今宵、百合の庭園で……

鶴機 亀輔

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第2章

親公認の仲!?3

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 尊は、にこにこ機嫌よく笑っている。

 俺は尊の家の表札の前でズボンのポッケに手を突っ込んだ。

「いくらおまえが天使みたいなツラしてても、そうそう変態に狙われるはずがねえよ。188センチのムキムキ野郎だぜ」

「んー、確かに。僕もそう思うなー。葵ちゃんがヤクザとか暴力団の人たちに突っかかって、喧嘩沙汰にでもならない限り、絶対あり得ない話だよね」

「てめえ……俺をなんだと思ってるんだ? ヤンキーでも半グレでもねえぞ! それ、恋人に言うような言葉じゃねえっつーの……」

 口元を引くつかせていれば、「正義感の強い無鉄砲。イタズラ好きな危なっかしい人!」と歯を見せて笑う。「でも葵ちゃんのそういうところ、嫌いじゃないよ。むしろ僕は――好きだよ」

「……うっせえ」

 頬が熱くなるのを感じながら、顔を下にうつむく。すると尊の指先が俺の前髪に触れる。なんだろ? と思っていれば、前髪をかき上げられ、額にふにと柔らかなものが触れた。

「おまっ……いきなり何、すんだよ!」

「これはエッチなことには入らないよね。おやすみのキスだもん」

「ここはヨーロッパやアメリカみたいなところじゃねえんだよ。ふざけんな、バカ!」

「じゃあ……いやだった?」

 こてんと首をかしげて上目づかいをしてくる。そんな姿も尊がすれば、めちゃくちゃ可愛くて、かっこいいんだからずるい。

「別に、いやってわけじゃねえ……けど……」

 ゴニョゴニョと言っていれば、ポケットに突っ込んだ手を両方とも尊に取られ、握られる。

「僕、葵ちゃんのことを大切にするよ。それこそ――宝物みたいに」

「な、なんだよ。突然、改まった態度とられると調子狂うんだけど」

「なんだか夢みたいに思えたから。それに葵ちゃんが僕の思いに応えてくれて、両思いだって知ることができて嬉しかった。おじさん、おばさんにも祝福されて幸せ者だなーって思ってる」

「俺だって、おまえと同じ気持ちだっつーの。だから浮気なんかしたら……ぜってぇ許さねえからな。ほかの男や女と二股してみろよ? ちんこ、もいで殺してやるからな!」
 
 自分でもなんて過激なことを言ってるんだろうと思った。それでも、すでに俺の中には恋人になった尊を独占したいという欲望や、自分以外の人間を見てほしくないという願いがあったんだ。交際一日目に、こんな言葉を言ったら尊に引かれるんじゃないかと不安になった。が、それは杞憂に済んだ。

 尊は肩を揺らして笑った。

「嬉しいな。葵ちゃんは、僕が思っていた以上に僕のことを好きでいてくれるんだ。告白をどうしようか悩んだ人と同一人物に思えない!」

「なんだよ。そうやって意地悪言ってこなくてもいいだろ……」

 ぶうたくれていれば、「怒らないで」と尊がやさしい口調で話しかけてきた。「葵ちゃん言うようなことは起きないし、やらないよ。僕は葵ちゃんしか目に映っていないんだから」

「そんなのわからねえだろ。高校、大学とか、就職ってなったら、もっといい人が現れたり、俺に飽きたり、いやになるかもしれないだろ……そうじゃなくても酒を飲んで酔っ払った拍子にとか、誘惑されてとかさ……」

 緑の目を細めて葵は微笑んだ。

「大丈夫だよ、そんなことは絶対しない。約束するよ」

「ほんとか?」

「うん、ほんとだよ。だから葵ちゃんも、僕のことを裏切ったりしないでね。これからも、変わらずに、ずーっと僕のそばにいるって約束して」

「ああ、約束する!」

 すると尊は俺の手を離して、家の鍵を開け、こちらを振り返る。

「それじゃあ、明日は補習の後に図書館で勉強会しよう! 今日と同じように、スパルタ式で叩き込むから、覚悟して。逃げちゃダメだよ!?」

「わーったよ。同じ高校に行けるように努力はする。ただ、行けなかったとしても怒るなよ?」

「大丈夫、僕がついてるから。そうだ! 明日は一緒に手を繋いで登校しようよ」

 昼間の羞恥プレイを思い出して俺は「ぜってえ、やだ!」と反射的に叫んだ。

 鳴き真似をしながら尊は「クスン、残念だな……」とうなだれる。

 俺は胸がムズムズするのを感じながら思っていることを口にしてみた。

「その……人がいない場所とか、夜道なら、手ぇ繋ぐのもありかなって思う。しないことはない……かも……」

 尊はパッと表情を明るくすると「わかったよ!」と破顔した。「それじゃあ、また明日ね。おやすみ、葵ちゃん」

「ああ、おやすみ」

 そうして俺は家に帰って、葵に宿題と出された葵直筆の解説入りの入った回答を眺め、ふたたび問題を解いてみた。



 翌朝、いつも通り起床して学校へ行く準備をする。

「おはよう。父さん、母さん」

 一階に行けば、すでに早番のシフトだからか母さんの姿が見えない。カレンダーにも早番の文字が書かれている。

 父さんは優雅にブラックコーヒーを飲んでいた。何が書かれているかよくわからない新聞を広げて席についている。

「おはよう。今日も補習か?」

「そう。その後、尊のスパルタ塾。図書館でやる」

「昼ご飯はどうする? 小遣いは必要か?」
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