩先輩の足を引っ張ってばかりです……」

「バカねえ。あんた」と言えばガーンという言葉がぴったり合うような落ち込み具合になる。「南さんは、夜のやつらが本来やるぶんの仕事もやってるのよ? それで朝の開店業務をやって、お客様のお相手をしてなんて無理に決まってるわよ。特に今日みたいな日はね」

「でも、」

「だったら、あんた。分身の術でもできるっていうの? そうね……あんたが三人いれば回りそう。今すぐ後、ふたり増やしなさい!」

「ええっ!? 私、忍者じゃないので無理です!」

 ワタワタしている南さんの姿は、最近結婚したそらを想起させた。

 ひなちゃんのことが空は好きで、でもひなちゃんとさあちゃんは魂の番。最初から叶わぬ恋をしていた。

 そんな彼女と小学校の高学年だった頃、恋バナをしたのをふと思い出す。

 あれから、もう十五年も経っているんだなと懐かしい気持ちになる。

「先輩?」

 はっと意識を取り戻したあたしは現実に戻す。

「どうかしましたか? 私、また何か、やっちゃいました……?」

 おどおどしながら肩をすぼめ、スポンジをギュッと握りしめる。そんな南さんに「違うわよ」ときっぱり言う。「そんな心配そうな顔しないでよ。後、猫背でいると、おばあさんになる前に背中が曲がるし、胸も垂れるわよ」

「ええっ、やだ! それは困ります!」

「だったらシャンと背筋を伸ばしなさいよ」

 するとピンとまっすぐ立ち直した彼女の姿につい笑ってしまう。

「そう、その意気よ」

「ちょっと蛇崩。マジで店長、遅いんだけど!? どうにかならない! わたし、いつまで休憩、入れないの? 朝ごはん食いっぱぐれなきゃいけないわけ!」と三上が怒鳴り声をあげながら、目玉焼きとベーコンを焼く。そうしてお茶碗を手にし、炊飯器を開けた彼女は量の少なくなっている炊飯器に対して「ああっ、もう!」と天を仰ぎ、しゃもじでご飯を小盛りにする。

 アナログ時計を見れば九時半近くになっていた。

「南さん、悪いけどちょっとバックで店長に電話してくるから、その間、もう少しだけいてくれない? 残業代、つけちゃっていいからさ」

「はい、もちろんです! がんばります!」

「ありがとう、助かるわ」

 そうして南さんが手を洗い、消毒をしてトレーを持つ。

 タイミングよくトイレ掃除を終えた風間さんが、ため息をつきながら戻ってくる。

「あっ、蛇崩ちゃん、それに南ちゃんだ。お疲れ様ー」

「お疲れ様です!」と南さんは挨拶を済ませると常連のお客様の会計をしに行く。

「お疲れ様です、風間さん。申し訳ありません、トイレ掃除、お手伝いできなくて……」

「いいの、いいの」と疲労困憊状態の風間さんが手を横に振る。「あれは掃除婦の私がやるからいいのよ。あんなひどいものを料理を運んだりする人たちには、任せられないわー」

「心中お察しします。本当に、ありがとうございます」

 タイムカードを切って、そのままバックヤードへ向かう。

 彼女は裏口のドアを開けて外にゴミを出しに行った。

 その間にロッカーに入れてあるスマホを取り出し、デスクの上に置いて受話器をとる。

「ったく、まあた奥さんと朝からセックスしてるわけ? シャワー浴びずに来たら、今度こそ蹴り上げてやるわ」

 番号を押している最中にスマホに電話がかかってきて、受話器のボタンを押す。

「店長、また寝坊ですか?」

『いや、あの……うん、そうなんだ。今、そっちに向かってる最中』

「ですよね、車ですか」

『そう、今曲がるところ』

 曲がるところなのに電話かけてきていいのかしら? なんて思いながら、スピーカーの向こうでウィンカーのカチカチという音が、かすかにするのを聞いていた。

「安全運転してくださいね。これで事故なんてことになったら三上、鬼になりますよ」

『嘘、三上さん、マジギレ?』

「はい、めちゃくちゃキレてますよ。店長の首を締め上げそうな勢いで南さんもビクビクしてました」

 デスクのマウスを取り、三上の代わりにお米なんかの数を打って発注をかけていく。

『えっ、それほんと?』

「はい、マジです」

『だって南さんに連絡しておいたんだけど……』

「秋祭りの関係で常連さん以外のお客様もいらっしゃってるんですよ。店は大繁盛! なのにホールは南さんだけ。完璧シフト、ミスってますよね。後、南さん馬車馬並みに働いていて電話を取る暇なんて、なかったと思いますよ」
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