今宵、百合の庭園で……

鶴機 亀輔

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第4章

長くそばに……1

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「だー、つっかれたー!」

 重いエコバッグを玄関に置いて首を左右にやって肩を鳴らす。

「いっぱい買い物しちゃったね。これだけあれば一週間くらいは巣ごもり生活ができそうだよ」

「だな。普段だったら万札吹っ飛ぶところだけど、年末大セールで安く手に入れられてラッキーだったわ」

 靴を脱ぎ、エコバッグを持ち直してキッチンまで運んでいく。

 エコバッグ二袋と紙袋なんかを手にした尊が俺の後ろをついてくる。

 スーパーもデパートも人で溢れかえり、ごった返していた。冬休みだからか子供連れも多い。

 ふたりでゆっくりイチャイチャしながら買い物デートしよう――なんて思ったけど、甘かった。そんな余裕は――どこにもなかったのである。

 大人たちは男も、女も「〇〇パーセントOFF」、「××割引」という文字に目を光らせて、買い物かごの中に品物をじゃんじゃん入れていく。

 共働きの両親の代わりにおつかいをすることがあっても、バスケで忙しかった俺と尊は、年末年始はバスケ三昧。こんな光景は一度だって目にしたことがなかった。

 慌てて安売りされている出来合いのおせち料理の中身や、おせちの材料をゲットし、年越しそばの具材を手に入れるので必死。手分けして売り場にあるものを確保することになった。

 バスケのときとは、また違った疲れを感じながら戦利品である具材を、冷蔵庫の中へ入れていく。

 ついでに昼飯用に買ってきた食パンと30パーセント引きされていたハムを机の上に置いた。

 普段から、うちへやってきて母さんの手伝いをしている尊は、慣れた手つきで小鍋に水を入れ、コンロに火をつけた。

 あいつは冷蔵庫から卵を取り出し、俺も、きゅうりと玉ねぎ、マヨネーズやツナ缶を並べて包丁を握る。

「この後、お昼食べたら、葵はどうしたい。こたつでダラダラする? それともどこかに出かける?」と尊に訊かれ、洗ったきゅうりを輪切りにしながら考える。

「そうだな……大掃除は終わってるし、腹ごなしにストバスでもしに行くか?」

「アハハ! 大晦日もバスケなんて、バスケバカだなー」

 苦笑しながら尊は俺の隣に来て、卵サンド用とツナサンド用の玉ねぎを剥く。

「うるせえな。バスケ部のやつらから誘われたんだよ。別におかしくねえだろ! そういう、おまえはどうしたいんだよ?」

 すると葵は玉ねぎを剥く手を止めて俺の背後に回った。何をするんだろうと思っていれば、後ろから抱きしめられる。

 瞬間、心臓がバクバクし始める。急いで俺は包丁をまな板の上に横向きに置き、腰に巻き付いている尊の腕から逃れようともがいた。

「バカ、何してんだよ! 刃物があるんだぞ。それにお湯だって沸かしてる。危ないから離れろよ!」

 だけど、いつもと違って尊はぜんぜん離してくれなくて、むしろもっと強い力できつく抱きしめられる。

「っ! おい、苦しいから……少し、手ぇ、緩めろって……」

「葵、今回の年末年始は、いつもと違うんだよ」

「はあ? んなもん俺だって、わかってる!」

「僕だってバスケは好きだよ。けど、今回は……朝から晩まで、きみと恋人らしいことをして過ごしたいんだ。こたつでのんびりしながら、これから先の将来の話を真剣にしたり、雰囲気のあるところへ行ってデートをしながら、ふたりきりの時間をゆっくり楽しみたい……」

 尊の切羽詰まった声を聞いて顔や耳が熱くっていくのを感じる。

 冬場になるとストーブの風が届きにくい、うちのキッチンは寒い。だから母さんも、厚手のセーターや、モコモコの靴下なんかを履いて料理中に体が冷えないように対策を取っている。

 あまり料理をしない父さんに至ってはキッチンに寄り付こうともしない(コーヒーのお湯を取るのだって俺や母さんにやらせる)。

 外は北風がビュービュー吹いてダウンジャケットが必要なくらい寒かった。

 それなのに、今は全身が汗ばむくらいに熱くなっているのは、どうしてだろう……。

「それは……俺だって思ってる。けど、そんな朝から晩まで恋人らしいことをしていたら、俺の心臓がもたないって……」

 いきなり体の向きを変えられ、あっと思ったら尊の唇が俺の唇に触れていた。いつものように、すぐに唇は離れていった。

 けど、いつまでたっても尊の手は俺の腰を掴んだままだし、その顔はいつものようにおちゃらけた表情を浮かべていない。試験を受けているときや試合に集中しているときのように、真剣な顔つきをした尊にドキリとする。

「言い出しっぺは葵だよ。僕と先に進みたいって、きみが言ったんだ」

 身動きが取れない状態でいると、尊の唇が俺の左頬や耳殻に触れる。びっくりしていると、そのまま尊は俺の首元へと頭を寄せてきて、首筋や鎖骨にも唇が触れ、腰にあった尊の手がニットをたくし上げ、シャツの中に入ってきた。背中に熱い手が触れ、つっと上に上ってくる。

 俺はパニックになりながら「ま、待ってくれよ……!」と尊の胸元に手をやり、制止する。「頼むから夜まで……待って……」

 すると尊はため息をつき、「ごめん、意地悪しすぎたね」とあっさり身を引いた。沸騰し、ボコボコ言ってるお湯の中に、そっと白い卵を入れていく。
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