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第4章
思案1
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気がつくと僕は見慣れた自分の部屋のベッドの上に横たわっていた。
急いで起き上がり、机の引き出しに入れてある日記を引っ張り出す。暦を確認すれば、前回と同じ時間に戻ってきている。
「――女神様の言葉、あれはどういう意味なんだろう?」
体の状態は前よりも悪くない。しかし全体的にだるい感じがして頭がガンガンする。ノックを続けるオレインのもとへ行き、扉を開ける。
「おはよう、オレイン」
「おはようございます、ルキウス様。顔色が優れませんね。いかがしましたか?」
「今日は、あまり体調がよくないから本日の出仕を休ませてもらいたいんだ」
前回同様、ベッドの中の住人となり、これから先のことを考える。この機を逃したら誰も救えない。
大切な人たちが悲惨な目に遭い、僕は斬首刑。国も滅亡する。
名前も、顔もわからない英雄を探さない限り未来は変わらない。
体調がよくなったら王宮へ出仕して兄様やビルと顔を合わせ、双子や義姉様の家に遊びに行くことを約束した。
それからピーターに会い、エドワードさまからの伝言を聞く、友としてピーターが忠告してきた。
前回とは異なり、エドワードさまがどういう人間か、すでに知っている僕はピーターの言葉を否定しない。
「やっぱりエドワードさまには、よくない噂があるんだね」
「まあな、あんまりデカい声では言えないけど」
ピーターに手を引かれ、人目のつきにくい柱の陰へ連れて行かれる。彼は周りを注視し、人がいないことを確認してから防音魔法をかけ、小声で僕に話しかけた。
「王様たちは、貧困に喘ぐ者や差別に苦しむ者も分け隔てなく幸福な生活を送れるよう、あらゆる施策を国に波及させてる。けど、エドワードさまや重臣たちは貧しい者が飢え死にしても構わないと考えて奴隷制度の廃止も反対してるんだ。王族や神官、貴族だけが豊かに暮らせれば、下々の者がどうなろうと関係ないと思ってる。
上官や先輩たちから聞いたんだけど……邪魔な人間は始末するし、利用できる人間はとことん利用する。いくら王族とはいえ、あの方の態度は人としてどうかと思うところがある。王族や貴族、騎士だけがすべてじゃない。庶民だって国のため、家族を守るために働いていることを知ろうともしない」
『性欲処理の人形』
不意にエドワード様の言葉を思い出し、胃がムカムカする。胃液が喉までせり上がってきて柱に右手をつき、左手で口元を押さえた。
「ルカ、どうした!?」
ピーターに背中をさすってもらいながら吐き気が収まるのを待つ。口の中にいやな苦味を感じる。
「ひどい顔色だぞ。今日は早退したほうがいい。エドワードさまにはルカが帰ることを伝えて――」
「ダメ。あの方は僕の具合が悪かろうと関係ないし、絶対に来ると思っている。僕が行かなかったら激昂して、きみに八つ当たりをするよ」
階級意識の強いエドワードさまは、きっと子供のように癇癪を起こすだろう。富農の子であるピーターに暴力を奮う姿が目に浮かんだ。
ピーターも自分がそういう目に遭う可能性を感じて口をもごつかせる。
「じゃあ、どうするんだよ」
「僕が途中で早退する。兄様からエドワードさま宛の手紙を届けてもらうことにするよ。ピーターはエドワードさまに『ルキウスがお昼に会いに行きます』って伝えて。その間に僕が兄様やビルに伝書鳩を使って言伝しておくから心配しないで。
エドワードさまが、きみに暴力を奮うなんてことが起こらないよう、兄様に頼んでおくよ。兄様なら口裏を合わせてくれるし、きみがエドワードさまに危害を加えられないように知恵や力を貸してくれるから」
「あ、ああ、わかった」
ピーターがためらいがちに返事をして走り去った。点のように小さくなった彼の背中に小さく声を掛ける。
「ごめんね、ピーター……」
そのまま文官棟へ行き、挨拶をして十時になるかならないかのところで、僕は早退をさせてもらった。
上着の内ポケットから杖を出し、兄様とビルに書いた手紙に魔法をかける。羊皮紙の手紙は白い鳩の姿になり、ビル宛の手紙だった鳩が、すっと空気に溶けるようにして消えた。
兄様宛の手紙である鳩にエドワードさまへの手紙を口に加えてもらう。
「これがエドワードさまへの手紙だよ。兄様にお渡しして」
こくりとうなずくと鳩は姿を消した。
王宮を出る前に図書館へ向かう。その道中で鳩が二羽やってきた。鳩に触れれば、羊皮紙の手紙へと変化する。兄様もビルも事情を察してくれたようで「任せろ」と書いてあった。
羊皮紙を服のポケットに入れ、歩を進めた。
荘厳な扉を開けば、おびただしい数の本が棚という棚に収められた静謐な空間が眼前に広がる。
目の前のカウンターへ進み、司書をしている寡黙な女性に声をかけて入館証を見せる。
「こんにちは、予約していたものを取りに来ました」
「はい、クライン様。少々お待ちくださいませ」
そうして女性は立ち上がり、杖を取り出して魔法を唱えた。すると目の前のテーブルに分厚い本や巻物にされている論文が出てきた。
「こちら、ご予約されたものにお間違いはありませんか?」
僕は書籍のタイトルや巻物の内容に目を通す。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
急いで起き上がり、机の引き出しに入れてある日記を引っ張り出す。暦を確認すれば、前回と同じ時間に戻ってきている。
「――女神様の言葉、あれはどういう意味なんだろう?」
体の状態は前よりも悪くない。しかし全体的にだるい感じがして頭がガンガンする。ノックを続けるオレインのもとへ行き、扉を開ける。
「おはよう、オレイン」
「おはようございます、ルキウス様。顔色が優れませんね。いかがしましたか?」
「今日は、あまり体調がよくないから本日の出仕を休ませてもらいたいんだ」
前回同様、ベッドの中の住人となり、これから先のことを考える。この機を逃したら誰も救えない。
大切な人たちが悲惨な目に遭い、僕は斬首刑。国も滅亡する。
名前も、顔もわからない英雄を探さない限り未来は変わらない。
体調がよくなったら王宮へ出仕して兄様やビルと顔を合わせ、双子や義姉様の家に遊びに行くことを約束した。
それからピーターに会い、エドワードさまからの伝言を聞く、友としてピーターが忠告してきた。
前回とは異なり、エドワードさまがどういう人間か、すでに知っている僕はピーターの言葉を否定しない。
「やっぱりエドワードさまには、よくない噂があるんだね」
「まあな、あんまりデカい声では言えないけど」
ピーターに手を引かれ、人目のつきにくい柱の陰へ連れて行かれる。彼は周りを注視し、人がいないことを確認してから防音魔法をかけ、小声で僕に話しかけた。
「王様たちは、貧困に喘ぐ者や差別に苦しむ者も分け隔てなく幸福な生活を送れるよう、あらゆる施策を国に波及させてる。けど、エドワードさまや重臣たちは貧しい者が飢え死にしても構わないと考えて奴隷制度の廃止も反対してるんだ。王族や神官、貴族だけが豊かに暮らせれば、下々の者がどうなろうと関係ないと思ってる。
上官や先輩たちから聞いたんだけど……邪魔な人間は始末するし、利用できる人間はとことん利用する。いくら王族とはいえ、あの方の態度は人としてどうかと思うところがある。王族や貴族、騎士だけがすべてじゃない。庶民だって国のため、家族を守るために働いていることを知ろうともしない」
『性欲処理の人形』
不意にエドワード様の言葉を思い出し、胃がムカムカする。胃液が喉までせり上がってきて柱に右手をつき、左手で口元を押さえた。
「ルカ、どうした!?」
ピーターに背中をさすってもらいながら吐き気が収まるのを待つ。口の中にいやな苦味を感じる。
「ひどい顔色だぞ。今日は早退したほうがいい。エドワードさまにはルカが帰ることを伝えて――」
「ダメ。あの方は僕の具合が悪かろうと関係ないし、絶対に来ると思っている。僕が行かなかったら激昂して、きみに八つ当たりをするよ」
階級意識の強いエドワードさまは、きっと子供のように癇癪を起こすだろう。富農の子であるピーターに暴力を奮う姿が目に浮かんだ。
ピーターも自分がそういう目に遭う可能性を感じて口をもごつかせる。
「じゃあ、どうするんだよ」
「僕が途中で早退する。兄様からエドワードさま宛の手紙を届けてもらうことにするよ。ピーターはエドワードさまに『ルキウスがお昼に会いに行きます』って伝えて。その間に僕が兄様やビルに伝書鳩を使って言伝しておくから心配しないで。
エドワードさまが、きみに暴力を奮うなんてことが起こらないよう、兄様に頼んでおくよ。兄様なら口裏を合わせてくれるし、きみがエドワードさまに危害を加えられないように知恵や力を貸してくれるから」
「あ、ああ、わかった」
ピーターがためらいがちに返事をして走り去った。点のように小さくなった彼の背中に小さく声を掛ける。
「ごめんね、ピーター……」
そのまま文官棟へ行き、挨拶をして十時になるかならないかのところで、僕は早退をさせてもらった。
上着の内ポケットから杖を出し、兄様とビルに書いた手紙に魔法をかける。羊皮紙の手紙は白い鳩の姿になり、ビル宛の手紙だった鳩が、すっと空気に溶けるようにして消えた。
兄様宛の手紙である鳩にエドワードさまへの手紙を口に加えてもらう。
「これがエドワードさまへの手紙だよ。兄様にお渡しして」
こくりとうなずくと鳩は姿を消した。
王宮を出る前に図書館へ向かう。その道中で鳩が二羽やってきた。鳩に触れれば、羊皮紙の手紙へと変化する。兄様もビルも事情を察してくれたようで「任せろ」と書いてあった。
羊皮紙を服のポケットに入れ、歩を進めた。
荘厳な扉を開けば、おびただしい数の本が棚という棚に収められた静謐な空間が眼前に広がる。
目の前のカウンターへ進み、司書をしている寡黙な女性に声をかけて入館証を見せる。
「こんにちは、予約していたものを取りに来ました」
「はい、クライン様。少々お待ちくださいませ」
そうして女性は立ち上がり、杖を取り出して魔法を唱えた。すると目の前のテーブルに分厚い本や巻物にされている論文が出てきた。
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僕は書籍のタイトルや巻物の内容に目を通す。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
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