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第5章
伝えたい言葉1
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どんなに悲しくつらいできごとがあっても朝は来る。
昨晩、枕を涙や鼻水で濡らすくらい、つらいできごとがあったのに、いつも通り俺の身体は元気だ。体調不良になって寝込むこともない。目の周りや鼻の周りが腫れ、頬の皮膚が赤く爛れている以外は、ピンピンしてる。
おまけに空は憎らしくなるくらいの快晴だ。雲ひとつない澄んだ青色をしている。
冷たい水の中を泳ぐ魚のように、鳥たちがすいすい飛んでいく。
「……教会に野菜を届けてくる」
「おまえ、その状態で行けるのか?」
気難しい顔をした父ちゃんが目線だけで問いかけてくる。
「大丈夫……いってきます」と一声かけ、老犬が散歩するみたいに、たっぷり時間をかけて教会までの(>_<)歩いていったのだ。
教会の花壇に生えた雑草を取り除いていく。
子どもたちは、できあがったハーブや薬草を摘んだり、水やりをして元気いっぱいに過ごしていた。
力いっぱいにはしゃいでいる彼らの姿を見ていると、この村にやってきたばかりの幼いカイトの姿を思い出す。
こっそり親方から金属の鋳造なんかを習っていた俺は山をしょっちゅう出入りしていた。
でも親方は山の上に、ひとりで住んでいる。人嫌いの頑固親父だし、金属を加工する仕事には、きれいな水が必要となるから山の奥に居を構えていたのだ。
親方は、剣や槍、弓矢や銃なんかの武器を一通り作れたし、退役兵だから扱いも得ていた。獣や魔族が村へ来ないように監視し、侵入しようとするものを仕留める役目をじいちゃん行うよう領主様から言われていたのである。
行きはじいちゃん、帰りは親方に護衛してもらいながら行き来してたけど、年々じいちゃんの目や耳が悪くなってしまい、体力も落ちてきていた。だからカイトが、じいちゃんの代わりに俺の護衛をするようになったのだ。
初対面のときは俺の顔を見るだけでビクビクオドオドしていたカイトは、まるで人におびえる小動物みたいだった。ばあちゃんじいちゃんの背中に隠れたり、すぐに俺の前から逃げ出した。
そんなあいつも俺がじいちゃんや、ばあちゃん、親方と話しているところを遠くから観察し、害がないとわかったら次第にこっち近づいてくるようになった。気がついたら、ふたりで会話するようになっていたのだ。
「これが血止めの薬草で、こっちが毒消しの実。そっちは毒キノコだね。北国にしかないと思ってたから、最初見たときは、この山にもあるんだって、びっくりしたよ!」
「おまえ、子どもなのにすげえ物知りだな! もとから山に住んでいたのか?」
「どうだろう……多分、違うんじゃないかな。全部、本で見て覚えたことだから」
「そっか。まだ、ここへ来るまでのことを思い出せねえんだろ?」
「うん……」とカイトは沈んだ声で返事をすると、首から下げてある星型をした銀色のロケットに触れた。「これのおかげで自分が“カイト”って名前だってわかったけど、お父さんや、お母さんの顔を一向に思い出せないんだ。どこから来たのか、どうやってここに行き着いたのかも、まったく覚えてないよ」
自分の名前以外、何ひとつわからない状態で見知らぬ人たちばかりいる知らない土地にいたら俺は、どうしただろう?
きっとカイト同じ年代だったら、すごく心細く感じて、自分はなんて孤独なんだろと絶望した。場所を覚えていない家でも心の底から帰りたいと願ったはずだ。顔も思い出せない両親でも、もう一度会いたいと恋しく思う。
何より記憶を今すぐでも記憶を取り戻したいと神に祈りを捧げただろう。
「おまえ――さみしくねえのか?」
気がついたら頭の中に浮かんだ言葉が口から出ていたのだ。慌てて口もとに手をあてるが間に合わない。
「今なんて言ったの、ヒロ?」
キョトンとした顔をしたカイトに言葉の真意を尋ねられる。
「なんでもねえ」ってごまかして、黙ることもできた。
だけど、黒い水晶玉みたいな目でじっと見つめられているうちに罪悪感が募り、素直に白状した。
「考えたんだよ。もしも俺が、おまえと同じ年くらいのガキで、同じ状況だったら、どうかなって。何もかもがわからなくなっていても、もといた場所に帰りたいと思うし、父ちゃんや母ちゃんに会えないのを悲しんだと思う」
「ヒロ……」
「さみしくねえわけがねえの不謹慎なことを言った。悪い、忘れてくれ」
首を左右に振る形でカイトは俺の言葉を否定した。
黒い、つややかな髪が日の光を浴びてキラキラと輝いている。
「謝らないで。変なふうに気を遣われるほうが、つらいから。それにね、僕、さみしくなんてないよ」
「カイト、俺に気を遣って答えなくていい。やせ我慢するな」
「そうじゃないよ、ヒロ。だって他人である僕のことを親方や、おじいちゃん、おばあちゃんが、家族同然にかわいがってくれる。どこからどう見ても怪しい人間なのに『ここにいていいよ』って言ってくれて、暑さ寒さをしのげる家や寝心地のいいベッド、おいしいご飯に、服や仕事までくれたんだよ!
教会に行けば神父様やシスターたちが、やさしくしてくれるし、村ではお姐さんが話しかけてくれるんだ。何よりヒロが、こうやって会いに来てくれて、うれしい。きみと、こうやって話している時間が楽しくて好きなんだ」
昨晩、枕を涙や鼻水で濡らすくらい、つらいできごとがあったのに、いつも通り俺の身体は元気だ。体調不良になって寝込むこともない。目の周りや鼻の周りが腫れ、頬の皮膚が赤く爛れている以外は、ピンピンしてる。
おまけに空は憎らしくなるくらいの快晴だ。雲ひとつない澄んだ青色をしている。
冷たい水の中を泳ぐ魚のように、鳥たちがすいすい飛んでいく。
「……教会に野菜を届けてくる」
「おまえ、その状態で行けるのか?」
気難しい顔をした父ちゃんが目線だけで問いかけてくる。
「大丈夫……いってきます」と一声かけ、老犬が散歩するみたいに、たっぷり時間をかけて教会までの(>_<)歩いていったのだ。
教会の花壇に生えた雑草を取り除いていく。
子どもたちは、できあがったハーブや薬草を摘んだり、水やりをして元気いっぱいに過ごしていた。
力いっぱいにはしゃいでいる彼らの姿を見ていると、この村にやってきたばかりの幼いカイトの姿を思い出す。
こっそり親方から金属の鋳造なんかを習っていた俺は山をしょっちゅう出入りしていた。
でも親方は山の上に、ひとりで住んでいる。人嫌いの頑固親父だし、金属を加工する仕事には、きれいな水が必要となるから山の奥に居を構えていたのだ。
親方は、剣や槍、弓矢や銃なんかの武器を一通り作れたし、退役兵だから扱いも得ていた。獣や魔族が村へ来ないように監視し、侵入しようとするものを仕留める役目をじいちゃん行うよう領主様から言われていたのである。
行きはじいちゃん、帰りは親方に護衛してもらいながら行き来してたけど、年々じいちゃんの目や耳が悪くなってしまい、体力も落ちてきていた。だからカイトが、じいちゃんの代わりに俺の護衛をするようになったのだ。
初対面のときは俺の顔を見るだけでビクビクオドオドしていたカイトは、まるで人におびえる小動物みたいだった。ばあちゃんじいちゃんの背中に隠れたり、すぐに俺の前から逃げ出した。
そんなあいつも俺がじいちゃんや、ばあちゃん、親方と話しているところを遠くから観察し、害がないとわかったら次第にこっち近づいてくるようになった。気がついたら、ふたりで会話するようになっていたのだ。
「これが血止めの薬草で、こっちが毒消しの実。そっちは毒キノコだね。北国にしかないと思ってたから、最初見たときは、この山にもあるんだって、びっくりしたよ!」
「おまえ、子どもなのにすげえ物知りだな! もとから山に住んでいたのか?」
「どうだろう……多分、違うんじゃないかな。全部、本で見て覚えたことだから」
「そっか。まだ、ここへ来るまでのことを思い出せねえんだろ?」
「うん……」とカイトは沈んだ声で返事をすると、首から下げてある星型をした銀色のロケットに触れた。「これのおかげで自分が“カイト”って名前だってわかったけど、お父さんや、お母さんの顔を一向に思い出せないんだ。どこから来たのか、どうやってここに行き着いたのかも、まったく覚えてないよ」
自分の名前以外、何ひとつわからない状態で見知らぬ人たちばかりいる知らない土地にいたら俺は、どうしただろう?
きっとカイト同じ年代だったら、すごく心細く感じて、自分はなんて孤独なんだろと絶望した。場所を覚えていない家でも心の底から帰りたいと願ったはずだ。顔も思い出せない両親でも、もう一度会いたいと恋しく思う。
何より記憶を今すぐでも記憶を取り戻したいと神に祈りを捧げただろう。
「おまえ――さみしくねえのか?」
気がついたら頭の中に浮かんだ言葉が口から出ていたのだ。慌てて口もとに手をあてるが間に合わない。
「今なんて言ったの、ヒロ?」
キョトンとした顔をしたカイトに言葉の真意を尋ねられる。
「なんでもねえ」ってごまかして、黙ることもできた。
だけど、黒い水晶玉みたいな目でじっと見つめられているうちに罪悪感が募り、素直に白状した。
「考えたんだよ。もしも俺が、おまえと同じ年くらいのガキで、同じ状況だったら、どうかなって。何もかもがわからなくなっていても、もといた場所に帰りたいと思うし、父ちゃんや母ちゃんに会えないのを悲しんだと思う」
「ヒロ……」
「さみしくねえわけがねえの不謹慎なことを言った。悪い、忘れてくれ」
首を左右に振る形でカイトは俺の言葉を否定した。
黒い、つややかな髪が日の光を浴びてキラキラと輝いている。
「謝らないで。変なふうに気を遣われるほうが、つらいから。それにね、僕、さみしくなんてないよ」
「カイト、俺に気を遣って答えなくていい。やせ我慢するな」
「そうじゃないよ、ヒロ。だって他人である僕のことを親方や、おじいちゃん、おばあちゃんが、家族同然にかわいがってくれる。どこからどう見ても怪しい人間なのに『ここにいていいよ』って言ってくれて、暑さ寒さをしのげる家や寝心地のいいベッド、おいしいご飯に、服や仕事までくれたんだよ!
教会に行けば神父様やシスターたちが、やさしくしてくれるし、村ではお姐さんが話しかけてくれるんだ。何よりヒロが、こうやって会いに来てくれて、うれしい。きみと、こうやって話している時間が楽しくて好きなんだ」
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