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第3章
過ちを繰り返す1
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運命は変えられなかった。
今回もノエルさまが現れ、暴虐の限りを尽くした。
彼の暴走を止めるために暗殺計画を企て実行しようとして、僕は失敗してしまったのだ。
そして前回同様にエドワードさまに裏切られて大切な人たちを失った。今回は前回よりも、もっと悲惨なことになってしまった。
僕の大切な人たちが――全員、死んだ。
おまけに前回は未遂で済んだのに、今回は王様や王妃様、アーサーさまやシャルルマーニュさまが毒殺されて、亡くなられた。
それだけじゃない。
ノエルさまが神子であるという理由だけでフェアリーランド王国の民衆から多額の税を徴収した。そのせいで多くの人間が餓死した。お金がないから病にかかっても医者にかかれない者、家や家族を失った者たちが大勢いる。
エドワードさまやノエルさま、その取り巻き連中にたてつくものは、身分に関係なく全員、処刑されてしまった。
ノエルさまが、この世界に現れてから亡くなった人の数は一万人以上だという。
霊安室のように冷たい牢屋の中で、なんでこんなことになったのかを考える。冷たく固い床の上に三角座りをしていると重い鉄の扉が開く音がした。
華美な衣装を身に纏い、きらびやかな宝飾品を身につけたノエルさまが、こっちに向かってやってくる。
彼は牢屋番の兵に席を外すように命じ、僕に声を掛けてきた。
「気分はどう? ルキウス」
「ノエルさま――こんなことをしていいと思ってるのですか?」
「もちろん。だって、ぼくは神子だもん」
フフンと彼は得意げに笑う。
「嘘です。あなたは本物の神子じゃない。『過去』の女神様が教えてくれました」
「へえ、『フェアリーランドの天上には神々が住んでいる』って書いてあったけど本当なんだ。ただの設定かと思った」
「設定? なんのことです?」
「おまえは知らなくてもいいことだよ。だけどさあ、人殺しはよくないんじゃない? たとえ僕が偽の神子でも殺していい理由にはならないよ」
「どの口が言うんですか! あなたのせいで多くの人が命を落としたんですよ。自分の邪魔になる人間を次々と手にかけ、葬ったくせに……」
「だから何?」
けろりとした表情でノエル様は答え、僕は開いた口が塞がらない。
「そういえば小説にも書いてあった。『神子が現れる以前のフェアリーランドには餓死する者が多かった』って。第一『葬った』だなんて心外だな。あれはエドや神官、役人たちたちがやったこと。ぼくは指ひとつ動かしてないよ」
「あなたがこの世界に来なければ、こんなことにはならなかった!」
するとノエルさまが、お腹を抱えて大笑いする。
「おかしいの! 自分が何者かも知らない人間って滑稽だね、ルキウス。おまえみたいな悪役令息は、主人公には絶対に勝てないんだよ」
「悪役令息?」
ノエルさまは、わけのわからないことばかり言う。何がなんだかわからない。
「要するに何をやっても、おまえが断罪される未来は決まってるってこと」
困惑していればエドワードさまもがやってきてノエルさまを後ろから抱きしめた。
「何をしてるんだ? 大罪人と話をする必要などないだろう」
「エドワードさま……」
冷たい物言いに傷ついていれば、ノエルさまがエドワードさまの両頬に手を当て、目を潤ませる。
「ねえ、エド。エドが好きなのは誰?」
「決まってる。俺が好きなのはノエル、おまえだけだ」
僕が一度も目にしたことのない甘くとろけるような眼差しで、エドワードさまはノエルさまのことを見つめる。
「じゃあ、ぼくのお願いを聞いてくれる?」
「もちろん。おまえの願いは、なんでも叶えてやる」
「ありがとう。この大罪人は三日後に死刑だ。その前にね、ぼくらがどれだけ思い合っているか、愛し合っているかを教えてあげようよ。だから――今すぐここでぼくのことを抱いて?」
ノエル様の発言に耳を疑い、僕は頬を引きつらせた。
「何を言う!? こんな不衛生な場所は、おまえを抱くのにふさわしくない!」とエドワードさまが反論する。
ノエルさまはエドワードさまの頭を抱き寄せて唇に口づけた。
「ぼくの願いは、なんでも叶えてくれるんでしょ? 見せつけてやろうよ! ぼくらが愛し合っている姿を……」
するとエドワードさまはノエル様をかきいだき、ふたりは濃厚な口づけを始めた。そしてエドワードさまはノエルさまの衣服を脱がしにかかった。
僕は、ふたりが獣のようにまぐわう姿を延々と見せられる地獄を味わった。
とんでもない悪夢だ。夢なら早く覚めてほしい。
エドワードさまが大切なものに触れるように時間をかけてノエル様さまに愛撫をしているのも、ノエルさまの口淫に感じきって時たま漏らすような喘ぎ声を出しているのにも怒りを覚える。
ノエルさまの媚びたように甘ったるい喘ぎ声も、エドワードさまがノエルさまを賛美する情熱的な愛のささやきも、独房に充満する青臭い性の臭いも全部、全部気持ち悪い……!
愛する人と憎い宿敵が交わっている姿を見たくない。でも目を逸らさずに見続ける魔法と、声を奪う魔法を掛けられてしまった僕は、ただふたりの情交を見続けるしかないのだ。
今回もノエルさまが現れ、暴虐の限りを尽くした。
彼の暴走を止めるために暗殺計画を企て実行しようとして、僕は失敗してしまったのだ。
そして前回同様にエドワードさまに裏切られて大切な人たちを失った。今回は前回よりも、もっと悲惨なことになってしまった。
僕の大切な人たちが――全員、死んだ。
おまけに前回は未遂で済んだのに、今回は王様や王妃様、アーサーさまやシャルルマーニュさまが毒殺されて、亡くなられた。
それだけじゃない。
ノエルさまが神子であるという理由だけでフェアリーランド王国の民衆から多額の税を徴収した。そのせいで多くの人間が餓死した。お金がないから病にかかっても医者にかかれない者、家や家族を失った者たちが大勢いる。
エドワードさまやノエルさま、その取り巻き連中にたてつくものは、身分に関係なく全員、処刑されてしまった。
ノエルさまが、この世界に現れてから亡くなった人の数は一万人以上だという。
霊安室のように冷たい牢屋の中で、なんでこんなことになったのかを考える。冷たく固い床の上に三角座りをしていると重い鉄の扉が開く音がした。
華美な衣装を身に纏い、きらびやかな宝飾品を身につけたノエルさまが、こっちに向かってやってくる。
彼は牢屋番の兵に席を外すように命じ、僕に声を掛けてきた。
「気分はどう? ルキウス」
「ノエルさま――こんなことをしていいと思ってるのですか?」
「もちろん。だって、ぼくは神子だもん」
フフンと彼は得意げに笑う。
「嘘です。あなたは本物の神子じゃない。『過去』の女神様が教えてくれました」
「へえ、『フェアリーランドの天上には神々が住んでいる』って書いてあったけど本当なんだ。ただの設定かと思った」
「設定? なんのことです?」
「おまえは知らなくてもいいことだよ。だけどさあ、人殺しはよくないんじゃない? たとえ僕が偽の神子でも殺していい理由にはならないよ」
「どの口が言うんですか! あなたのせいで多くの人が命を落としたんですよ。自分の邪魔になる人間を次々と手にかけ、葬ったくせに……」
「だから何?」
けろりとした表情でノエル様は答え、僕は開いた口が塞がらない。
「そういえば小説にも書いてあった。『神子が現れる以前のフェアリーランドには餓死する者が多かった』って。第一『葬った』だなんて心外だな。あれはエドや神官、役人たちたちがやったこと。ぼくは指ひとつ動かしてないよ」
「あなたがこの世界に来なければ、こんなことにはならなかった!」
するとノエルさまが、お腹を抱えて大笑いする。
「おかしいの! 自分が何者かも知らない人間って滑稽だね、ルキウス。おまえみたいな悪役令息は、主人公には絶対に勝てないんだよ」
「悪役令息?」
ノエルさまは、わけのわからないことばかり言う。何がなんだかわからない。
「要するに何をやっても、おまえが断罪される未来は決まってるってこと」
困惑していればエドワードさまもがやってきてノエルさまを後ろから抱きしめた。
「何をしてるんだ? 大罪人と話をする必要などないだろう」
「エドワードさま……」
冷たい物言いに傷ついていれば、ノエルさまがエドワードさまの両頬に手を当て、目を潤ませる。
「ねえ、エド。エドが好きなのは誰?」
「決まってる。俺が好きなのはノエル、おまえだけだ」
僕が一度も目にしたことのない甘くとろけるような眼差しで、エドワードさまはノエルさまのことを見つめる。
「じゃあ、ぼくのお願いを聞いてくれる?」
「もちろん。おまえの願いは、なんでも叶えてやる」
「ありがとう。この大罪人は三日後に死刑だ。その前にね、ぼくらがどれだけ思い合っているか、愛し合っているかを教えてあげようよ。だから――今すぐここでぼくのことを抱いて?」
ノエル様の発言に耳を疑い、僕は頬を引きつらせた。
「何を言う!? こんな不衛生な場所は、おまえを抱くのにふさわしくない!」とエドワードさまが反論する。
ノエルさまはエドワードさまの頭を抱き寄せて唇に口づけた。
「ぼくの願いは、なんでも叶えてくれるんでしょ? 見せつけてやろうよ! ぼくらが愛し合っている姿を……」
するとエドワードさまはノエル様をかきいだき、ふたりは濃厚な口づけを始めた。そしてエドワードさまはノエルさまの衣服を脱がしにかかった。
僕は、ふたりが獣のようにまぐわう姿を延々と見せられる地獄を味わった。
とんでもない悪夢だ。夢なら早く覚めてほしい。
エドワードさまが大切なものに触れるように時間をかけてノエル様さまに愛撫をしているのも、ノエルさまの口淫に感じきって時たま漏らすような喘ぎ声を出しているのにも怒りを覚える。
ノエルさまの媚びたように甘ったるい喘ぎ声も、エドワードさまがノエルさまを賛美する情熱的な愛のささやきも、独房に充満する青臭い性の臭いも全部、全部気持ち悪い……!
愛する人と憎い宿敵が交わっている姿を見たくない。でも目を逸らさずに見続ける魔法と、声を奪う魔法を掛けられてしまった僕は、ただふたりの情交を見続けるしかないのだ。
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