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第2章
禁じられた恋1
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重い足取りで帰路につきながらカイトと初めてキスした日を思い出す。
——二年前、父ちゃんの親友の娘が結婚した。
俺もガキの頃から面倒を見てもらったし、カイトにも比較的やさしい姐さんだった。
朝から晩まで、どんちゃん騒ぎが続いたのを今でも覚えている。
酒を飲んでいた俺は、姐さんに招待され、彼女に祝いの言葉を告げていたカイトの姿がないのに気づく。
「ヒロ、新しい酒を持ってきてくれ。神父様たちを手伝って来い」
「ああ、わかった」
父ちゃんからワインやりんご酒の追加を頼まれ、ボトルを取りに行くふりをして俺はカイトをさがした。
教会の前に人だかりができていた。
村の人間のほぼ全員が集まって普段は食べることのできないごちそうや、うまい酒を飲み食いしている。色とりどりのランプや、ろうそくの火が幻想的な明かりを発し、楽器を奏で、歌い、踊っている。祭の日みたいに、にぎやかだ。
「ったく、カイトのやつ、どこへ行ったんだ?」と俺は独り言を口にする。
具合が悪くなって部屋へ戻ったのだろうか? こんな夜遅くに村の中をひとりで出歩いているはずはないし……と頭をひねっているところに料理を運び終わり、食堂へ向かい、次の料理を持ってこようとするシスターメアリーの姿を目にする。
「メアリーさん」
彼女は即座に振り返り、微笑んだ。
「ヒロ、どうですか? ご飯は食べ進んでいます?」
「はい。とても、おいしいです。父に酒の追加を持ってくるよう頼まれました。お手伝いさせてください」
「ありがとうございます。猫の手も借りたいくらい大変なので助かります」
そうして彼女は目線を食堂へやり、村の女たちがせわしなく料理を作り、教会の子どもたちがせっせと皿を運んでいる姿を見つめた。
「お酒の瓶は地下貯蔵庫にあります。重いので気をつけて運んでくださいね」
「力仕事なら慣れているので任せてください。ところでカイトは、どこへ行ったんですか? さっきから姿が見えませんけど」
「カイトなら夜風にあたってくると言って湖のほうへ行きましたよ。ヒロ、申し訳ありませんが、カイトひとりでは心配なので追加のお酒を運ぶ前に、あの子を迎えに行ってもらえません?」
「もちろんです。いいですよ」
ランプの明かりをもらい、湖のほうに向かうため、人混みの中を歩いていく。
少し離れただけで辺りは暗くなり、教会前の喧騒が嘘のように静かになる。
カイトは湖のほとりで明かりも持たない状態でひとり、たたずんでいた。
「おい、カイト。こんなところで何してる? ランプも持たねえで出歩くなんて危険極まりねえだろ。車椅子でコケたら、どうする」
「ヒロ……大丈夫だよ。今日は満月。月の光が、やさしく夜道を照らしてくれるから」と、あいつは上を向き、夜空を眺めていた。
濃紺色の布地みたいな空に淡いクリーム色をした丸い月が浮かび、その周りに赤や青、黄色にオレンジをした星々が、またたく。
「シスターメアリーに僕の場所を訊いたの? それとも、きみも月や星を見たくなったから、ここへ来た?」
「前者だ。おまえの姿が見えなくて心配になったから、さがしに来た。俺が初めて酒を飲んだときは目が回って腰を抜かしたけど、おまえは平気か?」
今日、初めて酒の味を知ったカイトは頬をりんごのように赤らめながら、ため息をついた。
「気分は悪くないよ。むしろ身体の内側から、ぽかぽかして暑いくらい。ワインは苦みと酸味があって、あまり好きになれないけど、りんご酒は甘くて好きだな。はちみつとシナモンを入れて、お湯で割ったら、もっとおいしくなってビックリしたよ」なんて機嫌よさげにしゃべりながら屈託ない笑みを浮かべたのだ。
その顔に、俺は面食らう。
じいちゃんとばあちゃん、親方が亡くなり、足が動かなくなったカイトの表情に陰りが見られ、笑う回数や言葉数が明らかに減った。神父様やシスターメアリー、ほかの教会にいる子どもたちが元気づけても、いつも冴えない表情をして暗い。
そんなカイトが以前のように笑っている。
胸が熱くなると同時に、なぜか心臓が異様な音を立てた。
どうしたのだろうと自分の胸に手をあてているとカイトが車椅子を動かし、鏡のように夜空を映している湖のほうへ視線をやった。
心地よい夜風が吹き、ほてった身体をほどよく冷ましてくれる。
「お姐さん、うれしそうだったね」
「あっ、ああ、そうだな」
「素性の知れない僕にやさしくしてくれた村の大人はヒロと、お姐さんだけだ。神父様やシスターみたいに分け隔てなく接してくれた。そんな人が大好きな人と結婚して、幸せそうにしている。こうして結婚式に参列して、お姐さんの晴れ姿を見ながら、『おめでとう』ってお祝いの言葉を面と向かって伝えられて、すごくよかったなって思うんだ」
「そうか? あの男まさりで乱暴者の姐さんを嫁にしたいやつがいるなんて、今でも信じられねえ! 俺が畑仕事をサボると、おふくろよりも先に怒って、のばし棒で殴ってくるような女だぜ? まったく姐さんが結婚するなんて夢にも思わなかったよ。旦那は苦労するぜ」と冗談を口にする。
——二年前、父ちゃんの親友の娘が結婚した。
俺もガキの頃から面倒を見てもらったし、カイトにも比較的やさしい姐さんだった。
朝から晩まで、どんちゃん騒ぎが続いたのを今でも覚えている。
酒を飲んでいた俺は、姐さんに招待され、彼女に祝いの言葉を告げていたカイトの姿がないのに気づく。
「ヒロ、新しい酒を持ってきてくれ。神父様たちを手伝って来い」
「ああ、わかった」
父ちゃんからワインやりんご酒の追加を頼まれ、ボトルを取りに行くふりをして俺はカイトをさがした。
教会の前に人だかりができていた。
村の人間のほぼ全員が集まって普段は食べることのできないごちそうや、うまい酒を飲み食いしている。色とりどりのランプや、ろうそくの火が幻想的な明かりを発し、楽器を奏で、歌い、踊っている。祭の日みたいに、にぎやかだ。
「ったく、カイトのやつ、どこへ行ったんだ?」と俺は独り言を口にする。
具合が悪くなって部屋へ戻ったのだろうか? こんな夜遅くに村の中をひとりで出歩いているはずはないし……と頭をひねっているところに料理を運び終わり、食堂へ向かい、次の料理を持ってこようとするシスターメアリーの姿を目にする。
「メアリーさん」
彼女は即座に振り返り、微笑んだ。
「ヒロ、どうですか? ご飯は食べ進んでいます?」
「はい。とても、おいしいです。父に酒の追加を持ってくるよう頼まれました。お手伝いさせてください」
「ありがとうございます。猫の手も借りたいくらい大変なので助かります」
そうして彼女は目線を食堂へやり、村の女たちがせわしなく料理を作り、教会の子どもたちがせっせと皿を運んでいる姿を見つめた。
「お酒の瓶は地下貯蔵庫にあります。重いので気をつけて運んでくださいね」
「力仕事なら慣れているので任せてください。ところでカイトは、どこへ行ったんですか? さっきから姿が見えませんけど」
「カイトなら夜風にあたってくると言って湖のほうへ行きましたよ。ヒロ、申し訳ありませんが、カイトひとりでは心配なので追加のお酒を運ぶ前に、あの子を迎えに行ってもらえません?」
「もちろんです。いいですよ」
ランプの明かりをもらい、湖のほうに向かうため、人混みの中を歩いていく。
少し離れただけで辺りは暗くなり、教会前の喧騒が嘘のように静かになる。
カイトは湖のほとりで明かりも持たない状態でひとり、たたずんでいた。
「おい、カイト。こんなところで何してる? ランプも持たねえで出歩くなんて危険極まりねえだろ。車椅子でコケたら、どうする」
「ヒロ……大丈夫だよ。今日は満月。月の光が、やさしく夜道を照らしてくれるから」と、あいつは上を向き、夜空を眺めていた。
濃紺色の布地みたいな空に淡いクリーム色をした丸い月が浮かび、その周りに赤や青、黄色にオレンジをした星々が、またたく。
「シスターメアリーに僕の場所を訊いたの? それとも、きみも月や星を見たくなったから、ここへ来た?」
「前者だ。おまえの姿が見えなくて心配になったから、さがしに来た。俺が初めて酒を飲んだときは目が回って腰を抜かしたけど、おまえは平気か?」
今日、初めて酒の味を知ったカイトは頬をりんごのように赤らめながら、ため息をついた。
「気分は悪くないよ。むしろ身体の内側から、ぽかぽかして暑いくらい。ワインは苦みと酸味があって、あまり好きになれないけど、りんご酒は甘くて好きだな。はちみつとシナモンを入れて、お湯で割ったら、もっとおいしくなってビックリしたよ」なんて機嫌よさげにしゃべりながら屈託ない笑みを浮かべたのだ。
その顔に、俺は面食らう。
じいちゃんとばあちゃん、親方が亡くなり、足が動かなくなったカイトの表情に陰りが見られ、笑う回数や言葉数が明らかに減った。神父様やシスターメアリー、ほかの教会にいる子どもたちが元気づけても、いつも冴えない表情をして暗い。
そんなカイトが以前のように笑っている。
胸が熱くなると同時に、なぜか心臓が異様な音を立てた。
どうしたのだろうと自分の胸に手をあてているとカイトが車椅子を動かし、鏡のように夜空を映している湖のほうへ視線をやった。
心地よい夜風が吹き、ほてった身体をほどよく冷ましてくれる。
「お姐さん、うれしそうだったね」
「あっ、ああ、そうだな」
「素性の知れない僕にやさしくしてくれた村の大人はヒロと、お姐さんだけだ。神父様やシスターみたいに分け隔てなく接してくれた。そんな人が大好きな人と結婚して、幸せそうにしている。こうして結婚式に参列して、お姐さんの晴れ姿を見ながら、『おめでとう』ってお祝いの言葉を面と向かって伝えられて、すごくよかったなって思うんだ」
「そうか? あの男まさりで乱暴者の姐さんを嫁にしたいやつがいるなんて、今でも信じられねえ! 俺が畑仕事をサボると、おふくろよりも先に怒って、のばし棒で殴ってくるような女だぜ? まったく姐さんが結婚するなんて夢にも思わなかったよ。旦那は苦労するぜ」と冗談を口にする。
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