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第8章
菫3
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「そんなことはありません。お世辞ではないですよ。村山様は、しっかり大人の態度をとろうとしています。何より、あなたはこの間、成人したばかりではありませんか。まだ大学に通っている学生に失敗はつきものです。
私だって二十代の頃は失敗だらけでしたよ。就職して最初の頃は、上司から大目玉を食らうことが、しょっちゅうありました。年を経るうちに、自然とそういったことはなくなりました。しかし残念ながら大の大人でも、人に対して礼儀がなってない方がいることを知ったのです。でも、あなたは若い。大人になったばかりなんですから、そのように気にしなくても大丈夫ですよ」
有島さんは笑ってそう言ってくれたが、ぼくにとって一度の失敗はまさに、命取りだった。
テストの点数が満点じゃなかった。ほかの子よりも運動ができない。音楽の授業で歌を上手に歌い、楽器をしっかり演奏できる。芸術作品で賞をとる。部活動で大会に出場し、優勝すること――どれかひとつでも失敗したら親の愛情や、関心を得られなくなる。
それどころか、どうしてそんな失敗をしたのか、なじられる。そんなことを子どもの頃から何十回も、何百回も経験してきた。
有島さんのことは信頼してる。
ぼくが航大との一件でどういう精神状態だったのか推察して、マッチングアプリの使い方やメッセージの使い方、デートの仕方といったアドバイスをしてくれる。
どうして他人が言葉ひとつで傷つき、人の評価を変えていくのか。人を好きになる心理にいたるのか、教えてもらっても簡単に理解できるような代物じゃない。難しくて、理解しにくいこともたくさんある。けど、最後にはストンと納得がいく。
教師は、ぼくの学業や部活の成績を褒めてくれた。でも、ぼく自身の態度やあり方を褒めてくれたことは一度だってない。
彼らのよそよそしい様子や、航大を始めとした成績は悪くても人間的に魅力がある子どもと接するときの態度と違いから自分が「扱いづらい子」であることに気づいた。
嫌われてはいないだろうけど、苦手意識をもたれれていたことは、ほぼ間違いない。
ぼく自身を見て褒めてくれる大人なんて、だれもいなかった。だから褒め言葉を掛けてもらっても、どう反応したらいいか、どのように受け止めていいか、わからない。
「そう、でしょうか」
「もちろんでございます。お相手の方もまだ二十三歳です。あなたが誠意をもって接すれば絶対にわかってくれます。たとえ失敗したとしても、大目に見てくれます。もし怒ってしまったときは、どうしてそんなことをしてしまったのかを説明して、心から謝ればいいのです。もしも、それで先方が『次は会わない』という選択肢を選んだとしても、村岡様とはご縁がない方だったと思い、反省点を踏まえた上で次の出会いをさがしましょう」
背中を押してもらっても、どうしようかと悩んでしまう。でも――「わかりました。どうかお願いします」とぼくは答えることにした。
「よろしいでしょうか?」と有島さんが戸惑った表情を浮かべる。「……つい熱が入ってしまい、強要するような言葉を口にしてしまいました。大変申し訳ございません」
頭を下げる彼女のつむじを見ながら「有島さんに言われたからお相手と会う――というわけではありません」ときっぱり言いきった。「謝らないでください。これは、ぼくが自分で決めたことです」
すると有島さんは顔を上げて、目を瞬かせた。
「といいますと?」
「変な話、親友や知人とは異なる世界で生きてきました。両親の言うことをロボットのように忠実に聞き続けていたら、きっと親しく話す関係にならなかったでしょう。もちろん相性もあると思います。でも彼らと言葉を交わすうちに、お互いの人となりを知って、この人なら信頼できるかも……って思えるようになって親しくなれました。
ガニュメデスを使って天ヶ原へ来なければ、有島さんと出会えませんでしたし、きっと有島さんが紹介しようと思ってくださったその方のことも一生、知ることはなかったんだと思います。有島さんは、ぼくという人間と真正面から向き合ってくれました。パートナーと出会い、交際していけるように考えて、誠意ある言葉を掛けてくれている。そんな有島さんが紹介する人なら、ぼくが親友との恋を忘れるために適当に選んだ人たちよりも、ずっと素敵な人だと確信しています」
ぽかんとした表情を有島さんは浮かべた。数秒経つと口元を緩ませ、眦を下げた。顔をほころばせてにっこり笑い、頭を軽く下げた。
「恐縮です。そのようなお言葉を村山様から掛けていただき、コンサルタント冥利でございます。天ヶ原やガニュメデスの利用者様に誤解を与えてしまうことを考慮し、このようなことを申すのも、いかがなものかと思い控えておりました。ですが……この方と村山様は間違いなく相性がいいのではないかと思っています。おふたりが出会い、言葉を交わしあえば、今後長いお付き合いをされる――そんな気がするのです」
私だって二十代の頃は失敗だらけでしたよ。就職して最初の頃は、上司から大目玉を食らうことが、しょっちゅうありました。年を経るうちに、自然とそういったことはなくなりました。しかし残念ながら大の大人でも、人に対して礼儀がなってない方がいることを知ったのです。でも、あなたは若い。大人になったばかりなんですから、そのように気にしなくても大丈夫ですよ」
有島さんは笑ってそう言ってくれたが、ぼくにとって一度の失敗はまさに、命取りだった。
テストの点数が満点じゃなかった。ほかの子よりも運動ができない。音楽の授業で歌を上手に歌い、楽器をしっかり演奏できる。芸術作品で賞をとる。部活動で大会に出場し、優勝すること――どれかひとつでも失敗したら親の愛情や、関心を得られなくなる。
それどころか、どうしてそんな失敗をしたのか、なじられる。そんなことを子どもの頃から何十回も、何百回も経験してきた。
有島さんのことは信頼してる。
ぼくが航大との一件でどういう精神状態だったのか推察して、マッチングアプリの使い方やメッセージの使い方、デートの仕方といったアドバイスをしてくれる。
どうして他人が言葉ひとつで傷つき、人の評価を変えていくのか。人を好きになる心理にいたるのか、教えてもらっても簡単に理解できるような代物じゃない。難しくて、理解しにくいこともたくさんある。けど、最後にはストンと納得がいく。
教師は、ぼくの学業や部活の成績を褒めてくれた。でも、ぼく自身の態度やあり方を褒めてくれたことは一度だってない。
彼らのよそよそしい様子や、航大を始めとした成績は悪くても人間的に魅力がある子どもと接するときの態度と違いから自分が「扱いづらい子」であることに気づいた。
嫌われてはいないだろうけど、苦手意識をもたれれていたことは、ほぼ間違いない。
ぼく自身を見て褒めてくれる大人なんて、だれもいなかった。だから褒め言葉を掛けてもらっても、どう反応したらいいか、どのように受け止めていいか、わからない。
「そう、でしょうか」
「もちろんでございます。お相手の方もまだ二十三歳です。あなたが誠意をもって接すれば絶対にわかってくれます。たとえ失敗したとしても、大目に見てくれます。もし怒ってしまったときは、どうしてそんなことをしてしまったのかを説明して、心から謝ればいいのです。もしも、それで先方が『次は会わない』という選択肢を選んだとしても、村岡様とはご縁がない方だったと思い、反省点を踏まえた上で次の出会いをさがしましょう」
背中を押してもらっても、どうしようかと悩んでしまう。でも――「わかりました。どうかお願いします」とぼくは答えることにした。
「よろしいでしょうか?」と有島さんが戸惑った表情を浮かべる。「……つい熱が入ってしまい、強要するような言葉を口にしてしまいました。大変申し訳ございません」
頭を下げる彼女のつむじを見ながら「有島さんに言われたからお相手と会う――というわけではありません」ときっぱり言いきった。「謝らないでください。これは、ぼくが自分で決めたことです」
すると有島さんは顔を上げて、目を瞬かせた。
「といいますと?」
「変な話、親友や知人とは異なる世界で生きてきました。両親の言うことをロボットのように忠実に聞き続けていたら、きっと親しく話す関係にならなかったでしょう。もちろん相性もあると思います。でも彼らと言葉を交わすうちに、お互いの人となりを知って、この人なら信頼できるかも……って思えるようになって親しくなれました。
ガニュメデスを使って天ヶ原へ来なければ、有島さんと出会えませんでしたし、きっと有島さんが紹介しようと思ってくださったその方のことも一生、知ることはなかったんだと思います。有島さんは、ぼくという人間と真正面から向き合ってくれました。パートナーと出会い、交際していけるように考えて、誠意ある言葉を掛けてくれている。そんな有島さんが紹介する人なら、ぼくが親友との恋を忘れるために適当に選んだ人たちよりも、ずっと素敵な人だと確信しています」
ぽかんとした表情を有島さんは浮かべた。数秒経つと口元を緩ませ、眦を下げた。顔をほころばせてにっこり笑い、頭を軽く下げた。
「恐縮です。そのようなお言葉を村山様から掛けていただき、コンサルタント冥利でございます。天ヶ原やガニュメデスの利用者様に誤解を与えてしまうことを考慮し、このようなことを申すのも、いかがなものかと思い控えておりました。ですが……この方と村山様は間違いなく相性がいいのではないかと思っています。おふたりが出会い、言葉を交わしあえば、今後長いお付き合いをされる――そんな気がするのです」
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